59.化け物と化け物の邂逅



 俺の屋敷に、少女テスタロッサがやってきた。


「ただいまー」


「にゃ~~~~~~~~~~~ん♡」


 厨房では、酔っ払った叡智の神が、俺に抱きついてきた。


「さけくさっ! おまえ……リキュール入りケーキどんだけくったんだよ」


 厨房のテーブルには、ホールケーキが消滅していた。


 食い過ぎだろ……。


「ぬあー! ワタシも! お兄ちゃん、ワタシもケーキがたべたーい!」


「にゃーん!」


 どうやらミネルヴァもケーキが食いたい様子……。


 作ろうとするんだが、ミネルヴァが俺の体にしがみついてくる。


「おい離れろよ」


「にゃにゃ? ますたぁー? お姉さんのおっぱいに、興奮しちゃうのかにゃー?」


「おっぱいなんてねえだろ」


「にゃ~~~~~~~~~~ん♡」


 あかん……酔っ払いすぎだ。


 全くもって面倒である。

 俺は酔い覚ましの魔法をかける。


「うう……ここは?」


「目ぇさめたか? ちょっと離れてくれ」


「はい………………って! マスター!」


 くわっ、とミネルヴァが青い瞳を大きく向く。


「どうした?」

「な、なぜこの女が……ここに?」


「ん? 知ってるのか?」


 彼女が震えて見やる先には、テスタロッサ……テッサが居る。


「ま、マスター……この子は……」


 と、そのときだった。


 ばっ、とミネルヴァが屋敷の外を見やる。


「マスター。雪崩です」


「は? 雪崩?」


 こくり、とミネルヴァがうなずく。


「屋敷近くの山から、大量の雪が滑り降りてきます」


「マジか。なんとかしないとな」


 するとテッサが、俺の腕をつかむ。


「なーなー、レオンお兄ちゃん。はやくケーキ食べたいのだー!」


 ぷー、とテッサが頬を膨らませる。


「いや、それどころじゃないんだが」


「じゃあワタシが雪崩をなんとかしてくるから、その間にお兄ちゃんケーキを作ってるのだ! でゅわっ!」


 テッサはしゃがみ込むと、思い切りジャンプする。


 どがあぁあああああああん!


 ……屋敷の天井をぶち抜いて、テッサが飛んでいく。


「マスター……さっきの子なのですが、魔王です」


 ミネルヴァが真面目なトーンで言う。


 …………え?


「魔王?」


「はい。竜王テスタロッサ。ウルティアに並ぶ、強い力を持った魔王です」


「あんなか弱そうな女の子が?」


 ミネルヴァがうなずく。


「ちょっと様子見にいくか」


 ミネルヴァは俺の中にはいる。

 俺は浮遊魔法で、テッサの場所へ向かう。


 彼女は山のふもとにいた。


 彼女の周囲には、たくさんの竜達がいた。


「なんだありゃ?」

「解。氷竜フロスト・ドラゴン。Sランクモンスターです」


 無数の氷の竜達が、テッサの前に現れる。


「告。どうやらあの氷竜たちが出現したことにより、雪崩が発生したと推察されます」


 氷を司る竜達が大量に目覚め結果ってことか。


 ぎゃあぎゃあ、と竜達がわめいている。


「告。氷竜の集団発生です。繁殖期のドラゴンは気性が荒く、普段以上の攻撃性と強さを持っています。その数は……1000」


 千もの竜を前にして、テッサはたたずんでいる。

 ただ一言……。


「黙れ」


 それだけで……無数に飛んでいたドラゴンたちが、地面に……伏せる。


「この数の竜を手なずける……竜王というのは、本当のようですね」


 ひれ伏す氷竜達。


 だが……。


「おい、雪崩止まってないぞ」


 山肌から雪崩落ちてくる大量の雪が見える。

「ったく、しょうがねえなぁ」


 俺は右手を前に出す。


火球ファイアー・ボール


 俺の右手から、どどどどっ! と無数の火の玉が発生する。


 それは1つ1つが必殺の威力を秘めた攻撃だ。


 まるで流星のごとく、山肌へと飛んでいく。


 ぼしゅっ……! という蒸発音とともに……消えた。


「雪崩ごと、山ごと、下級の火魔法で消し飛ばすとは。さすがマスターですね」


「おー! お兄ちゃんもなかなかやるなぁー!」


 テッサが笑顔で俺に近づいてくる。


「雪崩を山川と消すとはやるなー! だが……ワタシもすげえんだぞ! ふんっ!」


 テッサは人差し指と中指をそろえて、くんっ、と曲げる。


 消し飛んだ山が、一瞬で地面からぼこっ、と生えた!


「おお~。やるなぁおまえ。だが……ふんっ!」


 俺も負けじと、指をくんっ、と下に曲げる。

 ぼごんっ……! という音とともに、そびえ立った山が一瞬でへこむ。


「重力魔法ですね」

「そう。妖精王から魔法を習得したんだ」


「地面に大穴を開けるほどの重力……」


「やるなぁ……! ふんっ!」


 だがすぐに大地をぼごっ、と隆起させる。


 おおお! 

 すごい地の魔法だ!

 負けないぞ!


「ふん!」「ふんっ!」「「ふぅううん!」」

 

 俺とテッサは、競い合うように魔法を見せ合う。


 俺は……うれしかった!

 魔法で、張り合える相手がいることが!


 ひとしきり俺とテッサは、魔法を見せ合いっこする。


 そして……。


「いやぁ! お兄ちゃんは凄いなぁ!」

「いやいや、テッサもすげえよ」

「いやいやいや! ワタシなどまだまだだっ!」


 すっかり俺たちは仲良くなっていた。


「お兄ちゃんは実際にすごいぞ! ワタシは竜族の血を継いでいるから、他会間法力を持つ。けどお兄ちゃんは人間だ! 人間でそこまでのレベルに達せられるなんて! お兄ちゃんは天才だ! すげえのだー!」


 竜族の血……か。


「なあミネルヴァ。やっぱこいつ竜王なのかな?」


 ミネルヴァがあきれたように溜息をつく。


「見ればわかるでしょう?」

「そりゃそうか。あんだけできればなぁ」


 竜達がひれ伏し、地殻を変動させるほどの魔法が使える。


「いやぁ、凄い人もいたもんだな。ウルティアも凄かったけど」


 ミネルヴァが、あきれたように、長く深く溜息をつく。



「マスターが一番凄いんですけど……」

「え? 俺? なんで」


「さっきテスタロッサが懇切丁寧に解説したでしょうがっ! 竜と同格の人間なんていないんですよ普通は」


 そうなのか……え、でも。


「俺がいるんじゃん」

「あなた! 異常! なんです!」


 憤慨するミネルヴァさん。

 女神カーラーンさんに力をもらってから、随分と人間らしくなったもんだ。


「なーなー、お兄ちゃん」


 くいくい、とテッサが俺の腕を引く。


「ワタシはおなかが空いたぞ!」


 にかっ、とテッサが笑う。


 こんな無邪気な子供が、魔王だなんて。

 しかも竜王かぁ。


 ま、いっか!

 こいつがそばに居れば、もっと俺は、魔法を極めることができそうだし!


「おう、じゃチーズケーキ作ってやるよ」

「チーズ!? ケーキ!? なんだそれはっ! 美味いのかっ!」


「ああ、とびっきりだ。それ食わせてやるから魔法の特訓に付き合ってくんない?」


「もちろんなのだー!」


「やったのだー!」


 俺とテッサは肩を組んで、屋敷へと戻る。


 一人残されたミネルヴァが、小さくつぶやく。


化け物マスター化け物りゅうおう。出会ってはいけない二人の邂逅は、果たして世界にどう影響を及ぼすことになるのか……」

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