69.女神を無自覚に落とす


 俺は女神カーラーンさんのもとへ、年末のご挨拶に来た。


 何もない白い空間にて。


「……すごい、温かいです」


 空間にはカーペットと、そしてこたつが置いてある。


「……電気がなくとも動くのですね」

「おう。魔力で動くこたつとカーペットよ」


「こんな凄いものをいくつも作るなんて、さすがレオンですね」


 俺の正面に座っているのは、巨乳で、優しそうなお姉さん。カーラーンさん。


 ……んで、俺の真横に座っているのが、貧乳で、つり目がちなムネタイラさん。


「おまえなんで真横に座ってんの?」


「解。母NTRされないように警戒してるのです」


「なんじゃそら?」


「解。この場合は母を他の男にNTRされるのではなく、母【に】夫をNTRされるという意味合いです」


「なんのこっちゃ」


 ムネタイラ・モノリスさんは、今日はカーラーンさんに何やら対抗意識を燃やしているようだ。


「告。ムネタイラ・モノリスとは誰のことですか? あなたの正妻叡智神ミネルヴァのことでしたら、原型が残ってないので即刻名前を変えてください」


 はいはいバインバイン。


 おとなしくなったミネルヴァ。

 魔王達が、じっ、とカーラーンさんを見ている。


「だーりん。このお方が、ダオスのお姉様か?」


「そう。カーラーンさん」


 ダオスとは、地上に降り立たち、魔王達に力を与えた神の名前。


 ウルティアたち魔王は、力を授かった関係で、ダオスとは面識がある。

 

 だがカーラーンさんとは初対面だ。


「あはは! みねるばと顔はそっくりなのだ! 顔は! 胸なんて月とすっぽんだなぁ! お兄ちゃん?」


 確かにカーラーンさんのおっぱいは大きい。

 それこそミネルヴァと比べものにならないくらい。


「告。マスター。殲滅許可を」

「ならん」


「では創造主の乳をモゲする許可を!」

「なんだよ乳をモゲって……」


 む~、とミネルヴァが唇をとがらせてうなる。


 一方でカーラーンさんは、慈愛に満ちた瞳を、ミネルヴァに向ける。


「ミネルヴァ。あなた……本当に変わりましたね」


 カーラーンさんにとってのこの胸無しさんは、自分の力の一部から生み出した、いわば子供みたいなもんだ。


 子供が元気に成長していたのが、うれしいんだろうな。


「告。それは胸が成長してないねこのぺちゃぱい、という意味ですか? 創造主とはいえ、ぶん殴りますよ顔を」


「やめとけって。相手はお母さんだろおまえの」


「相手が母とはいえ譲れないものが、ある! 旦那とか! 胸とか!」


 胸は元々無いだろ。


 ややあって。


 俺たちは、作ってきた雑煮をつつく。

 ほぅ……とカーラーンさんがつやっぽく吐息をつく。


「……おいしいです」


「良かった、相手は神さんだから、口に合うか心配だったんだよ」


 関東風の雑煮をみんなで食ってる。

 カーラーンさんをはじめ、みんなから高評価をもらった。


「……本当に美味しいです。レオンは料理もお上手なのですね」


「解。ええ、なにせ旦那ですので、私の、ええ、主夫ですので」


 やたらと自分のものであることを主張するな、この板は。


「板!? ついに人ではなくなったのですが!?」


「元々人じゃないだろ、なあ板の神?」


「否! 叡智の神です! 神に対してなんて不敬な口のききかた!」


「ごめんって。ほらもっと雑煮くえよ。バインバイン」


「こんなもので機嫌が直ると思ったら大間違いです。多めによそってください」


 機嫌なおってるやないかーい。


 くすくす、とウルティアが笑う。


「相変わらずダーリンは第二夫人と仲が良いな」


「はぁ!? 私が正妻ですが? 第二夫人はあなたでしょう?」


「いやいや、ダーリンと初めての相手はわらわではないか」


「初めて!? そんな、いつの間に! 精通だってまだなのに!」


「【初めて死闘を繰り広げた相手】を、略して初めての相手だ」


「紛らわしいんですよぉちくしょお!」


 ウルティアとやり合ってるミネルヴァを見て、カーラーンさんが微笑んでいる。


「レオン、あなたは……楽しい人生を送れてるようですね。安心しました」


 カーラーンさんが器を置いて、微笑む。


 どこかさみしそうな印象を受けた。


「あんたは逆に大変そうだな」

「え……?」


 ぽかん、とカーラーンさんが口を開く。


「だってこんな何もないとこに、何世紀もずっとひとりぼっちなんだろ? しかも次から次へと死者の魂をさばいてくってさ。大変なことだよな」


「え……あ……まあ」


「でもすげえことだと思うよ。あんたがいなきゃ世界は回ってかないんだからよ。立派なもんだ」


 ぽろ……とカーラーンさんが涙を流す。


 え!? ど、どうしたんだろう……。


「ご、ごめんなさい……ちょっと……うれしくて……つい……」


 俺なにかしちゃいましたかね?


「出た出た。マスターの必殺技がでましたよ」


「必殺技! なんだそれは! お兄ちゃんどんな技持ってるのだっ?」


 はぁ……とミネルヴァが溜息をつく。


「必殺、【無自覚女殺しフラグ・ビルダー】。マスターと話した女は、例外なく落ちる」


「おー! 強そうな技だなー! なあなあワタシにもかけてみてくれよー!」


『いやあんたとっくにかかってるでしょ……テッサ……』


 うんうん、とミネルヴァがうなずく。

 俺そんな技習得してないんだけどな。


「ふふ……しかし神とはいえ、このお方も女だったと言うことなのだな。うれしいよ」


 ウルティアがニコニコと、大人の笑みを浮かべて言う。


「……な、なんのことでしょうっ?」


 カーラーンさんは顔を赤くして、焦ったように、目を泳がす。


「わらわは夫に多数の男がいることを許容している。強い男に女が惚れるのは必定。なぁカーラーン。仲良くやろうじゃあないか?」


「……わ、私は、そんな、決して……だいいち、神……ですし……」


 もにょもにょ、とカーラーンさんが口ごもる。


 なるほど、神だから【友達】になることを、遠慮してるのか。


「遠慮すんなって。俺、あんたのこと好きだぜ?」


 人間として。あ、相手は神か。


「すっ!?!?!?!??!?!?」


 首筋まで真っ赤にした女神さん。


「出た出た無自覚女殺し。けー!」

「なに!? またかっ。また技を発動させたのかっ。すごい、相手に気取らせず発動させる技なのかっ!」


 ミネルヴァが悪態をつき、テッサはなんか感心してる。

 妖精王はあきれて溜息をついていた。


「す、好き……というのは、どういう意味での……?」


「? 言葉通りの意味だけど」


「~~~~~~~~~~~~~~~!」


 カーラーンさんは手で顔を覆って、うつむいてしまった。


 なんか悲しくなるようなこと行ったっけ俺?


「告。マスター。創造主は処女です。マスターのその技……無自覚女殺しは覿面に効きます」


「ミネルヴァ!? 余計なことは言わないでください!」


 カーラーンさんが立ち上がって、娘の口を手で塞ぐ。


「もが……処女解任とか……さすが神……もがもが……」


「……あなたちょっと見ぬ間にはっちゃけすぎなんですよ!?」


 仲いいなぁ二人とも。


 ややあって。


 年末の挨拶を終えたので、俺たちは帰ることになった。


「ほいじゃ」

「あ………………」


「? なに?」


 カーラーンさんが、俺に手を伸ばす。


「……次は、いつ……来てくださりますか?」


 どこかさみしげに、彼女が言う。

 まーこんなとこに一人きりじゃ、来がめるのだろう。


 友達と話して気を紛らわせたいのか……。


「転移には魔力が結構要るからな。おいそれとはこれんよ」


「そう……です……よね……」


 俺はポケットから、1つの指輪を出す。


「代わりにこれやるよ」


「……指輪?」


「うん。念話の魔法を強化して作った、通信機みたいなもん」


 スマホを現在作成中なのだが、まだまだ完成には至ってない。


 この指輪は試作機のひとつだ。


「あ、サイズ測るの忘れてたわ……えっと、このサイズで入りそうな指は……あ、手貸して」


 俺はカーラーンさんの左手をとって、ゆすり指にはめる。


「「!?!?!?!?!?!?」」


 娘、および母が、同じようにびっくりした表情になる。


「わりぃな。ちゃんとサイズの合うやつ今度作っとくから、それで我慢して」


 ぶんぶん! とカーラーンさんが首を振る。

「……いえ、レオン。これで……十分です。ここが……いいです」


「? おう、まああんたが良いなら良いよ」


 カーラーンさんが自分の左手を、胸に当てて言う。


「……うれしい。とても、うれしいわ、レオン。これ……大切にしますね」


「おう」


「念話も……しますね。過干渉はとがめられるでしょうから、たまにですが」


「ああ。俺もあんたと話すの楽しみにしてるよ」


「……はいっ」


 俺はみんなを集めて、2つめの転移結晶を取り出す。


「ほんじゃなー」


「……ええ、また」


 俺は転移を発動させ、その場をあとにするのだった。


「…………」


「どうした板さん?」


「告。板前みたいな言い方やめろ」


「やめろって……おまえなに? 怒ってるの?」


「怒」


「怒ってるじゃねえか板さん」


「告。マスターは【神のつがい】の称号を手に入れました………………ぺっ!」


「かみの、つがい? なにそれ」


「ggrks」


「それ天の声が言っちゃ駄目なセリフトップ3じゃね!?」


「ふんだ浮気者。母を寝取るとはどういう了見ですか!」


「はぁ? おまえ何言ってるんだよ」


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