81.森へ行きましょう



 翌日、俺は目を覚まし、食堂へと向かう。


「おっはよーございます、坊ちゃま!」


 茶髪のメイド2号、ココが、食堂にて料理を並べている最中だった。


「おっす」


 昨日俺は領地であるカーター領へとやってきた。


 最初は彼女の運転する車で来たんだが……運転があらっぽすぎて車が大破したのである。

 その後はしゅんっ、とした表情でずっと俺の後についてきていた。


 だが一晩寝たら、ショックから立ち直ったらしい。

 

 うーん、単純~。


「おはよう、殿下」


 白髪のお姉さん、アーシリアが食堂へと入ってきた。


 普段着に腰に剣という出で立ちだ。


「おはよっす」

「おはよーございまーーーす!」


 ココが元気にあいさつをすると、椅子を引いて、アーシリアがすわれるようにする。


 アーシリアはテーブルの上の料理を見て、目を丸くする。


「どうしました?」

「その……とても美味そうだなって思ってな」


 クロワッサンやスープなど、見てるだけで食欲のそそられる料理がずらっと並んでいる。

「えへへ~♡ ま、借りも王家に仕えるメイドですから~? お料理も得意中の得意なんですよぅ!」


「もってんだ、もって」


 俺がスープすすっていると、にやりとココが笑う。


「車の運転に決まってるじゃあないですかー!」


 なんて無邪気な笑みなんだ。

 そこに悪気も……そして、反省の色も見えない。


「……ココ、しばらく運転は禁止な」


「なぁんでぇえええええええええ!?」


 あんだけ荒っぽい運転して、車までぶっこわしたくせに……。

 やれやれ、反省が足りないようだ。


 俺とアーシリアは向かい合うように座って、朝食を取る。


「ところで殿下。今日はどうしますか?」


「そりゃもちろん! 奈落の森の探索ですよ!」


 せっかく強力な魔物うろつく森が、都合の良いことに、領地の真横にあるんだぜ?

 

 中を見て楽しまないと損だろ!


「さすが坊ちゃま! 奈落の森だろうと無関係にゴーイングマイウェイなんですね! 尊敬です!」


「おう! じゃあ一緒に森にいくか?」


「うっ……! お、おなかが~。腹痛が痛いのでご遠慮します!」


【告。腹痛は痛くなりません】


 多分行きたくないだけだろう。


 そりゃそうだ、身の安全が一番大事だからな。


「アーシリアは?」

「もちろん、お供いたしますよ」


 即答のアーシリア。

 さすが俺の護衛だ。


「あなたを一人にさせると何をしでかすかわかりませんからね」


【護衛じゃなくて観察者で草】


 まあ別についてくる分にはかまわない。


 それにここはアーシリアの故郷だ。

 俺の知らない情報とか知っているかもだしな。


「奈落の森について、何か知ってることってある?」


「そうですね……非常に強力な魔物がいることとか、森の中がダンジョンのように複雑な構造になっていることとか……」


 ほうほう! 興味をそそられますなぁ!


 強力な魔物ってどんなレベル!? ウルティアと同じくらい!?


 捕まえて実験したいなぁ……!


「あとは【鬼】が出ると言われてます」


「鬼?」


【解。亜人の一種。人間に近い見た目をしていますが、人間以上の膂力パワーをもち、鬼術きじゅつという不思議な能力を使います】


 鬼術!? なにそれ!?

 え、魔法と何が違うの!? 超能力的な!? どこまでできるのだ!?


【告。ステイ、ステイ、マスターステイ】


 はっ!? しまった……つい興奮してしまった。


【告。未知の魔法に興奮してしまうなんて、マスターは本当に変態ですね】


 変態ちゃうわう。俺はノーマルですよ。


【草】


 いやくさって……。


「で、鬼って……いるのか、マジで?」


 アーシリアが笑って首を振る。


「もちろん迷信ですよ。奈落の森は危ないですからね。子供達が近づかないようにって、大人達が作った作り話ですよ」


「ほーん……でも、火のないところに煙は立たないってゆーじゃない?」


「ないない。あり得ないですよ。鬼なんて見たことないですし、絶対にいるはずがありません」


 けど……居たらうれしいよね!


「よーし、方針は決まったな」


 俺が立ち上がろうとすると、ココが椅子の背を引いてくれる。


「ココ! 俺はこれからアーシリアとともに、奈落の森へ行って、鬼を見つけてくる!」


「おー! 頑張って坊ちゃま……あいたたたた~。ココもついていきたいけど腹痛がいたくて~」


 アーシリアは苦笑しながら言う。


「子供の迷信だというのに、信じてしまうなんて、殿下も可愛いところがおありですね」


【否】


 ん? 叡智神ミネルヴァ? 今、何に対しての否だったんだ……?


【告。森の内部に強力な気配を感じます。おそらくは、鬼のものかと】


 ほらいるじゃん!


 よぉおおおおおおおおおおおおし! やる気出てきたぁーーーーーーーー!


「いくぞアーシリア!」


「了解です、殿下」


 俺はアーシリアとともに屋敷を出て、奈落の森へと向かう。


 屋敷周辺の木々は俺が伐採してしまったので、綺麗なもんだ。


 叡智神ミネルヴァ、鬼のすみかへのルートを案内してくれ。


 俺の視界に、矢印が出現。


 地面に投影された矢印に沿って、俺は進んでいく。


 と、そのときだ。


「ぐがぁああああああああああ!」


 見上げるほどの大きさの、緑色の肌のモンスターが現れる。


「オーガですね」


 Bランクモンスターだ。

 まあほどほどに強い。


「殿下、ここは私が」


「いや、いいよ。さっさと行こうぜ」


 オーガは手に持っていた棍棒を振り上げて、俺に攻撃しようとしてくる。


「ふっ……」


 だが攻撃が届く前にオーガが消し飛ぶ。


「よし」

「で、殿下!? い、今のはなんだったのですか!?」


 びっくり仰天のアーシリア。


「ん? 笑ったときの吐息で消しただけだぞ?」


「どういうことなんです!?」


「俺くらいの魔力量の保持者になると、気を抜くと、一挙手一投足に魔力がこもるんだ。それはモンスターにとっては攻撃になる」


「こ、こわ……!」


 がたがたがた、とアーシリアが体を震わせる。


「あー、大丈夫大丈夫。意識してりゃ殺すことないから」


「ちゃんと制御してくださいね! すごいけど……それで誰かが傷つくのは駄目だと思います!」


【アーシリアがつっこみやくの互換キャラになってて草。まあ私のほうが叡智において勝ってますがね】


 いや、叡智神ミネルヴァははじめからぼけキャラだし、頭の良さで言うならアーシリアに軍配が上がる気がするけど?


【否! 否! ひどい侮辱です! 即時撤回を!】


 はいはいバインバイン。


 さて、と。

 鬼に会いに行きますかー!


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