21.奴隷を買いましょう



 王城で、俺は家族達と食事会をしている。


「まぁ♡ 美味♡ とっても美味ですわ♡ このデザート!」


 食堂に集まっているのは、親父と14人の王子たちだけ。


 第二王子ステファニー姉さんが上手そうに食べているのは、俺お手製のデザートだ。


「レオン! この美味なる菓子、なんというのですのっ?」


「アイスクリームだよ、ステファニー姉さん」


「まぁ! アイスクリーム! なんと……なんと美味しいのでしょう! こんな美味しいデザート、生まれて初めて食べますわー!」


 ぱくぱく、と姉さんがアイスクリームに舌鼓を打つ。


 この世界では甘味がほとんど発展してない。


 まあ砂糖が高級品だからだろう。


「美味しすぎます!」「冷たくって甘くって最高じゃない!」「……おかわり」


「「「わたしもおかわりー!」」」


 姉さんたちが全員、凄い勢いで食べ終えて、2杯目を要求する。


「ミリア。おかわり持ってきて」

 

 後で黙って控えていたミリアが、うなずくと、いったん厨房へと戻る。


「レオンはすごいですわ! 強いだけでなく、こんな美味しいデザートまで開発するなんて!」


 ステファニー姉さんを初めとした、女性陣がうんうんとうなずく。


 女は甘いもの好きだからな。


 ほどなくして、ミリアがおかわりを持ってくる。


 姉さん達は一瞬で食べ終わると……。


「「「おかわりー!」」」


「ごめん、おかわりは2杯分しかないから」


「「「ええー!?」」」


 絶望の表情を浮かべる姉さん達が、なんだか面白かった。


「どうしてですの! こんな美味しいの……もっともっと食べたいですわ!」


「作れるやつがいないんだよ」


 現状、デザートのメニューはココとミリア、そば付きメイド2名にしか教えてない。


「なんでですの? レシピを教えて、料理人に作らせればよいのでは?」


「うーん、そうなんだけど……デネブ兄さんがさぁ~」


 一方でデネブがフンッ、と鼻を鳴らしていう。


「レシピを教えられるわけないだろ」


「あら、どうしてそんなけちくさいことをするのですの? 美味しいものはみんなで共有した方がよいではありませんこと?」


 ねえ、とステファニー姉さんが言うと、他の姉さん達もうなずく。


 俺もまあ同意見なんだが……。


「アホ抜かせ。いいか、美味しいは、金になるんだよ」


 デネブが親指と人差し指で○を作り、ゲスイ顔を浮かべる。


「いつの時代も美味いモノを欲しがるやつは多い。特に貴族は美食を常に求めてる。そこにレオンお手製のアイスクリームを持っていく。くく……さぞ高く売れるだろうなぁ」


「まあデネブったら、お金儲けなんて企んでいらしたの?」


「当たり前だろ! 我ら【金色こんじき翼獅子よくじし】の、大事な資金になるんだからな!」


「こんじきの、よくじし?」


 はて、とステファニー姉さんが首をかしげる。


「レオンがギルドマスターを務める、魔道具師ギルドの名前だよ」


 先日俺は、宮廷魔道具師になった。

 そんで、ギルド教会にて、魔道具ギルドを立ち上げたのである。


 ギルド(会社)経営なんて、サラリーマンだった俺には無理。


 そこでアドバイザーとして、デネブ兄さんが務めてくれているのだ。


「金色の翼獅子はスタートしたばかりで、金がいる。資金繰りのために、現在あれこれ計画中だ。このデザートだってそうだ。金の種なんだよ」


 デネブがアイスクリームを手に取ろうとする。


 俺は、皿をひょいっと回収。


「れ、レオン……?」

「兄さん。リバウンド、教えたよね? 間食禁止だよ」


「ぐぬぅ……」


 取り上げたお皿を、俺はラファエルに上げる。


 ずっと物欲しそうにこっち見てたからな。

 奥ゆかしい我が弟は、姉たちと違って、欲しいものがあっても主張しないのである。


「ありがとうー、にいさまっ! だぁいすきっ♡」


 ラファエルが嬉しそうに、ぱくぱくとアイスを食べる。


「ま、まあとにかくだ。金の卵を産むレシピを、外に出すわけにはいかない。だからレシピを教える人数も最低限に絞ってる。レオンのメイドたちは、裏切ることはないからな」


「まあ……理屈はわかりましたわ。しかしこの先も、同じように秘密主義にしますの?」


 不満げにステファニーが言う。


「そりゃそうだ。レオンの持つ技術、知識は、どれもこの世界では大きな利益を出す。よく知らない一般人をやとって、情報漏洩なんてさせてみろ? ギルドの、ひいては国の大損害だ」


 まあデネブが言いたいことをだいたい言ってくれたので、俺は特に何も言わない。


「でもデネブ? それじゃあ手が足りないのではありませんの?」


「そうです、デネブにいさま」


 アイスを完食したラファエルが、デネブに尋ねる。


「レオンにいさまの素晴らしい魔道具の数々は、作るのにかなり人手と時間がいます。今もかなりの注文が来てる状況で、人を雇えない状況は……まずいのではありませんか? 職人もですが、それ以外の販売等のスタッフが、足りてないかと」


 ニッ、とデネブが笑う。


「ラファエルは賢いな。レオンほどじゃあないが、5歳でその頭の回転の速さなら上出来だ。大人になったら金色の翼獅子で雇ってやろう」


 ナイスデネブ兄さん。

 それは俺も賛成だ。


「人手はいる。しかも性急に。しかしおいそれと情報をもらすようなヤツは雇えない。となると……方法は一つしかないだろう?」


「デネブ兄さん、マジでやるの?」


 正直あんまやりたくないんだけどなぁ。


 だって魔法に関係ないし。


「当たり前だろ。この国じゃ、当たり前に取引されてる【商品】なんだぜ?」


「何を考えてますの、デネブ? 商品とは……?」


 ステファニーに対して、デネブはこう言った。


「奴隷を、買うんだよ」


    ★


 奴隷。

 ファンタジーものじゃあ、当たり前のように出てくる存在。


 この異世界においても、普通に取引されてる。


 デネブ曰く、金持ちの貴族達は、自らの権威を知らしめるために、たくさんの奴隷を抱えているらしい。


「奴隷なー……気乗りしないよ俺」


 俺とデネブ兄さんは、馬車に乗って、王都の町を進んでいく、


「なんだ、可哀想とか言うのかレオン?」


「そりゃ……まあ」


 感覚が異世界人の兄貴と違って、俺はついこの間まで異世界でサラリーマンしてた。


 まあ、一度この世界に来たことがありはした。


 けどそのときには剣聖としての仕事で忙しく、あんまり世の中のことを知らなかった。


 というか、一度目は生まれが貧乏だったので、金持ちの生活基準とか常識を知らないんだよね、俺。


「奴隷はちゃんとしたビジネスだ。扱う側は金と、貴族とのコネクションが手に入る。売られる側は、自由は奪われるが最低限度の生活は保障される。どちらにも利がある」


「そりゃ……そうか」


 デネブが吐息をつくと、わしゃっ、と俺の頭を撫でる。


「おまえはそのままでいろ」


「そのまま……って?」


「どうにもおまえからは、この世界の人間じゃない【何か】を感じる」


 ドキッ……としてしまう。

 え、デネブ兄さん……気付いてるのか……?


 俺が、転生者だって?


【否。デネブの発言はあくまでも推測の域を脱しておりません。マスターが異世界転生者であることに、気付いてるものはこの世界にはまだおりません】


 回答者さん、サンキュー。


「ボクらとお前との間にある……認識や常識のズレ。それは武器になる。捨てるなよ、レオン」


「うん。わかった」


 ニッ、とデネブが笑うと、また俺の頭を撫でる。


「やはりレオンはさすがだな。強く賢いだけでなく、柔軟さも兼ね備えている。本気で王を狙った方がいいぞ?」


「いやいや……アルフォンス兄さんいるじゃんか」


「なら別の国に嫁ぐんだな。今度のお披露目会で、おそらくたくさんの国の王女たちが押し寄せてくるだろう。そいつと結ばれて成り上がってけば良い」


 俺はため息をついて首を振る。


「きょーみない」


 俺にとっての目下の関心事は、魔法。

 そして、新しく始めた、魔道具ギルドを上手くやっていくことだ。


 魔法を極めるのもまた楽しいことだが、新しい魔道具を作るのもまた楽しい。


 特にイヤミィが加わって、魔道具の可能性……魔法の可能性について、気付かされたからな。


【問。魔法の可能性とは?】


 おお、回答者さんが気になるとはっ。


 なになに、気になっちゃう?


【怒】


 お、怒るなって、そのうちわかるからさ。

 てか、回答者さんなんだか進化してない?


 自分から聞いてきたり、感情あらわにしたりさ。


【是。マスターが進化してるように、わたしも】


「ついたぞレオン。王都で一番の奴隷商の館だ」


 回答者さんからの回答は、もちろん。


【怒】

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