29.神に選ばれし男と周囲にバレて大騒動


 俺は女神カーラーンさんの元を離れた……。


「戻ってきたか」


 俺がいるのは、王都のないの教会の中。


 今どういう状況だろうか。


【解。現在は鑑定の儀の真っ最中です。マスターの番となり、神父が鑑定を行って、その1秒後です】


 回答者さん……もとい、叡智神ミネルヴァさんが解説する。


 彼女の姿が見えないけど、俺の中にいるんだろうな。


 ってか、あれ? 俺結構、カーラーンさんのところで、のんびりしてなかった?


 その間時間が経ってたんじゃ?


【否。創造主のいた空間は、この世界から切り離された世界。向こうでいくら時間が経ったとしても影響はありません】


 なんとも都合の良い。


 消えた時間が一瞬だったからか、教会の中で特に騒ぎが起きた感じはない。


「れ、レオン殿下……?」


 俺の前には、眼鏡をかけた、優しそうな神父、ホワイトがいる。


「今……一瞬消えませんでしたか?」


 すぐ近くに居たホワイト神父だけは、俺が消えたことに、気づいたようだ。


 とは言え、確証が持ててない様子。


「いやいやー、気のせいじゃない?」


【否。気のせいじゃない】


 ツッコまなくて良い。


「ところで神父さんよ。鑑定結果って出たの? 早く知りたいんだけど」


「え、ええ……そうですね」


 神父は鑑定結果の書いてある羊皮紙に

眼を通して……。


 どさ……!


「し、し、信じられない……」


 ホワイト神父は、尻餅をついて、体を震わせていた。


 え、え、なに?


【解。ホワイト神父は、マスターの恐るべき鑑定結果に驚愕してる様子】


 恐るべき鑑定結果?

 俺……なにかしたか?


「これは……こんなことって……まさか君が……いや、あなた様が……」


「お、おーいもしもーし? どうしたんだよ?」


 ぶわ……と滝のような涙を流しながら、ホワイト神父が……。


 俺の前で、ひざまずいてきたのだ。


「ホワイト神父!?」「どうなさったのですかっ!?」


 これには教会で働くシスター達が驚き、神父に近寄る。


「お前達! ナニをしているのです! 早くひざまずいて頭を垂れなさい!」


 ホワイト神父が声を荒らげる。


 あの穏やかそうな彼が、ここまで心を乱すなんて……。


 よ、よっぽど俺の鑑定結果が、ヤバかったのか?(悪い意味で)


【否。マスターの鑑定結果がヤバいのはそうですが、しかし、良い意味で、です】


 どゆこと?


 神父は俺の前にひざまずきながら、こんなことを言う。


「【神の使徒】様の、御前であられますよ!」


「「「なっ……!? なんですってぇえええええええ!?」」」


 シスターさんたち、めっちゃ驚いている。


 神の使徒ってどっかで聞いたな。


【解。女神カーラーン様より与えられし称号。鑑定結果にそれが反映されていた】


 あ、なるほど……。


 って、もしかして、バレたらやばかった?


【是。激やばです】


 やばたにえん?


【是。やばたにえん】


 神父から俺の鑑定結果を聞いたシスター達が……。


「「「申し訳ございません、使徒さま!」」」


 シスターの姉ちゃんたちもまた、ホワイト神父のように、俺の前でひざまずいた。


 え、え、まじなんなん?


「「「おぉおおおおおおおおお!」」」


 振り返ると、鑑定の儀に参加していた、子供達と、その保護者達がみんな……歓声を上げていた。


「す、すごい!」「なんてことだ!」「使徒さまが目の前に居る!」「生きてるうちに使徒様と会えるなんて!」「なんて素晴らしい……!」


 ギャラリーから大歓声。


 みんな驚いてる……それ以上に、なんだか異様な熱気に包まれている。


「坊ちゃまーーーーーーーーー!」


 俺と一緒に来ていた、そば付きメイドのココが、駆け寄ってくる。


 俺に抱きつくと、笑顔を向ける。


「やっぱり坊ちゃまは凄い人だったんですねぇ! まぁあたし、わかってましたけどねっ! えっへん!」


「こ、ココ……それにみんなもさ。何そんな驚いてるんだよ……?」


 神の使徒って聞いた途端に、みんなのこの代わりよう。


 さすがに異常だった。


 さて、わからないときがあったら?


 そう、回答者さんの出番ですね。


 特に、今回カーラーンさんによって、回答者さんは進化した。


 さぁ、見せてくれよ、パワーアップしたNEW回答者さんを……!


【ふっ……。仕方ないですね……。いいでしょう】


 まんざらでもない感じで、叡智神ミネルヴァさんが解説する。


【解。神の使徒とは……】


「神の使徒とは、神に選ばれしものだけに与えられる、特別な称号のことでございます……!」


 ホワイト神父のセリフが、叡智神ミネルヴァさんにかぶった!


 ああ……これは……。拗ねちゃうぞ?


【…………】


 拗ねてる?


【……どーせ、わたしはいらん子ですよ】


 落ち込んでるしー! ああもう拗ねるなって子供かよ!


【……どーせ、子供ですよ】


 いじけちゃった……まあ、あとでフォローしておけば良いか。


「で、ホワイト神父さんよ。神に選ばれし者ってなんだ?」


 こんだけ周りが騒ぐってことは、たいそうなことなんだろうな。


「読んで字のごとくです。この世界には古来より、【神の使徒】の称号を得て生を受ける人間がいます」


「ふーん、俺だけじゃないのか」


「はい。その称号を持つものたちは、神から特別な力を使命を与えられ、様々な奇跡を起こしてきました……あるものは世界滅亡を企む邪神を倒し、あるものは毒に犯されたこの星を浄化した……まさに、物語に出てくる英雄のごとき活躍をなさったのです」


 神の使徒ってのは、全員チート持ちの中でも、特にチートだったってわけか。


「神の使徒とはつまり、神に認められ、愛された、特別な存在。使徒様が存在するということは、翻って神の存在を照明すると言うこと」


「つまり?」


「使徒様は……この現世に降り立った、神に等しい存在。我々人間にとって、最も尊きお方……ということです」


 な、なんかヤバいことになってきた……!


 つまり神の使徒って称号を得た俺は、神みたいなもんってこと!?


【問。今更気づいたのですか?】


 叡智神ミネルヴァさんなんかあきれてるし!


 いやまあそうだよな。

 神から力もらって帰ってきたら、そりゃ目立つよね!


「お会いできて光栄です使徒様……。このホワイト、今が人生最良の日を迎えております……ああ、生きてて良かった……使徒様に出会えたこと、心から嬉しく思います」


 会えただけで人生最高って!


 や、やばいよやばいよ。


【ぶふー! 出川かよ! ぶふー!】


 ほんっっっっとしょうもないダジャレに弱いね叡智神ミネルヴァさん!


 叡智の神が聞いて呆れるよちくしょう!


 しかしどうしよう……目立つのは嫌だなぁ。めんどくさい。


 俺は魔法を極めたいし、カーラーンさんからのクエストもあるし……。


 ……よし、誤魔化そう!


「あ、あのさ……! その……使徒? だって。俺……違うよ」


「違うとは?」


「俺はただのレオンハルト。ゲータ=ニィガの第13王子以外の何者でもないよ。鑑定結果も……バグ……間違えなんじゃない?」


 しかしホワイトは、真面目な顔をして首を振る。


「間違えではありません。使徒様であるという、証拠がございます」


 ホワイトが、俺の利き手である……右手を取る。


「天使の輪に、翼の生えた剣。これこそが、使徒様である証……【使徒の紋章】!」


「使徒の紋章だって!?」


「はい! 別名、【栄光紋】! この世界に繁栄をもたらす使徒様を証明する、何よりの証!」


 栄光紋!?


 なんでこんなのが……くそ!

 叡智神ミネルヴァさん! この紋章消す方法ないの!?


【解。存在しません。使徒の紋章は、神があなたをその他大勢と分けるために付けられた、魂に刻まれし証。それを消すことはつまり魂の消滅……自らの死を意味します】


 こわっ! 死ぬのかよ!


 ええー……消せないじゃーん……この紋章。


 要らねえ……!


 ホワイト神父、そしてシスター達が、俺の前に跪いて言う。


「レオンハルト様! この地に舞い降りた、世界を救う使徒様! どうか我々を明るい未来へとお導きください!」


 な、なんかとんでもないことに、なってしまったぞー!

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