43.同級生と決闘



 クラスに配属された初日。

 俺はクラスメイトのプリシラから決闘を挑まれた。


 この学校には魔法を練習するための訓練質がいくつもあるらしい。


 俺はそのうちの一つを、貸してもらえることになった。


「プリシラ姐さんが戦うらしいぞ!」

「焔のプリシラに挑むなんて、命知らずはだれだ!?」

「転校生らしいぞ、しかも7歳の!」


 俺のクラスメイトだけじゃなくて、ほかのギャリー達も集まりだした。


 訓練室は地球で言うところの体育館みたいなとこだ。


 二階吹き抜けになっており、客席が上にある。


「それでは~。プリシラさんと、レオン君の模擬戦を始めまーす」


 俺の担任、アズミ先生がほわほわした感じで言う。


「せ、先生……いいんですか? レオン君は転校初日ですけど?」


 クラス委員でもあるシャルルークが先生に不安げに尋ねる。


「大丈夫です~。お友達との交流は、大事ですから~」


「いやしかし相手がプリシラさんだと……いくらレオン君が強くても、手に余るんじゃあ……」


「だいじょうーぶよぉう~」


 俺はグラウンドの中央でプリシラと相対する。


「はっ! 逃げないたぁ、良い度胸じゃあねえかよ、坊主」


 プリシラ。まー、いろいろでかい女だ。


 背もでかい、胸も知りもでかい。


 バサバサした赤い髪と、ギザギザの歯が特徴的だ。


「さぁ見せてくれよ、おまえの魔法を……!」


 シャルルークの感じからしてこの女結構強いんだろう。


 エリートクラスの中でも上位の強さ、ってことはかなりの魔法力があるってことだよな!


 是非知りたいね!


「ちっ……調子狂うな……」


 俺たちの間にアズミ先生が来て、ルールを説明してくれる。


「勝負は相手が参ったって言ったら終わりですからね~。あと周りの壁は絶対壊れないようになってるんで、気にせずがんがにきましょ~」


 模擬戦を推奨してるのかな、たぶん。


【是。競い合う中で魔法を高める、というのがこの学校の理念の一つだそうです】


 まあ何はともあれ好都合だ。


「それじゃあ……行くよ、坊主!」


 プリシラが右手を横に突き出す。


 その瞬間……。


 ごぉ……! と右手から炎の刃が出現した。

【解。魔法の炎を凝縮して作られた刃です。実態を持つレベルの、高密度な炎です】


 おお! すげえ! 実体化する炎なんて聞いたことないぞ!


「行くよっ……!」


 たんっ、とプリシラが突っ込んでくる。


 おお、魔法使いなのに、前に出て戦うのか!


「せやぁ……!」


 炎の刃が俺に向かって振り下ろされる。


 俺はそれを、半身をよじって避ける。


 刃が地面に刺さった瞬間……。


 どがぁあああああああああああん!


【解。あの刃は爆発の魔法も組み込まれています。触れると爆炎が襲います】


 煙の中からプリシラが出てくる。


「くらいな……!」


 ビタッ……!


「んなっ!? アタシの刃を止めただと!?」


 彼女が大上段で放ってきた斬撃を、指でつまんで止めたのだ。


「なぜだ!? アタシの刃は物理的接触が起きた瞬間に爆発が起きるはず!?」


「うん、知ってる。だから魔力で刃を包み込んで止めたんだ」


 俺の指先に魔力を集中させる。

 魔力の鎧で指先だけをおおい、襲ってきた刃を白刃取りよろしくつまんだのだ。


 魔力は攻撃を防ぐ鎧にはなるが、実態があるわけじゃないからな。


「それにしても見事な魔法だなぁ! これが【血統魔法】ってやつか!」


 血統魔法。それは貴族など、一部の存在が代々受け継いできた、特殊な魔法のことだ。


 この世界におけるオンリーワンの魔法。


 使い手がほかにいない、からこそ、俺の興味が引かれるってものだ。


「魔法は見事だけど剣の腕はさっぱりだな。おまえ」


「や、やかましい……!」


 プリシラが連撃を放つ。

 刃が通った後に、炎の塊が飛んでくる!


「すげえな! 剣で攻撃しながら魔法までついてくるのか! おおすげえすげえ!」


 ひょいひょいひょいひょい。


「てめえは! 一歩もその場から動かずなぜよけれるんだよ!」


「いや、相手の攻撃を予測してるからだが?」


「特殊なスキルか魔法か!?」


「え、ただの経験則だが?」


 俺は剣聖だった時期がある。


 剣での戦いにおいて、相手の次の手を予測するのは非常に重要だ。


 相手の目線、筋肉の動き、そのほか色んな外部からの情報を元に、次の攻撃を予測するのがくせになってるんだよね。


「この! くらえっ!」


 ぶんぶんぶんっ!


 すかすかすかすかっ!


「ぜんっぜんあたらねえ……!」


 プリシラがぜえはあ……と肩で息をし出す。

「あのプリシラ姐さんが一方的にやられてる!?」

「すげえ! なんだあの7歳児!」


 ひとしきり魔法を観察し、使い方を学ぶ。


「くっ! このぉ!」

「こんな感じか」


 俺の手に炎が宿り、そこから刃が出現する。

 がきぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいん!


「ば、バカな!? 【紅蓮魔剣】!?」


 紅蓮魔剣ってのが、プリシラの血統魔法らしい。


「あ、あり得ない!? 血統魔法は、その一族、一子相伝の魔法! それをどうして!?」


【解。全能者のスキルを持つマスターは、すべての魔法を習得でき、再現可能なのです】


 実体化する炎の刃、紅蓮魔剣を手に入れた。

「そんでもって、こうするんだろ!」


 俺は剣を一振りする。


 周囲に無数の炎の塊が展開する。


 ドバッ……!


 どががががががががががががっ!


「おお、魔力を消費せず、ほぼ無限に【火球ファイアー・ボールレベルの炎を飛ばせるのか! すげえな紅蓮魔剣!」


【告。マスター、ステイ】


 ん? どうした、叡智神ミネルヴァ……?


 プリシラが、尻餅をついている。

 客席のクラスメイト達もまた、呆然としていた。


「え、俺何かやっちゃった?」


【告。見事な無自無双っぷりでした。私は感激しております】


 平坦な口調でどうもありがとう。


「な、なんだよ今の……」


 プリシラが声を震わせながら問うてくる。


「同じ魔法で……ここまで威力が違うのかよ……」


【解。同じ術であろうと、術者の技量によって威力は変わります。マスターのほうが、プリシラよりも魔法使いとしてのレベルが高かったということです】


 ぎり……とプリシラが歯がみする。


「アタシは、こんなガキに負けるわけにはいかないんだ!」


 その目には医師の炎が宿る。


「こうなったら……奥の手を使わせてもらう!」


「ほぅ! 奥の手! その魔法に、まだほかの使い方があるのか!」


 炎の物質化以上の効果を見せてくれ!


 プリシラは魔剣を手に持って、自らの心臓に突き刺す。


 ずぶぶ……と刃がプリシラの心臓に埋め込まれていく。


「う、ぐ、ぐがぁあああああああああああああああああああああああ!」


 ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!


【告。プリシラの体が精霊化しております】


 精霊化?


【解。特殊な条件を満たし霊的な存在へとランクアップすることです】


 ようするにプリシラは、あの魔法で精霊になったってわけか!


【告。プリシラは炎の精霊イフリートにその体を捧げました。肉体を失う代償に、イフリートをこの世に顕現したようです】


「おお! すげえな! あの魔剣、使い手を精霊にできるのかよー! すげえ!」


【告。いやリアクション……あの女は肉体を失って、暴走状態にあるのですよ?】


 炎の精霊となったプリシラの周囲に、凄まじい熱波が襲う。


「訓練失を守る結界が! 溶けてる! レオン君! プリシラさん! もうやめるんだ!」


「GUROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」


 プリシラは炎の魔人へと変貌し、俺に相対する。


 そのスピードは人間の者を超えていた。


 瞬きした瞬間、灼熱の魔手が襲いかかってくる。


 どががががががっ!


 炎の拳による連撃。


【告。触れるだけで数千度の熱を発生させます。まともに受けたら体組織が炭化してボロボロになります】


「ははっ! すげえなぁ!」


【告。いや、なんで無事なのですか……?】


 叡智の神が驚愕してる。


【解。組織が炭化する速度を、上回る速度で治癒魔法を自らに施してるのです。……す、凄すぎる……】


 自分で解説して、自分で驚く叡智神ミネルヴァ


【くだばれぇえええええええええええええええええええ!】


 イフリートが両腕を天にかかげる。


 小型の太陽と錯覚する、炎の塊が出来上がる。


【しねぇえええええええええええ!】


 俺に向かって、小型の太陽が振り下ろされる。


「ありがとう! おかげでイイ魔法が見れたよ!」


 俺は女神カーラーンからもらった、聖剣を空間魔法で取り出す。


 ぱんっ……!


 剣を振り下ろすと同時に、炎の塊が消える。

【な、にが……おきて……?】


「斬っただけだよ。何千何万回と」


【こ、小型とはいえ……太陽を斬ったのか……す、凄すぎる……】


 イフリートとなったプリシラが、その場にへたり込む。


 俺は彼女の元へと向かう。


「ナイス魔法! すっげー良かったぜ!」


【はは……バカだな……アタシ……こんな化け物に勝負を挑んで……自分を失うなんて……】


 失意の表情でプリシラが語る。


【アタシは……魔剣にその身を捧げた。アタシは、もう二度と人間には戻れない】


「いや大丈夫だろ。ほい、魔封じ」


 とん……と俺はプリシラの額をつつく。


 その瞬間……炎の体が、ガラスを割ったみたいに砕け散った。


 そこにいたのは……全裸のプリシラだ。


「うそ……アタシ、もう二度と人間に戻れないはずだったのに……」


「魔封じで体内の紅蓮魔剣の暴走を封じただけだよ。これで精霊になることはない。よかったな!」


 プリシラが涙を流して、うつむく。


「ご、ごめんなさい……」


 ぐすぐす、とプリシラがむせび泣く。


「あ、アタシの……負けですぅ~……」


 アズミ先生がとととっ、と近づいてくると、プリシラに毛布をかぶせる。


「勝者、レオンくーん!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る