23.奴隷全員を治療して大感謝される



 俺は労働力として奴隷を買った。


 若い、見栄えの良い奴隷は結構高かった。


 そこでケガや病気で安く売られていた奴隷を買って、治療することにしたのだ。


「すごい、すごいよ、ごしゅじんさま~!」


 最初に治したキツネ獣人の子が、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 見た目は9歳とかそこらだろう。


 赤茶色の髪の毛と、もふもふの尻尾に、カールした髪の毛が愛らしい。


「お耳も尻尾も治った! すごいすごい!」


 キツネ獣人が無邪気に俺に抱きつく。


 まだまだ子供だな。


「……うそ、信じられない」「……あの子あんなにボロボロだったのに……」


 残りの奴隷達が、キツネ獣人を見て、驚愕の表情を浮かべている。


 俺は今回、30人の奴隷を買った。


 つまり、あと29人残っている。


「レオン、全員にさっきの凄い治癒魔法を施すつもりか?」


 銀髪の美丈夫、デネブ兄さんが、気遣わしげに聞いてくる。


「もちろん」


「でも、治癒魔法ってかなり魔力を消費するんだろ? しかもあの大魔法じゃ、その消費量も半端ない。数日もかけてるうちに、死んでしまう奴隷も出てくるぞ?」


 奴隷の中には、ケガだけでなく、病気の子も見られた。


 咳き込んだり、吐血したり……確かに数日も持たない命だろう。

 

 ゆえに安かったのだが。


「え、何言ってるのさ、兄さん。数日もかからないよ」


「は……? れ、レオン……どういうことだ? だって、あの治癒魔法は、1日に双何度も使えるわけ、ないだろ? 消費魔力量が、すごいんだから」


 困惑するデネブをよそに、俺は回答者さんに聞いてみることにする。


 どう、いけそう?


【是。現在の魔力量でしたら、大天使息吹ホーリー・ブレス29人分で、一瞬で治療可能です】


「よし、いけるみたいだな」


「は、はぁ!? う、嘘だろおまえ……!?」


「まー見とけって」


 俺は奴隷29人に向かって言う。


「おまえら全員治してあげるから、もう少し近くに寄ってくれ」


 奴隷達は、怯えたように俺を見てくる。


 さっきのキツネ獣人の子もそうだったが、ここに来る前は、みんな酷い目にあっているのだろう。


 部位が欠損してるやつ、火傷でかおがただれてるやつ。


 女が多いのは、サンドバッグにしやすいからだろうか。


 まあ、そんなふうに酷い目に遭わされてきたんじゃ、俺のことそう簡単に信じてもらえないだろう。


「みんな! 聞いて!」


 キツネの子が、奴隷達を見て、声を張り上げる。


「ごしゅじんさまは……いいひとだよ! だって、あたし、元気になったし!」


 ざわざわ……。


「ごしゅじんさまは、特別だよ! 良い魔法使いさんだよ! だから……みんな信じようよ!」


 キツネの子が訴えかけた結果……。


「……そうね」「……あんたの言うとおりかも」


 ひとり、またひとりと、奴隷達が俺の元へ集まってくる。


 色んな種族の奴隷がいる。


 人間、ハーフエルフ、獣人、亜人……。


 種族は違えど、奴隷達に共通していたのは、人間に対する強い不信感があったこと。


 だが……キツネの子のおかげで、表情が、少しだけ緩くなった気がする。


「さんきゅーな」

「わふー……」


 俺はキツネ獣人の頭をなでる。

 お湯に入れたとろろ昆布のように、キツネの尻尾が垂れる。


「レオン、無理しなくて良いんだぜ?」


 デネブ兄さんが俺を心配してくれる。


「あんがと、気遣ってくれて」


「ば、バカヤロウ! ぼ、ボクは別に……ただ、金づるがいなくなるのが、嫌なだけだ! 心配なんてしてないんだからな!」


 可愛いなうちの兄貴は。


 さてさてっ……と。


「そんじゃあまあ……いきますか!」


 俺は魔法を発動させる。


「【大天使息吹ホーリー・ブレス】!」


 世界最高の治癒魔法を発動させる。


 俺の背後に、巨大な天使が出現した。


 両手、そして翼を広げると……。


 ふぅ……と吐息をつく。


 春風のような暖かな風が吹き抜ける……。

 カッ……! と奴隷達の体が、光だす。


 そして、光が治めると……。


「す、凄いわ……! 腕が! 腕が生えてる!」


 近くに居た亜人の子が、明るい表情で、右手を見つめている。


「信じられない! 目が見えるわ!」


「咳がとまったよ! もう息苦しくない!」


 笑顔を浮かべる彼女たち。


 回答者さん、病気の子は治ってる?


【解。奴隷29人のうち、重病患者、末期患者の病気、全てを治療が完了しております】


 え、末期の子とかいたの?


【是。現代の医療では決して治せない死病すらも、マスターは治癒して見せました】


 え、それって……すごくない?


【是。マスターは凄いです】


 お、おお……回答者さんが褒めてくれた。

 やっぱり、なんだかこの人も進化してる気がするな。


「ありがとう!」


 近くに居た蜥蜴人の女が、俺をぎゅーっと抱きしめる。


「あんたのおかげで、失った腕が戻ったよ! ありがとう!」


 女馬人セントールが、近づいて、俺を抱きしめる。


「ほんまあんがとなぁ! あんたのおかげやで! 命の恩人やわ!」


 蜥蜴人に女馬人セントールだけでなく、そのほか奴隷達全員が、俺に近づいてくる。


 みんな一様に笑顔だった。

 うんうん、良かった。


「ちょっと馬女! 坊ちゃまを離せよ! あたいがハグできないじゃないか!」


 蜥蜴人の女が声を荒らげる。

 女馬人セントールはつんっ、とそっぽを向いて言う。


「いややわ。この子ぉと今うちが、ぎゅーしとるんやから」


「ずりぃ! あたいも!」


 ぎゃあぎゃあ、と蜥蜴人と女馬人セントールが取り合う。


 それだけでなく、ほかの奴隷達が、代わる代わる俺を抱きしめてお礼を言ってくる。

 だ、大絶賛だな……。


「あたいがハグするんだ!」

「うちがするんやー!」


 ぎゃあぎゃあとやかましく騒ぐ奴隷達。


 俺はこっそりと、その場から離れる。


 ひぃー……酷い目にあった。

 ハグとキスの嵐だったわ。


「いや……レオン。ほんとおまえ……大したヤツだよ……」


 一部始終を見ていたデネブ兄さんが、感心したようにつぶやく。


「腕が生えるなんて治癒魔法、見たことない……」


「え? そうなん?」


 俺が剣聖だった時代には、それくらいの治癒の使い手は居たけど?


【解。マスターが一度目に異世界に来たときは、まだ魔法が衰退していなかった時期だと推察されます】


 衰退? 魔法って衰退してるの?


【是。マスターが剣聖だった時代は、戦乱の世と呼ばれております。あちこちで戦が絶えず、その結果剣や魔法と言った戦闘技術が発達していました。しかし、今は比較的平和な世の中。戦う必要がなくなり、必然的に魔法や剣術のレベルが、マスターが剣聖だった頃よりも衰えているのです】


 ま、まじか……一度目に俺がいた時代って、ヤバい時代だったんだな?


【是。激やばです】


 よく生きてられたな、一度目の俺……。

 魔法が使えなかったのに……


「ごしゅじんさまっ!」


 キツネ獣人の子が、ニコッと笑う。


「わたしたちたすけてくださって、ありがとー!」


 キツネの子をはじめとした、30人の奴隷達がみな、俺の前で跪く。


「あたいら、坊ちゃまに絶対の忠誠を誓うぜ」


 蜥蜴人の女が、力強くうなずいて言う。


「うちら、たとえこの奴隷の契約がなかったとしても、命の恩人である旦那様に、一生かけて恩を返すつもりやで」


 女馬人セントールは、胸に手を当てて、宣言する。


 ほかの奴隷達も同意見なのか、何度も何度も、うなずく。


「さすがだなレオン。こんなたくさんの奴隷の心を、一瞬で掌握しちまうんだからよ」


 デネブが俺を頭をわしゃっ、となでる。


 まあ、何はともあれ、人手不足は解消したな、いちおうは。

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