22.安い奴隷を仕入れて、治癒する
俺たちは、ギルド運営をしていく上で、秘密を守れる存在……奴隷を買うことにした。
王都で一番という奴隷商人のもとへ来た次第。
「ふぉっふぉっふぉ、これはこれはデネブ殿下。それに、レオンハルト殿下ではありませんか~?」
応接ルームにやってきたのは、この館の主である男。
……なんか、ボールみたいな見た目してる。
鷲鼻にメガネ、シルクハットをつけたボールみたい。
「【ボゥルマン】。久しぶりだな」
いやボゥルマンて。
見たまんまかい!
「我が商館に来てくださり誠にありがとうございます……。それで、今日は
ボゥルマンがニィ……と笑って言う。
邪悪すぎんぞ見た目が。
てか、なんで知ってるんだ?
「落ち着けレオン。こいつは信用できる優秀な商人だ。他に情報をもらすようなバカなことはしない」
「ええ、ええ、そうですともぉ。ワタクシめらは信用第一ですからなぁ」
完全に見た目悪役……というかザコ敵なんだけどな。
デネブ兄さんが選んだってことは、信用に足りる人物なんだろう。
「若い労働力が欲しい。簡単に壊れない奴隷をくれ」
「かしこまりました~。では、連れて参りますので、お待ちください~」
ボゥルマンが部屋を出て行く。
ソファに座って、俺達は待っている。
「奴隷って、値段どれくらいなんだ、デネブ兄さん?」
「ピンキリだな。男女ともに言えるのは、若ければ高く売れる。また男なら力強さ、女なら見た目がよければ高い」
「ふーん……じゃあ逆に、病気してたり、怪我してたりする奴隷って安いの?」
「そりゃあな。ただ安く買ったとしても使えないと意味が無いがね」
そりゃそうだ。
労働力目当てで買うのに、まともに動けない奴隷なんて買っても……。
ん?
今、なんかひらめいたな……。
「お待たせいたしましたぁ。若く、見栄えのいい女奴隷を連れてまいりましたぞぉ」
ボゥルマンが連れてきたのは、どの子も結構いい見た目してる。
「ほほぉ……どれも捨てがたいな。どう思う、レオン?」
ふがふが、とデネブ兄さんが鼻息荒く言う。
そーいや結構好色だったな、この人。
「別に、どうでも」
俺はまあ……魔法以外に興味ないんで今んところね。
「こちら料金表になりまするぅ」
ボゥルマンから料金の書かれた羊皮紙を渡される。
広げて……兄さんが絶句する。
「おいおい、足元見すぎじゃあないか……高すぎるぞ」
俺も手元をのぞき込む。
……マジか。普通に車一台分とか、平気でするぞ。
「奴隷は貴族の威厳を知らしめるアイテムの一つですからなぁ。王族にふさわさしい奴隷となれば、それなりの見栄え、そして、それなりのお値段がかかるというものですよぉ~」
「チッ……金持ってそうだからって、こんな高いもん持ってきやがって……」
親父から資金援助を受けられはする。
だが、できればそんなにもらいたくない。
王子の中で1人だけひいきしてもらうわけにはいかないからな。
気が引けるし。
「何人か買うつもりだったが……このレベルだと、今の手持ちじゃ1人が限界か……かといってランクを下げるのも……ぐぬぬ……」
兄さんが困っている一方で、俺は手を上げていう。
「あのー。ボゥルマン?」
「なんでございましょうか、レオン殿下?」
「安い奴隷でいいから、紹介してくれない?」
これにはデネブ、そしてボゥルマンも、目を丸くしていた。
「おいレオン……安い奴隷って……」
「たとえば病気とか、怪我とかして、商品にならなそうな奴隷。いるんだろ?」
「え、ええ……しかし殿下。そのものらはあまり、いえ、かなり状態が悪いですぞぉ……? 労働力になりませんしぃ。何より王家の威信を下げることになりますよお」
心配そうなボゥルマンに、俺が言う。
「その辺問題ない。安い奴隷、ちょーだい」
★
後日。
俺の屋敷にて。
ボゥルマンが、馬車のたくさん連れて、俺の元へやってきた。
「こちらがお望みの商品でございます……が、本当によろしいのですかぁ?」
馬車から降りてきた奴隷達は……。
みな、どこかに異常を抱えている。
たとえば、腕がないもの。
亜人種もいる。翼人だろうか。けれど翼がもがれてる。
エルフっぽい子もいるが、顔の皮膚が
総勢……30人。
けれどどの子も売れないということで、かなり安く、手持ちの資金で買うことができた。
「これで問題なし。ありがとうな」
「……ご参考までに、殿下。このモノらを、どうするのかお聞きしても、よろしいですかぁ?」
俺の後でデネブ兄さんが何か言いたげだ。
わかってるって。
「申し訳ないが手の内はさらせないな……まあ、手入れだって言っとくよ」
「……なるほど。さすが殿下。ご懸命でございます」
ぺこっ、とボゥルマンが頭を下げる。
「ではこれにて失礼します。【また】……お待ちしてますね」
ボゥルマンが確信めいた感じで言うと、去って行く。
ミリアに頼んで、屋敷の中に奴隷達を入れてもらう。
「レオン。どうするんだ、こいつら? まともに仕事なんてできないぞ?」
館のホールに集まっているのは、奴隷達。
年齢はみな若く、全員共通して何らかの不具合がある。
「まあ見てなって……ええっと、君、ちょっと来て」
「……は、はい」
キツネ獣人の女の子が、びくんっ、と体を震わせながら、こっちに来る。
見た目は普通の幼い子に、狐のパーツがついてる感じ。
とは言え……。
「これは……酷いな」
モフモフだったろう尻尾の毛は、ほとんどむしられてる。
片耳が千切れて、髪の毛も乱暴に引き抜かれていた。
そして何より、
「キツネちゃん。大丈夫。痛くしないから」
「…………」
俺が7歳……子供ってのもあるのか、少しだけ、警戒を解いてくれた。
「よっし、始めるか!」
俺は両手を広げる。
「【
その瞬間、俺の背後に、巨大な天使が出現する。
ふぅ……と吐息を吹きかける。
すると……。
バサッ……!
「! す、すごい……! 耳が! 尻尾が……生えてる!」
キツネ獣人の子が、新しく生えてきたパーツを見て、驚愕の表情を浮かべた。
「どうして……?」
びっくりしてる獣人のこの頭を、俺が撫でる。
「良かったなぁ」
「う……ぐす……うわぁああああん!」
むぎゅっ、と女の子が俺を抱きしめてくる。
「ありがとぉ! ありがとぉ! だんなさまぁ!」
一方でデネブ兄さんが、感心したようにつぶやく。
「なるほど……! そういうことかっ。レオン、さすがだな!」
にやり、と兄さんが笑う。
「安く売ってる奴隷を買い、レオンの治癒魔法で治す! そうすれば、若い奴隷が安く手に入るってことか!」
「そーゆーこと。俺は魔法の練習にもなるし、人材も確保できるしで、良いことづくし」
兄さんが感心したようにうなずく。
そして、残り29人の奴隷達が、俺を見ている。
「安心しなって。みんなに治癒魔法、かけてあげるからさ」
ワッ……! と奴隷達が歓声を上げる。
「良いのかレオン? こんな凄い治癒魔法……魔力もかなり食うだろう。足りるのか?」
デネブの問いかけに俺が答える。
「問題ないよ。確かに大天使息吹は結構魔力食うけど、今の俺の魔力量なら問題ない」
むしろ魔力を伸ばすのにも、役に立つしね。
子供の時期は、魔力は使えば使った分だけ増える。
最近はちょっと自己鍛錬しすぎちゃって、魔力を使い切れなくなってるんだよね(魔王には魔力消費を手伝ってもらってる)。
そこに、魔力をかなり消費する治癒魔法を使える相手が、現れた。
ほんと、一石二鳥どころか、三鳥だ。
「凄いアイディアを思いついて、しかも実行できるだけの力を持ち、さらにそれが自己鍛錬にも繋がる……まったく、我が弟ながら、末恐ろしいやつだよ」
デネブが俺の頭をわしわしと撫でる。
「つまり?」
「お前は凄いヤツだってことだよ、レオン」
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