80.女騎士さんと同居



 俺は親父から領地を与えられた。


 村近くに、魔道具の屋敷を建て、ここで暮らすことになった。


「す、すごいですね、この屋敷……」


 俺、アーシリアが建物の中に入ってる。


 イルマと若者達は、村長と一緒にアインの村へと帰っていった。


「はいってはいって」


「あ、はい」


 中は二階建ての屋敷となっている。

 赤い豪華な絨毯がしきつめられ、天上からシャンデリア。


「しかも……なんだか温かいですね」

「暖房も完備してるからな」


「だ、だんぼ……?」

「まー、実物見せた方が早いか」


 廊下の隅までやってくる。

 天上にくっついているのは、地球産のエアコンだ。


「こっ、この箱から温かい風が!?」

「暖炉みたいなもんだ」


「す、すごい……薪も使わず、ここまで温かい風を送り出せるなんて……」


 俺はかるく屋敷の中を案内する。


 風呂場、トイレ、厨房。

 寝泊まりする部屋も結構な数を完備。


 簡単な工房もついている。


「魔道具たくさんなお屋敷ですね。どれも……すごい……」


 シャワーとか水洗トイレとかに、アーシリアが一々びっくりしていたのは、なんだかおかしかった。


「今日は遅いからもう寝よっかな。ふぁー……」


 気付いたらもう夜になっていた。

 異動にそこそこ時間取られたな。


「おまえ、好きな部屋使って良いからな」


【問。マスター、女と暮らすのですか?】


 頭の中に叡智神ミネルヴァの、ちょっとおっこったような声が響く。


 え、そうだけど、なにか不都合でも?


【解。女騎士にパクパクされちゃうショタレオンきゅん7歳】


 なんのこっちゃ……。


【告。貞操の危機です。女騎士は追い出すべきです】


 んなこと言っても、アーシリアは俺の護衛ってことで、親父から派遣されてるんだぜ?


 ないがしろにできないし、手元に置いとかなきゃだろ。


「好きな部屋勝手に使ってくれて良いから」


「かしこまりました」


 俺は自分用の部屋へと向かい、なかに入る。


 そこそこ広め。

 内装も高いホテルみたいな感じ。


 大きめのベッドに、俺はぼふんとうつ伏せに寝る。


「ほいじゃ、お休み~。また明日」


    ★


 レオンはベッドの上でぐーぐーと寝息を立て始めた。


 一瞬で深い眠りに落ちている。


「まったく、マイペースな子……」


 アーシリアはため息をついて、ベッドに腰を下ろす。


 彼の体に布団を掛けてあげて、ぽんぽん……と頭を撫でる。


「ありがとう、殿下。弟を治してくれて……」


 アーシリアの両親は早くに死んでしまった。


 残された弟は、たった一人の家族だった。

 弟は昔から体が弱く、外に出ることはままならない。いつもさみしそうにしていた。


 アーシリアは無力だった。

 四方探し回っても、弟を治す方法を、見つけられなかったのだから。


 それが、レオンはあっさりと治して見せた。


 奇跡だと思った。医者すら、不治の病ですとさじを投げたほどだったのに。


「…………」


 彼には感謝しても仕切れない恩ができてしまった。


 言葉に仕切れないほどの感謝の念が、この胸の内でうずまいている。


 そして……尊敬とは別の感情もまた、芽生えていた。


「…………」


 レオンの破天荒な行動に、頭を生やされる一方で、彼とともにいる時間を心地よく感じている。


 相手は、たった7歳の少年なのに、幼さと危うさ……そして、頼りになる感じがした。


 とくん……と心臓の高鳴りを感じる。


 自分は、10以上も歳下の彼に、恋心を抱いているのだ。


「殿下……」


 そのかわいい顔を、近くで見ようとした、そのときだ。


 ぱぁ……! と彼の右手が紅く輝く。


「な、なにっ!?」


 光の中から出てきたのは、青い髪をした美しい少女だった。


「だ、だれ……!?」

「どうも、正ヒロインです」


 無表情のママ、腰に手を当て、目の辺りで横ピース。


「せ、せいひろいん……? あなたは誰なの? 殿下のなに?」


「だから正ヒロインにして正妻ですよ」


 レオンとアーシリアのあいだに、どすんと座る。


 両手を広げて、まるで子供を守る親猫のように威嚇してきた。


「あ、妖しい人……!」


 腰にぶらさげていた剣に手をかける。


 だが……。


「落ち着きなさい」


「なっ!? け、剣が……いつの間に!?」


 少女の手にはアーシリアの剣が握られてる。


 ぽいっ、と投げて寄越す。


「私はミネルヴァ。マスターの守護者です」


従魔サーヴァント、というやつか?」


「あんなもんと一緒にして欲しくないのですが……ま、そんなとこです」


 さらっ、と青い髪をかきあげる。


 さながら女神のように、美しい少女だった。


「なる、ほど……しゃべる、しかも人間の従魔を飼ってるのね。殿下は」


「その言い方腹立つんですけど、ちょー不服なんですけど」


 ぷくっ、と少女が頬を膨らませる。

 最初、でていたのは得体の知れないバケモノのように思えた。


 しかし年相応の反応を見て、アーシリアは緊張を解く。


「初めまして、アーシリアです。レオン殿下の護衛の騎士となりました」


 相手は従魔だろうと、レオンが従える人物。挨拶をするアーシリア。


「ぺっ……!」


 とミネルヴァはつばを吐く。


「なーにが護衛の騎士ですか。泥棒猫の間違いでしょうに」


「ど、泥棒猫……?」


 きっ、とミネルヴァがアーシリアをにらみ付ける。


「そうですよ! ポッとでの新キャラのくせに! 何を偉そうにマスターの隣に座って、正妻づらしてやがるんです!」


 いいですかっ、とミネルヴァが声を荒らげる。


「誰がなんと言おうと、マスターの一番の女はこのミネルヴァ! それをお忘れ無きよう」


「…………」


「それとこのミネルヴァはマスターのなかにいますので、いかがわしいことをしようとしたらすーぐわかりますからねっ!」


 ぷっ……とアーシリアは吹き出してしまう。


「あははっ! 変な従魔もいたものね」


「んなっ!? へ、変とはなんですか!」


「ううん。ごめんなさい。なんかおかしくって……」


 レオンは桁外れの力を持ち、さらにしゃべる従魔(仮)まで連れている。


 得体の知れなさ、と言うモノはどうしても拭えない。


 だが、気付いたのだ。


 確かにバケモノ並に強く常識はずれだけれど……でも、悪い子じゃないのだと。


 彼も、そして彼の周りに居る女の子達も。


「かなり変人だけどね」

「変人ではありません。メインヒロインと呼びなさい」


「はいはい、メインヒロインさん。よろしくね」


 アーシリアが手を前に出す。

 これから、ともに、彼のそばに使えるモノとして……。


 挨拶をしておくべきだと、そうアーシリアは思ったのだ。


 ミネルヴァはフンッ、と鼻を鳴らす。


「私はマスター以外と群れる気はありませんので。……しかし」


 すっ、と手を差し伸べてくる。


「礼儀知らずと言われると、主人の評判を落としてしまいます。それは本意ではありませんので」


 ふたりはしっかりと、握手をする。

 こうして、アーシリアは正式に、レオンの仲間となったのだった。


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