36.化け物に魔法を習って嫁が魔法習得



 俺のもとに嫁2名が遊びに来ている。


 俺たちは場所を庭から、魔道具ギルド【金色の翼獅子】のなかへと移動。


「んなっ!? なぁによこれぇえ……!」


 赤髪の婚約者デニスが【それ】を見て叫ぶ。


「どうかしたか?」


「なによこのお城! 空に浮いてるじゃないのよ!?」


 俺たちがいるのは、空に浮く巨大な城。


 といっても、別に本物でない。


「落ち着け。ここは俺が作った魔道具【精神と時の城】だ」


「精神と、時の……城?」

「どういう魔道具なのですか、レオン様?」


 蛇姫ことハクアが聞いてくる。


「この魔道具、元々は瓶に入った城なんだよ。でも瓶の中は異空間になっている。この特殊な空間の中では、時間の流れが異なる」


「時間の流れが異なる……?」


 ピンときてないのか、デニスの従者・獣人のゼストが、首をかしげる。


「そう。この城のなかでの1年が、外での1日になってる」


「はぁ!? なによそれ! 凄すぎじゃないのよ!」


「ああ、ここでなら無限に修行ができる……!」


 デニスが驚き、ゼストが興奮気味に言う。


 だがハクアが手を上げる。


「あの……そうなると肉体はどうなるんでしょうか? ここであんまり長居するとどんどんと歳とってしまうような……」


 ハクアは鋭い質問をしてくる。


「問題ないよ。あくまでも、この城のなかには、俺たちの精神が入ってるだけだから」


「はぁ? どういう意味よ」


 叡智神ミネルヴァよろしく。


【解。人間の魂のみを抽出し、この魔法空間に入れるのです。元の肉体は年を取らず、精神だけの時間経過が可能となるのです】


 俺は叡智神ミネルヴァの言葉をそのまま伝える。

 

 彼女がスキル状態のときは、俺にしか基本声が聞こえないんだ。


「はぁ? なおさら意味分からないわよ。説明下手くそね」


【イラッ……!】


 ああ、叡智神ミネルヴァがいらついてる!


 お、落ち着いて……相手は子供。あなたは叡智の神。


【是。わたしは叡智の神。子供ごときに腹を立てません】


 良かった、怒ってない。


【問。この失礼なガキに極大魔法・煉獄業火球ノヴァ・ストライクをたたき込んでもいいですか?】


 前言撤回めっちゃ怒ってる!


 だめに決まってんだろ!


 それを聞いていたハクアが、なるほど……とうなずく。


「わたしたちのこの体は、精神体。つまり、幽霊みたいなものなんです。幽霊って年を取らないでしょう? だから、精神体でいればいくらここにいても年を取らない、ってことです」


「な、なるほどっ。わかりやすいわね、あんた。さっきの説明より遙かに」


【むかーっ!】


 ああ、叡智神ミネルヴァがキレてるー!


【問! マスター! 殲滅許可を! 今すぐこのメスガキに極大魔法を2兆回くらいたたき込んでやります!】


 す、ステイステイ。叡智神ミネルヴァステイ。


【否! わたしは犬ではありません!】


 おお、叡智神ミネルヴァが犬ではないと否定していぬ。


【ぶふぅー!】


 良かったこんな小学生でも笑わないギャグで、笑ってくれる叡智の神で……。


「ま、まあようするにこんなかじゃ年も取らない、いくらでも魔法の修行ができるんだよ」


 もっともここは精神体で活動するため、パワーやスピードがつくわけじゃないけどな(精神体であり肉体を鍛えられないから)


 でも魔法は精神力に依存してるため、ここでならいくらでも魔法が鍛えられるってわけだ!


【告。この空間をマスターの変態部屋と名付けるのはどうでしょう】


 変態部屋ってなんだよ!?

 ちょっと魔法にうちこで、100年とか経ってたことあるけどさ!


「ま、まあ前置き長くなったけど、魔法の練習を始めようか」


「「はいっ!」」


 天空城の見事な庭のなかへと、俺たちは移動。

 

 獣人ゼストは、魔力を強化するため、一時的に子供の姿になっている。


「んじゃまあ基本的な修行……魔力を伸ばす訓練をするか」


「たしか……魔力を使えば魔力総量が増えるのでしたね?」


 ハクアの問いかけに、俺はうなずく。


「ああ。だからとりあえず簡単な魔法を打って、魔力を消費しようか。【火球ファイアー・ボール】」


 俺の右手から、10メートルくらいの火の玉が出現。


「んなっ!? なによそれぇええええ!?」


 俺は空へ向かって魔法を放つ。


 恐ろしいスピードでとんでいき、空間を隔てる壁と激突。


 どがぁあああああああああああああああああああああああん!


 爆風でぐらぐら……と城が揺れる。


「とまあ、軽くこんな感じ」


「いやいやいや! ちょっと待ちなさいよぉお!」


 デニスが俺にくってかかる。


「あんた! 今の何!? 極大魔法!?」


 極大魔法。

 魔法を極めたもののみが使える、最強の攻撃魔法のことだ。


「え、極大魔法じゃないぞ。ただ、火球だ」


「下級魔法があんななわけないでしょ! おかしいわよ!」


「え、おかしいって……威力が弱すぎってことか?」


「強すぎるのよぉおおおおおおおお! ばかああああああ!」


 なんか知らんが怒ってしまった……。


 魔王ウルティアだって、火球ひとつで大地をまるごと消せるんだぞ?


【否。マスターの基準が魔王じぶん魔王ウルティアしかいないので、バグってます】


 え、そうかなぁ……。


「それに、レオン様。先ほどの魔法ですが、呪文を詠唱なさっていませんでした?」


「そうよ! 魔法って言えば呪文がなきゃ発動しないものなんでしょ?」


「ああ、それくらいならワタシも知ってるな」


 あれ? そうなの?


【是。この世界での一般的な魔法は、魔力を消費し、呪文を詠唱する、と定義されております】


「え、でも呪文なんて使わずとも魔法使えるよな?」


【是】


「はぁ? そんな嘘、誰も信じないわよ」


【叡智神の言葉を疑うなんて……やはり燃やすか】


 いけません、叡智神ミネルヴァさん! あなたは叡智の神なのよ!


 話を聞いていたゼストが、首をかしげながら言う。


「レオン殿下。呪文を使わないで、どのように魔法を使うのだ?」


「イメージだよ」


「「「イメージ……?」」」


 そうそう。


「魔法に重要なのは、いかにその魔法を、頭の中でイメージできるかだと思うんだ」


 たとえば火球。


 これは火の玉を飛ばす魔法だ。


 もちろん火球の呪文を使えば、別に頭の中で魔法の形、効果をイメージせずとも、使える。


 だからある意味楽ではある。


 だがこれには画一的な魔法しか使えない、というデメリットがある。


「なるほど。呪文は、唱えれば誰でも使えるけれど、一定の威力や効果しか出せないということですね」


 ハクアはとても飲み込みが早いな。


「逆に、頭の中で魔法がイメージできるのなら、呪文はいらないし。それに威力や射程も自在に変えられるんだよ」


 それが無詠唱魔法の正体だ。


 俺の持つ全能者スキル。

 これは正確には、俺が一度見たり触れたりするだけで、その魔法の完璧なイメージが頭の中に入ってくる、そして一分の狂いもなく再現できるってスキルだった。


「え、でもその理論だと、魔法をイメージできれば、どんな魔法も使えるってことじゃないの?」


「理論上はな。ただ人間の魔力には性質ってもんが存在するんだよ」


「魔力の……性質?」


 デニスがわかってないらしく、首をひねる。


「まー……説明は省くけど、得意な魔法苦手な魔法ってのが、人間に必ず存在するって訳」


「ふーん……あんたは何が苦手なの?」


「え、苦手はない」


「ああそうね! 人間じゃないものね! わかってたけど!」


 いや人間ですけど……ねえ?


【黙秘】


 いや肯定してよ叡智神ミネルヴァ!?


「なるほど……殿下。イメージと魔力さえあれば、ワタシも無詠唱魔法が使えるのですね」


「そういうこと。じゃあ軽く火球からやってみるか。目を閉じて、頭の中で火の玉をイメージして」


 ゼストとハクアが……そして、なぜかデニスも目を閉じる。


「あれ、おまえやらないんじゃなかったの?」

「き、気が変わったのよ! 別に……うらやましくなったわけじゃないんだからね!」


 どう思う叡智神ミネルヴァ


【是。ツンデレでしょう】


 だよなー。

 なんだよかわいらしいじゃんな。


【告。べ、別にあんたのことなんか全然好きじゃないんだからね】


 どうした急に叡智神ミネルヴァ!?

 ついにバグった……あ、いつも通りか。


【怒】


 俺が叡智神ミネルヴァといちゃついてると、女子ズの精神統一が完了したらしい。


「よしじゃあ手を出して。頭の中の火の玉を、外に出す感じ」


 ハクアがこくりとうなずくと……。


 ぼっ……!


「で、できましたっ!」


 見事に、ハクアの手からこぶし大の炎が飛び出た。


 しかも結構早い!

 どがんっ! と音を立てて、城の床を破壊する。


「やるじゃん! 天才だよ!」

「ありがとうございます! レオン様の教え方がいいからです! さすがレオン様!」


 次に……ゼストが手を伸ばす。


 ぽひ……


「お、おお! 出た! 殿下! 出たぞ!」


 指先くらいの蛍火だけれど、きちんと火の玉が出た。


「すごい……魔法だ……ワタシが、魔法を使えるなんて……」


 ずしゃっ、とゼストが膝をついて、涙を流す。


「ありがとう……殿下……」


「お、大げさじゃない……?」


 ふるふる、とゼストが首を振る。


「獣人で、魔法を使えるものは、聞いたことがありませぬ。殿下……ありがとう、あなたの、おかげです」


 おおげさだなぁ……。


「それでー……」


 俺たちの視線が、デニスに集まる。


「ふぬ! くぬ! ぐぎぎぎぃ~!」


 デニスがいくら踏ん張っても、魔法の火が発生してない。


「ぜえ……はぁ……はぁ……」

「うーん、出ないなぁ」


「む、難しいわねこれ……」

 

【告。集中力が足りない証拠かと。せっかちな性格みたいですし】


 なるほどなぁ……。


「視覚でのイメージが足りないのかもな!」


「え? ちょっと……?」


 俺は両手を広げる。


「火球……1億連」


「いちお……えええええ!?」


 俺の背後に、炎の玉が、無数に出現。


 一億の火の玉が……。


「ほーら、よく見ておけよー! せい!」


 どがががががががああああああああああああああああああああああああん!


「ひぎゃぁあああああああああああああああ!」


 火の玉が流星群のごとく飛び散る。


 結界魔法を張っておいたので、嫁達は無事だった。


「どうだぁ! 目に焼き付いたかぁ!」


「ああもう! 十分すぎるほどついわよぉ!」


 その後、デニスは火球が無詠唱でできるようになったのだった。


「そりゃあんな地獄みたいな目にあったらね!」

 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


モチベになりますので、


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