第五章 世界の破壊者7歳児

57.自動車で、実家に帰る



 妖精界での一件があってから、数ヶ月が経過した。


 寮の部屋にて。


「レオン君。これで僕は失礼するよ」


 同室の金髪の美少女、シャルルークが荷物を持って言う。


「ああ、じゃあまた休み明けにな」


 今日から学校は冬休みに入る。


 2週間ほど、年末年始を挟んでの休みだ。


 この間、生徒達はみんな、実家に帰るとのこと。


「良いお年を、レオン君」


 シャルルークが部屋を出て行く。


 こんこん……。


 入れ替わるように、

 ひょこっ、と茶髪お姉さんが入ってくる。


 そば付きメイドのココだ。


「ぼっちゃまー。帰り支度できましたかー……って、全然できてないじゃないですかー!」


 部屋の中には本やら魔道具やらが散らばっている。


 ココがテキパキと掃除や片付けをする。


 さすがメイドさん、プロだな。


「ふっ……私だって掃除や片付けくらい余裕です」


 ベッドに横になっているのは、叡智神ミネルヴァさん。


 青髪の美女の姿で、顕現している。


「なぜならマスターの正妻はこの私ですからね」


「でもおまえ日常生活で正妻らしいムーヴしてなくない?」


 主に戦闘とか、魔法使うときは凄い役に立つけど。


 それ以外のときは……あんまりって印象だ。

「能ある鷹は爪を隠すのですよ」


 したり顔でミネルヴァが言う。


「はいはい、片付け終わったんで。坊ちゃま、帰りましょう!」


「ああ、そうだな。久しぶりの実家かぁ~」


「マスター? 私をお忘れですよ、マスター?」


 俺、ココ、ミネルヴァの三人は寮の外へ出る。


 建物の前には馬車がたくさんいた。

 みんなあれらに乗って実家に帰るんだろう。

「よぉ坊主じゃねえか」

「プリシラ。おまえも実家に帰るのか?」

 

 赤髪の背の高い美女が、俺元へやってくる。

 彼女はプリシラ。

 皇女さまらしい。


「おうよ。ただ馬車の予約忘れちまってよ。この時期じゃ空いてないっていわれて、困ってんだ」


 そうなの?


「解。帰省ラッシュですから、予約がいっぱいなのです」


 なるほど……転移魔法で送ってやりたいのはやまやまだが、あれは一度行ったことのある場所へしかいけない。


 プリシラの故郷には行ったことがないし……。


「あ、そうだ! ちょうどいいや。新作の魔道具使うか?」


「新作の魔道具?」


 俺はうなずいて、ミネルヴァに言う。


「ミネルヴァ。この間完成させたアレ、取り出してくれ」


 空間魔法を使って、ミネルヴァが【それ】を出す。


 彼女には魔法やスキル、そして所持品の管理も任せているのだ。


 ミネルヴァが取り出したのは……。


「おいおい、なんだいこりゃ。馬車……?」


「いや、これは【自動車】さ」


「じどーしゃ?」


 俺の目の前には、地球に居たとき、乗っていた小型の車がある。


 俺が魔道具師イヤミィ、そして天才鍛冶職人タタラとともに、共同開発した最新魔道具……。


「馬車みたいなもん。ただ馬を使わずに動くんだ」


「はぁ!? う、馬に引っ張ってもらわずに、いったいぜんたいどうやって動くんだい?」


 俺は運転席を開ける。


「こっちのペダルを踏むと前進する。こっちを踏めばとまる」


 プリシラが首をかしげて、困惑していた。


 そりゃそうか。

 異世界人からすれば、なんだこの乗り物はってなるだろう。


 そもそも乗り物って思われてないかもしれない。


「まあお手本見せるから、ちょこっとみてな」


 俺はよいしょ、と運転席に座る。


 座る……座って……。


「あ、足が届かん……」


 考えてみりゃ、今の俺の体は7歳児。


 この車は地球のものをもとにして作られている。


 子供が乗るようには、作られてない。


「やれやれ。正妻の出番と言うことですね」


 にやっ、と笑って、ミネルヴァが前に出る。

 俺は座席から降りる。


「おまえ、車の運転できるのか?」


「無論です。私を誰だと思っているのですか? 叡智の神……ミネルヴァですよ」


 この車が完成できたのは、ミネルヴァの力が大きい。


 タタラたちは優れた技術者だ。

 だいたい俺が指示したものを、高い再現度で完成させる。


 それでも、車の内部構造は、俺は知らない。

 そこでミネルヴァの知識を使い、車の中身を彼女に教えてもらって、タタラたちと完成させたのだ。


 言うなれば、この車の設計者はミネルヴァといえる。


 動かし方も完全にマスターしてて当然か。


「見せてやってくれ、ミネルヴァ」


「日常生活ではポンコツとの誹りを受けておりますが、ここぞと言うときに輝く。それが真の正妻というもの」


 ミネルヴァが車に乗り込む。


「エンジン起動……! 出発!」


 車が……動く。


「おおー!」


 ただし……バックしていた。


「おい。下がってるぞ」


「い、今のは間違いです……ギアを入れ間違えました。イージーミスです」


 ミネルヴァがあわあわ、と慌てる。


「お、おい坊主……この鉄の塊! 動いてなかったか!?」


「そう。動力はまだ魔力を必要とするけど、馬で引っ張ってもらわなくても動く馬車だよ」


「すげえ! こんなもんまで作っちまうなんて! さすが坊主!」


 ミネルヴァがこほんっ、と咳払いをする。


「今度こそ出発します。刮目せよ、私の華麗なるドライビングを」


 ミネルヴァが思い切りアクセルを……踏む!


 がぁおおおおん! と獣のうなり声のような駆動音がなる。


 ……だが、それだけだ。


「こ、故障ですね」

「おまえ、ギアが今度はニュートラルに入ってるぞ」


 いつまで経っても動かないわけだ。


「おまえほんとポンコツだな……」


「うう……面目次第もございません」


 すると、その様子をじっと端から見ていた、ココが手を上げる。


「はいはい! ぼっちゃま! アタシが! アタシが運転したいでーす!」


 ココが目をキラキラさせていた。

 どうやら車に興味があるようだ。


「ふっ。甘いですよ。あなた、人間ごときがこの叡智の結晶……ミネルヴァ号を乗りこなせると思ってるのですか?」


 ミネルヴァ号っておまえ……ネーミングセンスまでねえのか……。


「やってみなきゃわからないですよぉ!」


「そりゃそうだ。レクチャーするから」


 俺は簡単に操作を教える。

 ふんふん、とココがうなずく。


「おっけー! だいたいわかりました!」


「はん。小娘が。言っときますけど、このミネルヴァ号はじゃじゃ馬。選ばれし操縦者以外の言うことは聞かない荒くれ者。怪我したくなかった降りることですね」


 ふんっ、とミネルヴァがそっぽ向く。


 ココが運転席に座る。


「エンジン……点火! んで……ここを踏む!」


 ぶろろろ……と車が動き出す。


「なん……ですって……」

「おー、ちゃんと前に動いてる。やるじゃんココ」


 ココの運転で、車が問題なく動き出した。


 ミネルヴァは膝をつく。


「そんな……ミネルヴァ号! あなた、誰にでもほいほいと言うことを聞くビッチだったのですかぁ!」


 車にビッチって言ったやつ初めて見たぞ……。


 すいすい、とまるで手足のようにココが車を動かす。


 動力は俺があらかじめ魔力を補充していたので、魔力量の少ないココでも運転できるのだ。


 きゅっ、と車が俺の前に泊まる。


「どうですぼっちゃまー!」

「完璧だ。な、ミネルヴァ?」


 ずーん……とミネルヴァがしゃがみこんで、地面を指でいじっている。


「こんな小娘に負けるなんて……」


「まあまあ。車の設計ができたのはおまえのおかげだし、十分凄いよ」


「是。そう、私は凄い。マスターはさすがよくわかってます」


 立ち直って、ふっ、とミネルヴァが笑う。


 うん、こいつが単純な性格なのはもうわかってる。


「そんじゃ! アタシが運転して、プリシラ様を送り届けてきますね! ぼっちゃまは転移魔法で実家にお帰りください!」


「おう。悪いなココ」


 プリシラが助手席に座る。


「ありがとな、坊主。そんじゃ、また来年」


「ああ、またな」


 ココがエンジンをかける。


 ぶぉんぶぉん! とうなりを上げる。


「え? ココ。おまえ法定速度は守れよ?」


「おうけーい! いくぜひゃっはー!」


 きゅるるるるっ、とタイヤが空回りすると……。


 ぶぉおおおおおおおおおおおん! とうなりをあげながら、超高速で車がすっとんでいった。


「ひぃいえええええええええええ!」

「ひゃっはーーーーーー! どけどけぇい! ココ様のお通りじゃーーーーーーーーい!」


 白煙をあげながら、車はあっという間に見えなくなった。


「うんうん、車は問題ないようだな」


「ええ、車【は】、ですけどね。事故らないことを今はただ、祈りましょう」


 さて、ココがプリシラを送り届けてるから、俺は俺で帰るとするか。


 転移魔法を発動させると、その場から消えるのだった。

 

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