35.嫁に魔法をレクチャー
俺の屋敷に、婚約者【たち】がやってきていた。
「れ、レオン様……こんにちは」
「おっす、ハクア。遠くなかったか?」
白髪の美少女、ハクアが、屋敷の庭へとやってくる。
「はい。かなり遠かったです。でも、愛しいレオン様に会うために、がまんしましたっ」
ハクアがえへへ、と笑う。
うーむ、かわいいな。
【問。ロリコン?】
違う違う、相手は7歳だぜ? 恋するわけないだろ。
かわいいっているのは、孫を見る気持ちっていうの? そんな感じ。
【是。マスターは魔法にしか発情できない魔法フェチでしたものね。愚問でした】
そんな特殊性癖はない。
「ふん、あんたも来たのね」
デニスが腕を組んで、ふんぞり返る。
さっき従者がコテンパンにやられたショックはどこへやら、偉そうにしていた。
「は、はい……ごきげんよう、デニス様」
ハクアがスカートをつまんでペコッと頭を下げる。
おお、王女っぽい。
「おまえも挨拶しろよ、デニス」
「はぁ? なんでアタシが、東の果ての田舎者に挨拶しなきゃ【こんにちは、ハクアさん♡】」
「え……?」
ぽかーん……とハクアが口を開く。
一方でデニスが目をむいて叫ぶ。
「なっ!? 何よ、今の!? 魔法っ?」
デニスが俺を見て叫ぶ。
「いや、魔法じゃないよ。魔法だけど」
「どっちなのよ!?」
「正確に言えば、俺の声が魔法になったって言えば良いかな」
解説者さんよろしく。
【否。わたしは
あー、そっかー。じゃあ解説は自分でしちゃおっかなー。
【解。マスターレベルの高位の魔法使いともなると、声や動作に、魔力が自然と乗ります。高い魔力を秘めた言葉は、
長い、簡単に。
【解。マスターは凄いので、しゃべるだけで、魔法抵抗力の弱い人に言うことを強制できます】
解説ありがとう、オリゴ糖。
【ぶふぅ……! あ、ありがとうと……オリゴ糖って……ぶふっ!】
……砂糖、果糖。
【ぶぶぅーーーーーーーーー!】
黒糖、かりんとう。
【ひぃ……! ひぃ……! い、息ができない~ぃ……】
以上、叡智の神をいじって遊ぼうの時間でした。
女神さんの力で進化したけど、INT《かしこさ》さがってません?
【否。圧倒的、否】
……甘納豆、微糖。
【ぶふぅうううううううううう! ゲラゲラゲラゲラ!】
この笑いの沸点の低さよ。
ま、まあ……それはさておきだ。
俺たちは裏庭にて、テーブルを囲ってお茶をしている。
「うっま! 何これ! 美味すぎるんですけど……!」
デニスが俺の作ったお菓子を手に持って、目を輝かせている。
「ねえ! なにこれ! この輪っかみたいなお菓子!」
ずいっとデニスが顔を俺に近づける。
うむ、将来は美人になるだろう。
「ドーナツだよ。油で揚げたお菓子」
「ドーナツ! おいしいわ! 何個でもいけちゃう!」
大皿にのったドーナツを、デニスが片端から食べていく。
ハクアもドーナツをかじって、補を赤らめて言う。
「すごいです、レオン様。お菓子を油で揚げるなんて発想、考えもつきませんでした。まさに天才の発明ですねっ!」
ちなみに俺の魔道具ギルド【
デネブ兄さんをアドバイザーにして、奴隷のコロンたちがよく働いてくれている。
魔道具だけじゃなくて、こうした異世界のお菓子もまた、販売しようと今動いてるところだ。
「なによ、剣も凄い、魔法も凄い、そのうえお菓子作りも天才なんて……才能の塊ね。できないことを逆に教えて欲しいくらいだわ」
「できないこと……うーん……子供作るとか?」
「「ぶーーーーーーー!」」
この7歳の体じゃ子供なんて作れないしなぁ……って、どうしたんだろ、この子ら?
「ば、ばばっ、あ、あたりまえじゃないのっ!」
「わわ、は、早すぎますよぉ~……」
え、俺何かしたか?
【草】
いや草って、回答になってませんよ、元・回答者さん。
「全く気が早いったらありゃしないんだから……」
【告。まんざらでもないようです、この女。けっ……!】
「あ、でもこうすれば子供作れるか。【
俺の体が、いっきに20歳まで成長する。
「「ええーーーーーーーーーー!?」」
嫁ズが目と口を多きく開いて叫ぶ。
「すごい……レオン様……お美しい……かっこいい……」
「ど、どど、どうなってるのよ!?」
「だから、魔法だよ。【
元の7歳の体に戻る。
「ま、魔法って……火とか水とか、出すだけじゃないの?」
「そういうのを属性魔法っていうんだ。逆に、今使ったどんな属性にも属さない魔法を【無属性魔法】ってゆーの」
「すごい……レオン様は、本当に博識なのですねっ。尊敬しちゃいますっ。いいなぁー……」
ハクアがうらやましそうに俺を見てくる。
「あんた、魔法に憧れてるの?」
デニスの言葉に、ハクアがうなずく。
「はいっ。魔法が扱えるようになれば……わたしの体にかかってる、呪いも……自分後からだけで制御できるかなって……」
ハクアは呪術という、極東由来の魔法をその身に宿している。
服で見えないが、その呪術を押さえるために、体の下にはいろんな呪印(魔法の文字)が描かれてるそうな。
女の子が、薄着できないなんて……ゆゆしき事態だな。
「よし、ハクア。俺が魔法を教えてやるよ」
「えっ? よろしいのですかっ!」
「ああ。俺が教えられる範囲でならな」
ぱぁ……! とハクアが表情を明るくする。
魔封じによってハクアの、石化の魔法は封じられている。
でも消滅したわけじゃない。
たとえば、俺が死んだら魔封じが溶けるかもしれない。
そうなったときに、石化だけでなく、残りの呪いも自分でコントロールできるようになった方が良い、と俺は思う。
「ふ、ふん……魔法なんて……興味ないわね」
「レオン殿。ぜひ、ワタシにも魔法をお教え願いたい」
「ゼスト!?」
デニスの従者ゼストが、俺の前にしゃがみ込んで、頭を下げる。
「あ、あんたが魔法!? 剣聖じゃなかったの?」
「レオン殿の剣術を見て思い知らされたのです、お嬢。彼は魔法と剣術を同時に扱っている。あの技術があれば……ワタシはもっと強くなれる」
身体強化の魔法のことだろうな、ゼストが言っているのは。
「お頼み申す」
「おう、いいよ。魔法好きが増えるのは大歓迎だ」
ゼストとハクアがうれしそうに笑う。
「ふ、ふーん……」
「デニスはどうする?」
「あ、アタシは……パス」
「あ、そう。まあ気が向いたら言ってくれ」
俺はゼストとハクアに、魔法のレクチャーをする。
「その前に、体内の魔力量を計るか」
ハクアが首をかしげる。
「体内の魔力量なんて、測定できるんですか?」
「おうよ。ほら、出番ですよ、
俺が言うと……。
俺の右手、使徒の証たる【栄光紋】が輝く。
そこからでてきたのは、青い髪の少女……
叡智神こと、ミネルヴァだ。
「誰よ!?」
「解。嫁です」
「嫁!? どんだけいるのよ!」
しれっと答えるミネルヴァに俺が言う。
「魔力の測定を頼む」
「承知しました」
ミネルヴァがゼストの元へ行く。
「お手を拝借」
「む? こうか?」
ゼストの手をつかむと、ミネルヴァが目を閉じる。
「この御仁は何をなさっているのですか、殿下?」
「ゼストの中に魔力を測ってるんだよ」
すぅ……とミネルヴァが目を開ける。
「測定完了しました」
彼女が右手を前に出す。
光り輝くと、その上に
「これは、ゼスト様の魔力量を、可視化したものです。結晶が大きければ大きいほど、体内に有してる魔力量が多いのです」
「ほぅ……ワタシのこれは、どの程度なのだ?」
ミネルヴァがうなずいて返す。
「人間の平均レベル、以下ですね」
「え、そうなん?」
「はい。ハクア様。手を」
ミネルヴァが今度はハクアの手をつかむ。
同じように、空中に結晶を投影する。
「あ、ほんとだ……ハクアの方が大きい」
ゼストのは、ミカンくらいのサイズ。
ハクアの
「獣人は人間よりも魔力量が少ないのです。その代わり、人間よりも頑強な体を持ちます」
「そうか……」
残念そうに、ゼストがつぶやく。
「まあ大丈夫だよ。すぐ大きくなるって」
「ほんとかっ?」
「ああ。魔力量は増やせるからな」
「「「魔力を増やす!?」」」
ゼスト達が目をむいて叫ぶ。
「ちょっと! そんなの聞いたことないわよ!」
デニスがくってかかってくる。
この様子だとこの世界じゃ、魔力量を伸ばす方法が普及してないみたいだな。
俺は簡単に説明する。
「魔力を使えば増えるなんて……聞いたことありませんでした。すごいです……レオン様! そんなこと知ってるなんて!」
「でもさ、子供の時だけなんでしょ? 増やせるの。ゼストは大人よ」
「そこで……【退化】」
ぽんっ、とゼストが7歳くらいの姿に変わる。
「その魔法他人にも使えるの!?」
「おう。付与魔法でな」
「「「ええええええええええええええ!?」」」
あれ、なんでこんな驚いてるの?
【解。マスター忘れてますが、付与魔法の使い手は、世界でマスターを含めて4人しかいません】
あ、そうだったね。
「あんた……マジでなんなのよ……」
「いや普通の王子ですよ、俺は」
「もう……はぁ……ってか、魔力量。あんたはどんくらいあるのよ」
デニスに言われて、はたと気づく。
そういえば、計ってないな……。
「ミネルヴァ。俺の魔力も測ってくれ」
彼女がうなずいて、俺の手を握る。
そして……。
ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
「な、なによこれぇえええええええええええええええええ!」
俺の屋敷に、山のような結晶が出現。
しかも、今なお増加中。
「まだまだ、これはマスターの魔力の1パーセントにも満たしてません。全部を結晶化するとこの星が……」
「もういい! わかった! あんたが凄すぎる化け物だってことは、十分わかったからぁああああああああああ!」
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