32.呪いの姫との邂逅
7歳になった俺は、王都で御披露目会に参加していた。
「いやぁ素晴らしい!」
「ご子息が神の使徒様とは!」
「この国の将来も安泰ですなぁ……!」
俺がやっていることに、大人しくイスに座って、代わる代わるやってくるおっさんに挨拶をすることだ。
「使徒様! おうわさはかねがね!」
「是非とも我が娘と婚約を!」
「この日殿下に会うために、娘は生まれてきたのです! なにとぞ我が家と繋がりを!」
俺の元へやってくるおっさんたちは、国内外の権力者たちらしい。
自分の娘と俺とをくっつけて、コネクションを作ろうと必死だった。
「さすが使徒様!」「いやぁ使徒様は素晴らしい!」「使徒様ばんざい!」
……とまあ、そんな風に、誰に会っても使徒、使徒、使徒……と俺を見ては連呼する。
とてつもなくうざったい状況だ。
「はぁ……」
パーティ開始から数時間後。
ちょうど挨拶の列が途切れたタイミングで、俺は立ち上がる。
「レオンよ、どこへ行く?」
隣に座っていた父上が俺に問うてくる。
「ちょいとお花を摘みに」
「そうか。すぐに戻るのだぞ」
「もちろんです」
俺はすたこらさっさと、とその場を後にする。
会場をさっくり離れ、俺はひとり、中庭にいた。
【問。すぐに戻るのでは?】
「何時何分何秒地球が何回回った頃に戻るとは言ってないだろ?」
【問。マスターは小学生ですか?】
「いかにも体はピチピチの小学1年生である」
夜の中庭。
さっきまでの喧噪を離れるのにはもってこいだ……と思っていたそのときだ。
「や、やめてくださいっ!」
……女の子の悲鳴が聞こえてきた。
俺が声のする方へと近づく。
「うるさい! 口答えするんじゃないわよ【
「へびひめ?」
庭の中央、花壇には貴族のがきんちょどもが複数人いた。
その中心には……1人の女の子がいる。
ドレスを着ているからな。
年の頃は7つ、つまり俺と同じくらいだろう。
真っ白な髪の毛が特徴的。
そのほかには……
「なんで仮面なんてつけてるんだ……?」
顔をすっぽり覆う仮面をつけている。
【解。呪術を抑えるための魔道具であると推察されます】
呪術!
呪いの魔法か!
【是。我々の住んでいる大陸より遙か東へ言った先にある、極東という地域で主流とされる魔法形態です】
極東! 未知の魔法!
俄然興味が沸いてくるじゃあないか!
【告。マスター。今彼女に近づくのは得策ではありません。現在あの女は貴族の子供にいじめられて……聞いてます? マスター? 聞いてマスター……ぶふー!】
自分で無意識にいったギャグに、自ら反応するとは……。
まあ
「なーおまえ」
「あ? なによおまえ……?」
俺が女の子に近づこうとすると、チンピラのリーダーみたいなやつ(女)が俺に気付く。
「邪魔しないで。いま、呪われし蛇姫の退治の途中なのよっ」
リーダー格の女が俺に言う。
ああ、ごっこ遊びか。
そうだよな、ガキだもんな。
「な、なあ……【デニス】様。やめたほうがいいんじゃ……」
取り巻きがリーダー女……デニスを引き止めようとする。
「うるさい! 蛇姫の討伐を邪魔するとは、何事かしら! 貴様も同罪! このデニスが成敗してくれるわ!」
デニスが俺に殴りかかってこようとしたが……。
「ぶげらっ!」
「「「デニス様!?」」」
俺の目の前に光の壁が展開する。
結界魔法だ……って、あれ?
俺魔法なんて使った覚えないぞ?
【解。マスターの危機を察知して、
まじか、自動防御システムまで完備するなんて。
【是。どやぁ……】
デニスちゃんは
「「「お、おぼえてろよー!」」」
取り巻きどもがデニスを連れて立ち去っていった。
てゆーか、
子供の遊びに魔法なんて使っちゃダメでしょうに。
【し、しかし……マスターの危機に……マスターが……危機だったんだもん……】
あー……泣くなって。ごめんって。
【否。泣いてません】
それきり
拗ねちまったか。
【否!】
まあいいや、ほっとけば機嫌も直るでしょう。
「あ、あの……」
「ん? ああ、どうした?」
仮面の少女が、恐る恐る俺に尋ねてくる。
「どうして……わたくしを、おたすけになられたのですか?」
助けた?
俺何かしたっけ……?
「気にすんな。邪魔だったからさ。それより君……」
がしっ、と俺は女の子の肩を掴む。
「その仮面の下、ちょぉっと見せてくれないか?」
「え、そ、それは……」
「だいじょうぶ……はぁはぁ……悪いようにはしないから……はぁはぁ……」
【告。完全に不審者です。未知の魔法に欲情するのはおやめください】
いや欲情なんてしてませんけど!?
しかし……おっといけない。
ドン引きされるところだった。
【否。ドン引きされてます】
女の子が、ふるふる……と首を振る。
「……ごめんなさい。この仮面は、外せないのです」
「どうして?」
「わたしは……呪われてるんです。蛇姫って、ご存じですか?」
「知らん。さっき貴族のガキが言ってたな」
【解。蛇姫とは……】
「わたしのあだ名です。見たモノを……石にしてしまう……」
ま、また
こ、これはまた……拗ねるぞ!
【否。小娘ごときに、大人は怒りません】
おお、
【告。マスター。この女めがけて
全然大人になってない!
ダメに決まってるだろう!
ったく、子供なんだから……。
「で、なんだっけ。見たら石に代わる呪い?」
「はい……その他にも、わたしには数々の呪いがこの身にかかってるのです。近づかない方が……」
「ふーん。ちょいと失礼」
俺は女の子の顔に手を伸ばす。
「い、いけませんっ!」
どんっ、と女の子が俺を突き飛ばしてきた。
俺はよろめいて尻餅をついた。
「ハッ……! ご、ごめんなさい」
慌てて頭を上げる彼女。ああ優しい子なんだなぁ。
よっぽどその石化の魔法が強力なのだ。
威力が絶大とわかっているからこそ、突き飛ばしでも助けた。
「大丈夫だよ。二つの意味でな」
「ふぇ……? あっ!」
女の子の素顔が、あらわになっている。
「そ、そんな……仮面が! いつの間に……!」
「突き飛ばされるときにちょろっとね」
しかし目の前の子は、どえらい美人だった。
白い髪に、真っ赤な瞳がうるわしい。
なるほど……蛇姫とは言い得て妙だ。
アルビノの蛇みたいだ。
「だめっ! 呪いが発動してしまうっ!」
カッ……! と女の子の紅い瞳が輝く。
その瞬間……
ぶわっ……!
と中庭にある全てが、一瞬で石化した。
地面も、庭の花々も、城の壁も……。
もちろん、目の前に居た俺もまた。
「あ……ああ……ごめんなさい……」
泣き崩れる女の子。
ふむ……
【解析完了。石化魔法を完全習得】
よし、なら壊すぞ。
ぱき……! ばきぃいいいいいいいいいいいいん!
「え……? ええっ……!?」
女の子が、目をむいて俺を見ている。
「よっ」
「な、んで……どうして……?」
石化した俺が、直ったのを見て、女の子が驚いている。
「これぞ、【
「はん、まほー?」
「俺、オリジナル魔法のひとつだよ」
構造がわかればどれを壊せば魔法が崩れるのかはわかる。
俺はイヤミィの魔道具からヒントを得た。
すなわち、既存のモノを組み合わせ、新しいものを作り出す。
魔法をただ習得するんじゃなくて、こうして習得した魔法を組み合わせることで、新しい……俺独自の魔法を生み出す。
これもまた……面白、だ!
「すごい……石化、どんな相手も……石にしちゃうのに……」
ぺたん……とへたり込む彼女に俺は近づく。
「ヒッ……! ご、ごめんなさい……」
「すげえ魔法だな!」
「ふぇ……?」
怯えていた表情から一転、彼女が目を丸くする。
「今の呪術だよ! ほんとすごいなぁ。たいした魔法の使い手だよ、おまえ」
「う、う、うわああああああああん!」
女の子が俺に抱きついて、わんわんと泣き出す。
え、なに?
どうして泣いてるの?
「そんなこと……ぐす……そんなこと初めて言われてぇえええええ! うわぁあああああああん!」
ど、どうしよう……。
【解。まーすたーがなーかしたー。せーんせーにいってやろー】
誰だよ先生って……
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【★あとがき】
物凄くモチベになりますので、
よろしければフォローや星をいただけますと嬉しいです。
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