第六章 どこへ居ても波乱を巻き起こす7歳児

77.いざ、領地へ



 年明けて、1週間ほどが経過した。


 俺はお供を連れて、領地へと向かっている。

「ひゃっはー! 飛ばすぜ飛ばすぜぇええええええええええええええええい!」


 俺が乗っているのは、魔道具ギルドで作った自動車だ。


 運転席にはそば付きメイド2号、栗毛が可愛らしいココが座っている。


「ちょ、ちょっとぉ! もう少しスピードを落としてください! 殿下が乗ってるんですよぉ!」


 俺の隣には、鎧を着込んだ、白髪の美人お姉さんが座っている。


 アーシリア。

 俺の騎士となった女だ。


「だいじょおおおおおうぶ! このココちゃんのスーパー運転があれば問題なーい!」


「ありまくりですよ! 殿下! 注意してください!」


「えー、いいんじゃない? 早く着いたほうがいいだろ?」


「殿下!?」


 ここは雪道をものすごいスピードでかっ飛ばしている。


 それでもスリップしないのは、俺が最近開発した、雪道用の冬タイヤのおかげだ。


 魔法がかかっており、めったなことが無い限りスリップしない。


 つるん。


「あ、やべ……」

「やべじゃないでしょぉおおおおおおお!」


 くるくるくる、と車が回転する。


 ここは地球と違って地面が整備されてないし、雪かきなんてされてない。


 無茶な運転すりゃ、ま、こうなる。


「殿下ぁ!」


 アーシリアが俺を守るように、覆い被さってくる。


 固え……。


【私の胸のこと? って、誰がまな板やねーん!】


 一人乗り突っ込みやめて。

 叡智神ミネルヴァ、これどうなる?


【告。このままではあと10秒で横転して爆発します】


 だよな。


 俺はアーシリアを押しのけ、ここの襟首をつかみ、ドアを蹴飛ばす。


「殿下!?」


 俺は浮遊魔法を使って、車から逃げる。


 くるくると車は回ると、道からそれて横転。

 ハリウッドも真っ青の大爆発を起こす。


 さんきゅー叡智神ミネルヴァ

 教えてくれてありがとな。


【ぶふぅーーー! 車がくるくるって……ぶふぅううううううう!】


 そういやギャグに弱いんでしたねこの人……。


 俺はふわり、と着地する。


「のぉおおおおおお! あたしのマイカーちゃんがぁああああああ! ぶっ壊れたぁあああああああ!」


 大破した車を前に、ココが頭を抱えて叫ぶ。

「あ・な・た・はぁあああああああああ!」


 アーシリアがココの襟首をつかんで、がくんがくんと揺らす。


「後ろに一国の王子が乗ってるのに! なんて危ない運転してやがるんですか馬鹿なの!? 死ぬの!?」


「だ、だいじょうぶだって。坊ちゃま強いし。この程度じゃ死なないから、ねえ?」


「おうよ」


 アーシリアがあきれたようにつぶやき、大きく溜息をつく。


「やはりおかしいのは……殿下だけじゃなくて、殿下の周りの人たちもなんですね……」



「いやぁ、それほどでもぉ!」


「ほめてないですよぉ……!」


 その後。


 偶然通りかかった馬車の荷台に乗せてもらって、俺たちは目的地へと向かう。



「ところで坊ちゃま、これからどこいくんです~?」


 戦犯ココが、アーシリアによる粛正によって、正座させられている。


「カーター領ってとこの、アインの村」

「領? 領地になんでいくんです?」


「親父からもらったんだ。この間」


 特級ダンジョンでの功績をたたえらえ、俺は領地をもらったのだ。


「おー! やるじゃないですか坊ちゃまー! すごいすごい……あいたっ」


 アーシリアがココの太ももをつつく。


「し、しび、しびれるぅう……!」

「もっと反省してください……。ココ」


 はぁ、とアーシリアが溜息をつく。


「しかしレーシック領ってどーゆーとこなんだろうな。アーシリア、何か知ってる?」


 ええ、と彼女がうなずく。


「このゲータ・ニィガ王国の南東に位置する領地です。海も山も近いので食料は豊富ですね。ただ隣には【奈落の森アビス・ウッド】という、魔物がうろつく森があります】」


 すらすらと、アーシリアが答える。


「なんかやけに詳しいな、おまえ」

「私の生まれがアインの村だもので」


 なるほど……親父はそこも含めて、アーシリアを側近においたわけか。


「ほんじゃしばらくはおまえにいろいろ聞くことになるけど、よろしくな」


 ほどなくして、俺たちはアインの村へと到着する。


 馬車に乗せてくれたおっさんにお礼をしたあと……。


「ほんじゃ、まずはここの村の偉いやつに挨拶だな。案内よろしく」


「かしこまりました。では村長の家に案内しますね」


 アーシリアを先頭に、俺たちは村の中へと入る。


 木造の平屋があちこちにあった。

 みんな武器や防具を身につけずにいる。


 道路では子供が遊んでおり、ベンチでは老人達が茶飲み話をしていた。


「なんか、やばい森が近くにあるってのに、やけにのんびりしてますねー。平和ってゆーか」


 ここが周囲を見渡して感想をつぶやく。


「カーター領は先代国王様がかつて、各村々に結界を張ってくださったのです」


「おー、ほんとだ。魔物よけの結界だ。じいちゃんやるなぁ」


 俺の親父の親父、つまりじいちゃんは、凄い人だったらしい。


 だが俺が生まれる前に、もう死んでしまった。会いたかったんだけどなぁ。


 はえ? とココが首をかしげる。


「どこ? どこです坊ちゃまー?」

「ほら、村全体を覆うような、オーロラみたいなの、あるだろ?」


「見えないですよぉう」


 あら、見えないのか。


【解。常人には見えないレベルの、高度な結界魔法が使われております】


 ほんと、じいちゃんには会ってみたかった。

 凄い賢者だったって、親父や兄貴たちがよく言ってたっけ。


「あれ? でも結界がほつれかけてるぞ」


「え? ほ、本当ですか?」


 アーシリアが立ち止まり、空を見上げる。


 だが彼女にも結界は見えてない様子。


「おう。ほら、その証拠に……」


 結界のほつれは、極小なものだった。


 だが、そこの穴に……。

 奈落の森から飛んできた、飛竜ワイバーンが顔を出す。


「わ、飛竜ワイバーン! 殿下……おさがり」


「【風刃ウィンド・エッジ】」


 ずばんっ! と風の刃が発生して、ワイバーンを粉々にした。


「…………わ、ワイバーンを……一撃で……?」


「魔物って結構人間の匂いに敏感だからなぁ」


 俺は浮遊魔法で空を飛び、結界のほつれの部分までやってくる。


【告。解析は?】


「いらん。見てわかった」


 俺はほつれた結界を、張り直す。


「これでよしっと」


 俺はすちゃっ、と地上へと戻る。


「で、殿下……今なにを……?」

「え、ほつれてた結界を戻しただけだぞ?」


「…………」

「数十年単位で崩れない結界はるとか、死んだじいちゃんはすげえなぁ……って、どうしたの?」


 はぁ、とアーシリアが溜息をつく。


「いやもう……殿下……あなたが一番すごいんですよ!」


「え、いやいやじいちゃんが……」


「先代様の結界を直せるひとなんて、この世にいないですよっ! だから凄いんですってー!」

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