33.婚約者が決定する



 俺は中庭で、石化の魔法の目を持つ女の子と出会った。


「ところでおまえ、なんて名前は?」


 パーティに参加してるってことは、どこかしらの有権者の娘ってところかな?


「わ、わたしは……【ハクア】」


「ハクアね。俺はレオン。おまえどっからきたの?」


「…………」


 ハクアは答えない。

 ふぅむ……。


【…………】


 叡智神ミネルヴァ? 出番ですよ?


【……否。どうせまた被る】


 すねっちゃってまぁー……。


 だ、大丈夫だって! ほら、ほかに誰もいないし!


 絶対誰にも邪魔されないよ!


 な? な? 教えてくれよ。

 この子は誰なんだ?


【仕方ありませんね……ふっ。解。ハクアは極と……】


「坊ちゃまーーーーーーーーーーーーー!」


 てててっ、とそば付きメイド2号、ココが、俺の元へ駆け寄ってくる。


「もー、いつまでも戻らないから、心配して探しにきちゃいましたよっ」


 あ、やっべえ……。

 そうだった、パーティの途中だったな……。

 って、そうだ! もう一個やべえ!


【………………つーん】


 また叡智神ミネルヴァが拗ねてる!?


 あーほら、しょうがないじゃん、な?

 今のは事故だって事故!


【告。マスター、このメイド女を焼き殺す許可を】


 だめだってば!

 ったく、ぶっそうだなぁこいつ……。


 自動で魔法使えるようになったけど、危ないかもしれない……。


「坊ちゃま、さぁ会場に戻りますよー」


「おう。あ、そうだハクア」


「は、はいっ」


 いつの間にか、ハクアは仮面をかぶり直していた。


 まあそうか。

 石化の魔法は、発動しちまうからな。


「戻ろうぜ? おまえもパーティの参加者なんだろ?」


「は、はいっ! わかりました、レオンハルトさまっ!」


 俺の後ろを、ハクアがちょこちょこくっついてくる。


 カルガモの赤ん坊みたいでかわいいな。


「おやおや、坊ちゃま。いつの間にかこんなかわいいガールフレンドを? 白髪でキュートですなぁ」


「そこで知り合ったんだ。な?」


「は、はいぃ……」


 ん? なんでうつむいてるの?

 しかもなんか、耳が赤い……?


【解。マスターの浮気者】


 それ回答になってなくない!?


【解。マスターは魔王を嫁にしただけでは飽き足らず、メイド親衛隊、そば付きメイド、そのほか諸々。なんですか、女を次から次へととっかえひっかえですか? その上また女を増やすのですか?】


 だから回答になってないし、なんか質問攻めになってるしー……バグった!


 叡智神ミネルヴァがバグった!

 叡智の神なのに……?


【解。叡智の神でも性別上は女、バグるときもあります】


 そ、そうっすか……。


 ほどなくして、俺たちはパーティ会場へと戻ってきた。


「遅かったなレオンよ」


 上座に座っている、父上こくおうが俺に気づいて言う。


「悪い、ちょっといろいろあって」


「む? ……その娘は、もしや」


 と、そのときである。


「これはこれはレオン様ぁ!」


 貴族風のおっさんが、俺たちの元へとやってきた。


「誰あんた?」

「グラハム公爵でございます! 以後、おみしりおきを」


 グラハム……公爵か。

 たしか貴族の1番上だっけ?


【…………】


 物知り美人な叡智神ミネルヴァさんどうかわたくしめに叡智をさずけてくださいー



【ふっ……。是】


 はぁ……めんどくせえ。


「殿下のお噂はかねがね! どうでしょう……今度わたくしの家に来ていただけませんか? 是非ともその英雄物語を教えていただきたく……」


「別に英雄じゃないけど俺……」


 と、そのときだ。


「あー! あんた、なんでこんなとこにっ!?」


 グラハム公爵の後ろには、見知った顔がいた。


「おお、さっきのガキンチョじゃねえか」


 赤い髪の、つり目の女がいた。

 さっきハクアをいじめていたやつだ。


「ええ、殿下! 我が娘デニスともうお知り合いになられたのですね!」


「娘? ああ、おまえグラハム公爵の公爵令嬢だったのね、デニス」


 さぁ……と青ざめた顔になる、デニス。


「あ、あんたがレオン……殿下だったのね……」

 

「おうよ」


 急にへらっ、とした笑みを浮かべるデニス。

「お、お初におめにかかります……で、デニス=フォン=グラハムです……先ほどは、大変ご無礼を……」


「ああ、良いって良いって」


 子供のすることだしな。


「どうでしょう国王陛下ぁ! 我が娘とご子息は、とても仲がよいように思われます!」


 グラハム公爵が、ここぞとばかりにまくし立てる。


「ぜひ我が娘を婚約者に!」


「ふむ……どうする、レオン?」


「え? どうって……」


 そういえばこのパーティ、俺の嫁(婚約者)を探すパーティでもあるんだっけ。


 婚約者かぁ……別に誰でもいい……。


 ぶっちゃけ、もう帰りたいし。


 あ、そうだ。


「悪い。俺もう決めてるんだ。な、ハクア?」


「「ええー!?」」


 デニス、そしてハクアが、そろって声を張り上げる。


「あ、あ、あんた!? 正気!? 相手は蛇姫よ!?」


 ざわ……ざわ……。


「……レオン殿下が蛇姫を?」「……そんな、嘘でしょう!?」「……あの呪いの姫をめとるなんて?」


 なんだなんだ、周りが騒ぎ出したぞ?


「父上、どういうことなの?」


【解。ハクアは】


「うむ……そこなハクアは、九頭竜くずりゅうの娘だ」


「くずりゅう? 誰?」


【解。九頭竜とは】


「極東の王だ。おお、そこにいたか、九頭竜よ」


 ……あれ?

 なんか途中、叡智神ミネルヴァめっちゃ口を挟んでできませんでした?


【けっ……!】


 ぐれたぁ!

 ごめんって怒るなって……。


「国王陛下、お久しぶりでございます……」


 九頭竜さんとやらが、慌てて俺たちの前にやってくる。


 珍しい黒髪のおっさんだ。


「我が娘、ハクアがどうかしましたか?」


「ん? ……え、ハクアって、王女なの?」


 だって九頭竜さんが極東の王なら……娘のハクアは王女ってことだもんな。


 へえー……王女。


「は、はい……。すみません、レオン様……」


「ああ、いやいいよ別に」


 どうでもいいし。


 父上は九頭竜さんに言う。


「おまえの娘を、レオンが妻にめとりたいといっているのだ」


「そ、それは大変光栄ですが……」


 そこへ……。


「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」


 デニスが声を張り上げる。


「そんな呪われた蛇女と結婚するわけ!?」


「ばかっ! デニス何を言ってる貴様っ!」


 グラハム公爵は慌てて、娘を止めようとする。


「あたしがその蛇より下だって言うの!?」


 デニスは父親の制止をふりきって、俺の元へとやってくる。


【珍しい女もいたものです。マスターに萎縮せず、まっすぐ意見するなど】


 なー、それは珍しいよね。


「いやまあ上も下もないだろ別に」


「あたしが嫁になってやるって言ってるのに、そいつのほうがいいって言ったじゃん!」


 え、いつ嫁になるって言ったの、こいつ?


「こいつ呪われてるのよ?」


「うん、知ってる。けど面白そうじゃん?」


 呪術使えるんだぜ?

 わくわくするだろ?


「レオン様……」


「ふ、ふんっ! なによ! 蛇のくせに! こんな仮面なんてつけちゃって!」


「ばかっ! デニスやめろ!」


 グラハム公爵が娘を止めようとする。


 だが……そのときだ。


 ずるっ……!


「きゃあ!」


 デニスが足を滑らせて、ハクアに激突。


 その瞬間……。


 ハクアの素顔が、あらわになる。


「あ、ああ……!」


【告。ハクアの石化の魔眼が発動します】


 かっ……! とハクアの赤い目が発動。


 すぐ近くにいたデニスが光を浴びて、石像になる。


「レオン! 逃げろ!」


 父上が俺に覆い被さろうとする。


 だが、俺は父上をすりぬける。


「それじゃ不十分だよ」


 周囲一帯を石化させる魔眼だ。


 覆い被さったところで防げない。


 俺は石化したデニスをどけて、ハクアに覆い被さる。


叡智神ミネルヴァ。いくぞ」


【是】


 俺は付与魔法を、叡智神ミネルヴァ反魔法アンチ・マジックを、それぞれ発動させる。


 その瞬間……。


 赤い光が、青く変わる。

 そして……。


 ぱりぃいいいいいいいいいいん!


「………………え?」

「もう大丈夫だ」


 ぽかん……と口を開くハクア。


 その赤い瞳は、俺を、そして周囲を見やる。

「し、し、信じられません!」


 ハクアの親父、九頭竜さんが声を震わせる。

「娘の……強力な石化の呪いを、解呪してしまわれた……いったい、どうやって?」


 ほら、解説者さん。


【否。わたしは叡智神ミネルヴァです】


 わかってるって。ほら出番出番。


【解。反魔法を、ハクアに付与したのです。結果、石化の魔法は発動した途端に分解される……解呪されたというわけです】


 反魔法は結構集中力を使う。

 ただでさえ複合する魔法だからな。


 それに一反魔法は時的に打ち消すだけで、完全に消し去ることはできない。


 だから叡智神ミネルヴァに別の魔法を発動させ、俺が付与する。


 こうすることで呪いを解く魔法に早変わりするってわけ。


「申し訳ございません……!」


 九頭竜がその場で、何度も頭を下げる。


「娘のせいで、大惨事を起こすところでした!」


 まあそりゃそうか。

 下手したら全員石になっていたとこだしな。

 国際問題だ。


「レオンよ。おまえに処遇を任す」


 父上が俺を見下ろして言う。


「え、別にいいよ。おとながめなし!」


「よ、よろしいのですか……?」


「おう。みんな無事だったし……あ、そうだ。デニスもほれ」


 ちょんっ、と石化したデニスの額をつつく。

 ぱきぃいいいいいいいいいいいん!


 デニスの石化が溶ける……。


 げっ!


「れ、レオン……あんた……あたしのこと助けてくれたの……? あ、ありがとう……」


「お、おう……ごめんなさい」


「へ? ………………あっ!」


 石化の衝撃で、デニスの服が消し飛んでいた!


 や、やっべえ……。


「い、いやぁああああああああああ!」


 デニスは真っ赤になってその場にしゃがみ込む。


 俺は礼服を着て、彼女にかぶせる。


「どうしてくれんのよぉ!」


「ごめんって……責任はとるからさ」


「「へ?」」


 俺は親父に、そしてグラハム公爵と九頭竜王に言う。


「婚約者。ハクアと、デニスで」


 ハクアは、純粋に興味で。

 デニスはほら、裸にひんむいちゃったし、責任とらないとでしょ。


 くつくつ……と父上は笑う。


「うむ……さすがレオンだ。認めよう、その婚約を!」


 おおー! とグラハム公爵と、九頭竜王が声を張り上げる。


「感謝いたす、殿下ぁ……!」

「レオン様! 我が娘をゆるしていただき、ありがとうございます!」


 こうして、俺に婚約者が二人もできたのだった。

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