40.先生とクラス委員長



 俺は魔法学校に入学することになった。


 校長である、ハートフィリアさんの部屋にて。


「本当に君は規格外ね、レオン」


 窓際の席に座っているハートフィリア叔母さんが、はぁ……とため息をつく。


「やー、申し訳ない。つい熱くなってしまって」


 ガーゴイルの構造は理解した。

 あとで再現してみよう……!


【問。反省の色が見られないのですが?】


 はぁ……やれやれ、と叡智神ミネルヴァが溜息をつく。


 いやほんと反省してるって。半世紀くらい反省しようかなって。


【ふっ……半世紀と反省をかけたダジャレですか……】


 あれ? これくらいじゃ、笑わなくなったか。


【是。私もマスターに仕えて7年。マスターのダジャレにも耐性がフブゥーーーーーーーーーーーーーーー!】


 どうやら強がってたみたいだ。


「さて、レオン君。君は今日から我が校の一員になるわけです。所属する学年とクラスなのですが」


 と、そのときだった。


「失礼します~」「失礼しますっ」


 扉をくぐってやってきたのは、長身のお姉さんと、金髪の美少年だ。


「アズミ先生。それに、シャルルくん。よく来てくれましたね」


 青い色の髪の、綺麗な女性がアズミ先生。


 んで、金髪のイケメンが生徒のシャルルくんか。


「こんにちは、ぼく、シャルルーク=フォン=マイルズ。1-Aのクラス委員長やってますっ。よろしくね!」


 シャルルークは、割合身長が低い。

 男にしては華奢だ。


 男の割に長く、つややかな髪の毛。


 うなじでまとめて、ブレザーの中にしまっている。


「あらあら~。かわいらしい生徒さんですね~」


 身長の高い巨乳のお姉さんが、俺を見てニコニコと笑う。


 なんかもうずっと笑ってるみたいで、目が狐みたいだ。


「はじめまして、アズミ・サウラーです~。君が所属する、1-Aの担任です~。よろしくね~」


 じーっ、とアズミ先生が俺のことを見ている。


「な、なに?」

「あら~♡ かわいいなぁ~って♡」


 アズミ先生が俺のことを正面からハグする。


 どぷんっ、と胸が揺れて、俺の頭の上にのせられる。


 す、スライムが……!


【否。それは女性の胸部であって、スライムではありません】


 せ、洗濯板さん!


【告。マスター? 洗濯板とはなんですか? え、もしかしてミネルヴァの胸部のことですか? え? 違いますよね? は? もっとありますけど?】


 ぎゅうぎゅう、とアズミ先生がハグしている。


 脳裏ではミネルヴァが切れ散らかしてるし……。


「先生、レオンハルト殿下が苦しそうです」


「あら~。ごめんなさい~」


 シャルルークが俺を助けてくれた。


「ありがとう……!」

「いえっ、殿下。無事で良かったです」


 良い子だなぁ。


 ハートフィリアさんがうなずいて続ける。


「レオン、君には1-A組に所属してもらいます。A組は、エリートクラス……つまり、学年成績トップの実力者がそろってます」


「へぇ! トップの魔法使いかっ! 楽しみ~!」


 どんな魔法使うんだろうかっ。


「貴族のご子息ご令嬢も多く居ます。レオン……彼らはまだ広い世界を知りません。ですから……くれぐれも、刺激を与えすぎないように、いいですね?」


 刺激ってなんだろうか……?

 俺何かやったかな?


【是。入り口のガーゴイルを破壊しました】


 いやいや、破壊じゃなくて、研究目的のための分解。


【告。マスターの言動は少々刺激が強いと思われます。貴族の子供達は井の中の蛙が多いため、マスターの何気ないやらかしでショックを受ける可能性があるかと、ハートフィリアは危惧しているのです】


 井の中の蛙……か。

 ……つまり、カエルである彼らが、俺のせいで、自信を失って、家に帰る危険性があると?


【ぶふぅうううううううううううう! か、カエルが家に、か、か、カエルぅううううううううううううう!】


 あれ沸点がまた戻ってる……。


「まあよくわからんが、了解した。おとなしくしてるよ」


 ハートフィリアさんがうなずく。


「それを聞いて安心しました。さて、では今日から学生となります。ここでは寮生活を送ってもらいます」


「学生寮か。なんか学生っぽいな」


「レオンにはシャルルーク君と同室になってもらいます」


 彼が笑顔でうなずき、俺に手を伸ばす。


「よろしくお願いします、殿下」

「おう、よろしく。というか、殿下はやめてよ。俺の方が年下だし」


「じゃあレオン君、よろしく。ぼくもシャルルークでいいですよ」


「おっけー、シャルルーク」


 ぎゅっ、と俺たちは手をにぎる。


 ……ん?

 あれ……近くで見ると……こいつ。


「なあハートフィリアさん」

「なんですか?」


 俺は【彼】を指さして、言う。


「俺ってシャルルークと同じ部屋で良いのか?」


 アズミ先生も、ハートフィリアさんも、首をかしげる。


 シャルルークまた、困惑していた。


「どういうことですか、レオン? 何か彼に不都合でも?」


 彼? 彼って言うか……。


「え、だってこいつ、女じゃん」


 その場に居いた、アズミ先生も、ハートフィリアさんも、首をかしげる。


 ……だが、シャルルだけが、なぜか青い顔をしていた。


「何を言ってるのですか、レオン。シャルルーク=フォン=マイルズ君は、マイルズ公爵のご令息ですよ」


「そうですよ~。彼は、イケメンさんです~」


 え、校長も先生も、何言ってるんだ?


「いやいや、どう見たって女じゃん。なぁ?」


「あ……え……な、んで……?」


 シャルルークが何か知らんが、おびえている?


「なんでって、骨格を見ればわかるじゃん。男か女かくらい」


 剣術の達人ともなれば、相手の次の動作を予測する際、まず相手の筋肉や骨の動きを見る。


 人体の構造上、動きって言うのは筋肉や骨を絶対に起点にしてるからな。


 だから俺は相手の筋肉や骨格を見るくせがついている。


 骨盤の形見れば、こいつが女だって一発でわかる、よな?


【否。それがわかるのは変態であるマスターだけかと】


 ひでえ!


「ち、ちが……ぼ、ぼくは……男だよ」


 きゅっ、とシャルルークが唇をかみしめる。


 女なのに、男のふりをしている……。


 訳ありってことか。

 悪いことしたな。


「あー、うん。今のなしで」


「「は……?」」


 俺は腕でバッテンを作る。


「いや、でも……」「あら~……」


 俺は指をパチン、とならす。


「シャルルークは男だ。だよな?」


 ハートフィリアさん達が、うつろな目になる。


「そう……シャルルークは……男……」

「男……男……」


 もう一度指を鳴らす。


 はっ、と二人が目を覚ます。


「何を言ってるのですか、レオン。彼は男の子ですよ」


「そうですよ~。男の子です~」


 よしよし、信じてるようだな。


「え、え? れ、レオン君……今、なにを?」


 わかってないのは、魔法がかかってないシャルルークだけだ。


「精神に作用する魔法……まあようするに催眠魔法だ。少しの間の記憶を書き換えた。……すまんな、よく事情も知らずに勝手にばらしちゃって」


 彼女は首を振る。


「……ううん、ありがとうございます、レオン君」


「いやいや、どういたしまして」


 どういう事情かしらんが、男と偽っている以上、男として接しないとな。


「それではレオン、今日は休んで、明日からの授業に備えてください。シャルル君は、レオンを学生寮まで案内してあげてください」


「は、はいっ!」


 俺はシャルルークと一緒に校長の部屋を出る。


 アズミ先生は手を振って「ではまた~」と去って行った。


 ふぅ……と彼女が息をつく。


「じゃ、部屋まで案内よろしく」

「わかりました。ついてきてください」


 俺はシャルルークとともに校内を歩く。


 その間、女生徒と結構すれ違ったのだが。


「みてみてっ、金色の王子様と、かわいい子が一緒に歩いてるわ!」


「本当だ! すごい……イケメンツーショットだわ!」


「きゃー! 王子様~!」


 女生徒はみな、黄色い声をあげる。


 どうやらみんな、こいつを男だと思っているらしい。


「人気者だなぁ」

「あ、あはは……困っちゃうし、申し訳ないですけどね」


「そりゃそうだ」


 憧れの王子様が実は女だったなんてな。

 だますようなまねをしているわけだし。


「……ねえ、レオン君」


 人気が少なくなったところで、シャルルークが小さくつぶやく。


「……どうして、何も追求してこないのですか?」


 性格の良いやつっぽいシャルルのことだ、性別を偽るには何か理由があるんだろう。


「まー、それぞれ人には言えない事情ってあるだろ?」


 俺も転生者って事情があるわけだし。


「そっか……うん。さすが殿下、広い心をお持ちなのですね。尊敬です」


 シャルルークが腰を折って俺に言う。


「いえいえ。あとさ、殿下やめてって言ったじゃん」


「わわっ、ご、ごめん……あ、ごめんなさい!」


「いやいや。敬語もいいよ。俺たち友達だろ?」


 にゅっ、と俺がシャルルに手を伸ばす。


 彼女は目を丸くして、ふっ……と微笑む。


「君は、本当にいいやつだね、レオン君」


 きゅっ、と俺たちは手をにぎりあう。


 こうして、初日にして、秘密を共有する友達ができたのだった。

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