28.神の使徒となり、聖剣を手にする



 女神カーラーンさんの元へ招かれた俺。


 そこで、二度の転生の真実を聞いた。


 神のおわす異空間。

 どこまでも広がる草原にて。


「なぁ、その一度目に俺を呼んだ神様って、今どこにいるの?」


 目の前に座るカーラーンさんに、俺は聞いてみる。


「…………」


 ぴくっ、とカーラーンさんの顔が、こわばる。


「……それを聞いて、どうなさるのです?」


「どうって……まあ……色々思うとこはあるからさ」


 一度目の人生。俺は、結構辛かった。


 魔法やスキルが当たり前のようにある世界。


 そこで、俺だけが無能だった。


 差別は酷かったし、その製で何度も辛い目に遭ったからな。


「文句の一言でも、言ってやりたい気持ちはあるよ」


「……ごめんなさい」


 非常にもうしわけなさそうに、カーラーンさんが頭を下げる。


「【あの子】は、ここに……神の世界にいないんです」


 あの子?


 カーラーンさん知り合いなんかな?


『是』


 うぉ! 叡智神ミネルヴァさんの声が、俺の頭の中に直接響いてくる!


『マスターとわたしは心が通じ合っているのです。テレパシーでの会話は可能です。創造主も我らの会話は傍受不可能です』


 神すら干渉できない力とか、ヤバい名結構……。


『先ほどの質問に対する回答。一度目にマスターを異世界に呼んだ神は……カーラーン様の弟様になります』


 弟?


『是』


 なるほど……身内がやらかしたから、カーラーンさんがもうしわけなさそうにしてたんだな。


 それに、二度目の人生に、ここまで保障してくれたわけだ。


「カーラーンさん。あんたの弟って、どこいったんだ?」


 女神さんは目を剥く。


 だがすぐに叡智神ミネルヴァを見て、納得したようにうなずく。


「行方知らずなのです。レオンたちの世界に居ることは、確かなのですが……」


「ふーん……そうなんだ」


「ええ、ですから、お詫びさせたくても、できないのです。レオン……ごめんなさい……あの子にかわって、わたしが、謝ります」


 深々と、頭を下げるカーラーンさん。


 その顔は、とても悲しそうだった。


 弟さんに、会いたいんかね?


『是』


 ……ふーん。そっか。


「なあ一つ聞いて良い? カーラーンさんの弟が、俺のいる異世界にいるって、なんでわかるの?」


「魔王の存在です」


「魔王?」


 カーラーンさんがうなずく。


「レオンの世界に存在する魔王【達】は、みな神の力を分け与えられて生まれたのです」


「魔王……達? え、他にもいるの、魔王って」


「はい。魔王ウルティア以外にも、複数体存在します。そして、魔王は神の力を与えられて出来る」


「なるほど……力を与えて、魔王を作ってるヤツがいるってことか」


 カーラーンさんがうなずいて返す。


「神々の掟により、神は現世に降り立ち、直接的な干渉をしてはいけないことになっております」


「え? じゃあ……弟さん、まずいんじゃね……?」


 さっきの話じゃ、ウルティア以外にも魔王がいる口ぶりだった。


 それに、魔王も増えているってことは、今も弟は力を与え続け……禁忌を破り続けている。


 まずいどころじゃないだろ。


「はい……。一刻も早く、弟を連れ戻さないと……これ以上罪を増やすわけには……」


 彼女が、とても悲しそうな顔をする。

 それは俺はの申し訳なさももちろんあるだろう。


 けれど、そこにあったのは、家族を心配する、思い。


 優しい神様なんだな、カーラーンさんは。


 そんな優しいこの人が、悲しい顔をしてるのを見て、俺はどう思うか。


 やっぱ、なんとかしてあげたいよね。


 俺が呑気に楽しく暮らしてる一方で、こんな優しい人が、悲しい顔してるなんてさ。


 なんか、嫌じゃん?


「うん。わかった」


 カーラーンさんに、俺は言う。


「俺、ちょっとあんたの弟、探してくるよ」


 ぽかん……とカーラーンさんが、口を開く。


「な、何を言ってるんですか……? 弟を、探す……?」


「うん。だって探してきて欲しいから、俺をここに呼んだんでしょ?」


「違います……!」


 カーラーンさんは、強く首を振る。


「単なる偶然です! わたしはただ……あなたに謝りたかっただけで……」


 弱々しく、カーラーンさんがつぶやく。


「弟の不始末で、あなたに迷惑をかけた。だから、謝りたかった。ただそれだけなんです」


「でもさ……俺はあんたの弟、完全に許したわけじゃないよ」


 だってあいつは、丸裸で俺を異世界に放り込んだんだ。


「頬に一発、ぶんなぐってでもやらないと、気が収まらないな」


 にかっ、と俺が笑って言う。


 カーラーンさんは、声を震わせる……。


「……それだけで、いいんですか? 許して、くださると?」


「うん。いいよ。パンチ一発で許す。ついでに弟さん見付けて、ここに引っ張ってくるよ。ほら、俺たちの利害は一致してるじゃんな?」


 俺は弟を見付けて、一度目のわびを入れさせる。


 カーラーンさんは、弟を連れ帰ってきて欲しい。


 どうせ弟に会うんだ。

 ついでにここへ連れてくるのも、手間はそんなかからないだろ?


「レオン……」


 ぐすぐす……とカーラーンさんが泣きだす。


「ど、どうしたんだよ……泣くなって……」


「あなたは……どこまで優しいお方なのでしょう。わたしのために、弟を探してきてくれるなんて……」


 まあ、ね。 

 この人には恩がある。二度目の楽しい異世界ライフを与えてもらってって恩がさ。


 こんなにたくさんの恩恵を、貰いっぱしってのは、なんだ申し訳ない。


 それに……美人は笑ってた方が、いいじゃん?


「さすがマスターです」


 叡智神ミネルヴァさんが、微笑みながら言う。


 ああ、そうか。

 カーラーンさんは、叡智神ミネルヴァさんの娘みたいなもんだもんな。


 かあちゃんが嬉しいなら、嬉しいんだろう。


「レオン……」


 カーラーンさんが顔を上げると、綺麗な笑みを浮かべる。


「ありがとう。心優しき、異世界からのまれびとよ」


    ★


 俺はカーラーンさんのもとを去ることになった。


 叡智神ミネルヴァさんが隣に、カーラーンさんは俺の前に立っている。


「ところで弟さんの名前って、なんてーの?」


「ダオスです」


「ダオス……ダオスね。うん、覚えた」


 弟ダオスを見つけて、姉カーラーンの元へ連れて行く。


 それが俺のグランドクエストだ。


「本当に……いいんですよ。あなたには無関係な話しなのです。あなたは、好きに生きれば良いのに……」


「いいんだって。俺がやりたくてやるんだからよ。それに……俺の目的とも合致する」


「目的?」


「魔法を極めるっていう、目的だよ」


 カーラーンさんはわかってないようだ。


「問。マスター、どういうことです?」


「あれ? 叡智神ミネルヴァさん、叡智の神なのにわからないんですかー?」


「むかっ」


 ぷくー、と叡智神ミネルヴァさんが頬を膨らませる。


 かわよ。


「まあ聞けよ。つまりこれから俺は、魔王と否が応でも関わるだろ?」


「是。魔王を生み出しているのがダオスなら、必然的にそうなるかと」


「魔王はほら、魔法いっぱい覚えてるじゃん? ウルティアがそうだったし」


 ああ……と叡智神ミネルヴァさんが得心したような……けれど、どこか呆れたようにつぶやく。


「……つまり、魔王を巡ることが、魔法集め……マスターのライフワークにもぴったり合うわけですね」


「そーゆーこと。昔も今も、俺はこれからも気ままに、好き勝手やるよ。その延長上に、ダオス探しが入るだけだからさ。そんなに気にしなくて良いって」


 叡智神ミネルヴァさんもまた、うなずいて言う。


「創造主よ。本当にお気になさらず。マスターは貴女に会わずとも、他の魔王に会いにいったでしょうし。ヘンタイですから」


「おいおい誰がヘンタイだよ。俺はノーマルだよ」


「否。あなたのようなノーマルがいてたまるもんですか」


「ひっでえ」


 カーラーンさんは、安心したように微笑んで、うなずく。


「レオン。ありがとう。こころから……感謝いたします」


 胸に手を当てて、カーラーンさんが深々と頭を下げる。


「旅立つあなたに……贈り物をさせてください」


「え? 叡智神ミネルヴァさんってチート嫁もらったのに、まだ何かくれるの?」


「否! 否! 否!」


 叡智神ミネルヴァさんが顔を真っ赤にして、ぽかぽかと俺の肩を叩く。


 カーラーンさんはうなずくと、右手を前に出す。


「レオンハルト……あなたに【神の使徒ユグドラシル】の名を与えましょう」


「【神の使徒ユグドラシル】?」


 その瞬間……。


 俺の目の前に、光の柱が立つ。

 それはよく見れば、光る樹だった。


 樹は変形すると、ひとふりの、剣へと変わる。


「レオン。この間、ドワーフに作ってもらった、日本刀があるでしょう? 貸していただけますか?」


「あ、ああ……」

 

 収納魔法でしまっていた、タタラ特製の刀を取り出す。


 カーラーンさんは刀を受け取ると、光の剣と重ね合わせる。


 七色に輝くと……それは……。


「合体した……」


 1本の、輝く刀へと変貌した。


 カーラーンさんは光の刀を俺に授ける。


「タタラの刀を器に、女神カーラーン……わたしの力を宿した剣。聖剣です」


「これ……俺もらって良いの?」


「ええ。レオン。この聖剣なら、あなたの剣聖としての、100%の力にも耐えうるでしょう」


「! 気付いてたのか……」


 そう、俺は剣術において、本気を出せない。


 俺の力が強すぎるため、剣が耐えられないのだ。


「この剣には叡智神と同様、神の力が宿っています。100%の力で思いっきり振っても、壊れません」


 光り輝く剣はとてもキレイだった。


 そんでもって……チートすぎる。


 剣聖おれの力に、ついてける、ヤバい剣なんて……。


「タタラの作った器が優秀だったからこそ、この聖剣が実現したのです。あの方を見つけ出したレオン、あなたは凄いです」


「え、タタラも凄い人なの?」


「ええ。超越者の子孫です」


 まじか。

 超越者って……本人以外にも、その子孫もいて、ヤバい力を受け継いでるってわけか。


「こいつは……面白くなってきたな」


 この世界にはまだまだ、俺の知らない強い奴らがいる。


 俺の知らない……魔王が、魔法が、そして……神がいる。


 そいつらのもとを巡って、気ままに魔法を極めていく。


 なんとも楽しい人生たびじになりそうだ。


「レオン。あなたの旅が、どうか幸せに満ちていることを」


 カーラーンさんはしゃがみ込んで、俺の額に……キスをする。


「ここよりあなたを見守っていますよ。わたしの、愛すべき使徒よ……」


 こうして、俺は新たな力と目的を得て、帰還を果たしたのだった。

 



―――――――――――――――――――


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