50.魔王の行進(ピクニック)


 俺は妖精王に会うべく、妖精界へとやってきた。


「ふぅー……よし、いくかー……って、どうしたみんな?」


 愕然とした表情で、みんなが【荒野】を見ている。


「あ、あのね……レオン君。今の……凄い魔法、なに?」


「もしかして噂に名高い、極大魔法ってやつか?」


 シャルルークとプリシラが恐る恐る聞いてくる。


「いや、下級魔法【火球ファイアー・ボール】だぞ?」


「「か、下級魔法で……あの威力……」」


 密林を魔法の炎で焼き払ったのだ。


 叡智神ミネルヴァ曰く、幻惑の魔法がかかってるみたいだったからな。


 おっぱいをぺしゃんこにするだけの魔法じゃなかったのか。


「すごい殿下!」「さっすが殿下です!」

「これなら安心安全ですね!」


 クラスメイト達がきゃあきゃあとはしゃぐ。

「レオン殿下~。そろそろ参りましょうか~」

「そうだな、そんじゃいくぜー」


 先生が俺の隣を歩き、その後ろに生徒達がくっついてくる。


【告。まるでピクニックのようですが、ここは敵地です。油断は禁物です】


 いやいや敵地って大袈裟な。

 相手は妖精さんだぜ?


 ちっこくてかわいいくて、魔法の秘密を秘めた……未知の生物ですぜぇ……うひひ……


【告。マスター、顔が悪魔になってます】


 なんやねん顔が悪魔って。

 

 と、そのときだった。


「殿下! 見てください、上空に妖精さんがいますわ!」


 手のひらサイズの人形に、翅の生えた姿といえばいいのか。


 ウルティアの従者、ドロシーと同じく、妖精がそこにいた!


「あら~。妖精さんです~。みなさん、ご挨拶しましょうね~」


 アズミ先生が言うと、生徒達がうずく。


「「「こんにちは~。妖精さ~ん!」」」


 すると妖精は俺たちに向かって、指を向ける。


 指先から照射されたのは……。


 七色の光だ。美しい……!


【告。妖精の攻撃魔法です】


 攻撃魔法!? よし、受ける!


 俺は結界魔法を展開、

 七色の光の前に結界が広がり、攻撃を防ぐ。

『そんなバカな! 我が必殺の魔法を受けて無傷だと!?』


「あらあら~。妖精さんってば、わたしたちにこーんな綺麗な魔法で歓待してくれましたよ~」


「「「ありがとー!」」」


 アズミ先生がぽやぽやと笑う。

 生徒達が納得したようにうなずく。


「今のって本当に僕らを歓待してくれてたのかな……」


「さ、さぁな……」


 こんわくするシャルルーク達。


 叡智神ミネルヴァ、今の魔法を解析できたか!?


【解。今のは『妖精の極光』と呼ばれる光魔法です。光に触れた部分を消滅させる恐るべき攻撃魔法です】


 うおお……! すげえ魔法だ!

 つまり範囲消滅魔法だろぉ! ひゃーっすげええ!


「れ、レオン君……今のどんな魔法だったの?」


「ん? 光に触れた部分をすべて消滅させる魔法だったが? それがどうした」


「「えーーーーーーーーーーー!?」」


 シャルルークとプリシラが驚愕の表情を浮かべる。


「え? 攻撃……え!? 攻撃魔法!?」

「おいおいやべえじゃねえか! 本当に歓待されてるのかよ!」


「え、知らん……どうでもいい!」


「「どうでもいって!?」」


 そんなことより妖精の極光の分析だろうが!


 なぜただの光魔法が触れた相手の魔法を消滅させる? 原理は? どうなってるんだ? ああわからないことだらけで笑えてくるなぁ!


【告。マスター。妖精から明確な敵意を感じます。至急、臨戦態勢をとってください】


「あらあら~。妖精さんたちがいっぱいきましたよ~」


 アズミ先生が空を指さす。


 さっきのは1匹だったが、今度は10匹連れてきた!


『『『妖精の極光!』』』


 10人分の極光が俺の元へ!

 うおぉお! サンプルが! サンプルがこんなにたくさーん!


 俺は結界魔法を展開。


『バカな!?』『10人分の極光を受けてなお無傷だと!?』『なんて化け物なんだ!?』


 うーん、やっぱり近くで見ないとだめだなぁ。


【告。マスター? どこへいくのです、マスター?】


「ん。ちょっくら光浴びてくる」


「「【待って待って待ってぇ!】」」


 叡智神ミネルヴァおよびシャルルーク・プリシラが止める。


 だが俺は10人分の極光の中に、飛び込む!


 じゅぉおおおおおおおおおおおお!


「おお! すごい! これが消滅の感覚か!」


『『『えええええええええええ!? なぜ生きてるぅうううううううううう!?』』』


 俺は光に触れた部分の肌が崩れていくのを、つぶさに観察する。


 なるほど分子レベルにまで分解してるのか……!


「あ、あれ……どうなってんだい? 攻撃魔法なんだろ?」


「わ、わからない……けど、レオン君の体が、くずれるそばから治ってく……」


【解。マスターの体表にはオートで治癒魔法が付与されてます。攻撃を受けた瞬間に最高の治癒がかかる……つまり、攻撃を受けたそばから回復してるのです】


 ふむふむ……ふーむ! なるほど!

 消滅の極光のメカニズムは、だいぶわかってきたぞぉ!


 一方で……アズミ先生達は……。


「綺麗な虹ですね~」

「こんなにもたくさんの妖精さん達が、わたくしたちをお祝いしてくれてますわ!」


「「「ありがとう、妖精さん!」」」


 生徒達がきゃいきゃいはしゃぐ一方で、プリシラが頭を抱える。


「なんだこいつら勘違いしてるんだよ! 攻撃されてんだよあたしらは!」


「たぶん、レオン君が微動だにしてないからだと思う……」


「つ、つまり坊主が何食わぬ顔して攻撃魔法を受けてるから、攻撃されてるって、あいつら気づいてないのか……?」


【是】


 シャルルークとプリシラがなんかいってるけどまあいいか!


 ふふふ、妖精の魔法のサンプルがとれたぞぉ!


 やがて唐突に、極光が収まる。


「えー? なに、これで終わり~? もっと見せてよ……」


 俺は浮遊魔法で、妖精10匹の前に立つ。


「ねえもっと光魔法の仕組みをさぁ、調べたいんだよぉ、ほら、もっと討ってよねえ~」


    ★


 レオンが相対しているのは……妖精騎士団。


 それは、妖精達の中でも、特に攻撃力に優れた魔法の使い手。


 妖精界を守る、槍と盾。


 であるはずの彼らだが……目の前の化け物に、戦慄を覚えていた。


『ば、バカな……! 我らが消滅の魔法を、魔法で防いだだと!?』


『しかも生身で受けても平然としてやがる……!』


 妖精騎士達は、恐怖を覚える。


 彼らが放ったのは、古竜すら一撃で消滅させられるほどの、強大な魔法。


 だがそれを防ぐどころか、あまつさえ、直撃を受けても死んでいない!


 妖精騎士達は、一瞬で理解する。


 この子供……子供の皮を被った、化け物である!


『ひ、引くな! こんなやつを敬愛すべき妖精王様に会わせるわけにはいかない!』


『し、しかし隊長……相手は強すぎます!』


『おびえるな! 我らが本気を見せるとき……! 極光を一つに!』


 騎士達がうなずくと、右手を天にかかげる。

 10本の極光が一つにまとまる。


 それ黄金に輝く柱に変わる。


『これぞ妖精の奥義! 【極光剣】!』


「おお! いいなそれぇ! かもーん!」


 10本の極光が集った、最強の消滅の剣を前にして……。


 レオンは笑っていた。


 両手を広げて、向かい入れる体勢だ。


『触れれば存在もろとも消し飛ばす剣よ! くたばれぇえええええええええええ!』


 振り下ろされた極光の刃は……。


 ぽきーん……。


『ぽ、ぽき……ぽきん……?』


 レオンの体に、刃がぶつかった瞬間、真っ二つに折れたのだ。 


 ガラスを砕いたような音とともに、消滅する。


『な、なして……?』


「え、剣聖なら白羽取り位できるよな?」


 レオンは指を2本立てていた。


 そこに刃を挟んで受け止め、そして力を込めて折ったのである。


『も、もう一度だ!』


「こうか?」


 ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


 レオンの手から、先ほどとは比べものにならない光の柱が立つ。


『『『ほげぇええええええええええええええええええ!?』』』


 10匹の妖精が、体の中の莫大な量の魔力を束ねて作った刃の……。


 何十、何百倍もの大きさの刃が、レオンの右手から発生してるではないか。


『きょ、極光剣は……複数の精霊騎士が、長い年月をかけて、鍛練を重ねて習得する究極の奥義……それを、こんな子供が……こんな少しの間で……習得するなんて……』


 妖精騎士達は、完全に戦意を折られていた。

「いやぁ、良い魔法だなぁこれ!」


 一方でアズミ先生達は……。


「わぁ! 綺麗ですねぇ~。妖精さんたちの光のパレードですよ~」


「「「素敵ぃ~!」」」


 ……完全に、遠足気分。


 入ってきた人間達の行動が、妖精騎士達は理解できない。


 ただ、ひとつ確かなことがある。

 それは……。


『『『もう勘弁してくださいぃいいいいいいいいいいいいい!』』』


 この化け物を相手に戦ったら、命がいくつあっても、足りないと言うことだった。

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