63.魔王が集まれば敵襲も余裕



 年の瀬、俺の屋敷に、3人の魔王が集まっている。


 こたつに入ってぬくぬくしていた、そのときだ。


「告。マスター。敵です」


 ミネルヴァが頭上をにらみつけて言う。


「なに? 敵だと?」


 ウルティアが怪訝な表情を浮かべる。


「わらわの魔力探知の範囲には敵の姿が見えぬが」


『ウルティアの探知にひっかからないなんて、そうとう離れた場所にいるのね』


 妖精王の言葉を聞いて、こくりとミネルヴァがうなずく。


「解。敵は遙か上空、成層圏から、こちらに向かって狙撃してきます」


「まじか」


 そんな遙か上空からこちらを狙っているなんて。


「さすがはダーリンのスキル、どんな敵をも感知してみせるとは」


「んがー……んごー……」


 竜王はのんきに眠っている。

 こいつが殺気を感知できないレベルで離れた場所からの攻撃。


 相手はまあそこそこやるのだろう。


「マスター。魔法を固めた弾丸が10秒後に着弾します。すぐに極大魔法が展開される予定です」


 進化した叡智の神さんには、少し先の未来が見えるらしい。


 彼女がいれば不意打ちなんて効かない。


「ほいじゃ、防ぐっと」


 俺は右手を前に出す。


「しかしダーリンよ。障壁で防いでも爆発の余波で周囲に被害が出るのではないか?」


「だいじょうぶだよ」


 俺は障壁を展開。

 

「告。魔力弾がマスターの障壁と激突するまで……2……1……着弾」


 だが、衝撃波が襲ってこない。


「告。受け流しに成功しました」

「そりゃよかった」


 妖精王が目を丸くする。


『ど、どういうことですか? 受け流しって』


「解。マスターは障壁で真正面から敵の攻撃を防いだのではありません。障壁の形をいじり、弾丸の軌道をそらしたのです」


 なるほど、とウルティアが感心したようにうなずく。


「攻撃を外に逃がしたのだな。さすがダーリン、見事な技巧だ」


 しかし遙か上空の敵となると、攻撃を当てるのもめんどいな。


「告。敵が撤退していきます。狙撃失敗によって、マスターへの警戒レベルを上げたのでしょう」


 すると……怒りの表情を浮かべた、3人の魔王が立ち上がる。


「許せんな」『もちろん!』「お兄ちゃんにたてついて逃がすわけないだろう!」


 ウルティアは窓の外に飛び出る。


 右手を前に出す。


「おい、そこの胸の平らな女」


「あ゛?」


「敵の位置を教えるがよい」


「今私の目の前にいるのですが? あ゛?」


「戯れはあとで、敵が逃げてしまう」


 ミネルヴァは敵の位置をウルティアに指示する。


 彼女は右手を天高く突き出す。


「【麻痺パラライズ】」


 魔王の麻痺スキルが発動する。

 超高速で頭上に、紫電が走る。


「告。着弾しました。敵は麻痺で動けない状態です」


 俺はウルティアの意図を瞬時に理解する。


「妖精王」

『言われるまでもありません! 【暗黒星雲ネガ・ネビュラ】!』


 上空に小型のブラックホールを出現させる。

 頭上にとどまっていた敵を、地上へと無理矢理引き戻す。


 ぐしゃり、と敵が倒れる。

 よく見れば人間……ではない。


「魔族……でもないな」


 魔王がうなり声を上げる。

 魔の王たる彼女が言うのなら、魔族ではないのだろう。


 テッサは敵の前にしゃがみ込む。


「死ね」


 それだけだった。相手は……絶命した。


「告。高位の魔法存在となれば、言葉にも力を宿すことが出来ます。いわゆる言霊というやつで、相手に言葉の内容を強制させるのです」


 なるほど……死ねと言えば死ぬのか。

 なるほど……おもしろ!


「告。それで怖いと言わず面白いというマスターが怖いです」


「え? そう。面白そうじゃんな」


 死んでしまった敵を見て、ふぅ、とウルティアが溜息をつく。


「テスタロッサ。殺すなよ。情報を引き出せないではないか」


「お兄ちゃんを怪我させようとしたのだ! ゆるせないのだー!」


 感情的になりやすいテッサのことだからな。

 まあ仕方ない。


「しかしなんだって俺たちを襲ったんだろうな、ミネルヴァ」


 青髪の美女がうなずいて答える。


「解。狙われたのはマスターのみと推察されます」


「そうなん?」


「是。攻撃の角度から判断するに、敵はマスター一人を狙っていました」


「なんでだろうね?」


 ミネルヴァが答える前に、ウルティアが口を開く。


「おそらくは、魔王が集結するのを嫌がる連中が居るのだろう」


「え、そうなの?」


『そうですね。魔王は1体で世界のパワーバランスを崩すような存在。複数体を束ねて所有すると言うことは、つまり世界を掌握できるということ』


 魔王を集めたのは俺、だから、俺を狙ったと。

 

 魔王が一カ所に集まると都合が悪いから、ってところか。


「これは早めに犯人を問い詰めねばならないな」


「心当たりがあるのか?」


「なくは、ない、といったところかな」


 ウルティアも確信はないようだ。


「ミネルヴァ。死体から敵の情報を」

「告。マスター。この死体、自爆します」


「「なっ!?」」


 ウルティアとテッサが驚愕の表情を浮かべる。


 まあ情報を隠蔽するためだろうな。


「ど、どうするのだ!」

「わらわがこやつを外まで運ぶ!」


 ふるふる、とミネルヴァが首を振る。


「一瞬でこの地上を焦土にかえるほどの、高威力の爆弾です。間に合いません」


「ほんじゃ、こうすっか」


 俺は亜空間から聖剣を取り出し、何もない空間に向かって斬る。


 空間の裂け目の中に、死体が吸い込まれていった。


 裂け目が閉じるとほぼ同時に、爆弾が発動する。


 結果、死体は別の空間へと消え去ったため、俺たちはノーダメージと。



「「『おおー! お見事!』」」


 魔王達がパチパチと手をたたく。


「さすが冷静な対応力だな」

『空間を切り裂くなんてさすがでございますぅ!』


「やはりお兄ちゃんは素晴らしいのだ!」


 さてまあ、被害は最小限にとどめられたはいいものの、敵がいることが明らかになったな。


「マスター」


 真面目な顔でミネルヴァが近づいてくる。

 今回はこいつに助けられたな。

 感謝しないとな。


「お褒めの言葉プリーズ」

「それを自分で言うなって。ありがとうな」


「ふっ……正妻なら当然です」


 どやぁ……と無い胸を張る、胸無神むねなしん様だった。


「告。焦土にかえる魔法の使用を許可……」


「できねえよ」 

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