78.村長への挨拶ついでに不治の病も治す



 俺は親父から【カーター領】という領地を与えられた。


 騎士アーシリアの生まれ故郷らしい。


 カーター領のアインの村にて。


「まずは村長に挨拶に行きましょう」


 俺はアーシリアとともに村長の家を訪れる。

 木造の平屋、その客間へと通される。


「おお、アーシリア。よく帰ってきたな」


「お久しぶりです、チョールさん」


 ひげを生やしたじいさんが、アーシリアと親しげに会話する。


 こいつが村長か……。


「して、アーシリアよ。今日は何用だ?」

「文でも伝えたとおり、新領主様をお連れいたしました」


「新しい……領主様? どちらに……」

「俺だよ俺」


 はいはい、と手を上げる。


「へ……?」


 ぽかん、とチョールが口を大きく開き、俺をガン見している。


 なんだ?


【解。マスターが7歳の子供だから驚き、新領主ということに対して不信感を覚えている様子です】


 まー、こんなガキがいきなり領主って言われても、普通は信じないか。


「ほんよだよ。俺がここの領主。ほら、親父の書状もちゃんとあるんだぜ?」


 アーシリアが任命状を村長に渡す。


「なるほど……失礼いたしました。アインの村の村長、チョールと申します」


「おう、よろしく」


【告。まだチョールはマスターに対して疑いを拭い切れてない様子です】


 そりゃそうだろ。

 それに子供が領主になることに不安がってるんじゃないか?


 この土地の未来を担うトップがガキってなりゃ、仕方ない。


「挨拶もすんだことだし……これからどうする?」


「殿下。よければ弟の……イルマに会っていってもらえないでしょうか?」


 アーシリアにはたった一人の家族、弟がいるらしい。


 確か病弱だって言っていたな。


「別にいいよ」

「ありがとうございます」


「どこにいるの?」

「イルマはチョールさんのお家でご厄介になっております」


 チョールに案内してもらい、弟の部屋を訪れる。


 木造のベッドに横たわっているのは、小柄で、ひ弱そうな少年だった。


「ねえちゃん……」

「イルマ! ただいまっ」


 アーシリアはすぐさま弟の元へと駆けつけると、ぎゅーっ、と抱きしめる。


 弟もうれしそうに目を細める。

 だが、腕をあげようとして、できていない。

【告。少年は全身の筋肉に力の入らない奇病にかかっております】


 なるほど、だから姉ちゃんが帰ってきたのにハグを返せない、出迎えられないってことなのか。


 なんか地球でも、そういう筋肉の病気があったな。


「ねえちゃん……その子、誰?」


「おっす。イルマ。俺はレオン。アーシリア姉ちゃんのまあ……友達だな」


「わぁ……! ねえちゃん友達できたんだね! 良かったね!」


「う、うるさいわよ……友達くらい、居るわよ昔からっ」


 ふんっ、とアーシリアがそっぽを向く。

 

「ぼっちのくせに~」

「今はぼっち違うわよ!」


 ふたりが楽しそうに会話している。

 うんうん、やっぱ家族って良いなぁ。


 けれどアーシリアがイルマを見る目は、時折、悲しそうだった。


【告。動けない弟に憐憫の情を抱いている様子です】


 そりゃそうだ。

 大好きな弟が寝たきりじゃ、姉ちゃんも心配だろう。


 ふむ……あ、そうだ。


「なぁアーシリア、イルマ。ちょっと提案があるんだけどさ」


「「提案?」」


 俺は亜空間に収納していた、薬瓶を手に取って、二人に見せる。


「これ、俺の作った特別な魔法薬でさ。どんな病気も一発で治る薬なんだ」


「ほ、本当ですかっ!?」


 がしっ、とアーシリアが食い気味に聞いてくる。


 弟の病気が治るとなれば、彼女も喜ぶだろう。


「まあ大天使息吹ホーリー・ブレス使っても治るだろうけど、これは俺以外でも使える回復薬ってことで、今試作の最中なんだ」

 

 アーシリアに薬瓶を渡す。


「それを、どうして弟に?」

「まあほら、可哀想だしその子。おまえも弟の病気が治ったらうれしいだろう?」


 善意100%かと言われると答えはノーだ。

 実践でのデータが欲しい、という理由がある。


 もっともアーシリアも未完成なのがわかっているからか、弟にあげるのをとてもためらっている様子だ。


「ねえちゃん……おれ、飲みたい」

「イルマ……」


「今までどんなお医者様も、無理だ治らないって言ってきたけど、この人は違う。この人の言葉には、力を感じる。だから……信じたい」


 実際に直せないわけじゃないしな。


 アーシリアがためらったあと、こくりとうなずく。


「だいじょうぶよイルマ。殿下の強さは、この目で見てきた。この人は、ちょっと……だいぶ……めちゃくちゃ、非常識だけど、魔法の力は誰よりもすごいから」


【酷評で草】


 アーシリアもイルマも覚悟が決まったようだ。


 彼女は魔法薬を手に持って、イルマの口元へ持って行く。


「ちなみに名前は【元気ドリンコ】。飲めばたちまち元気になるよ」


「ごくん……」


 イルマが元気ドリンコを飲み干す。


 だが……。


「何も変化が起きません……そんな……」

「まさか……失敗……?」


 アーシリア達姉弟が、諦めかけてきたそのときだ。


「うっ……!」

「イルマ! どうしたのっ!?」


「か、からだが……あ、あぁあああああああああああああああああ!」


 びくんっ、びくんっ、とイルマの体がけいれんする。


「だ、大丈夫! 殿下を信じて!」


「うん! う、うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ビリビリ……! と破ける音がした……。


「へ? え、ええええええええええええええええええええええええ!?」


 驚愕するアーシリア。

 さもありなん。


 病弱そのものだった、弟の体が……みるみるうちにたくましくなっていくからだ。


「ふんぬぅっ!」


 ……そこにるのは、ボディビルダーもびっくりな、マッチョ・イルマの姿だ。


「元気……もりもり!」


「えええええええええ!? ど、ど、どうしたのイルマぁあああああああああ!?」


「ねえちゃん! あっし、元気になりやしたぜ!!」


 さきほどまでのひ弱で病弱なイルマはもういない。


 たくましく、健康そのものの体を手に入れていた。


「体が動く! 自在に動く! こんなこともできるよぉ! 見てみてねえちゃあん!」


 片腕で倒立し、そのまま腕立て伏せを行う。

 さっきの筋肉もりもりによって、パジャマはビリビリに破けている……。


 つまり、今は全裸だ。


【告。ソーセージぶるんぶるん】


 解説しなくて良いよ!


「い、イルマ……! ふ、服を着なさい!」


 アーシリアが上着をイルマにかける。


「ありがとうねえちゃん! むぅん!」


 びりびりばーん!


「なんでポーズ取るの!? また破けたし!」


「筋肉が躍動を求めるんですぜねえちゃん!」


「わけわかんないよっ!」


 そこへ……俺たちの騒ぎを聞きつけて、村長のチョールが顔を出す。


「どうした騒々しい……って、ええええええええ!? ぜ、全裸のマッチョマン!? 誰!?」


「チョールさぁああああああああん!」


 全裸のままイルマがチョールに抱きつく。


「どちらさま!?」

「あっしですぜ! イルマですぜ!」


「うぇええええええええええええ!?」


 チョールもまた姉のように驚いている。


「こ、こんなに元気に……どうやって?」

「殿下のおかげでさぁ! 元気ドリンコ!」


 俺の作った魔法薬によって、病気を克服し、健康な体になったことを告げる。


「おお! なんと、すごい! 素晴らしい……!」


 元気になったイルマを見て、感動の涙を流す。


「レオン様……! あなたの力はどうやら本物のようだ!」


「ありがとう! レオン様!」


 チョールとイルマが、俺に頭を下げまくる。

「あなた様のような凄い力を持ったお方が領主様になってくださって、本当にうれしく思います!」


「これからはあっしも、村の一員としてがんばりやす!」


 そっかそっか、いやぁよかったなぁ。


 アーシリアは弟に、おっかなびっくり聞く。

「イルマ……なのよね、本当に?」


「そうだぜ!」


「そう……ほんとに……ほんとうに……よか、よかったよぉ……」


 滝のような涙を流しながら、アーシリアが弟の体に抱きついて、ワンワンと涙を流す。


「ねえちゃん……こんなゴリマッチョなおれになっても、弟だって思ってくれる?」


「当たり前じゃないの! あなたは、たとえちょっと……すごく……めちゃくちゃ……見た目変わっても、大事な弟なんだから!」


 そっかそっか、やっぱ家族っていいもんだなぁ。


 ほどなくして、アーシリアが俺に深々と頭を下げる。



「殿下、まことに感謝申し上げます。あなた様に受けたこのご恩、一生忘れません」


「あっしも!」


 うんうん、良いことしたなぁ。


 実験のデータも取れたし、アーシリアの弟を治すこともできたし、みんな喜んでる……一石三鳥だぜ!


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