60.竜王は異世界のものを大変気にいる



 俺は竜王テスタロッサこと、テッサを妹分にした。


 その日の夜。


「ふぉおおおおおおおおおおお♡ お風呂なのだぁーーーーーーーーーーー!」


 俺の屋敷の裏手。


 日本式の露天風呂が、そこには広がっている。


 全裸のテッサが、両手を広げて歓声を上げる。


「すごいぞお兄ちゃん! 風呂だ! しかもお外風呂なのだー!」


 きらきら、とした目を俺に向ける。


「入ってもいいかー?」

「体洗ってからな」


「とつにゅーーう!」

「聞けよ」


 どっぽーーーーーーーーーーーーん!


 テッサは湯船のなかから顔を出して、俺に手を振る。


「お兄ちゃん! すごいよこれ! めっちゃきもちいーいのだぁー!」


 俺は溜息をついて、椅子に座って、シャワーで体を洗う。


「告。お背中流しますよ、マスター」


「ミネルヴァ」


 青髪の美少女ミネルヴァが、俺の後ろに立っている。


 体にタオルをしっかりと巻いていた。


「悪いな」

「気になさないでください。これも正妻の役割なので」


 俺の後ろに座ると、ミネルヴァがボディソープで、俺の体を洗う。


「しかしどうして風呂にあの女がいるのでしょうか?」


「いやそれを言うならおまえもだろ」


「否。私はマスターの一部。つまり一心同体。そいうことです」


 どういうことだってばよ……?


 テッサがここに居る理由。

 彼女は俺の妹分になった。


 何日も風呂に入ってないと知った俺は、風呂を進めた。


 そしたら一緒に入ろうという流れになった次第。


「おにーちゃーん! はやくおいでなのだー!」


 湯船から立ち上がると、テッサが俺に手を振る。

 

 ばいんばいん、とテッサの大きなおっぱいが揺れる。


「アレが本物か」

「告。マスター。本物とはどういうことですか?」


 振り返ると、ミネルヴァが般若の表情で座っている。


「いや、まあ」

「告。マスター。見てください。私の豊満なバインバインを」


 タオルに包まれたミネルヴァの裸身。


 胸は大きい……が。


「それ、魔素マナで作られた偽物だろ」


 ミネルヴァは進化して、出て5分は巨乳の姿になれる。


「否。マスター。これは偽物ではありま……」


 ぷしゅぅぅううううう……と空気が抜ける音ともに、ミネルヴァの胸がへこむ。


 ぱさ……とその拍子にタオルが落ちる。


「おう……」


 真っ白な、か、壁が……目の前にあった。


 みるみるうちに、ミネルヴァの顔が真っ赤になる。


「あ、き、気にするな! その……ほら、背中を見てもさ、別になんとも思わないから!」


 じわ……とミネルヴァの目に涙がたまる。


「否ぃ~。それ、背中じゃなくて~。胸ぇ~……ふぇーん……」


 体を抱いて、しくしくと涙を流すミネルヴァ。


 あまりに絶壁過ぎて背中に見えた……。


「お。落ち着けよミネルヴァ。け、結構大きかったぞ!」


「どうせ絶壁ですから……背中ですから。背中と胸とが逆にくっついてますからぁ~……」


 へこんでしまったミネルヴァ。

 湯船からテッサがでてきて、ミネルヴァを見て言う。


「こいつは何をべそべそ泣いてるのだ?」


「胸が小さいのがコンプレックスなんだよ」


「ほぇ? 胸なんてどうでもいいじゃあないか! 飾りなのだっ!」


 びきっ! とミネルヴァの額に血管が浮かぶ。


 あかん、巨乳のおまえがそれを言うのは、あかん。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 ミネルヴァはテッサを湯船に押し倒す。


「貴様ぁああああああああ! 飾りというのなら胸を寄越せぇ! 胸寄越せぇえええええええええええええ!」


「わはははっ! 面白い女なのだー!」


 体を洗い終えた俺は湯船につかる。

 白濁としたお湯に身を沈めると、今日一日の疲れが取れる……。


「すごいなお兄ちゃん! この風呂、最高なのだっ!」


 俺の隣にテッサが座っている。


「浮いてる……だと!? おっぱいが湯船に……浮いているだと!?」


 少し離れたところにミネルヴァが入ってる。


 確かに彼女が言うとおり、テッサの胸は湯船に、まるで浮き輪みたいに浮いていた。


「お風呂を自分で作ってしまうなんて! すごいのだ! しかもここは他と違って、なんだか体がとってもかるく感じるのだー!」


「え、そうなの? ミネルヴァ?」


 ミネルヴァが声を荒らげる。


「私のおっぱい! 気合いを入れて! ほら! 浮いて! 浮きなさい! ほら、ほら、ほらぁ!」


「ムネデケーナさん?」


 ぎゅんっ、とミネルヴァが俺を見て言う。


「マスターの作ったこの温泉は、水脈をあなたが探し出して掘ったもの。その後この温泉にマスターが【獅子の湯】と名付けたことで、温泉が進化。疲労回復効果が付与されたのだと思われます」


「ええ!? 温泉に名付けも有効なの!?」


「通常は不可能です。ですが、マスターは全能者スキルを持ち、付与魔法を操れるからこそ例外的に物体に進化を促せたのです」


「よくわからないけど、お兄ちゃんすげー!」


 うーん、どうやらまた知らんうちにすげえことしてたみたいだ。


「マスター。新しい温泉を。そしてそのときには是非、【豊胸の湯】と名付けてください。24時間、365日浸かって、真のムネデケーナに進化したいのでっ!」


「はいはいそのうちなー」


「そのうちっていつですが何時何分何秒地球が何回回った頃ですか!?」


    ★


 風呂から上がった俺たち。


「おー! お兄ちゃん、このお洋服すてきだなー! 動きやすいのだー!」


 俺の部屋にて。

 浴衣を着たテッサが、笑顔で手を上げる。


「浴衣の裾からのぞく胸は実にエロいですねマスター」


 隣には、同じく浴衣を着たムネネーナさん。

「マスター? いま不名誉極まる名前で呼んでませんか?」


「そんなことないですよムネデケーナさん」


 俺は部屋の隅に置いてある【箱】の前に立つ。


「なにしてるのだ、お兄ちゃん?」


「飲みもんだよ。ほら、これやるよ」


 俺は箱から取り出した、【瓶】を、テッサに渡す。


「ひょわっ! つ、冷たい! お兄ちゃんこの瓶、めちゃくちゃ冷たいのだー!」


 仰天するテッサの手には、キンキンに冷えた瓶がにぎられている。


「どうなってるのだ!? 部屋の中はこんなに温かいのにっ! びんだけが冷たい!」


「これは、冷蔵庫のおかげだ」


 俺が作った魔道具のひとつ、冷蔵庫。


 手先の器用なドワーフのタタラ、そして魔道具師イヤミィ。


 俺たちは協力して、様々な魔道具を発明していた。


 妖精王を仲間にしたことで、動力源も確保できたからな。


「うぉー! すげー! この箱、つめてー!」


 テッサが冷蔵庫に顔をツッコんで歓声を上げる。


「ほらほら締めて。本命はそっちだから」


 俺は瓶を指出す。

 表面に結露ができていて、その向こうに黒い液体がある。


「この黒いやつなんなのだ?」


「うまいぞぉ~」


「黒い汁が美味いわけないのだ! でもお兄ちゃんが言うから飲んでみるのだっ!」


 しゅぱっ、とテッサが手刀で、瓶の口の部分を切断する。


 嫌そうやっての飲むものじゃあないんだが……ま、いっか。


「じゃいただきまーす……ごくごく……!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」


 テッサが、目を飛び出るんじゃないかってくらい、大きく見開く。


「しゅわしゅわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!」


 かっ……! とテッサがまた口からビームを出す。


「おお、料理漫画のリアクション担当みたい」


「マスター、あれは比喩表現です。この女、本当に口からビーム出してます」


 あれ、比喩じゃなかったの!?


 確かに穴空いてるぅ!?


「美味すぎるのだお、お兄ちゃん! この……しゅわしゅわって! しゅわしゅわってなんだこれ!?」


 テッサが瓶を俺に向ける。


「これは……コーラだ!」

「コーラ!?」


 元いた世界で最もポピュラーだったコーラ。

 それを可能にしたのは、俺の魔法、そして……。


「この叡智の神、ミネルヴァが、コカ●ーラ社の秘蔵のレシピを検索して、作り方を模倣したのです」


 どやぁ、とムネネーナさんが、無い胸を張る。


 悲しいくらい起伏がなく、それが逆に、浴衣に映えていた。


「すご……うぐぐっ! うますぎ! しゅわってこの……のどごし! 最高ぉおお!」


 テッサが瓶コーラを一瞬で飲み干した。


「どうだ?」

「うまーい! もういっぽぉん!」


「そうかそうか。ほら飲め飲め」

「わーい!」


 作ったものを、これだけ喜んで飲んでくれるのは、冥利に尽きるってもんだ。


 テッサは美味そうに、何本も瓶コーラを飲んでいく。


「お兄ちゃんと居れば……こんな美味いものが毎日飲んだり食べたりできるなんてっ! 妹になってせーかいだったのだー! うまうま~!」


 と、そのときだった。


『大魔王様~』

「おお、ラスティローズ」


 ぱたぱた、と妖精王が俺の元へとやってくる。


『って!? テスタロッサ!? ちょっとあんた、なんでここにいんのよ!?』


 妖精王がテッサの存在に気づく。


「ほぇ? 妖精王! おまえこそ、なんでお兄ちゃんのお部屋にいるのだっ?」


 あ、そっか。

 テッサもラスティローズも、どちらも魔王。

 顔見知りなのか。


『あたしは若き大魔王、レオンハルト様にお仕えするために、ここにいるのよっ。あんたこそ、なんでここに? 魔王の晩餐サバトのときに、レオン様倒すとか言ってたくせに』


 するとテッサが目を丸くする。


 そして……。


魔王の晩餐サバト……若き、魔王。レオンハルト……、って!? ああっ!? 思い出したー!」


 テッサが、声を張り上げる。


「ワタシが探していたの、お兄ちゃんだったーーーーーーーーーーー!」

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