26.鑑定の儀と女神との邂逅
七歳になった俺は、王都の神殿を訪れていた。
待合室みたいな場所にて。
「なあココ、何するんだ今から?」
俺はそば付きメイドのココに、髪の毛をとかしてもらっている。
「鑑定の儀が執り行われるんですよ~」
「かんてのぎ?」
【解。鑑定の儀とは……】
「7歳になるとですねー、子供はみんな教会へ行くんです。そこでそのひとに、才能……スキルや魔法、職業適性があるか、確かめるんですよー」
ま、また回答者さんが、回答潰しされてる……!
お、怒った?
【解。怒ってません】
いやいや、怒ったでしょ?
【解。怒ってません】
おこ……
【解。怒ってません】
どうやら激おこのようだ。
ココ……報復されないように気をつけるんだな。
「そーいや、一度目のときも、なんか子供の頃に神殿へ連れてかれたっけ」
あのときは大変だった。
なにせ、魔法もスキルもなく、適正する職業がない、って言われて……大騒ぎだったなぁ。
そのせいで色々苦労を……まあそれはおいといて。
「おめかししてるのって、なんで?」
「そりゃあ、鑑定の儀にはたくさんの人が集まってますからね。他の子もいますし。保護者も見てますし」
服もいつもよりパリッと糊のきいたものを使っている。
ほどなくして、俺はココとともに、教会のなかへと移動。
祈りを捧げる場みたいなとこらしく、長椅子がたくさん置いてあった。
椅子には子供達がお行儀良く……
「ねーねー! まだー!」
「はやくしてよー!」
「つまんなーい!」
「うぇえええええん! おかあさぁああああああああん!」
……とてもお行儀良くはいかないか。
まあみんな7歳児だもんな。
「坊ちゃまは偉いですね! 騒がず礼儀正しく始まるのを待ってるなんて! すごい! やっぱり坊ちゃまは天才やでー!」
「ココ」
「はいはい!」
「お前がウルサいよ」
「うう……ごめんなそーりー……」
ほどなくして、神父が入ってくる。
俺たちを見回して、穏やかに微笑む。
「ようこそ皆さま。本日鑑定の儀を執り行う、天道教会の神父【ホワイト】と申します」
ホワイト神父は子供達を見て、にこりと笑う。
さっきまで騒いでいた子供達が、ぴたり……と押し黙った。
カリスマオーラにでも当てられたんだろうかね。
「本日の流れを説明します。まず名前を呼ばれたかたは、順番に私の前に来てください。一人ずつわたしが鑑定を行い、神から、あなたたちに与えられた才能を調べ、そしてそれを紙にしるしてお渡しします……神だけに」
【ぶふぉ……!】
か、回答者さんが、レベルの低いギャグに大爆笑なさってる……。
てゆーか、あのホワイト神父さん、結構おちゃめだな。
子供達はぽかーんとしている。
そりゃそうだ。急にダジャレぶっ込まれてもな。
「それでは、鑑定の儀を執り行います。まずは……アスターさん」
「はいっ!」
アスターと呼ばれた平民の子供が、ホワイト神父の前にやってきて、ひざまずく。
「神様にお祈りを捧げましょう」
子供は言われたとおり、目を閉じて、祈る。
神。神ねえ……いるのかね?
【解。神と呼ばれる上位存在は、この世界に存在します】
え、そうなん?
でも俺、こっちの世界に2回も来てるけど……会ったことないよ。
ほら、異世界物のラノベだと、転移転生するときに、何もない白い空間で、女神とかに会うじゃん。
でも俺、会ってないんだよね。
【解。神との邂逅を覚えていないだけだと推察します】
覚えてない?
記憶を消されてるってことか?
【是】
なるほど……? でもなんで消されてるんだろうか。
【…………】
回答者さん?
もしかして……わからないとか?
【…………】
まあ回答者さんにもわからないことくらいあるよ、うん。
神だもん、相手。
【……ぐすん】
泣くなって! 別にわからないことがあってもいいじゃん! 人間だもの!
【否。……人間じゃない】
ああもう! ああ言えばこう言うだな!
ほ、ほらそろそろ鑑定が終わるみたいだぞ。
ホワイト神父は魔法を解除すると、うなずき、その手に羊皮紙を持つ。
じわぁ……と紙の上に文字がにじんでいく。
神父はそれを読み上げる。
「アスター。あなたには農作業のスキルが備わっております。農家の職業適性があると思います。これを使って、お父さんとお母さんを支えてあげなさい」
「はいっ! 神父様っ!」
ぱちぱち……とまばらに拍手が起きる。
なるほど、こういう流れなのな。
一人ずつ子供の名前が呼ばれていく。
「あなたは剣士の適性があります」
「あなたは農家の適性が」
「おお、魔法使いの才能がありますね。これは素晴らしい」
ほとんどが農家とかそういう、ありふれた職業適性ばかりだ。
俺の時みたいに、スキル無しみたいなことはないんだな、普通は。
「次……レオンハルト=フォン=ゲータ=ニィガさん」
「あ、はーい」
俺の番になったので、椅子から立ち上がる。
「……レオンハルト様だっ」
「……ドラゴン倒したって言うあの?」
「……わぁ! 素敵ねえ」
保護者のお母様方が、ひそひそ声で話し合ってる。
あれ、ドワーフ国でドラゴン倒したのって、広まってるの?
【是。ゲータ・ニィガ王国を初めとして、各地に既にウワサになっております】
マジか……すごいな、人のウワサが広まる速さって。
まあー……だからどうってこともないだろう。
特に影響もないよなぁ?
【否】
え゛? あるの、なに?
「レオンハルトさん? どうかしました?」
ホワイト神父が、俺がもたついてるのを見て、気遣わしげに聞いてくる。
ああすんません。後ろもつっかえてるから、さっさといきますよっと。
俺は神父の前まで移動。
「お会いできて光栄ですよ、レオン殿下」
にこりと微笑みながら、ホワイト神父が言う。
「どもども。今日はよろしく」
「ええ、では……神に祈りを」
俺はうなずいて、ひざまずく。
ええーっと……神様神様っと。
まあ一度くらい会ってみたいよね。
二度目の異世界転生させてくれた、お礼も言いたいし……。
ま、無理だよね。
神に会うなんて。
と、そのときだった。
「では鑑定を……え!?」
「え?」
ホワイト神父が困惑する。
俺の体が、白く、強く発光する。
【告。召喚魔法を習得しました。鑑定魔法(極)を習得しました】
え、ちょ……回答者さん!?
なんで魔法を覚えてるの……!?
「レオン殿下!」「ぼっちゃまー!?」
ホワイト神父もココも、なぜか驚愕してる。
いったいなにが……。
と思った次の瞬間……。
俺は目の前が真っ暗になった。
……。
…………。
………………。
そして、目を覚ますと……。
「え?」
「え?」
俺の目の前には……。
「き、きれいだなぁ……」
亜麻色の長い髪をした、それはそれは、美しい女性が立っていた。
「うそ……どうして……?」
ぽかん……とした表情で、呆然とつぶやくその美人さん。
白いワンピースに、長い錫杖。
さらさらの長い髪の毛は地面につくほど。
顔はヴェールで覆われてる物の……その目はまん丸に見開かれてる。
「えっと、どちらさま?」
俺が尋ねると、女性はハッ……と我に返る。
こほん、と咳払いをすると、彼女はこう名乗った。
「わたしは女神カーラーン。レオンハルト、あなたをこの世界に転生した女神です。あなたと会うのは、これで二度目ですね」
「へえー……へ!? め、女神ぃ……!?」
神から鑑定結果だけを聞く儀式じゃなかったのこれ!?
【是】
「だよね。あ、ああそうか! これ、夢の世界のなかか!」
【否】
「いいえ、レオンハルト。あなたは……現実世界から、この女神の居る【天界】へと……自力でやってきたのです」
「え゛……? う、うそぉ! 神の世界に俺が!? ど、どうやって?」
「さ、さぁ……?」
女神すらも困惑してる……。
俺、ナニかやっちゃいました……?
【解。マスターはホワイト神父の使った魔法を、全能者のスキルで習得しました。その際、習得した召喚魔法を無意識に発動させ、結果、この世界へと招かれたのです】
そ、そういえば鑑定と召喚を覚えたって聞こえたような……。
「生身の人間が、生きてる間にこの世界に来たのは……レオン、あなたが初めてです」
きょとんとしていた女神さまだったが、ふっ、と微笑む。
「やはりレオン、あなたは凄い人ですね。さすがです」
「ど、どうも……カーラーンさん」
神様に褒められるなんて、滅多に……というか空前絶後にないから、どうしていいのかわからん。
「せっかくですから、少し、お話していきませんか?」
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