27.新たな力、進化する回答者



 俺は7歳となり、鑑定の儀を受けた。


 本来なら、神の啓示により、本人の持つ力を知るだけの儀式。


 しかし俺はあろうことか、うっかり魔法を発動させ、女神のもとへと導かれたのである。


 何もない白い空間にて。


「ここじゃあ殺風景ですね」


 女神カーラーンがそう言うと、周りの風景が一瞬で変わった。


 青空の下、草原のなかに俺はいた。


 椅子に座り、目の前には【3人分】の椅子。


「3人……?」


 俺の目の前には、長い髪の毛の美しい女性……女神カーラーンさん。


 そして右隣には……。


「お、俺!?」


 もう一人の俺が椅子に、お行儀良く座っていた。


「否」


 と、ただ一言だけ、もう一人の俺がつぶやく。


「そ、その無機質なしゃべり方……もしかして……」


 見た目は俺だが、目の色が違った。


 真っ赤で、しかもどこかうつろな眼をしている。


「布団が吹っ飛んだ」


「ぶふぅ……!」


 もう一人の俺は突然笑いだした。


 このしゃべり方に、くだらないダジャレに反応する、こいつはまさか……!


「か、回答者さん、ですか?」


「……是」


 こほん、と回答者さんは咳払いをして、背筋をただす。


 ま、マジか……!?


「え、なんで俺? なんで回答者さんがここに?」


「解。わたしは……」


 カーラーンさんは微笑みながら答える。


「この子もまた、わたしが耐えた力の一部だからですよ」


 な、なるほど……。


「…………」


 回答者さんが、また回答がかぶってしまった!


 え、怒ってる?


「否。怒ってません」


 いや怒ってるでしょ?


「否。怒ってませんけど?」


 くすくす……とカーラーンさんが笑う。


「随分と仲良しになったのですね」

「是」


「え?」

「否! 否! 否!」


 わたわた、と慌てながら、回答者さんが言う。


 カーラーンさんは目をほそめて、言う。


「この子、随分と感情豊かになりました。レオン、あなたのおかげです」


「は、はぁ……どういうこっちゃ?」


 カーラーンは回答者さんを見て言う。


「この子は元々、わたしの体の一部を構成する力の一部に過ぎませんでした」


「ははぁー……なるほど。道理でお声が似てるかと思った」


 回答者さんの声って、女性っぽいんだよね。


 なるほど、元々カーラーンさんの一部だったから女性っぽかったのか。


「見た目が俺なのは?」


「この空間においてこの子のよりしろとなる肉体がなかったから、代わりに、あなたの器をコピーさせてもらいました」


「な、なる……ほど?」


 さっぱりわからん……。


「ですが……そうですね。男の子の見た目では可哀想。おいで」


 ちょいちょい、とカーラーンさんが手招きする。


 回答者さんはうなずくと、女神さんのもとへいく。


 カーラーンさんが、もう一人の俺の頭に手を置く……。


「貴女に名前を授けます。回答者……ではなく、叡智神ミネルヴァと」


 すると……。


 回答者さんの体が、青く輝き出す。


 青い髪の、美しい女性へと変化した。


 どことなく、カーラーンさんの雰囲気を纏いながら、しかし、髪の色が青色だ。


 背もやや小さい……年齢は17,8くらいの美人さんだ。


「感謝いたします、我が創造主よ」


「お、おお! 流ちょうにしゃべれるようになったじゃないの!」


 回答者さん……あらため、叡智神ミネルヴァさんが得意げに胸を張る。


「是。創造主より名を与えられたことで、わたしはより高性能な存在へと進化したんですよ、マスター」


「まじか……。猫が寝転んだ」


「ぶふぉ……!」


 青髪の美少女が吹き出す。


「なーんだ進化しても中身は一緒なんだ。安心したよ……叡智神ミネルヴァさん」


 にこにこ、とその一部始終を見ていたカーラーンさんが笑う。


「名を分けたとて、ただの力でしかなければ、命は宿りません。彼女に人格を……器を作ったのはレオン、あなたの存在が大きい。さすが、【超越者ちょうえつしゃ】ですね」


「ちょーえつしゃ?」


 なんだそりゃ。


「この世界にはあなたと同様、地球から転生してきた方々が、かなりの数います」


「うぇ……!? まじ!?」


「是。マジです」


 はえー……そうだったんだ。


 俺以外にも……へえー。


「彼らを転生者と、我々は呼んでいます。転生者は桁外れの力をみな持って生まれ落ちます」


 そして……とカーラーンさんが続ける。


「転生者の中でも、より強い力を持つ一握りの存在……転生者の枠組みを超越せしもの……それが【超越者】」


「はぁー……すげえやつらもいるもんだなぁ」


 叡智神ミネルヴァさんはハァ、とため息をつく。


「マスターも超越者の一人ですよ」


「あ、そっか」


 思えば、全ての魔法をコピー可能な全能者のスキル。


 そこに加えて、1度目の異世界転生時に手に入れた、剣聖としての剣術および強さ。


 それは確かに、女神さんがいうところの、超越した力って感じがするもんな。


「あ、そうだ。カーラーンさん。ずっと聞きたかったことあるんだけどさ」


「なんでしょう?」


「……なんで、一度目って、俺、無能だったの?」


 二度目の異世界転生のときとは違い、一度目は、何も与えられずに、別の世界に放り出された。


 まあそれなりに上手くやれたから良かったけど、今考えると結構ヤバかったなって。

 ここ、平和な日本と違って、命の価値が非常に軽いし。


「それに関してはこちらの手違いでした」


「手違い?」


「一度目の死……あれは、予期せぬ死だったのです」


 カーラーンさんが説明したところに寄ると……。


 一度目、トラックにひかれて死んだ俺は、実は死ぬ予定じゃなかったらしい。


 神の手違いで殺されたそうだ。


 そんで、その俺を殺した神は焦ったらしく、ミスを隠すべく、異世界へ俺を放り出したそうだ。


「本来転生者には、特別な力を授けます。ですがその当時の神は相当焦っていたのか、転生先の容れ物だけを用意し、肝心の能力の付与を忘れたみたいです」


 はぁー……なるほど。


 ようするに、神の力(チート能力)を受け止めるための肉体だったから、俺は超人的な身体能力を得たわけだ。


 神が手自ら作ったからな。


「その力を二度目も使えるのは、カーラーンさんの手引きによるものなの?」


「ええ。一度目の失敗でご迷惑をおかけしたので。二度目は楽しい人生をと思い……」


 非常にもうしわけなさそうに、カーラーンさんが言う。


 なるほど、色々合点がいった。


 俺がチートてんこもりなのも、幸せな家族、恵まれた家柄に生まれたのも、剣聖のステータスが引き継がれたのも……。


 一度目のお詫びって訳か。


「レオン……本当に申し訳ございませんでした。決まりによって、地球から異世界へ行く際の記憶は消さねばならなかったのです」


 二度目にここへ来たときも、カーラーンさんは同じように説明し、謝ったのだろう。


 でも記憶が規約で消されてしまうから、俺が覚えてないから……申し訳ないって思ったんだ。


「記憶が規約で……ぶほぉ……!」


「み、叡智神ミネルヴァさん……今ちょっと真面目な話してるからほら……」


「し、失礼しました……」


 しゅん、と回答者さん、じゃなくて叡智神ミネルヴァさんが肩を落とす。


 感情が芽生えて可愛らしくなったな。


「否! 否! 否!」


 急に顔を真っ赤にして、ぶんぶんと叡智神ミネルヴァさんが首を振る。


 え、どったの?


叡智神ミネルヴァはあなたの力の一部。つまり、心で繋がってるんです」


「え? じゃあ俺の思ってることが、筒抜けってこと?」


 こくこく、と叡智神ミネルヴァさんがうなずく。

 

 まじかー。はずーい……。


 ……アルミ缶の上にあるミカン。


「ふぐ……ぐ……ま、マスター……くく……わ、わたしで遊ぶの……ぶふ、やめて……ください」


「ごめんごめん」


 コーディネートはこーでねーと。


「ぶふーーーーーーーーーーーー!」


 げらげらげら、と叡智神ミネルヴァさんが笑い出す。


 叡智の欠片もないな……可愛らしい。


「ですが回答者のとき以上に、色んなことができるようになりました。仲良くしてあげてください」


「あ、うん……って、あれ? 叡智神ミネルヴァって俺の力の一部ってことだから……俺も強くなったってこと?」


「ええ。以前とは比べものにならないくらい」


「ま、まえも結構チートだったんですが……」


 まあ、もらえるというのなら是非もない。。


 魔法を極めるのに、力はありすぎて困ることないからな。


「レオン。改めて……ようこそ我が異世界に。二度目の人生は、楽しんでくれてますか?」


 ……ああ、カーラーンさんは、凄い気にしてたんだ。


 一度目に、酷い目に遭わせちゃったから。

 二度目は、俺が幸せになるようにって、気にかけてくれてて。


「あんがと」


 ニッ、と俺が笑って答える。


「すげえ楽しんでるよ!」


 カーラーンさんは、それを聞いて、ホッとしたように……笑った。


 それはそれは美しい笑みだった。

 文字通り、女神のような、美しさだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


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