18.魔銀の剣を大量生産して驚かれる
俺は
はー、いい魔法教えてもらった!
鍛冶師のウェンディとともに、本来のも解く敵である、スカウト活動へと戻る。
ウェンディのじいさん、タタラの工房にて。
俺が戻ると、ちょうどタタラは剣をしあげて、少し暇になっていたらしい。
「はじめまして! 俺はレオンハルト!」
「ふん……で、わしに何の用事じゃ?」
「おじいちゃんっ、お客さんに失礼だよ! 相手は王子様なんだしっ」
ウェンディが注意するも、タタラじいさんは知らん顔。
……というか、タタラはドワーフっぽいのに、ウェンディは人間だよな、どう見ても?
【是】
あ、やっぱりか。
拾われ子って感じかなぁ。
「それでガキ、なにをしに来た? わしは忙しいんだ。今日中に
「ほぅ……そりゃあ邪魔して悪かったな」
タタラはきょとん、と目を点にする。
だが……ふんっ、と鼻を鳴らす。
「王族というから、どんな偉そうなガキがくるかと思ったら……思ったよりは礼儀正しいじゃないか」
「そりゃあどうも。忙しいなら出直すけど……今日中に10本って作れるもんなの?」
俺が最初にここへ来たとき、タタラは剣を作ってる最中だった。
それから1本をようやくしあげたと考えると、今日中は難しいよな?
【是。タタラの能力値を加味すると、少なくとも10日はかかると推測されます】
回答者さんの見立てだとあと10日もかかる作業を、1日で?
「無茶な注文だなぁ」
「まったくだ……! あのくそイヤミィめ!」
イヤミィとは、現宮廷魔道具師の、悪人の顔つきの男だ。
「なんでイヤミィが出てくるんだ」
「あの男がわしに、急に魔銀の剣を作れと頼んできたのだ。【討伐】に必要だからとな!」
ふーん、討伐ねえ。
何か倒しにいくのかな。
「もう、おじいちゃんってば……無茶な注文を、受けちゃうんだから……」
孫娘のウェンディは、無茶だってわかってたみたい。
「ふん! あのくそイヤミィのやつ、わしを馬鹿にしてきよって! なにが【おやおや、かつての名匠も落ちたものですなぁ!】だ! くそっ! 腹立つ!」
どうやらイヤミィからの嫌がらせを受けていたらしい。
このじいさん、感情的になりやすいもんなぁ。
「実際終わるの、その仕事?」
「終わるわい!」
「でも1日に1本の剣を、あと10本て無理くさくね?」
「うぐ……それは……」
どうやらじいさんは困ってる様子だ。
どうにかできないもんかね?
【解。可能です】
お、まじ? どうやるの?
【解。マスターが収納魔法で魔銀の剣を取り込みます。それを回答者であるわたしが解析。マスターの所有する魔銀を、全能者の力で再現します】
え、全能者ってそんなこともできるの!?
【是。元より全能者とは、マスターが見聞きした魔法等を、自分のものとして再現可能とする力があります。回答者、および鑑定魔法が加わることで、その再現力は完璧なものになります。素材は必要ですが】
ようするに素材があれば、俺が見聞きしたものを複製できるってことか?
【是】
す、すごいな……。
てかマジでできるのなら、試したい!
やっぱ新しい魔法が手には入ったら使ってみたいもんね!
「なあタタラじいさん、手伝ってやろうか?」
「なんじゃ、藪から棒に?」
「魔銀の剣、貸して。それを10本に増やしてみせるから」
ふんっ、とタタラが鼻を鳴らす。
「バカを言うな。魔銀は加工が難しいのだぞ? まともに扱えるのは、ドワーフでも数少ない。それをおぬしのような子供にできるはずがなかろうが」
「まーたしかにゼロから作るのは難しいけどさ、じいさんの剣があればそれを複製できる」
じっ……とタタラが俺の目を見る。
やっぱ、自分の剣を誰かに渡すのは、嫌か。
下手に触って、やっと作った剣を壊されたくないだろうし。
「ふん……良いだろう」
「お、おじいちゃん!? いいの!?」
「ああ。ウェンディ、工房からもってこい」
ウェンディが目を剥いて祖父を見ている。
だがうなずいて、奥の部屋へとひっこんだ。
「いいのか?」
「うむ。嘘をついてるようには見えなかったからな」
ほどなくして、ウェンディが剣を持って、俺に渡す。
「すごいことですよ、殿下。おじいちゃん、自分の作った剣を、納品まで絶対に、誰にも触らせないのに」
「なるほど……じゃあ、丁寧に扱わせてもらうよ」
俺は魔銀の剣を手に取る。
「【収納】」
しゅんっ、と剣が消える。
じいさんは目を丸くしていた。
だが、何も言わず、黙って俺の動向を見守っている。
剣をネコババする気がないことを、ちゃんとわかってるのだろう。
回答者、解析よろしく。
【是。タタラ製魔銀の剣の解析をはじめます。……………………成功しました】
よし、じゃあ俺の中の魔銀の鉱石を作って複製を開始。
【是。複製を開始します…………………………成功しました】
「どうじゃ?」
「ん。できたよ……ほら」
俺は収納魔法を使って、作ったばかりの、魔銀の剣を取り出す。
ガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッガシャッ…………
「な、なにこれぇええええええええええええええええええええ!?」
山と積まれた魔銀の剣を前に、ウェンディが驚愕の表情を浮かべる。
タタラも目を剥いて、山を見つめている。
「できばえ確認してくれない?」
「あ、ああ……」
近くにあった剣を2本、手に取って、タタラがつぶさに見やる。
「し、信じられん……! わしが打った剣が、寸分の狂いもなく、複製されてるだと!?」
ぶるぶる、とタタラが体を震わせて言う。
「そんな! おじいちゃんの剣を、完全再現できるなんて……!」
「え、なんかそんな凄いことなん?」
【是。鍛冶師の作る剣は、どれも人の手で作られております。現代日本のように科学が発展し、機械とコンピュータがないかぎり、量産は不可能。それは名匠と名高いタタラでさえも、同じこと。特にタタラの作る剣は能力値の高さもあって、並の職人では真似ることすら不可能とされます】
タタラは目を剥いて、俺の作った剣を見やる。
「全ての剣に同じ性能を持つ剣を、再現するなど人間業ではない……なにものなのだ、おぬしは?」
「え、ただの人間だけど?」
愕然とするタタラとウェンディ。
後ろでミリアが、うんうん、と感心したようにうなずき、手をたたく。
「さすがレオン様でございます」
と、そこへ……。
「タタラはいるかぁ~?」
「お店の方だ。あたし行ってくるね!」
たたっ、とウェンディが、店の方へと出て行く。
俺もタタラと一緒に、彼女の後へと続く……。
「って、あれ? グレイスも?」
「おお、坊やじゃないか。さっきぶりだな」
イヤミィの後ろには、グレイス達、冒険者パーティがいた。
「剣を納品してもらいにきたぞぉ!」
「なっ!? イヤミィさん! 納品は明日の予定ではありませんか!」
ウェンディの言葉に、にやり……とイヤミィが邪悪に笑う。
「おやおや、今日中に、という話であろう?」
今は朝の8時とかだ。
早すぎるだろ、来るの。
「名匠と名高いタタラであっても、剣をこの短期間に作ることは不可能であったか! くく……これは王に報告せねばなぁ~」
これ、イヤミィの嫌がらせだよな?
【是。イヤミィは王に気に入られてるタタラが気にくわない様子。タタラの信用を落として、自ら懇意にしてる鍛冶師を、王家御用達にしたい意図が推測されます】
なるほど、タタラとイヤミィはどう見ても馬が合わなそう。
つまり、美味しい思いができないわけだ。
ワイロ的なやつな。だからタタラを排除して、自分の息がかかってる鍛冶師を推薦したい……と。
ゲスなやつだ。
「さぁさぁ! 剣を納品してもらおうか!」
「…………」
タタラは黙りこくっている。
あれ、なんでだ? さっさと渡せば良いのに。
【解。タタラはマスターの作った剣を、渡したくないと推測されます。あくまでもあの剣は、作成者であるマスターのものであると】
「タタラ。俺のことは気にすんなって。あれはあんたを助けようと思って作ったもんだ。つまり、あんたのもんだよ」
「レオン……」
「まーどーしても気が引けるってんなら、そうだな、良い姉ちゃんのいるお店でも紹介してくれ」
ニッ、と笑うと、ばしっ、と俺の背中を叩く。
「イヤミィ。剣なら出来てる。全部な。レオン」
「あいよー」
俺は収納魔法でしまっておいた、魔銀の剣、100本を取り出す。
「「「ぇええええええええええ!?」」」
イヤミィと、グレイス達が、驚愕の表情を浮かべる。
「はい、ご注文の剣ですが……これで十分ですか~?」
「そ、そ、そんなバカなことがあるか! こ、こんなの……に、偽物だぁ!」
だが……。
グレイスは魔銀の剣を手に取って、目を剥く。
「いや、イヤミィさん。これ……ほんもんだよ。あたしにはわかる。魔銀の剣だ」
「う、うそだ……」
がくんっ、とイヤミィが膝をつく。
「こんな大量に、作れないはずがない……ないのに……なぜぇ~……」
情けなく涙を流すイヤミィに、俺は言う。
「今の発現、ちゃんと聞いたぜ? 最初っから無理難題だとわかってたってな」
ハッ……! とイヤミィが我に返る。
「ドワンゴスに報告させてもらうぜ?」
「そ、それだけは! それだけはご勘弁を~! 殿下ぁ……!」
涙を流しながら、イヤミィが泣きついてくる。
だがその手が折れに触れることはない。
がきんっ! と、イヤミィの手のすぐ近くに、剣がつきささったからだ。
「レオン様に、汚い手で触れるな……」
ミリアが怒りの表情を彼に向ける。
ぺたん……とその場で尻をつくイヤミィ。
「アタシたちもちゃーんと聞いたよ。イヤミィさん」
グレイス達も証人になってくれるみたいだ。
「とゆーわけで、断罪は逃れられないから」
「あ……ああ……」
がくんっ、とイヤミィが膝をつく。
タタラはニッ、と笑って俺に言う。
「ありがとう。カリが、できちまったな、小僧」
「なーに、気にすんな」
俺もまたニッと笑うのだった。
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