64.幻影道化師団《ノーマン・サーカス》



 レオンが魔王達と年末を過ごす、一方その頃。


 とある廃城に、一人の魔王がいた。


 魔王ノーマン。


 彼もまた魔王の晩餐サバトに参加していた魔王の一人。


 巨人王シュタインが警戒してた男である。


「さて、【幻影道化師団】の諸君、よく集まってくれた」


 古城のパーティルームには、【13人】の風変わりな男女が集まっていた。


 彼らに共通しているのは、みな妙な仮面を身につけていること。


 誰一人として素顔をさらさぬ異様な13人は……魔王ノーマンの手下である。


 名を、【幻影道化師団ノーマン・サーカス】。


 彼が信頼する、部下達の名前である。


「なんやノーマン? わいらをなんで集めたんや?」


 一三人のうちの一人、黒装束に身を包んだ男が言う。


「【ジョーカー】。控えよ、王の御前であるぞ」


 がたいの良い男が、ジョーカーと呼ばれた男に注意をする。


「【ジャック】くんは固いな~。別にええやろ。わいらは運命共同体やて、ノーマンを言うてたし。なぁ?」


「貴様……! ジョーカー! なれなれしいぞ!」

 

 ジャックは立ち上がると、両手斧ハルバードを持ち上げ、殺気を向ける。


 ジャックから発せられる怒気により、古城全体が振動する。


 だがジョーカーはどこと吹く風だった。


「やめてくれたまえ、君たち。ケンカはよくない」


 ジョーカーとジャックは、ともに静まる。


 ノーマンは彼らを見渡して言う。


「【エース】。報告してくれないかい?」


 ノーマンは右側に控えていた、優男に言う。

「了解ですノーマン様」


 エース。ともすれば女子に見えるほどの、長い髪をもった男だ。


「先ほど道化師のひとりを派遣し、レオン=フォン=ゲータ=ニィガの暗殺を実行。成層圏より魔法弾による狙撃を行ったが、失敗した。とのことです」


 ざわ……とその場に集まっていたノーマンの部下達が動揺する。


「ほんまかいな、ノーマン」

「ええ。そうです。レオンが見事に倒して見せました。仕掛けていたトラップすらも看破していましたね」


「なっ!? んなアホな。強力な隠蔽術式がこめられてたんやで? それをどうやって見抜いたってゆーんや?」


 ジョーカーからの質問を受け、エースが懐から水晶玉を取り出す。


 水晶玉を放り投げると、上空には映像が映し出される。


 そこに写っていたのは、青髪の、美しい女だった。


「「「なっ!? だ、ダオス様……!?」」」


 誰もが驚く。

 そう、この場に集まっている、ノーマンと幻影道化師団たちは、知っているのだ。


 王であるノーマンの上に立つ、神の存在を。

「落ちつきたまえ諸君。この女はダオス様ではない」


 ノーマンが冷静に言う。


「しっかし顔が、ダオス様とそっくりやないかい」


 ジョーカーも、ノーマンの部下であるため、彼らがあがめる神の顔を知っている。


「この女……ミネルヴァというらしい。ミネルヴァは女神カーラーンの体の一部から作られし存在だという」


 ノーマンの解説に、なるほど……とジョーカーがうなずく。


「ダオス様と女神カーラーンは姉弟やからな。カーラーンの複製コピーともなれば、似てて当然やな」


 なるほど……師団員たちがうなずく。


「ほんまそっくりや、ダオス様に」

「ああ、この凜々しい顔つき、まさにダオス様の生き写しだ」


「まったくだ。顔つきから体つきまで、何から何まで」


 みな、男神であるダオスと、(いちおう)女神ミネルヴァが似ているという。


 女の体であるはずなのに……。

 平たい胸のせいで……。


 それはさておき。


「なるほどなぁ。レオンが強いのもうなずけるわ。神の力をその身に宿しているんやからな」


「その通り、ジョーカー」


 ノーマンがうなずく。


「しかしレオンは何を企んでいる? 神を宿し、魔王を束ね……やつは何がしたいのだ?」


 ジャックは固い声音で言う。


「そらもうノーマンはわかっとるんやろ? なぁ?」


 道化師たちの注目が、いっせいに、ノーマンに集まる。


 彼は余裕の表情でうなずく。


「もちろん……レオンは、世界を征服するつもりです」


 ……妖精王に引き続き、魔王ノーマンすらも、勘違いしていた。


「やっぱなぁ。そう思ったで」


 ジョーカーはテーブルに足をのっけて言う。


「聞けば、魔法学校で【私兵】を育ててるらしいやん? しかも妖精達までその兵隊にくわえて。さらに新しい強力な魔道具を作り武装させ……そこにくわえて、魔王すら籠絡してるっちゅー話」


 ちっ、とジョーカーが舌打ちする。


「どう考えても、世界をその手に収めようとしてる、大魔王と、その配下たちやないかい。ったく、胸くそ悪いわ。わいらのパクリやんか!」


 声を荒らげるジョーカー。


 一方でのほほんとした調子で、エースが言う。


「そうですかね~。案外世界征服とか考えてないかもしれませんよ。単なる子供の遊びかな~って」


 エースの楽観的な意見に、ジョーカーもジャックも、ノーマンすらも、あきれたように溜息をつく。


「あれあれ? ぼくなにかおかしなこと言っちゃいました~?」


「いやまあ……あんたはええよそれで。子供だししゃーないわ」


「ま~ぼくも子供ですから。わかるんですけどね~。レオン君が無邪気に遊んでいるだけの、子供だって」


 ……エースだけが、レオンの本質を見抜いていた。


 師団のトップであるノーマンも、その配下である道化師達も、だれもエースの言葉に耳を貸さない。


「ありえへんわ」

「エースよ。戯れ言は控えよ」


 ジョーカーとジャックに否定され、エースは「はいすみませーん」と軽い調子で謝る。


「とにかくだ、諸君」


 ノーマンは幻影道化師団の師団員たちを見渡して言う。


「大魔王レオンが世界をその手に収めようとしているのは100%確実。しかし我らと敵対するかは未知」


「つまり……展開次第じゃ、手を組めるかもってことかいな?」


 ジョーカーの意見に、ノーマンがうなずく。


「そのとおり。だから、見極めなければいけない。大魔王レオンが、果たして我らの協力者なのか、あるいは、敵対者なのかを」


 ばっ、とノーマンが手を広げて言う。


「我が同胞達よ、いいか。今は静観するのだ。決して、レオンに手を出すなよ。特にエース」


「はーい」


 ノーマンがじろりとにらみつける。


「貴様は特に気をつけるんだぞ」


「わかってまーす。絶対レオン君には手を出しませんって~」


「いいか、絶対だぞ。今はやつの器を図るときだ。もしも邪魔するようなら……同胞だからといって容赦はしないぞ?」


 上司であるノーマンからにらまれても、エースはほわほわした雰囲気を変えなかった。


「わかってますって~。ぼくって信用ないなぁ」


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