54.大魔王軍、大爆誕
俺は妖精界に来ている。
妖精王への謁見を済ませようとしたところ、向こうからバトルをふっかけられた。
妖精王ラスティローズとの神域級魔法の打ち合いの末に、俺は勝利を収めたのだった。
【以上。大魔王レオンによる蹂躙劇の一部始終でした】
誰が蹂躙劇やねん。
【解。眼前の荒野を見てもまだいいますか? どうみても大魔王の仕業です本当にありがとうございます】
緑豊かな森に、天をつくほどの大樹があった。
だが神域級魔法同士のぶつかりあいによって、何もない平らな大地がドコまでも広がっている。
そう、まるで、
【告。ミネルヴァの胸みたいだと一言でも発した瞬間にマスターの命が爆発四散します】
こわっ!?
そ、そんなモノリスさんの胸のことなんて一言も言ってないですよぉ。
【否。発言に悪意を検出。粛正します】
ごめんごめんて、ほらほらバインバイン。
【告。妖精王が話しかけたがっております】
機嫌直ってやんの。バインバインって叡智の神を沈める呪文であったか……。
妖精王を含めて、ほかの妖精達が、俺たちのもとへやってきる。
「悪かったな、ラスティローズ。ちょっと壊しちまってよ」
『め、めめめ、滅相もございません! 大魔王レオン様の手により、国が平たく綺麗になったと思えば!』
【告。完全にマスターに萎縮しています。あと平らって言ったこいつ消してもいいですか?】
やめて(切実に)。
ったく、どんだけコンプレックス持ってるんだよおまえ……。
「あー、うん。まあなんだ。とりあえずここを元通りにするからさ」
『も、元通りに……できるのですか?』
「おうよ。【
その瞬間、俺の背後に巨大な天使が出現。
ふっ……と吐息をつくと、荒野には草花が、そして完全に消し飛んだ、天をつく大樹が元通りになる。
「よしよし。ん? どうしたの、みんな……?」
魔法学校のAクラスみんな、そして、妖精王とその仲間達が……。
唖然とした表情で、俺を見てくる。
「れ、レオン……くん。い、今のって……?」
「え、ただの治癒魔法だけど」
治癒魔法は、俺が調べたところによると、単に怪我を治すだけの魔法じゃない。
生命力を吹き込み、再生を促す魔法。
つまり人間以外の、樹や草花にも、生命を吹き込んで、元に戻すこともできる。
魔法で消し飛んだ大地を元通りにするにも重宝するな。
【告。その使い方をするのマスターくらいだと思います】
え、うそぉ?
こんな便利なのに。
『い、いやぁ! さすが大魔王様ぁ! お見事でございますぅうううううう!』
ラスティーローズは俺の足下に座り込んで、へこへこと頭を下げる。
『部下である我らにも慈悲をお与えくださるだなんて! やはり偉大なる大魔王様は素晴らしいお方ですぅうううう!』
妖精王と仲間達も頭を下げて、同じような表情を浮かべている。
「なんかおまえ、キャラ変わってない?」
『とーんでもこざいません!』
どう思う?
【解。明らかに、大魔王を怒らせないために、こびへつらっておられます】
ですよねー。
てか、大魔王呼びが定着してるんですが……。
【是。当然かと】
なんか別の呼び方ない?
【解。破壊王。破壊者。死神。破滅帝】
なんでどれも基本壊してるの!?
【解。基本壊してるからです、マスターが】
あれぇ~?
「え、ええっと……そうだ! ところでラスティローズ。お願いしたいことがあるんだけど」
『ははー! 何なりとお申し付けくださいませぇええええええ!』
俺はAクラスの生徒達を指さす。
「こいつらと妖精を契約させて欲しいんだ」
『は………………? け、契約……ですか?』
「おう」
『…………』
「…………」
『え? それだけ?』
「うん、それだけ」
まあ本当は妖精を解剖させてとか妖精王を解剖させてとか思ってるけど、まあ初対面の人だしね。
【驚愕。マスター……遠慮を覚える】
人が遠慮しないやばい人みたいにいうのやめろ。
【草】
ラスティローズは困惑顔をしているものの、
『なるほど、わかりました……!』
と納得してくれたようだ。
そうかよかった。
「おーいみんな、交渉終わったぞー」
俺は後ろで控えていたAクラスのメンバーたちのもとへ向かう。
「交……渉?」
「レオン君、恐喝は交渉って言わないよ?」
プリシラ皇女と同室のシャルルークが、不安げに聞いてくる。
「いやいや、恐喝なんてしてないって。お願いしただけ。な?」
妖精達がぶんぶんぶん! と首を縦に勢いよく振る。
「なんつーか……不良に脅されてるみたいになってねーか?」
「ないない。さて! じゃあみんなお待たせ! 契約の時間だぞ」
クラスメイト達、そしてアズミ先生はぽかんとしている。
だが……。
「はい!」「わかりました!」「殿下が何か凄いことしたんですね!」「さすが殿下ですね~」
とあっさり状況を受け入れてくれた。
【告。みなマスターの規格外っぷりに、感覚が麻痺しているのだと】
感覚が麻痺?
え、麻痺攻撃でもうけたの? 妖精達から。
【草】
麻痺だっつってるだろ!
★
レオンからの要請を受けて、妖精王ラスティローズは困惑する。
「(人間の部下に、妖精と契約させるですって……?)」
妖精王は、レオンが連れていた彼女たちを、部下だと勘違いしていた。
実際には遠足気分で連れてきただけだが……。
常人の感覚なら、遠足でこんな人外魔境へ人を連れてこようとは思わないだろう。
「(そ、そうか……! わかったわ! 大魔王様のお考えが!)」
すでにラスティローズはレオンに対する呼び方、および接し方を大魔王にシフトしていた。
しかたない、あんな、人理を超越せし化け物の、神域級魔法を見せられたら……。
さて、ラスティローズは、レオンの考えを、こう誤解した。
「(妖精と契約させ、強力な軍隊を作るおつもりなのね……!)」
まったくもって、勘違いも甚だしい。
だが妖精王からみれば、戦力強化のために妖精と契約させる以外の答えが見当たらない。
彼自身が、あれだけ圧倒的な力を持っているのだから。
「(おそらく大魔王様は……軍事力強化をして、世界征服を企んでいるのだろう。恐ろしいおかた……)」
【告。マスター。盛大な勘違いの波動を完治しました…………ぶふぉー!】
自分で言ってて自分で笑ってる叡智の神に、レオンはあきれる。
だからこそ、この勘違いに気づけなかった。
ほどなくして、妖精達と人間達の契約はつつがなく終了。
「さんきゅー。そんじゃ」
『お待ちください、大魔王様!』
妖精王以下、妖精達がレオンの前で頭を下げる。
「どったの?」
『我ら妖精も、あなた様についてまいります!』
大魔王レオンによる世界征服がはじまるとしたら、各地で戦争になるだろう。
そうなったとき、一番安全な場所はどこか?
そう、大魔王のお膝元である。
妖精王は妖精達の命を守るため、彼について育子としたのだ。
「ふーん、別にいいよ。好きにすれば」
『ははぁー! ありがたき幸せぇ……!』
かくして妖精王は、盛大な勘違いをしたまま、レオンの配下に加わったのだった。
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