51.魔王の蹂躙(はしゃいでるだけ)



 俺は妖精界に来ている。


 妖精王に会う前に、親切な妖精騎士たちから、魔法を見せてもらった!


「いやぁ、いいもん見せてもらったなぁみんな!」


「「「そうですね、殿下!」」」


 Aクラスのメンバー達が笑顔でうなずく。


「極光綺麗でしたわ!」「妖精さんたちみんなやさしいね!」


 きゃあきゃあとはしゃぐメンバー達。


 一方で同室のシャルルーク、皇女のプリシラが頭を押さえる。


「どったんおまえら?」

「いや……うん。なんてゆーか、レオン君はすごいなって」

「規格外ってこいつのこというだろ……」


 よくわからんなぁ。

 叡智神ミネルヴァはわかる。


【解。マスターは化け物】


 わからん……。


 そんな風に歩いていると、妖精達の街へと到着した。


「わぁ! ミニチュアハウスみたいですわ~!」


 ツインドリルさんが目を輝かせる。

 建物はどれも、俺たちの腰の高さくらいしかない。


 俺が街へ入ろうとすると……。


 バチッ……!


「おお! 妖精の結界じゃーん! どれどれ強度はどんなもんかな」

 

 俺は結界に触れて、ぐっ、と指を立てる。


 バキィイイイイイイイイイイイイン!


『『『なにぃいいいいいいいい!?』』』


 街の入り口を守っていた、門番の妖精達が唖然とする。


『そんな……妖精王御自らがかけてくださった結界を!』


『こんな子供が解くなんて……!』


 なるほど硬度はまあまあだな。


 魔法無効化の結界ではあるけど、物理攻撃への対策が弱すぎる。


「今の魔法結界と、俺の持ってる結界を会わせて……ほい」


 ぽんっ、と俺は街に新しい結界をかける。


『『『えええええええええ!?』』』


 門番達が腰を抜かしていた。


『ふ、二つの異なる結界を……組み合わせただとぉ!』


「おう。わるいな、結界壊しちまって。代わりに新しいのはっておいたからよ」


 ぺたん……と妖精達がその場に尻餅をつく。

『に、逃げられない……』『とらわれた……』『おしまいだぁ~……』


 なんだか震えてる妖精達。

 寒いのかな?


【否。彼らは恐ろしいのでしょう】


 人間が来るのが珍しいから、怖がってるのかな?


【否。あなたですよ主に】


 俺ぇ? え、俺何かしちゃいました?


【是。ここへ来てから何かしてしかいません】

 

 ただ進んでるだけなんですけどねぇ。


「あらあら~。可愛い妖精さんたちですよ~」


「「「素敵ー♡ きゃー♡」」」


 クラスメイト達が妖精達に抱きつく。


 彼らは嫌がるかなーって思ったけど、おとなしくしていた。


「なんだ妖精達って結構人間に友好的だな!」


 シャルルークとプリシラがふるふると首を振る。


「レオン君……あれは違うよ」

「ああ……すべてを諦めた、捕虜の目をしてる……」


 そうかな?


【是。みな厄災と遭遇し、勝てないと判断して諦めたのでしょう。俗に言うレイプ目をしているのはそのためです】


 え、厄災? どこどこ! 会いたいー!


【告。この人はやばい】


 ひとしきり妖精達と戯れた後……。


 俺たちはさらに先へと進んでいく。


「あら~。おっきな樹ですね~」


 ほどなくすると、見上げるほどの巨木へと到着した。


【告。あそこが妖精王のいる城です。頂上に城が存在します】


 頂上って言っても、ここから結構高さがありそうだ。


 と見上げていたそのときだ。


【告。頭上より敵影が1つ。大規模な儀式魔法です】


 儀式魔法!? どこだ! 見せてくれぇ!


 上を見上げると、七色に輝く、巨大な竜がいた。


【解。極光竜。妖精達が1000人集まって、儀式を行い作られる、妖精の極光の化身。全身が消滅の力を秘めており、触れているだけで死に至ります】


    ★


 レオンが極光竜と相対している、ちょうどその頃……。


 妖精王は玉座に座り、冷や汗をかきながら……しかし、不敵に笑う。


「ふ、ふん! よくここまで来たわね魔王! でももうおしまいよ!」


 ふんぞり返って、妖精王ラスティローズは言う。


「妖精のなかでも、特に魔法の才に秀でた……優秀な宮廷魔道士たちを1000人! 集めて作った最強の魔法……極光竜! これを食らってただですむわけがないわぁ!」


 ラスティローズはレオンの恐ろしさを存分に痛感させられていた。


 妖精騎士たちを倒した後……。


「あたしの可愛い妖精達を、結界で閉じ込めて蹂躙するなんて……!」


 そう、先ほどレオン達が妖精達と戯れていた現場……。


 妖精達から見れば、結界をぶち破り、中にいた妖精達をとらえて、体をまさぐった……。

 やばい奴ら、というふうに見えていたのである。


『しかもなによ、あの硬度! あんな結界……あたしにだって張れないわよ! なんておそろしいの……あの子供魔王!』


 レオン達は単に遊んでいただけだが、妖精界からすれば恐るべき侵略行為に他ならない。

 ラスティローズは、この世界を守るため、最後の攻撃を加えることにしたのだ。


『おゆきなさい、極光竜! あの恐ろしい子供を消し飛ばすのよー!』


 だが……。


 がた……がたがた、がたがたがたがた!


 妖精王は、遠見の魔法を使って、外の様子を見ている。


 極光竜は、震えていた。


『なっ!? ……おびえてるっていうの!? あの子供に!?』


 魔法で作った竜に人格はない。


 それでも……本能で悟っているのだろう。


 敵は遙か怪物。

 挑めば……消されると。


『い、行きなさい! 倒すのです! おまえに妖精界の未来がかかってるんだからぁああああああああ!』


 妖精王の叫びが届いたのか、極光竜はレオンに向かって飛んでいく。


『竜の速度! プラス極光の体! 押しつぶされて消し飛べぇええええええ!』


 だが……。


『ほいっと』


 パシッ。


『なっ!? う、受け止めたですってぇえええええええええええええええええええ!?』


 レオンは素手で、極光竜の鼻先をつかんでいたのだ。


『あ、あああ、あり得ない! あり得るわけがない! 光のスピードよ!? それを目で追えるわけがないのに、つかむとかどうなってるの!? 光なのに!』


 肉体でつかむことは不可能。

 だからレオンは、自らの体を、魔力に変換しているのだ。


『肉体から霊体……魔力の体への位相転移!? そ、そんな化け物じみたことが……できるなんて……』


 レオンは……新しい魔王は……。


 邪悪に、笑った。


『ひぃいいいい! 逃げなさい! あたしのドラゴンちゃんぅうううううううううう!』


 だが……遅かった。


 レオンは聖剣を取り出すと、すぱっ、と剣を一閃させる。


 それだけで、極光竜の体が、バラバラになって落ちたのだ。


『………………』


 顎が外れるんじゃないかってくらい開いて、驚きをあらわにする妖精王。


『ひ、光を……斬ったぁ~? あ、あはは、あはははは! きゃはははははははっ!』


 最大の魔法を打ち破られ、妖精王はパニック状態になった。


『そうよぉ! これは夢よぉ! こんな化け物が地上に存在するわけ無いんだわ~! おーほっほっほっほ~!』


 ご乱心の妖精をよそに……。


「わぁ! すっげ……竜の体を完全に再現してるじゃん! この魔法すげええ……!」


 ウキウキるんるんと、レオンは極光竜を、まるでおもちゃのようにバラバラにする。


 かと思ったら、ぎゃくにくっつけて元通りにする。


「意思のある魔法なんて作れるんだ! どうしたらできるだろう。全能者スキルでコピーはできたけど、仕組みを理解してるわけじゃないからな~。どれどれ、完璧に理解できるまで、壊して、バラして、並べて戻して、再現性を確かめないとなぁ~!」


 嬉々として魔法の研究を行う姿は……。


「「あ、悪魔だ……」」

【否。マッドサイエンティスト】


「「「レオン殿下、かわいい~♡」」」


 ……その場にいた全員が、別の印象を抱く結果となる。


 妖精王はというと……。


『きゅー…………』


 あまりにショッキングな出来事過ぎて、その場で失神してしまうのであった。

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