55.魔王達から注目される



 レオンが大魔王として、妖精王ラスティローズから勘違いされた……。


 それから数日が経過した。


 魔王ウルティアのもとに、巨人王シュタインが足を運んでいた。


「おや、シュタイン。どうしたの?」

「ウルティア……なんだ、あの少年は」


 シュタイン、つぎはぎだらけの顔に、黒いコートをまとっている。


 頭には大きなネジがぶっささっている。


「やつは……レオン王子は、神域級魔法を使ったぞ?」


「ほぅ……君【も】、追跡用の従魔サーバントを、彼につけていたんだね」


 従魔とはいわゆる使い魔のこと。


 主人の手足、目となる存在。


「まあな。ウルティアが注目してるようだったし」


「ふふっ……どうだ、わらわのダーリンは? 素晴らしい素質だろう?」


「素晴らしい……だって?」


 シュタインは困惑顔で言う。


「そんな生やさしい問題じゃない。ただの7歳児が、妖精王を真正面から打ち破った。その手段が、神域級魔法……規格外すぎる」


「そうよな。われら魔王であっても、神域に達するまでには長い長い修練が必要とされる」


「そうだ。それを子供が使うなんて……あえりえない。やつは人間ではない」


 シュタインからの評価を聞いて、ウルティアはうれしそうに笑う。


 己のつがいとなり得る男が、褒められ、力を認められてるからだろう。


「彼は人間だよ、間違いなくね。ただ……わらわの見立てでは、通常の人間とは異なる魂を有してる」


「超越者ってことか?」


 超越者。いつの時代にも現れる、特別な力を持ってこの世界に生まれ落ちる存在のこと。

しかり。それも、有象無象とは異なる。彼の魂には厚みがある。ほかの人間達に、魔王達にはない、厚みが」


 レオンが二度の転生を経験していること、戦乱の世を生き延びた剣聖であることを……。

 この世界で知るものは、いない。


「なるほど……おまえはそれを理解してたんだな。だから敵対しなかったと」


「ふふっ、さぁシュタイン。君はどうする?」


 すっ、とウルティアが目を細める。


「ほかの魔王達も、レオンに追跡者トレーサーを放っていた。彼の強さは、我ら8人の魔王達は見た。それをうけて……君は?」


 あれだけ強力な存在だ。

 魔王としては、矜持がゆるさぬものがでてくるだろう。


 己が最強と思っているから。


「中立を保つよ、おれは」

「ほぅ、出る杭は打たないのか?」


「逆にボコられそうなんでな」

「賢明だな。……まあもっとも、君のように物わかりの良い連中ばかりではないけどね、我ら8人の魔王たちは」


 ふと、シュタインが尋ねる。


「そういえや竜王……【テスタロッサ】はどうした?」


 以前の魔王の晩餐サバトにて、まっさきにレオンに注目したのは、竜王テスタロッサだ。


「あいつレオンと戦うとか言って……その後行方不明みたいじゃねえか」


「居場所を聞いてなかったから、どこぞで腹を空かせて倒れてるのやもしれんな」


「ありえる……しかし空腹の竜王が人里に降りたら、やばいんじゃないか」


「だろうな」


 すました顔のウルティアを見て、シュタインは何かを察する。


「おまえ……レオンと戦わせようとしてるな。よりレオンを強化するために」


 大魔王と恐れられしレオン=フォン=ゲータ=ニィガ。


 彼の最も恐ろしい力。


 それは、どんな能力でも一度見ただけで理解し、己の力とするもの。


 レオンには叡智神ミネルヴァがいる。


 彼にとって初見殺しは全く通じない。


 普段レオンの前では、面白い女とネタとして扱われているミネルヴァだが……。


 魔王達にとっての最大の驚異となっているのは、彼女の存在が大きい。


 そのことを、レオンはおろか、当のミネルヴァすら知らない。


「テスタロッサは放っておいても問題ないだろう。……問題があるとすれば、ノーマンだな」


 シュタイン、そしてウルティアも……。


 魔王の末席を汚す、8番目の魔王に警戒をしていた。


「あいつは裏で何かやってることは確かだ」


 しかし、何か、以上のことがわからない。

 だからこそ、侮れない。


「ウルティア。警戒を怠るなよ」

「そっちこそ。魔王のくせに、ほいほい人里に出るなよ」


「いや……おまえなぁ。おれが心配してやってるのに……」


「悪いが貴様が昔からわらわに懸想してることは知ってるが、心はレオンのものだからな」


「ああ、はいはい、そうですか、……チクショウ」


 シュタインはウルティアに恋心を抱いているのだが、全く相手にされず、悪態をつく。



「じゃあな、ウルティア。気をつけるんだぞ。何かあればすぐ知らせてくれ」


「ああ、わかったよ」


 シュタインはウルティアの部屋を去って行く。


「ああ、そうだ」


 彼は立ち止まって振り返る。


「なあ、ウルティア。おまえ、レオンと戦ったことがるんだろう? なら……どうして、おまえは神域級魔法を使わなかったんだ?」


 以前、本気と言うことで、ウルティアとレオンはマジバトルをしたことがある。


 その際に、ウルティアが使った最大火力の魔法は、神の雷。


 あれは、神域魔法では。


「決まっておろう。わらわの神域は……危険だからな」


「……ああ、それはそうか」

 

 シュタインもまた、ウルティアの力を理解してるからこそ納得いく。


「手を抜いたわけじゃないんだな」


「無論だ。神域抜きでの純粋な力勝負ではレオンにかなわない」


「じゃ、なんで神域を使わない? 手抜きか?」


 ウルティアは首を振る。


「違う、彼にはまだ早いと思ったのだ。わらわの神域を、受け止めるにはな」


 レオンには一度見ただけで魔法を完全に模倣・再現する力がある。


「彼のことだ。わらわの神域を見たら、必ず使おうとする。だが反動も大きい。あの子はなんだかんだまだ7歳だ。使って、反動でダメージを負い、最悪死ぬやもしれぬ」


 ゆえに、バトルで使わなかったらしい、



「……今は、どうなんだ?」


 神の力を身につけた、レオン。

 彼もあの時より格段に成長してるはず。


「まだまだ、足りんよ。だからこうして、雑魚ほかのまおうと戦わせ、力をつけさせてるのではない」


「ったく、魔王を育てる魔王とか、前代未聞だよ」


 シュタインは苦笑いをして、部屋から完全に出て行く。


 一人残されたウルティアは、実に愉快そうに笑う。


「さて、レオン。君は今回のことで、残りの魔王たちすべてから注目されることになった。今以上に……やっかいごとが増えるだろう」


 けれど、とウルティアは微笑む。


「君ならば、あらゆる困難も笑って、ぶち壊してくれるだろう。楽しみにしてるよ、レオン。君が覇道を無自覚に歩んでいる、その様を。特等席から、眺めさせて♡」

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