19.ドワーフ国王から救国の英雄扱いされる



 イヤミィの悪だくみを、意図せず暴いた俺……。


 その後、俺たちはドワーフ国王の前にやってきた。


 ここはドワーフ国の王城、謁見の間。


「話は聞かせてもらったぞ……イヤミィ。貴様、私欲のために、我が国の至宝を追い出そうとしたのだとな……」


 玉座に座るドランゴス王が、跪いてるイヤミィをにらみつける。


「ち、違うんです……これは……違うんですぅ……」


「何が違う? 無理難題をふっかけて、タタラの信用を落とそうとしたのではないか」


「それは……そのぉ……」


 大汗をだらだらとかき、イヤミィが今にも消え入りそうな声で言う。


「……すみません、でした」


 罪を認めたことで、ドワンゴス王がため息をつく。


「貴様、そんなにタタラが目障りか?」


「タタラは……良い職人です。ですが、こだわりが強すぎます!」


 イヤミィが声を荒らげる。


「大量生産、大量消費の現代において、手の遅いタタラにおんぶにだっこでは! 我が国は他国に後れを取ってしまいます!」


 タタラは鼻を鳴らす。


「フンッ。白々しい。……まあ、否定はせんがな。こだわりが強くて何が悪いんだよ」


 イヤミィはタタラをにらみつける。


「貴様のようなやつが、伝説だのと持てはやされた結果、現在の我が国の窮状ができあがっているのだ!」


「窮状?」 


【解。現在こ】


「現在我の国は、魔銀竜の脅威によって、経済に深い打撃を与えられております!」


【…………】


 イヤミィに遮られて、回答者さんが凹んでた。


 解説しようとしていたのに……。

 ど、ドンマイ……。


「魔銀竜を倒すためには、強い冒険者が、強い武器を備え、大量に人員を投入する必要がある! だのに! この頑固じじいときたら! 国がこんな危機的状況かにおいても、武器の生産に時間をかける始末!」


 ビシッ! とイヤミィがタタラを指さす。

「我が国のがんなのだ、タタラ! 貴様は出て行け!」


「あー……盛り上がってるとこ悪いんだけどさ」


 俺が手を上げる。


「なんだ、レオンハルトよ。申してみよ」


魔銀竜ミスリル・ドラゴン、俺が倒したよ?」


「「「……………………は?」」」


 これにはタタラ、グレイス達、イヤミィ……そして、ドワンゴス王すらも、驚いていた。


「な、何をバカな……! ま、魔銀竜を倒しただと!? 貴様のようなガキが!?」


 イヤミィが俺を見て声を荒らげる。


「嘘をつくな!」


「嘘じゃないって、なあ?」


 俺はウェンディとミリアを見る。


 彼女たちがこくこく、とうなずく。


 二人の反応を見て、グレイスは驚愕の表情を浮かべる。


「そ、それが本当なら大したもんだよ……。でも、坊や、いくらアタシでも、証拠も無しにそれを信じられないな」


「そ、そうだぁ! 証拠を見せろ証拠をぉ!」


 回答者さん。保存している【あれ】って、まだ原形とどめてる?


【解。ミスリルの鱗を何枚か失ってますが、原形はとどめております。取り出しますか?】


 もちろん、イエスだ。


 俺は収納魔法の管理を、回答者さんに任せている。


 何でもしまえるこの収納魔法、面倒なのは管理だ。


 取り出したいと思ったときに、いちいち中をあさらないといけない。


 けれど俺には回答者さんがいる。

 俺が欲しいものを言うだけで、こうして出してくれるのだ……。


 シュンッ……!


 ドサッ……!


「んなっ!? ななっ! み、魔銀竜ミスリル・ドラゴンぅううううううううううううう!?」


 イヤミィの絶叫が、謁見の間のホールに響く。


 俺たちを遠巻きに見ていた騎士達が、ざわつきだす。


「本物か!?」「いや嘘だろ!」「でもあの姿は……たしかに魔銀竜だぞ!?」「あの子はどこから取り出したんだ!?」


 ざわ……ざわざわ……。


「れ、レオンハルトよ……説明を、頼む」


 冷静沈着なドランゴスが、なんか動揺している。


 なんでじゃろう?


【解。………………】


 回答者さん? もしもし?


【解。………………】


 あ、さっき邪魔されて拗ねてるのか。

 ごめんって、な? そんなことで拗ねるなって。


「レオンハルトよ?」


「あ、うん。えっとさっき、タタラのもとへいったときに、ウェンディに魔銀竜のこと教えてもらってさ。ちょっと倒してきた」


 こんなもんだよな?


【否。重要な部分がいくつも抜けてます】


 え、そう?


【是】


 しかし……。


「素晴らしいぞ、レオンハルトよ!」


 ドワンゴス王は立ち上がると、俺の側までやってきて、手をガシッと掴む。


「感謝する! 我が国の救世主、レオンハルトよ!」


「はえ? 救世主……?」


 困惑する俺をよそに……。


「「「うぉおおおおおおおおお!」」」


 騎士達が、なんかめっちゃ喜んでるんですけど!


「坊や! ありがとう!」


 グレイスもまた、俺のもとへやってきて、頭を下げる。


「坊やのおかげで、国家存亡の危機が回避されたんだよ!」


「ど、どゆこと……?」


 回答者さん! 出番ですよ!


【解。ドワーフの国カイ・パゴスは魔銀の産出国として有名です。この国の経済を支える大きな柱の1本だったのです。しかし最近魔銀竜が鉱山を占拠したことによって、収入が激減。さらに輸入予定だった魔銀が輸出できないことによる慰謝料によりドワーフ国は危機を迎えていたのです】


 え、そ、そうだったの……?


 思ったより、ヤバい状況だったのか!


 え、てか……それじゃあ、魔銀竜を倒した俺って……?


【解。これで元の通り魔銀を輸出できるようになりました。マスターは国を救ったのです】


 まじかいな……!


「やはり、さすがだなレオンハルトよ」


 深々と、ドワンゴスがうなずく。


「そなたの父より、我が国に息子を寄越すと聞いたときは、なにをしに来るのだと思ったのだが……我が国の問題を解決するため、英雄を寄越していたのだな……」


 いや、単に魔道具作りの資材と人材が欲しかっただけなんですけど……。


 グレイスがうなずいて言う。


「本来ならSランクパーティであるアタシらが赴く予定だったんだけど、アタシらが力不足とわかったからか、先に竜の元へいって倒してくれたんだな!」


 いや、単に魔銀竜の使う魔法が見たくて、見に行っただけだし……。


 え、全部俺のためにやったことなのに、なんでこんなに、感謝されてるわけ?


【解。よそから見ると、マスターは国の危機を察知し、国外からわざわざ助太刀に来た、英雄というふうに見えています】


 マジぃ……!?


【是。マジです】


 ドワンゴスは目に涙を浮かべながら、大きな体で、何度も頭を下げる。


「感謝する、レオンハルト。我らがドワーフの英雄よ」


「あ、いやぁ~……あはは、どーもどーも」


 なんか否定するのも面倒だし、そういうことにしとくか。


「ま、まあその……とりあえず魔銀竜退治の件はおいといてさ。今後の話ししようよ」


 俺たちはもう一度落ち着いて、話すことにする。


「まずはイヤミィよ。貴様の処遇を言い渡す」


「はい……」


 魔銀竜退治という大義名分を失った以上、イヤミィのやった行為は、許されないだろうなぁ。


「貴様を国外追放とする」

「はい……わかりました……」


「そしてレオンハルト【殿】の元へ行くのだ」


「はい……って、え?」


 ぽかん……とイヤミィが口を開く。


「お、王よ……今なんと?」

「貴様の魔道具師としての腕を、レオンハルト殿のもとで振るうのだ」


 あれ? 

 なんかドワーフ王さん、俺に【殿】とかつけてない?


【是。国を救った英雄なのです。敬称をつけるのは当然かと思います】


 ううーん……そういうもんかねえ。


「お、王よ……わ、わたくしを許してくださるのですか?」


「国を思ってのことだったのだろう? 

ならば許そう。我らの英雄を支える大命、しっかりと果たしてくるのだぞ」


 我らの英雄? 大命?


【解。マスターのことかと】


 ああそうですか……。


「ははー! 必ずや、我が国のため、そして、国を救った英雄のために、このイヤミィ、全力を尽くします!」


 えー……と、まあいいか。

 イヤミィは魔道具師として普通に優秀だったしな。


「あー、王よ。ちょっといいか?」

「なんだ、タタラ?」


 タタラは手を上げて言う。


「わしも、この国を出て行こうと思う」

「え、マジ?」


 俺が言うと、タタラがうなずく。


「イヤミィの言ったことに……腹が立ったわい。じゃが……わしが古い時代のドワーフだってことは、正論じゃった」


「タタラ……」


 イヤミィを見て、ふんっ、とタタラが鼻を鳴らす。


「わしがいるとこの国の邪魔をする。じゃから出て行く」


 ぐわっ、と腕を広げて、ガシッ! と俺の首の後ろに、腕を回す。


「そしてこのボウズを支えることにしよう」


「へ? タタラじいさん……俺んとこ、来るの?」


 ニッ、とじいさんが笑う。


「おうよ。貴様、職人を探していたのだろう? ならわしと孫のウェンディが、役に立つだろう?」


「え、ええ!? おじいちゃん、アタシもー!?」


 後ろで我関せずに居たウェンディが、驚いて言う。


「無論じゃ。貴様がおらんで、わしが仕事できると思っておるのか?」


「いやまあ……いいけど……でも外国かぁ~……不安だなぁ。ここよりも寒かったらどうしよう。アタシ冷え性なのに……」


 するとミリアが、ウェンディに耳打ちする。


「ゲータ・ニィガ王国はここより温かく、四季の変化があって過ごしやすいです」


「あ、じゃあいきます!」


 これで俺のもとへ来るのが、イヤミィとタタラ、そしてウェンディの3人になった。


「じゃあ、アタシもついてくよ」


「え、グレイスさんも……?」


 ニッ、と笑う。


「ドワーフ国との友好の使者ってことで、【王女】のアタシがいくのは、良い案だと思わないかい、親父殿?」


「え、ええ!? お、王女ぉ!?」


 そうなの回答者さん!?


【是。グレイスはドワーフ国王ドワンゴスの娘です。Sランク冒険者としても有名です】


 まじかいな……。

 俺、なんか知らないことだらけだな。


【是。魔法以外にももう少し興味を持つべきかと】


 ドワンゴス王は深々とうなずく。


「レオンハルト殿よ。我が国を救った英雄よ。我らドワーフは貴殿に最上の感謝をささげるとともに、そなたにこの身と敬意を捧げることを誓おう」


 え、ええーっと……。


 とりあえず、今回の遠征……成功って、ことでいいのかな?


【是。大成功でしょう。ドワーフ国との友好関係を築き、腕の良い職人を手に入れたのですから】


 まあ……色々あったけど……うん。


 一件落着って、ことで!



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【★あとがき】


これにて2章、終了です。

次回から新しい展開に入ってきます。


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