61.竜王に新たな快楽を教える(※意味深)



 俺の家にやってきた、竜王テスタロッサ。


「お兄ちゃんがワタシの探していた、新しい魔王かー!」


 ごぉ……! と彼女の体から、凄まじい量の魔力と闘気オーラが吹き荒れる。


「どひぃいいいいいいいいい! なんだなんだ嵐ですかぁあああああああああ!?」


 メイドのココをはじめとして、屋敷にやつらが身を縮める。


 まだテッサは戦うという医師を示しただけだ。


 それで、屋敷がガタガタと震えだし、少しでもつついたら壊れてしまいそうだ。


「勝負勝負ぅ!」


 ギラギラと怪しく輝くテッサの瞳には、ありありとした戦意が見て取れる。


「ぼっちゃまー! 逃げてー!」


「まあ待て待て」


 俺は心の中でミネルヴァと会話する。


 俺とテッサが戦えばどうなる?


【解。勝敗に関わらず、この星が壊れます】


 星が壊れますか……そうですか……。


 勝敗を聞いたつもりだったんだが、俺と竜王が戦うだけで、周りにかなりの被害が出るようだ。


 俺も別に戦ってもいい。

 むしろテッサの力には興味がある。


 だがこの星に住まう友達や家族に迷惑がかかるのは良くない。


 そこには、テッサだって含まれている。


【問。ではどうなさるおつもりですか】


 そんなもん、相手の戦意をそぐに決まってるだろ。


「勝負~!」

「まあ待てテッサ。おまえなんでバトルにこだわるんだ?」


「勝負に勝る快楽はないからだー!」


 ほほう……なるほどなるほど……。


「じゃあテッサ、もし勝負よりも気持ちよくなれるものがあれば、いいんだな?」


 ぴたっ……とテッサの体から吹き荒れていた、力の波動が止まる。


 よしよし、食いついてきたぞ。


「そんなものが、あるのか?」

「ああ。あるぜぇ」


 にやりと俺が笑う。


【告。マスター、えっちなことは正妻が許しませんよ】


 なんでエッチなことになるんだよ!?


【告。マスターは精通もまだなのですから。それに初めてのお相手はこの私と……】


 はいはい、違うから。


「なんなのだっ? 戦う以上の快楽とはっ!」


「美味いもん食べることに、決まってるだろ?」


 ぽかん……と竜王が口を開く。


「さっき俺の作ったデザートやコーラ。俺が死んだらもう食べられなくなるって思わなかったか?」


「うぐぐ……! ふぐぅう……! そ、それは困る……」


 テッサが頭を抱えて、考え込む。

 だが首を振って言う。


「それよりバトルのほうがいいもん!」

「はっ、甘いねえテッサ君。世の中には、もっともぉっと、美味いもんがあるんだぜ」


「なんだとぉー!?」


 大分興味が引けたようだな。


「俺が今から美味いもん作ってくる。戦うよりも、より強烈な快楽で、おまえを骨抜きにしてやるよ!」


【告。やはりマスターはエロいことするつもりじゃないですか。駄目ですよ。許しません】


 違うって言ってるだろ!


    ★


 調理場から、大広間へと戻る。

 俺は前々から仕込んでいたものを組み合わせて、【それ】を作って、持ってくる。


「ふんっ! ワタシを餌付けしとうとしても無駄なのだっ!」


 テッサが椅子にお行儀良く座ってる。


「ワタシの舌はコーラやケーキによって、肥えている! ちょっとやそっとのものでは、なびかないからなっ!」


 俺の後ろには、そば付きメイド1号のミリアが立っている。


 彼女が配膳係を申し出てきたのだ。


 まあ何があっても、ミリアなら、剣で対処できるからな。


「……お待たせしました、テスタロッサ様」


 ミリアがテーブルに皿を置いて、蓋を取る。

「なんだこれはっ! ただの、ホットサンドではないかー!」


 お皿の上には、丸パンをきって、肉を挟んだ代物がおいてある。


「こんなものでワタシが満足するとでも思っているのかー!」


 ごぉおおおおお……! と怒りの波動が嵐となって、近くに居たミリアを吹き飛ばそうとする。


 だが……。


「……お座り」


 ぺしんっ……!


「「ぶ、ぶった-!」」


 俺もミネルヴァも、ミリアの行動に目をむく。


 あの女、テッサを、竜王を殴ったぞ。


「なにするのだっ!」


 ぺしんっ。


「あうん」

「……食事の前に騒がない。マナー違反ですよ」


「うっぐぐぅ……! おまえ竜王に失礼だぞ!」

「……王のくせに、作ってくれた人に対する敬意を払わないのですか?」


「ふぎゅぅううううううううううう!」


 その様子を見てミネルヴァは戦慄する。


「すごいですマスター。まるで調教師です。ドSメイド・ミリアです」


「あいつ昔からマナーに厳しかったからなぁ」


 逆にココはめっちゃ緩かった。


「……さぁテスタロッサ様。お早くおあがりください」


「でもでもっ、ただのホットサンドだなんて……」


 俺はテッサに解説する。


「それはホットサンドじゃないぞ。ハンバーガーってんだ」


「はんぶ……はんぶんちょう……?」


「ハンバーガー。美味いからほら食ってみろって。それで満足しないなら、戦ってやるからさ」


 テッサが俺に懐疑的な目を向ける。

 だが結局、俺の戦ってやるって言葉を信じたらしい。


「はぷっ……もぐもぐ……。………………………………」


「どうだ?」


 どさっ!


「え? ど、どうした……?」


 俺もミネルヴァも、テッサに近づく。


 彼女はテーブルに突っ伏していた。


 ミネルヴァが脈を測る。


「し、死んでます」


「はぁっ!? 死んでる!? マジで!?」

 

 こくこく、とミネルヴァがうなずく。


「嘘だろ!?」

「本当です。あまりのおいしさに……死亡してます」


「そんなに!? 嘘だろ!?」

「といっても、仮死状態です。このハンバーガーがもたらす快楽が、脳神経を興奮させ、ショック症状を起こしてるのだと思われます」


「よくわからんが、治癒魔法をかけてみるか」


 魔法を施してみると……。


「はぅわっ!」


「うぉっ、びっくりした……」


 テッサがむくりと体を起こす。


「ど、どうだった?」

「し、死ぬほど美味かったのだ……!」


 実際君死んでたんですけどね。


「やばいぞ! これ……! なんだこれ! なんだ、この甘辛しょっぱいソースは!」


 ハンバーガーの噛んだところから、とろりと焦げたソースが垂れる。


「それは……照り焼きソースだ」


「照り焼き!? ソース!?」


 俺は前々から、醤油の製造に力をいれていた。


 王子という立場を利用し、世界中から米に似た作物を探させた。


 また麹も探させて、長い年月をかけて、醤油を完成させた。


 そこにくわえて、ソースやマヨネーズと言った、異世界の調味料を独自開発し……。


 完成させたのが、あの有名なマクドのてりやきバーガーなのだ!


【味の未発達な異世界人にとって、世界一食べられているハンバーガーは、まさに禁断のおいしさだったのでしょう。くわえて、マスターの料理スキルの高さも相まって、天国へ連れて行ったと】


「……さすがレオン様です」


 ぱちぱち、とミリアが拍手する。


 テッサは照り焼きバーガーをふがふがと鼻息荒くしながら食べる。


 そして失神。そして起き上がる。


「美味すぎる! こんな美味いもの! 美味すぎるもの! はじめてだっ!」


「どうだいテッサ。その味を知ってしまったら、もう他の食い物が食べれないだろう?」


「おう! この……柔らかジューシーなお肉と、極上のソースと、シャキシャキのお野菜のコンボ! これ以上に美味いものなど存在しないのだ!」


 ミリアりを持ってこさせる。


 テッサは出てきたものすべて平らげた。


「うぉおおおお! うまいぃいいいいいいいいいいいいいいい!」


「服は脱がないのですか?」


 どこの料理漫画だよ、ミネルヴァさん……。

「私もサービスシーンは必要です?」


 いやミネルヴァさんじゃサービスにならないかなぁ……。


「解せぬ」


 ひとしきり食べて満腹になった頃合いに、俺はテッサに問う。


「さて、どうする? 戦うか?」


 テッサは笑顔で、首を横に振る。


「いい! もうお兄ちゃんにこんな快楽を教えられて、どうでもよくなったから!」


 がばりとテッサが起き上がると、俺の体に抱きつく。


「なぁなぁ! もっと、もっと欲しいのだぁ~」


「猛獣の餌付け完了ですね」「……さすがレオン様です」


 ミネルヴァとミリアが感心したようにうなずく。


「マスターが幼女に新しい快楽を教えて、マスター抜きでは生きていけない体にしてしまうなんて。さすがです」


「おいやめろよ誤解招くようなことを言うの!」


「しかし私はテリヤキバーガーごときの快楽では屈しませんけどね」


 ほー。

 俺は残ってたバーガーをミネルヴァに渡す。

 もぐもぐ……。


「んほぉおおおおおおおおおおおおお♡ ぎもぢぃいいいいいいいいいいいいい♡」


 チョロすぎるんだろ叡智の神……!


 まあ何はともあれ、世界の危機を穏便に回避できたのだった。

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