71.実家に帰り、新たな依頼



 年明け、俺は年度初めの挨拶をするため、実家に帰ることにした。


 俺はいちおう王族。

 実家とは王都にある、王城のことだ。


 王子達が集まっている部屋に、俺は通される。


「にいさまっ!」

「おー、ラファエル。元気だったか」


 我が弟にして、末っ子のラファエルが、笑顔で出迎えてくれる。


 かつては病弱だった弟も、今や元気に走り回っているそうだ。


 ぴょんっ、と俺の飛びついて頬ずりしてくる。


「あいたかったです、にいさまっ!」


「俺もだぜ。元気してたか?」


「はいっ! 魔法も勉強も頑張ってます……!」


 弟もなかなかの魔法の使い手らしく、将来有望視されてるんだと。


 うむうむ。


「でもにいさまには、遠く及びません! 聞きましたよ、妖精界でのご活躍を!」


 そこへ……他の王子たちが、ぞろぞろ近づいてくる。


「聞いたぞレオン。妖精王を配下にくわえたんだってな」


「古竜の群れを素手で倒したんですって! すごいじゃない!」


「やっぱレオンはあたしたちのなかで、最も秀でた王子ね!」


「「「いえてるぅー!」」」


 王子達が俺を抱っこしたりぎゅっとしたりして、もみくちゃにしてくる。


「おいこらレオン貸してよ!」

「駄目ですわ♡ 久々のレオンなのですもの、もっとぎゅっとさせてほしいですわ~♡」

「あー! ずるいですねえさま! ぼくも兄様をぎゅーっとしたいのにー!」


 とまあ、王子達が全員集合している……かと思いきや。


「おや? なあラファエル。アルフォンス兄さんと、デネブ兄さんは?」


 第一、第三王子の姿が見当たらない。

 今日は年始のあいさつだ。


 各地に散らばっている王子たちは、みんな集まってきているはずである。


「兄様達は昨日ご到着なされたのですが、父上となにか話があるようでした」


「ふーん。話ってなんだろう?」


「さぁ……ただ、ちょっと深刻な話なのかなって……勘ですけど」


 弟の勘がはずれるとは思いにくい。

 となると、何かあったのだろうか……。


 そのときだった。


「失礼します」


 ドアが開いて、白金の鎧に包まれた、お姉さん騎士が入ってくる。


 パールホワイトの長髪を、バレッタでまとめている。


 青く凜々しい瞳の、美しいお姉様だ。


「どなたさん?」

「失礼、殿下。私はアーシリア。王国騎士団の副団長を務めております」


 アーシリアさんが腰を折っておじぎする。


 結構若いのに、副団長か。

 凄い才能があるんだろうなぁ。


 まあ立ち方でだいたいわかるけど、剣の使い手のレベルが。なぁ?


【否。それができるのは、前世が剣聖である変態マスターのみです】


 変態って書いて俺と読むなよ、叡智神ミネルヴァ


「んで、アーシリア。どうしたんだ?」

「レオン殿下をお呼びするよう、アルフォンス様・デネブ様より言付かっております」


「兄さんたちが? なんだろう?」

「至急、とのことでした」


「ん。りょーかい。んじゃラファエル、あとでな」

「はいっ! また!」


 俺はアーシリアさんと一緒に部屋を出る。


 ちらちら……とアーシリアさんがこちらをチラ見してくる。


「なに?」

「あ、いえっ! 失礼いたしました! なんでもないです!」


「え、気になるじゃん。言ってよ」

「……その。故郷の弟と、似ていたもので。かわいいなぁ……と」


 アーシリアさんが照れながら言う。

 まー俺も外見はまだ7歳(今年で8歳)だからな。


 照れちゃうんだろう。


「アーシリアはその若さで副団長って、すげえんだな。周りからも驚かれてるだろ」


「いえ、私はまだまだですっ! 国を、王を、そして民を守るため、修行中の身であります」


 はー、真面目な姉ちゃんなこった。


 ほどなくして、俺は王の部屋へと到着する。

「アーシリアです。レオン殿下をお連れいたしました」


『通せ』


 副騎士団長さんにドアを開けてもらい、俺は中に入る。


「うむ、ひさしぶりだな、レオン!」


 金髪の大男、第一王子アルフォンス。


「悪かったな、帰ってきたばっかりなのによ」


 銀髪の美青年、第三王子デネブ。


 そして二人の間に、俺の親父……国王が座っている。


 アーシリアは入り口にて待機する。


「んで、どうしたのみんな? なんか……あった?」


 王子達、そして親父の顔は、深刻そうだった。


「ノアよ、急ぎおまえに、相談がある。デネブよ、説明を」


 デネブ兄さんがテーブルの上に、羊皮紙を広げる。


「レオン。王都のすぐ近くに、ダンジョンが発生した」


「まじか! ダンジョン!」


 この世界においてダンジョンとは、モンスターの一種とされている。


 モンスター達のように、ある日突然発生し、宝箱や財宝などをえさに、人間を食い荒らしている。


「や、やけにうれしそうだなおまえ……」


「だってダンジョンって言えば、古代魔道具アーティファクトだったり、未知のモンスターの魔法だったりって、わくわくの宝石箱じゃないか!」


「そういうのはおまえだけだよ……」

「たいしたものだ、レオンは!」


 王子達が互いに感心したようにうなずく。


「ダンジョンが出現した以上、即時クリアせねばならない」


「それを餌に多くの被害が出てしまうからな!」


 しかし、とデネブ兄さんが続ける。


「今回のダンジョン……難易度はどうやらランクはS、以上とされてる」


 ダンジョンには難易度が設定されている。

 冒険者がクリアできるランク、がその迷宮のランクとされている。


「S以上ってのは?」

「王都のSランク冒険者パーティ、【黄昏の竜】。彼らがダンジョンに挑んだのだが……第一層で大けがを負い、撤退したんだ」


 Sランクパーティでも、浅い層しかたどり着かなかったらしい。


 ダンジョンは多層構造となっており、奥へ行くほど強力なモンスターが現れる。


「今、冒険者ギルドは合同でSランクパーティ達による大部隊を編成中だ。しかし……」


「なんか問題でも?」


 こくり、とデネブがうなずく。


「Sランク以上ダンジョン……便宜上、特級と名付けたが。特級ダンジョンの入り口から、毒ガスが検出されたんだ」


「今は天道教会の聖職者たちによる浄化と結界によってなんとか被害は最小限にとどめている! しかし……時間の問題だ!」


 兄たちから事情を聞く。


「なるほど……部隊の編成には時間がかかる。しかしほっとくと毒ガスが外に広まってしまうってことか」


「その通りだ。つまり、単独ですみやかに、特級ダンジョンをクリアせねばならない。それで、おまえに白羽の矢が立ったというわけだ」


 親父がうなずいて、厳かに言う。


「レオンよ。おまえに頼みがある。特級ダンジョンへおもむき、クリアして……」


「オッケー!」


 親父が全部言い終わる前に、俺は手を上げる。


 はいはい、と元気よく!


「ちゃちゃっと行ってちゃっちゃっと片付けてくるよ!」


「お、おまちください!」


 後ろで控えていた、お姉さん騎士のアーシリアが、前に出てくる。


 俺をかばうようにして立って、兄と親父に言う。


「なぜ殿下を、そんな危険な場所へ、生かせようとするのですか! しかも一人で! 危ないじゃないですか!」


 アルフォンス兄さんが首を振る。


「レオンならだいじょうぶだ!」


「何を根拠に! 殿下は……まだ7歳。まだまだ子供なのですよっ!」


 ふわ……っとアーシリアが俺のことを抱きしめる。


 大人のお姉さんの、甘い香りが鼻腔をくすぐった。


「子供を危険な場所へ一人で行かせるなんて! 親として……兄として、はずかしくないですか!」


 相手が王族だろうと、はっきりと意見を述べる。


 なかなか肝の据わった姉ちゃんだな。


「おまえなぁ……」


 デネブがあきれたように発言しようとする。

 だが、それを親父がとめる。


「アーシリア副団長。おまえの言い分もわかる。なら……こうしよう。おまえもついていくのだ」


「私が……? はい、もちろん!」


 ぎゅーっ、とアーシリアが俺のことを強く抱きしめる。


「だいじょうぶですよ、殿下! 私が……お姉ちゃんが、守ってあげますからね!」


 たぶん自分の弟と俺とを重ねての言動なのだろうな。


「ノアよ、よいな?」

「俺は別に良いよ」


 うむ、と親父達がうなずく。


「それでは殿下。早急に騎士達を集めて参りますので」


「え、いらいないよ。そんなの」


「は?」


「デネブ兄さん、地図かして」


 テーブルの上に乗っていた地図を、デネブが俺に放って寄越す。


 叡智神ミネルヴァ、座標の特定を。


【告。完了しております】


「【転移】」


 俺たちの体が、光に包まれる。

 そして……。


「え……?」


 ぽかん、とアーシリアが口を大きく開く。


 ここは特級ダンジョンの内部だ。


「え、え、えええええええええええ!? て、転移魔法ぅうううううううう!?」


「うん。ほら、いこうぜアーシリア」


 俺は先へと進んでいく。


「えぁ!? ちょっと、殿下!? 待ってください、殿下ー!」


 後ろからアーシリアがついてくる。


 さぁって、特級ダンジョンかぁ!

 何が出るのかなあ、楽しみだ!

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