第三章 大注目の7歳児

20.食事会にて、兄姉達からも溺愛されてる



 ドワーフ国での出来事から、しばらくの後。


 俺はそろそろ7歳になる。


 この日、俺は王城へと足を運んでいた。


 年に数回、親父は王子こども達を集めて食事会をするのだ。


 親父は忙しい合間を縫ってでも、子供達と食事をしようとする、いい人なんだよね。


「よく集まった。みなが健康でなによりだ」


 王城にある、バカみたいに広い食堂にて。

 親父が、王子である俺たちを見回して言う。


 王子は全員で、14名(俺を含めて)。



 第一王子 アルフォンス。

 第三王子 デネブ。

 第十三王子 レオンハルト。

 第十四王子 ラファエル。


 この面子は頻繁に会っている。


 残りの兄姉たちとの関係も、まあ悪くはない。


 今日は全員が揃っていた。


「レオンハルト、聞きましたよ♡ ドワーフ国では大活躍だったのですってね」


 そう言って微笑むのは、ふわふわとした金髪の美女。


 第二王子ステファニー姉さんだ。


 歳は19。

 もう学校を卒業し、隣国に嫁いでいるため、滅多に実家に帰って来れない。


 ほわほわした笑顔と、豊満なバストが特徴的である。


「あんがと、ステファニー姉さん」


「国を救った英雄が弟だなんて……わたくし鼻が高いですわ。お城でね、みーんなに自慢してましたの。自慢の弟がいるんですのーって♡」


 にこにこーっと笑う姉さん。


 ステファニー姉さんは帝国の皇子と結婚した。


 つまり、帝国内では俺のウワサが広がっているのだろうか。


「あんまり広めないでいいよステファニー姉さん。俺、たいしたことしてないし」


「まぁ……! 国を救うことが、たいしたことないなんてッ! さすがレオンハルトですわ♡ もうすぐ7歳でこれは、将来が楽しみですわね~♡」


 ねー、と第二王子ステファニーが周りに同調を求める。


「うむ! そうだな!」


 真っ先に同意したのは、第一王子アルフォンス。


「やはりレオンは凄いぞ! 強く、勇ましく、そして弱者を思いやる優しい心を持つ! 立派だ! すごい!」


 兄貴に続いて同意したのは、我が弟のラファエルだ。


「魔銀竜を一撃で倒して! 困っているドワーフさんを助けたんですよねっ! さすがにいさまです!」


 ラファエルはかつて、心臓の病のせいで病床にずっと伏していた。


 だが俺が治癒魔法で治してからは、すっかり元気になった。


 今では俺から魔法を習って、特訓している。


 なかなかに才能がある、将来有望だな。


「ふふっ♡ みんなレオンハルトが大好きなのですわね~♡」


 にこにこー、とステファニー姉さんが微笑む。


「あら、デネブ? そう言えば、デネブはどこにいらっしゃるのかしら?」


 ふと、姉さんが周囲を見渡していう。


「かわいい子豚ちゃんが見当たらないのですわ……」


「おいおい、姉さん。どこに目をつけてるんだよ」


 俺の隣に座る……【シュッとした】イケメンが、呆れたように言う。


「ほえ……?」


 きょとん、とステファニーが目を丸くする。


「ど、どなたのですの……?」


 困惑する姉さん。

 はあ……とため息をついて、銀髪のイケメンが言う。


「ボクだよ、デネブ」


「え……ええええええええええ!?」


 驚くのも無理はない。


 ついこの間まで、デネブ兄さんは太っていた。


 しかし今はどうだろう。

 だらしなく突き出た腹はひっこみ、全体的にスマートな体型となっている。


「あ、ありえませんわっ! だ、だって……ついこの間まで、子豚ちゃんだったじゃないですのっ!」


「豚って……普通に傷つくんだがね。まあ否定はしないが」


 ステファニーを初めとした、姉たちが、興味深そうに変わり果てたデネブを見やる。


「い、いったいどうやって痩せたのですのっ!」


「レオンのおかげだよ」


 デネブが俺の頭に、ぽん……と手を乗せる。


「れ、レオンハルトっ? い、いったいどうやって、デネブをこんなスマートにしたのですのっ?」


 ずいっ、とステファニー、と姉さん達が身を乗り出す。


「おっとそいつは企業秘密だ。なあレオン?」


「え、食事制限とダイエットメニューのおかげだけど」


「「「食事制限? だいえっと?」」」


 はて……? と姉さん達が首をかしげる。


「食べる量を意図的に減らすんだ。それと食事の質だね。栄養バランスの良い食事メニューを考えるんだ」


「た、たったそれだけ……ですの?」


「うん。そんだけ。異世界の……こっちの食事って、どうしても偏るじゃん。だからもっとバランスを考えて食事をすれば、そんなに激しく動かなくても兄さんくらいにまで痩せられるよ」


 地球の知識を披露する。


 中世ファンタジー然としたこの世界において、ダイエットという概念・方法論は存在しない。


 そこに俺が現代知識を披露した。

 結果、姉さん達は愕然とする。


 一方でデネブ兄さんは、渋い顔をして言う。


「レオンおまえなぁ……なんで言っちゃうんだよ。それ……飯の種だぞ? 金になるんだぞ?」


 まあいつの時代も、ダイエット本は高く売れるからな。


「まあ別に良いじゃん、これくらい。家族なんだし、教えてもさ」


「そりゃあ……まあそうか」


 するとステファニー姉さんは立ち上がると、俺の元へやってきて、がしっと手を掴む。


「な、なに? ステファニー姉さん?」


「是非とも! そのダイエットメニューとやらを、教えてくださいまし!」


「う、うん……いいけど……」


 すると残りの姉たちもまた、ワッ、と押し寄せてくる。


「あたしにも教えて!」「……私も」「わたしもー!」


 王女たちの圧がやべえ。


「おまえたち。座りなさい。食事の最中だ」


「「「はい……お父様……」」」


 親父に言われて、姉さん達が席に戻る。


「デネブ兄さん、なんでみんなあんな熱心に聞いてきたのかな?」


「そりゃみんな、ボクがいかにおでぶだったか知ってるからだろ。特に運動せずここまで痩せられたんだ。自分もその技を習いたいって思うのは当然だろ。女は見た目を特に気にするからな」


 デネブはワインを優雅にあおりながら言う。


 ほぅ……とステファニーが吐息をつく。


「デネブ……あなた、昔のぷくぷく太っていた頃もかわいかったのに、痩せてるあなたはとっても素敵ですわね……♡」


「ど、どうも……」


 困惑顔のデネブ。

 ずっと太っちょだったらしいので、女の人から褒められて、とまどってるのだろう。


「うむ! 今のデネブは健康的でいいな!」


 ぐっ、とアルフォンスが親指を立てる。


「ありがとう、ナチュラルボーンイケメンにそう言われると、うれしいよ」


 皮肉めいた感じでデネブが言うと、アルフォンスが笑顔でうなずく。


「デネブが健康になったのも、レオンのおかげだな! やはりレオンはすごいな!」


 うんうん、とステファニーを初めとした姉さんたちがうなずく。


 アルフォンスが腕を組んで、こんなことを言う。


「竜も倒し、国も救い、兄弟思い! これはさぞ、【引く手あまた】であろうな!」


「引く手あまた……? なんのこっちゃ」


 きょとん、とアルフォンスと、姉さん達が目を丸くする。


「あら、お父様。レオンは知らないのです?」


 黙ってにこやかに食事をしていた親父が、こくりとうなずく。


「そうだな。レオンハルトは毎日忙しそうで、話す機会が無かったからな」


「なんだよ、父上。何の話?」


「婚約者のことだ」


「婚約者……?」


 ステファニー姉さんがうなずいて説明する。


「王族ですとだいたいみんな、7歳になると、婚約者がつくのですわ」


「おれもステファニーも、7歳の頃だったな!」


 第一第二王子が、うんうん、とうなずきあう。


「ボクも……まあそんなもんだったかな」


「ええ!? デネブ兄さん、婚約者いたの!?」


「そりゃいるだろ……王子だぞ、ボクだって。まあ太ってたけどさ……」


 そ、そう言えばそうか……。


「そうかー……婚約者かー……王族ってもれなく婚約者がついてくるのか。すごいなー」


「「「いやいやいや」」」


 兄さん姉さん達が首を振る。


「なに他人事みたいに言ってるんだよおまえ……」


 デネブが呆れたようにつぶやく。


「お前の話だろうが」

「え……? 婚約者って……俺の!?」

「他に誰がいるんだよ……もうすぐ7歳だろうがおまえ」



 こっちに転生して、もう7年!?

 早くない!?


【是】


 マジかー……。

 なんか毎日忙しくしてるから、時間が経つの忘れちゃうわな。


「7歳になりますと、お披露目がありますわね」


 ステファニー姉さんが説明する。


「お披露目……?」


「あなたの誕生日に国中の貴族を集めて、レオンハルトを紹介するのですわ。そのときに、婚約者候補が来ますので、その中から選ぶのですわ」


「そ、そういう仕組みなんですか、王族って……」


 すげえな。誕生日も規模がデケえ。


「別に婚約者なんていらないんだけど」


 魔法を学ぶので忙しいし、楽しいし。


 デネブがため息をついて言う。


「アホ抜かせ。所帯を持って子を残すことも、王族の勤めだぞ」


「兄さんは子供いつできるの?」


「うぐ……! そ、そのうちな……ボクのフィアンセが、ここ最近までボクに抱かれるの拒んでてさ……」


 なるほど……太っちょだったからか。


「まあでも、最近はおまえのおかげで、夫婦仲も円満だよ。ほんと、ありがとうな、レオン」


 にっ、と笑って、デネブが俺の頭を撫でる。


「むぅ! ずるいぞ! デネブ! おれもレオンをなでたい! 席を替わるがいい!」


 アルフォンスが立ち上がって、デネブ兄さんを指さす。


「悪いねアルフォンス。こいつの隣はボクの席だ」


「ぬぅ……! ではラファエル! 代わってくれ!」


 逆サイドに座るラファエルが、ぷるぷると首を振る。


 きゅっ、と抱きしめてくる。


「いやです! にいさまは、ゆずりません!」


「ぐぬー! おれだってレオンハルトのことが好きなのにー!」


 すると向かい側に座っていた、姉さん達が言う。


「ちょっとデネブ、ラファエル、ずるいわよ!」


「そうです、私たちだってレオンを抱っこしてぎゅーとかしたいんですからね!」


 ぎゃあぎゃあ、とケンカする姉さんと兄さん。


 俺を巡っての争いとか……みんな弟のこと好きすぎるだろ。


 ごほん……と父上が咳払いをすると、兄さん達が席に座る。


「レオンハルトよ。まもなくお披露目会がある。ゆめゆめ、準備を怠るなよ?」


「は、はあ……」


 しかし婚約者か……ううーん……どうでもいいなぁ。

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