70.神の番、その力



 俺はカーラーンさんのとこに年末の挨拶をして、帰り際に【神の番】って称号を手に入れた。


『告。神の番スキル生成に際して、全能者と叡智神ミネルヴァ以外のスキルを、統合しました』


 つまり全能者と叡智神ミネルヴァ以外のスキルは、神の番のいけにえになったわけか。


 全能者、叡智神ミネルヴァにつぐ、新しい力。


 これはどんな効果があるんだろうか……と思いながら帰ってきた。


「ただいまー」


 俺たちは、俺の屋敷の中に転移する。


 だが……違和感を覚えた。


「あり? 普段なら誰か出迎えてくれるのに、誰も居ないや」


【解。屋敷の人間は、外に居る様子です】


 俺の中に戻った叡智神ミネルヴァが、状況を教えてくれる。


 俺はメイド達の様子を見るために外へ行った……。


「なんじゃこりゃ」


 屋敷の庭には、大量の竜の死体が、山積みになっていた。


「おわー! 何が起きてるのだっ?」


 竜王であるテスタロッサは、異様な光景に目をむいている。


「……おかえりなさいませ、レオン様」


「ミリアか。……どうしたんだこれ?」


 俺は山積みの古竜達を指さす。

 ミリアは冷静なまま、会ったことを話し出した。


「レオン様が外出なさったそのタイミングで、古竜達が大群で、この屋敷へと襲いかかってきたのです」


「まじかよ。え、テッサ、何かそれ知ってる?」


 ふるふる! とテッサが首を横に振る。


「知らないのだ。ワタシが命令したわけでもないし……古竜達は知性がある。理由もなく人を襲うとは思えないのだ」


 竜達の王であるテッサが言うのだから、間違いは無いだろう。


「誰かに操られてたのかもな」

しかり。おそらくは【魔王ノーマン】によるものだろう」


「ノーマン?」


 ウルティアがうなずいて返す。


「以前申しただろう? わらわたちを襲撃した犯人がいると」


「そいつがノーマンってわけか」


「然り。此度の襲撃も、レオンに戦力が集まることを危惧したノーマンによるものだろうな。洗脳でも使ったのだろう」


 なんてくそ野郎なんだ。

 無関係な竜を無理矢理襲わせるなんて。


 ぎゅっ、とテッサが拳を握りしめる。


「…………」

「気持ちはわかるが、まあ落ち着けテッサ」


 焦っても仕方の無いことだ。

 ミネルヴァが敵意を感知できていないのだから、この場にはノーマンがいないのだろう。


「てゆーか、ミリアたちは無事だったのか?」


「……ええ、全員無事です。……もっとも、みな死を覚悟したのですが」


 古竜はなかなかに手強い。

 いくらこの間、メイド達たちが一段階強くなったとしても、互角に渡り合うのは難しいだろう……。


 え、でも無事って……。


「「「ごしゅじんさまぁあああああああ!」」」


 コロンをはじめとした、メイド親衛隊たちが、俺の元へとやってくる。


 みな、返り血を浴びてはいるものの、元気そのものだった。


「ご主人様のおかげですー!」「あんがとな、坊ちゃん!」「さすがですわご主人様♡」


 狐獣人のコロン、リザードマンのリザ、半馬のギャロ。


 小隊長たちが笑顔で言う。


「なんだどういうこと?」


「ご主人様から力が流れ込んできてっ、ころんたち強くなれたの!」


「ああ。古竜も素手で倒せるほどにパワーアップしてたぜ!」


 マジか。え、でも餅食べさせた意外にパワーアップってさせたか……?


【解。神のつがいの効果の1つによるものです】


「神のつがいの効果……?」


【解。主が強くなればなるほど、配下もまたパワーアップするという効果を持ちます】


 前に獲得した大魔王のスキルに似てるな。


【告。大魔王は、配下が増えれば主が強くなるスキルです。今は神の番に吸収されておりますが】


 よくわからんが、仲間が増えれば俺が強くなるし、俺が強くなることで、仲間も強くなるってことか。


 ミネルヴァ、状況をまとめてくれ。


【告。マスター達が天界へ出立したあと、古竜による襲撃を受けた。しかし神の番による効果でメイド達がパワーアップ。古竜の大群を退けた】


 なるほどなぁ……。


 あれ、でも神の番をゲットしたのって、ついさっきのことじゃね?


【解。天界と地上では、時間の流れが異なります】


 浦島太郎みたいなかんじか?


【是】


 ラスティローズが感心したように何度もうなずく。


『いやぁさすが大魔王様! 配下までもお強くしてしまわれるなんて! 素晴らしいです!』


「まあ別に俺何もしてないんだが……」


 倒れ伏す古竜の死骸を前に、テッサが沈んだ表情を見せる。


 そりゃそうだ、配下のやつらが無理矢理操られて、殺されたんじゃな。


「なんとかできないもんか?」


【解。今のマスターならば、可能です】


 まじ?


【是。大天使息吹ホーリー・ブレスを使用すれば蘇生可能です】


 でもあれって、死者までは蘇生できないんじゃ?


【解。大魔王のスキルにより、マスターはさらなる進化を遂げております。今の状態なら、魔法のランクもあがって、蘇生可能な治癒術を創造できます】


「魔法の創造……ね」


 なるほど……よし。


 必要なものは、頭の中に流れ込んできている。


 魔法に対する理解が、大魔王になったことで、更に深まっている。


 大天使息吹ホーリー・ブレス


 これは極大魔法……つまり、最上位の魔法とされている。


 だが……俺は、その上をゆく。


「テッサ。安心しろ」

「お兄ちゃん……」


「俺が今、治してやる」


 俺は聖剣を取り出して、地面に突き立てる。


 俺は持てる力を最大限利用して……極大の更に向こう側へ……。


 神域へと、到達する。


『まさか! そんな……ありえない!』


「どうした、ラスティローズ?」


 目をむきながら、妖精王が応える。


『大魔王様は……神域級魔法を、作り上げようとしている!』


「なっ!? そ、そんなばかな!? 神域を二つももつだと!?」


 何に驚いているのかさっぱりだが、俺にはできると、今確信を持っている。


 大天使息吹、そこに大魔王の力。

 魔法改良を実行……。

 そして……天界でついさっき会っていた、女神カーラーンさん。


 それらのイメージを合成して……俺は新しい神域級魔法を使う。



「神域解放……【女神ノ祝福デリス・カーラーン】」


 聖剣が突き刺さった部分から、魔法陣が天界。


 俺の背後に、女神カーラーンさんのイメージが具現化する。


 カーラーンさんの持つ、温かな魔力をもって、冷たくなった古竜達の体を包み込む。


 温かい魔力の光が、やがて、収まると……。

「ぐるるう……」「がるう……?」「ぐが……?」


「お、おまえらぁあああああああああ!」


 起き上がった古竜達に、テッサが飛びつく。


「よかったぁ! よかったよぉ!」


 わんわんと涙を流すテッサ。

 うん、良かった良かった。


【告。……今のは、完全な蘇生魔法です。この世界が生まれてから今日まで、実現したものは、誰も居ません】


「え、そうなん?」


【是。不完全な蘇生……たとえばゾンビの使役などは、実現したものは居ました。ですが、死後かなり時間の経った、完全な死体からの蘇生を可能にしたのは、マスターが初めてです】


 へえー……そっかぁ。

 ま、俺は新しい魔法が試せたから、どうでもいいけどな。


『すごすぎですよぉ! さすが大魔王さまぁああああああああああ!』


「見事だな、ダーリン」


 魔王達も感心している。


「いやいや、俺だけの力じゃないよ。な?」


【是。大魔王スキルで強くなったとはいえ、女神ノ祝福デリス・カーラーン発動には魔力が足りませんでした。それを実現するほどの魔力量を獲得したのは、神の番の効果の一つ、魔力超向上の効果があったからです】


 ようするに、カーラーンさんの力も大きかったわけだ。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


 まあ何はともあれ、みんなが無事で良かった。



 

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