48.遠足前の日



 俺の所属するクラスメイトたちの、魔法の力をアップさせるため、妖精と契約することになった。


 妖精が住まうのは、【妖精界】と呼ばれる場所らしい。


 そこには妖精王って言うすげえ妖精がいて、その世界を管理しているらしい。


 その日の夜。寮にて。


「ふんふんふーん」


 俺は荷造りをしている。


「レオン君、お風呂出たよー」


 薄着のパジャマを着た、同室のシャルルークが出てくる。


 今は幻惑の魔法を解いている状態。

 つまるところ、パジャマの向こうにはたわわに実った果実、もとい、おっぱいが見えた。

【…………】


 おや、叡智の神さま、冷静ですね。

 巨乳死すべし、なのりだと思ってたのに。


【愚問。胸のことで一喜一憂する時代はもうおしまいです】


 ぱぁ……! と俺の右手に描かれた、使徒の紋章こと【栄光紋】が輝く。


 そこから出てきたのは、青い髪の美女……。

「こ、これは……!」


 ミネルヴァさんの胸が……ある!


「ば、バインバイン……」

「ふっ、YES、バインバイン」


 結構な大きさな胸があった。

 少なくとも、服が膨らんでいるではないか!


「どうしたんだよおまえ……」

「マスターのおかげです」


「俺?」

「マスターに【ミネルヴァ・モノリス】という、屈辱的な名前をつけられたおかげで、私は存在を進化させ、ついに手に入れたのです……おっぱいを!」


 ばーん! とミネルヴァが胸を張る。


 たゆんっ、と動いた!


「う、動いたぞ!」

「どうです、ほらほら」


 ぽいんぽいんぽいん、とミネルヴァが動く。

 そのたびに豊満なおっぱいが揺れる、揺れる、揺れる!


「やったな……ついに」

「ええ……ついに。これでもう貧乳ネタでいじられることもありません……」


 うう……とミネルヴァが目を拭っていた、そのときだ。


 ぷしゅぅう……。


「「は?」」


 ミネルヴァの胸が、しぼんでいった!


「そんな! ミネルヴァどういうことだ!」


 がくん……と膝をつくミネルヴァ。


「……どうやら、限定的な巨乳のようです」


「どういうこと!?」


「顕界……人の姿で外に出て、5分間しか、私は巨乳状態を保てないのです」


「そんな……どうして……」


「魔力でできているこの体、外に出ると大気中に魔力が霧散してしまうのです。一定量の魔力が出て行くと……しぼむ……」


 そんな……残酷すぎる。

 まさか真っ先にしぼむのが、胸からなんて!


「しかし希望は……あります」

「なんと! どんな!」


「ようするに魔力量を増やせば良いのです。マスター……私がんばります。がんばって、マスターの魔力量を増やします!」


「頑張ってくれたまえ、ミネルヴァくん! 俺も応援しているよ!」


 ……そのやりとりを、ぽかんとしながら、シャルルークが見ていた。


「えっと……お風呂出たよ。入ってきたら」

「うん。そーする」


 ささっ、と風呂に入って、さっと出てきた。

「ただいまー」

「もう、レオン君。髪びしょぬれだよ。ほら、おいで」


 ベッドに座っているシャルルークが、膝をポンポンとたたく。


 風呂上がりのシャルルーク。

 濡れたストレートの髪。真っ白な肌。そして慈愛に満ちた瞳。


 普段以上に肌はつややかで、幻惑魔法を解いた乳房は、母性を象徴させる。


 はっきり言って普段以上にエロい。


「マスター」


 その隣で、ミネルヴァが張り合うように、自分の膝をたたく。


「正妻と噂の私のお膝の上にお座りください。髪の毛を拭いてあげます」


「じゃ、シャルルーク。よろしく」


「マスター!?」


 俺はシャルルークの膝の上に乗る。

 ふわふわと柔らかい胸が後頭部に当たる。


 彼女は優しく俺の髪の毛をタオルで拭いてくれた。


 一方で動揺するミネルヴァさん。


「ななな、なぜ!? 正妻を差し置いてなぜ!?」


「おまえ固そうだからなぁ」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」


 正妻が出しちゃイケナイ声を出して、ミネルヴァが悶える。


「マスター魔法を! 世界中の女性の胸をまな板にする魔法を! 探してください!」


「んなもんねえって」


「なぜ理想を追い求めないのか!? なぜベストを尽くさないのか!?」


「はいはい。妖精界にそういう魔法があったら教えてもらうから、妖精王に……ふふふっ」


 俺は知らず、にやけてしまう。


「レオン君。楽しそう。さっきも何か楽しそうに用意してたけど」


「おう。妖精界いくのが楽しみでなぁ」


 妖精。上位精霊ともいう。

 見に見えるほど強い力を持つ精霊……!


 精霊と魔法とは密接に関わっている。

 魔力を精霊に渡して魔法を発動させるのが基本だからな!


「つまり精霊を詳しく調べれば魔法のなんたるかが、よりくわしくわかるってことだろ……くくく、楽しみじゃあないかぁ~」


「ま、マスター……天使なお顔が邪悪に染まっております」


「れ、レオン君……何する気なの……?」


 なんだかおびえている二人。


「いやいや、なぁに、ちょっとばかり……ね? ほら……実験というか、ね? 中を見せて欲しいなぁって」


「「な、中ぁ!?」」


「ほら医学の進歩に解剖が必要だったように、魔法の進歩にも……ね? 必要だと俺は思うんだよ。妖精の解剖が……」


 今から行くとこには妖精王っていう、すげええ妖精がいるんだろう?


「ならほら、ね。魔法の知識もさることながら、すんごい魔法の秘密とかを秘めてるって思うんだよね。だから見せて欲しい……ぜひとも、深いところもまで……ね? 大丈夫大丈夫、痛くないよ。治癒魔法使えるし。ね?」


「「…………」」


「え、どうしたの二人とも?」


 ミネルヴァもシャルルークも震えていた。


「ま、マスター……おいたはほどほどに」

「レオン君ほら、相手は王様だから。敬意を払わないと……ね?」


「わかってるって。経緯を持って解剖するから!」


「「あかん、何もわかってない……」」


 ふたりがげんなりとした表情でつぶやく。


「じゃあさっき用意していたのって……」


「道具」


「……何の、とは聞きませんよマスター」


「解剖道具。メスとかピンとか檻とかもろもろ」


「レオンくん相手は虫じゃないよ!? 昆虫採取感覚で扱おうとしてない!?」


 いやいや、まさかまさか……ね。


「いやぁ楽しみだな! なぁミネルヴァ、妖精界ってどこにあるの?」


 ミネルヴァはこほん、と咳払いして言う。


「正確に言えばこの世界には存在しません。次元の異なる世界にあるのです」


「異世界ってこと?」


「平たく言えばそうなります」


 妖精だけが住まう異世界か……。


「どうやって行けば良いんだ?」


「ここより東に獣人の国があります。そこには【聖域】と呼ばれる、選ばれしものしか入れない神聖な森があって、そこのなかに妖精界への入り口があります」


 シャルルークが目を丸くする。


「獣人の国って……【ネログーマ】のこと? ここからかなり遠いんじゃ……」


「是。大勢での移動となればかなりの日数を要するでしょう」


「んー……まあなんとかなるんじゃね?」


 ふたりが首をかしげる。


「どういうことですか、マスター」

「まー、そりゃ明日のお楽しみってことで。とにかくそう時間はかからないよ。妖精界……楽しみだなぁ~」


 ミネルヴァが吐息をつく。


「妖精界は人間界以上に濃い魔素……魔力の源にあふれてます。つまり人間界以上の強い魔物がいるのですよ?」


「まじか! 魔物まで。どんな魔法使うんだろう~?」


「あかん、この魔法マニア、完全に遠足気分です……」


 なんだかあきれ顔のミネルヴァ。

 一方で、シャルルークが声のトーンを落として言う。


「レオン君は……強いな。どうしたら、そんなに強くなれるんだろう」


「シャルルーク様。マスターはばけものだから強いのです。まねは出来ません」


 おいこらどういうこった。


「ううん……腕っ節の強さじゃないよ。こころが強いっていうか……。どんな困難に対しても、動じない強さってあるじゃない? 僕には……それがうらやましい……」


 シャルルークは女なのに、男のふりをして学園に入った。


 それは何か事情があってのことなのだろう。

 彼女が心の強さに憧れる理由も、そこに関わってくるのだろうか。


「ま、俺の場合はいろいろあったからさ。今こうしてるけど……昔はもっとダメダメだったよ」


「そうなの?」


 一度目、剣聖だったとき、俺はまだここに来たばかりで、結構いっぱいいっぱいだった。


「おうよ。すぐに強くなれるやつはいないさ」


「……そっか。そうだね」


 きゅっ、とシャルルークが俺を、後ろから抱きしめる。


 ふにゅっ、と大きな乳房が潰れて、気持ちが良い。


「ありがとう。少し楽になったよ」

「おう、良かったな」


 そんなふうに、夜は過ぎていったのだった……。


「まーすーたー……」


 隣を見ると、血の涙を流すミネルヴァさん……。


「やはり……胸がモノリスでは、だめなのですかぁ~?」


「いや別に。ただまあ、おっきいほうが気持ちいよね」


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛呪いあれ! すべての巨乳に! 災いあれぇえええええええええ!」


 だ、大丈夫……魔力量が増えれば、ミネルヴァさんも巨乳になれるから! 多分!


「問! 多分ってどういうこと!? 絶対! 確実性を要求します!」

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