30.魔王との再戦、完全なる神の雷



 ……鑑定の儀から、数日後。


 俺は屋敷の庭で一人、横になっていた。


「はー……とんでもねえことになったなぁ~……」


 俺は右手を天に掲げる。


 手の甲には、赤い色の紋章が刻まれている。


 天使の輪っかに、翼の生えた剣。


 俺が神の使徒であることを証明する紋章……通称、【栄光紋えいこうもん】。


「余計なモンもらっちまったなぁ……もんだけに」


「ぶふぉ……!」


 叡智神ミネルヴァさんが、また吹き出す。


「ぶ……ぷぷ……ま、マスターは……最高です。なんて面白いしゃれを思いつくのです……天才……」


「ほんとしょーもないギャグに反応するねー。笑いの沸点低すぎない?」


「否。そんなことはありません。こう見えてお笑いには一家言あるんですよ?」


「へー……って、え!?」


 ナチュラルに会話していたけど……え!?


 なんか、俺の隣に、青髪の美少女が、いる!


叡智神ミネルヴァさん!? なんでここに!?」


 叡智神ミネルヴァの進化前である回答者は、ただのスキルに過ぎなかった。


 肉体を持っていなかったはず!


 しかし俺の前に居るのは、カーラーンさんのところで見せた、青髪美少女姿の叡智神ミネルヴァさんである。


「解。器なきスキルでしかなかった回答者と違い、叡智神ミネルヴァはマスターの魔力を依り代に、この世界に顕現できるのです」


 どやぁと叡智神ミネルヴァが胸を張る。


 ……胸を、張る?


 ……俺は叡智神ミネルヴァさんの胸部装甲を見る。


 ミリアやココ、メイド親衛隊の連中と比べると……。


 随分と貧弱な装甲板だった。


「マスター」


 ぷくっ、と頬を膨らませ、叡智神ミネルヴァさんが俺の頬を指でつまむ。


「叡智の神に不敬ですよ?」


「叡智の神なんだから、ガキのおいたくらいゆるしてくれよ」


「否。許しません」


 ぐにぐに、と叡智神ミネルヴァさんが俺の頬をつねる。


 と、そのときだ。


 ぴくっ、と彼女が明後日の方向を向く。


「どうした?」


「魔王ウルティアが来ます」


 ウルティア。俺の協力者の一人で、魔物達の王……。


 魔王……のひとりだ。


「え? どこだ?」


 周囲を見渡すも、ウルティアの姿は見当たらない。


 すっ、と指を上空に向ける。


「3……2……1……来ます」


 バリバリバリバリ……!


 上空に現れたのは、雷を纏う獅子ライオンだ。



『久しいな、レオンハルト』


「ウルティア……」


 叡智神ミネルヴァさん、魔王が来るのを、あらかじめ予見してなかったか?


「是。進化したわたしには、未来を予知する機能がアップデートされてます」


「す、すげえ……」


「もっとも少し先の、起こりうる確率の高い未来だけですが」


「いやそれでも十分すげえよ」


 どやぁ……と叡智神ミネルヴァさんが胸を……胸を……まな板を張る。


有罪ギルティ


「のー!」


 ぽんっ、とウルティアが上空で音を立てて、人間の姿へと変化する。


「レオンハルトよ。しばらく見ぬうちに、またたいそう強くなったではないか」


 嬉しそうに、ウルティアが笑う。


「え、わかるの、そういうのって」

「ああ。わかるさ……同じ、神の力を持つがゆえにな」


 同じ……か。

 カーラーンさんが言っていた。


 魔王とは、神の力を与えられた存在である……と。


 女神の弟、神ダオスは、この世界に居て、ウルティア達を魔王にした。


 一体何の目的があって?

 それは……不明。


 ただ一つ確かなのは……。


「なぁ、ウルティア」


 俺は右手を、彼女に見せる。


 栄光紋、と呼ばれる、神の使徒たる証を見せる。


「俺もまた……魔王なのか?」


 カーラーンさんのとこで、ダオスと魔王の関係を聞いたとき、薄々感づいていたことだ。


 ウルティアがダオスから力をもらって魔王になったのなら……。


 カーラーンから力をもらった俺もまた……魔王と言うこと。


 にぃ……とウルティアが、実に嬉しそうに笑う。


 すっ……と、ドレスの胸をはだける。


叡智神ミネルヴァさん」

「なんでしょう?」


「前が見えないっす」


 ウルティアがドレスをはだけるところまで見えたのだが。


 次の瞬間、叡智神ミネルヴァさんが後ろから、俺の眼を手で覆ってきたのだ。


「スケベ発見」

「いや違うけど?」


「マスターは子供なのですから、まだ早いです」


「かかっ! 愛されてるなぁ、レオンハルトよ。別に妙な真似はせん。小娘、見せてやれ」


 叡智神ミネルヴァさんは、手を離す。

 ウルティアがドレスをはだけさせる。


 胸の谷間の位置に……。


 天使の輪に、翼の生えた剣。


「……使徒の紋章」


 俺の右手にあるのと、同様の紋章が刻まれていた。


 俺の推測は正しかったわけだ。


「おめでとう、最も若き魔王よ」


 すっ、とウルティアがドレスを戻す。


「生誕して7年で、魔王となった存在を、わらわは知らぬ」


「魔王となるっていうけど、神から力を与えられたらその瞬間から魔王になるんだろう? なら、別に年齢とか関係なくない?」


「そうではないぞ。神の力を受け止めるためには、相応の器がなければならぬ」


「器……?」


 肉体のことだろうか。


「神の力は強大だ。ゆえに……使い手を選ぶ。並の器では、大きすぎる神の力を受け止めきれず……消滅する」


「ある程度、強度のある肉体にならないと、魔王にはなれないってことか」


しかり。我とて長い年月をかけて手に入れた、強大な魔法力があったゆえに、神の力を受け止めることができたのだ」


 にこっ、とウルティアが笑う。


「たった7歳で、修練も積まず、魔王になったのはおぬしが初めてだよ。誇れ。おぬしは……とんでもない大きな器を持つ。わらわを凌駕するほどのな」


 ……俺は、ウルティアに聞きたいことがあった。


「なあ、ウルティア。おまえに……」


 すっ、と彼女が手を前に出して制してくる。


「おぬしの問に答えよう。だが……それには条件がある」


「条件?」


「ああ……本気のわらわと、手合わせ願おう」


 ごぉ……! と魔王の体から、凄まじいまでの魔力が吹き出す。


 それは、初めて彼女とで会ったときとは、比べものにならないくらいの、魔力量だ。


「告。初対面時、魔王ウルティアは魔力量を制限してました。子供を殺さぬように」


 目の前になくとも、過去の映像を見て鑑定を行ったのか。


 叡智神ミネルヴァさん、やっぱ進化してるな。


 ウルティアの体が変化していく。


 体に雷のドレスを纏い、髪の毛が白く輝く雷のそれとなる。


「本気……ってわけか?」


「さぁ、どうだろうな。だが……おぬしと初手合わせしたときよりは……本気だ」


 腰を落として、彼女が力をためる。


「わらわに勝ったら、おぬしの知りたい……ダオスに関する情報をあげよう」


「俺が負けたら?」


「無論、死ね。わらわ程度に勝てぬようでは、残りの魔王にも、各地に存在する超越者にも……殺されるだけだ」


 俺が関わろうとしている他の魔王は、ウルティアほど優しくないだろう。


 彼女に勝てなきゃ、そいつらに殺されるだけだ。


「その条件、飲むよ」


「さぁ……見せてみよ、最も若き、最も新しき魔王よ! その力の、一端を!」


 ウルティアの手のひらに雷が収束していく。


「それが本気の神の雷ってわけか……面白え!」


 俺もまた、彼女と同様に、右手を差し出す。

 

 魔王から習って……最初にこの世界に転生したときに、取得した魔法。


 右手に雷が収束していく。


 違う……と、俺は感じた。


 大気が、地面が、鳴動する。


 まだ魔法を使ってないのに、凄まじい力の波動を感じる。


 明らかに、別物だ。


 俺が今まで使っていた魔法とは……。


【告。マスターは栄光紋を得たことで、魔力の出力量がランクアップしております】


 叡智神ミネルヴァさんの声。

 肉声じゃないのは、このとどろく雷鳴のなかでは、声が届かないからだろうな。


 それで、……さっきのは、つまり?


【マスターもまた、生まれ変わったのです。魔王へと。ゆえに、人間だった頃より、遥かに高いレベルで魔法が扱えるようになりました】


 はは……はははは!


 いいねえ! 最高のプレゼントじゃないか! 


 この世界に生まれ落ちて、魔法の全てを手に入れたと思った。


 だって見ただけで、魔法を習得できるなんて、最強じゃないかって。


 でも……違った!


 俺が見ていたのは、あくまで人間が見える景色だけ!


 その先には、まだまだ……見たことのない領域があって、俺はそこへ、踏み入れたばかり!


「魔法の深淵は、まだまだ、到達できてねえなぁ!」


「くかかっ! 魔王の本気を前に、笑うか!」


「ああ! 楽しいからなぁ……!」


「奇遇だなぁ、わらわもだよ!」


 俺たちの魔力がぶつかり合い、周囲に嵐を巻き起こす。


 大地と雲を引き裂きながら、俺たちの魔法は完成する。


「ゆくぞ、魔王!」


「こい、魔王!」


「「神の雷!」」


 ズガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!!!!!!!


 ぶつかり合う雷のエネルギー。


 だが、俺の放った雷の方が上だった。


 魔王ウルティアの体は……その体を、消し炭に変える。


 ……消える際に、彼女は笑っていた。


 やがて静寂が訪れる。


「勝ったな」


「是。マスターの勝利です」


「そうか。【大天使息吹ホーリー・ブレス】!」


 ぽんっ……!

  

 俺の目の前に、無傷のウルティアが出現する。


「いやぁ、負けた負けた! 清々しいほどに、わらわの負けだ!」


 大の字になって、ウルティアが倒れる。


 綺麗な芝生の地面は、巨大隕石が落下したみたいに凹んでいた。


 熱でガラス化を起こしている。


「魔素レベルで分解されたわらわの体を再生するとは……見事だな、レオンよ!」


 大天使息吹は使者を復活させる魔法ではない。


 だが奴隷達を相手に魔法を使って、経験値をためた結果……。


 この魔法は、体を構成する何かがあれば、肉体を再生できることがわかった。


 肉片がなくとも、魔素(魔力の源)があれば、再生可能。


「くく……魔王を完全に凌駕するとはな。さすがレオン、我がフィアンセだ♡」


 俺はウルティアに近づいて、手を差し出す。


「この手は?」


「感謝のしるしだよ」


「感謝?」


「この魔法を教えてくれたのはあんただ。魔法を使う楽しさもまたな。だから……ずっとお礼を言いたかったんだ。ありがとう」


 彼女は清々しい笑みを浮かべて、俺の手を取る。


「ぼっちゃまーーーーーーーー!」


 屋敷の方から、そば付きメイドのココが、慌てて走ってくる。


「告。マスター達の人外バトルの余波で、ココたちが死なないように、わたしが密かに結界魔法を張っていました」


 どやぁ、と叡智神ミネルヴァさんが胸を張る。


 俺がいなくても魔法が使えるのか。


 すげえな。


 ココだけじゃない、ミリア、メイド達……。


 みんなが俺を心配して、駆け寄ってくる。


「無論わたしは、心配など微塵もしてませんでしたがね」


 叡智神ミネルヴァさんが微笑んで言う。


「そっか……」


 俺の前に、美少女美女達が、大勢あつまる。


 なんとも賑やかで、華やかで……楽しい人生だ。


 ああ、ほんと、二度目の人生は……最高だな!


 俺はこれからも、この生を、謳歌するぞ!




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


これにて3章、終了です。

次回から新しい展開に入ってきます。


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