49.妖精界へピクニック(魔王進軍)



 翌日、俺は学校の校庭にいた。


「はいはいみなさ~ん、今日から遠足にいきますよ~う」


 担任のアズミ先生が、生徒達に呼びかける。

 Aクラスのメンバー達が、身支度を調えて集まっていた。


「いや先生……遠足って……今から行くのは、危ない場所なんですけど」


 シャルルークが溜息交じりに言う。


「大丈夫ですよ~。先生が引率でついて行きますし~。それになにより、殿下がいますし~」


「先生が生徒に安全担保を任せるのもちょっと……」


 まあ大丈夫だろう。


「坊ちゃま……」

「ココ?」


 そば付きメイドのココが不安げな表情で俺の元へとやってくる。


 そっか、俺が危ない場所へ行くから心配してくれてるのだろう。


「坊ちゃまが不在の間のお給料って発生するのでしょうか?」


「おい。ついてこないのか?」


「アタシ一般人ですので。おとなしくお留守番しておきます」


 まあそれが賢明か。


「こっち居る間も給料出るように、父上には言ってあるから」


「きゃほーい! さすが坊ちゃまー! あ、これお弁当でーす」


 俺はココから弁当を預かる。

 その様子を見て、頭を押さえるようにしてシャルルークが言う。


「いや……メイドさん。今から彼は、危険地帯へいくんだよ……もっとないの? 引き留めるとか」


 ほえ、とココが首をかしげる。


「やだなぁ~。坊ちゃんがついてて危ない場所なんてあるわけないじゃないですかー。魔王をぶっ倒しちゃうような人ですよー」


 けらけら、とココが明るく笑う。

 シャルルークはあきれたように溜息をつく。

「昔からこんな感じなのかい……レオン君」


「ま、大丈夫だって。んじゃま、行ってくる」


 ぶんぶん、とココが手を振る。


 アズミ先生の周りに生徒達が集まっている。

「学園が馬車を用意してくれましたよ~」


「え、いらないよ」


 え……? とみんなが目を丸くする。


「おいおい坊主。まずは獣人の国に行くんじゃなかったのかい? 入り口がそこにあるって」


 大柄なひと、プリシラ皇女が尋ねてくる。


「妖精界との入り口は一つしか無くて、そこから出ないと出入りできないのではなかったのですの?」


 ツインドリルさんがもまた首をかしげる。


「いや、そこまでいかなくても大丈夫」


「「「????」」」


「まあ見てなって」


 俺は聖剣を取り出す。


 女神カーラーンさんからもらった、俺が100%の力で振るっても、決して壊れない最強の剣。


 俺は一度異世界に転生した際に、剣聖として、剣技を磨いた。


 その剣は二度目の今も、使える。


 叡智神ミネルヴァ、座標の特定。


【告。完了しております。視界にマーカーを設置】


 視界に【!】のマークのようなモノが浮かび上がる。


 あそこか。


 俺は聖剣を振り上げて、渾身の力を込める。

 魔法で筋力その他を上昇させ、そして、剣聖が振るってきた、最速の一撃を放つ。


「せい」


 ズバァアアアアアアアアアアアアアン!


 それは空間をねじ切るような一撃だった。


 何も空間に一筋を線が現れる。


 それが上下にざっくりと開かれると……向こうには色とりどりの花が広がる楽園があった。


「「「…………」」」


「よし、成功。んじゃいこっか」


 誰も、動けずに居る。

 その場に尻餅をついてるやつらばかりだ。


「坊ちゃますげー! 今のなになにー?」


 ココだけが目を輝かせて、俺に問うてくる。

「【虚空剣こくうけん】だよ」


「こくーけん?」


「時空間を切断する剣術。妖精界は人間界と違う次元に存在するっていうからな。なら次元の壁を切断すればつながるかなって」


 万物を切り裂くこの剣術をつかって、精霊界への入り口を、新たに作成したのだ。


「よくわっかんないけど、坊ちゃますげー!」


 いつだって何しても、すげえで片付けてくれるココが好きだよ。


【告。マスターが浮気? 正妻の前でそれはいかんともしがたい】


 はいはいバインバイン。


【問。マスターはその程度で私の機嫌が取れるとでも思ってるのですか? 妖精界のマップデータはすでにスキャン済みです。いつでも出発可能】


 さすが叡智の神。素晴らしく用意周到だ。


【どやぁ……】


 さて、準備完了。


「ほいじゃ、行きますか」


「「「お、おー……」」」


 未だに驚いているAクラスのみんなを連れて、俺は次元の裂け目をくぐり抜ける。


 クラスメイト達も後からぞろぞろとついてきた。


 裂け目がスゥ……と消える。


「お、おいこれ大丈夫なのかよ! 坊主!」


 プリシラが、閉まった入り口を見て目をむいて叫ぶ。


「大丈夫大丈夫。またズバンッと開くから」


「お、おう……そうかよ。しかし……すげえなおまえさん……」


 彼女が俺の隣にやってきて、わしゃわしゃと頭をなでる。


「そう? 普通じゃない」

「うん、普通じゃない」


 ありー?


 ま、いいや。


 そんなことより妖精を捕まえる方が先決だからな!


    ★


 レオン達が妖精界へと侵入した知らせは……。

 

 すぐに、妖精王の耳に届くこととなった。


 どこまでも続く花畑の向こうに、巨大な木が存在する。


 そのてっぺんには樹木で編まれた王の城があり、妖精王【ラスティローズ】は部下から報告を受けていた。


『はぁ? 侵入者ぁ~?』


 緋色の髪の毛と、彼岸花を模したドレスが特徴的な、妖精だ。


『はい、ラスティローズ様』

『聖域の門番は何やってるのよ?』


 聖域とは獣人国にある神聖な場所。

 そこに人間と妖精の世界をつなぐゲートがおいてあるのだ。


 当然、一般人が入れぬよう厳重に警護されているはずなのだが……。


『どうやら侵入者は、次元の壁を直接斬って、裂け目を作ったようです』


『な、なによそれ……そんなバカなこと、あり得るわけ無いでしょ……』


 妖精王は部下の戯れ言だと思っていた。


 そう、ココは神聖なる場所、彼女が作った箱庭。


 ラスティローズの許可無く、侵入することは不可能。


『バカも休み休み言いなさい』

『しかし……』


『ああもう! あり得ないわよ。……まあ、もしその話が本当でも、大丈夫よ』


 深々と、妖精王が椅子に腰をかける。


『なぜならこの妖精界は、人外の魔境。人間の世界とは比べものにならないくらいの、強力な魔物がうようよいるのだからね』


 にやりと笑うラスティローズの顔には、余裕の表情がありありと浮かんでいる。


『そいつらをどうにかできるとしたら、それこそ、魔王くらい……』


 と、そのときだった。


 ずどんっ……!


 大きな衝撃音とともに、彼女の居城が揺れ動く。


『な、なに!? 地震ぅ!?』


 玉座よりずり落ちた妖精王が周囲を見渡す。

『た、た、大変ですー!』


 別の部下が王の部屋へとやってきて、急ぎ報告する。


『も、も、モンスターの森が! け、消し飛ばされました!』


『んぁっ!? なぁんですってぇえええ!?』


 部下がその様子を、光魔法で録画し、妖精王の前に投影する。


 映し出されたそこは……。


『あ、ありえない……なに、この威力……』


 まるで隕石が落ちたかのように、まるっと消滅していた。


 更地になったそこには、1人の少年勝手板。


『ば、バカな!? 人間ですって!? しかも……子供!?』


 まだ10にもみたないような子供が、【こちらを見ている】。


 妖精の、高度な隠蔽魔法を見抜いている。


 ……魔王ウルティアの言っていたことが、思い起こされる。


『新たなる魔王は、人間のガキだって……ま、まさか……』


 震え上がる、妖精王。


 やってきたのだ。

 新たな魔王が。


 自分の椅子を獲得するために……既存の魔王を、討ち滅ぼしに……。


 と、勘違いしているのである。


『そ、総員! い、戦の準備を!』

『戦……ですか?』


 妖精達に、妖精王ラスティローズは言う。


『そうよ! 新しい魔王が攻めてきたのよ! この妖精界に!』

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