62.大魔王、配下(魔王)を骨抜きにする



 年の瀬、俺は実家に帰ってきている。


 竜王テスタロッサが妹分になった。


 その日の夜。


「ほぉわぁあああああああああ♡ あったかいのだぁ~♡」


 俺の部屋にて、テスタロッサこと、テッサが歓声を上げる。


「お兄ちゃん! このお部屋とぉってもあったかいよ! どうしてだー!」


「暖房が入ってるからな」


 部屋の隅には、エアコンが取り付けてある。

 天才鍛冶士のタタラ、魔道具士イヤミィ、そして俺とミネルヴァ。


 そのコラボレーションによって出来た、地球の便利アイテムの一つだ。


「すげえ! これちょーあったかいのだー!」


「まだあったかいのはあるぜ?」


「ほんとかっ!」


 部屋の真ん中においてあるテーブルを指さす。


「なんだなんだぁ!」

「これはこたつだ」


 年の瀬は寒い。

 ということで、俺はいろいろと暖房グッズを作ってあったのだ。


 前はオーダーメイドだったそれも、最近では量産できるようになってきている。


 もうちょっとで売りに出す予定だ。


「こたつ! どうやって入るのだ!?」

「ああやって入るのだよ」


 俺が指さす先にこたつがある。


 そこから顔だけにゅっ、と出しているのは、青髪の叡智の神だった。


「なるほどー! こうするのだなっ!」


 すぽん、とテッサが頭からこたつに入る。

 逆側ににゅっ、と顔出した。


「おおー! これは……これは、極楽だなぁ!」


「テスタロッサ。重いです降りてください」


 おそらくは2人重なって入ってるのだろう。

「あはは! おまえ面白いこというなぁ! 魔王であるワタシに命令するなんて! 面白いやつだなぁ!」


「魔王がなんですか。こっちは叡智の神ですよ?」


「おばちゃんお尻カチカチだな! お肉全然ついてないな!」


 がーん、とショックを受けたような表情になる、ミネルヴァさん……。


「お、おば……おばちゃ……お、お尻……かちかち……」


 もそもそ、とミネルヴァがこたつの中に引っ込んでしまう。


「おーい、だいじょうぶか?」

「否ぃ~……」


 これは落ち込んでそうだな。


「だいじょうぶだって、ミネルヴァはおばちゃんじゃないよ。ぴちぴちのギャルだよ」


 ギャルって……死語か今は?


「それにおまえ、たしかに肉付きはよくないけど、スレンダー美人だから」


 にゅっ、とミネルヴァがこたつから這い出てくる。


 ふっミネルヴァが髪の毛を手で払う。


「よっ、叡智の神。美しいねぇ」

「是。肉なんて所詮は飾りなのです」


「へんなやつだなー」


 全くもってその通りである。


 俺がこたつに入ったそのときだ。


「おや、ダーリン。珍しい客がいるじゃあないか」


 振り返るとそこには、ドレス姿の、金髪美女が現れる。


「おおー! ウルティアではないかー! 久しぶりなのだー!」


 こたつに亀状態で入りながら、テッサがウルティアに言う。


 知り合い……とおもったが、そうだよな。

 同じ魔王だもんなこいつら。


「よぉ。外寒くなかったか?」

「トテモ寒かったよ。だからダーリン。暖まりに来たんだ」


「そっか、早くこたつ入れよ」

「ではお言葉に甘えて」


 ウルティアが俺の背後に座ると、そのまま俺を後ろから抱っこするような体勢になる。


「空いてるとこあるだろう?」

「ここが一番良いのだよ♡ ああ、ダーリン……やはり君は可愛くて素敵だ♡」


 きゅっ、とウルティアが俺をハグする。


 むにゅり♡ と大きな胸の感触が当たる。


「けーーーーーーーーーーーーーー!」


 こたつに入っていた胸平神ミネルヴァが奇声を発する。


「どうした?」

「問! マスター! やはり胸は大きい方がいいのですか!」


「一言も言ってないだろ」

「告! ですがウルティアが、爆乳美女が座った瞬間、心拍数が上昇しました! 明らかに胸の影響かと!」


 そりゃ俺も男ですからね。

 どきっとしますよ。


「おー! お兄ちゃん巨乳が好きなのかー!」


 すぽん、とテッサがこたつから這い出てくる。


「ウルティア、代わるのだ!」

「はいはい」


 ウルティアの代わりに、竜王が俺の後ろに回る。


 ぎゅっ、と彼女が抱きしめてくる。


 ウルティアほどじゃないが、テッサも十分に大きい。


 しかも張りがある。


「告! ほらまた心拍数が上がってる!」

「じゃー、おまえも試せばいいのだ?」


 テッサの言葉に、ウルティアが同意するようにうなずく。


「ダーリンは女に対して免疫力が無いだけの可能性もあるだろう?」


「確かに! 私の爆乳でドキドキさせてあげますよ! どきなさい小娘!」


 ミネルヴァに言われて、テッサが隣に避ける。


 叡智の神が俺の後ろに回って、ハグする。


「どうです!?」


「なんかごりっとして固い」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」


 ミネルヴァが血の涙を流しながら地面を転がる。


 なんかこの叡智の神、最近女神が出しちゃいけない声ばっか出してない?


「愉快な仲間が増えたな、ダーリン♡」


 と、そこへ……。


『げっ、ウルティアまでいるの?』

「おお、妖精王。久しいな」


 ぱたぱた……と飛んできたのは、手のひらサイズの少女。


 妖精王ラスティローズだ。


 魔法でお盆を浮かせており、その上にはお茶とお茶請けが乗っていた。


『大魔王様! お茶をお持ちしました!』


「そりゃどーも。置いといて」


 ラスティローズがテーブルの上にお茶とお茶請けを置く。


「おー! また美味そうなものがあるのだー! これはなんだー!」


 顔をのぞかせたテッサが問うてくる。


「これは……おせんべいだ」


 この世界にも米が存在していた。

 そこで発狂している叡智の神さんに検索を駆けてもらい、自生している場所を見つけてもらった。


 あとは魔道具士ギルドの連中に稲作をやらせて米を収穫した次第。


「ばりばり……うんめぇえええええええええええええええええええ!」


 さっそく食べ出したテッサが、笑顔で叫ぶ。


「おにいちゃんこれめっちゃうめえのだ!」


「その飲み物と一緒に飲むとうまいぞ」


「ごくごく……ほぁああああああ♡ うますぎるぅうううううううう♡」


 ウルティアが湯飲みを手に取って、一口すする。


「ほぅ……これは、トテモ美味いな。お茶か?」


「そう、日本茶」


 こっちはさすがにこの世界には生えていなかった。


 だから魔法で茶葉を品種改良しまくって、それっぽいものを作ったのである。


「もはや我々魔王よりも魔法を自在に操っているな。さすがダーリンだ」


『というか、魔王を3人も束ねてる時点で、大魔王様すごいですよ』


 ……妖精王に言われて、そう言えばと気づく。


 雷獣王ウルティア。

 妖精王ラスティローズ。

 竜王テスタロッサ。


 この場には魔王がこんなにも集まっていた。

「おまえら暇なの?」


「暇ではないが……しかしここはトテモ居心地が良い……」


 ぺたん、とウルティアがこたつのテーブルの上に頭をのせる。


「やみつきになる暖かさだ……」


『アタシも失礼して……ふぉおおお~……♡ しゅごぃい……♡ とろけるぅ~……♡』


 妖精王もまた、だらしのない笑みを浮かべる。


「がー……がー……ぐぅ~……むにゃむにゃ~……ぽかぽか~……」


 テッサがよだれを垂らして、こたつの中で眠っていた。


「さすがマスター。武力ではなく、快楽で、女魔王達を手玉に取ってしまうとは」


 復活したミネルヴァが俺に言う。


「いやその言い方どうなのよ」

「しかし実際、魔王が魔王の晩餐サバト以外で集まることなどなかったようです」


「え、そうなの?」

「はい。記録に残っているなかでは、複数の魔王を従えて、支配している人物はいません。カーラーンの弟である、ダオスすらも」


 まじか……。

 え、じゃあこれって……。


「魔王が集まってるこの状況って、異常なの?」


「是。さすがマスター。女殺しの異名はだてじゃありませんね」


 もしかして胸いじったの怒ってる?

 ねえ。


「怒」


 あ、怒ってらっしゃいました……。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る