17.ドラゴンをワンパンする6歳児
俺は
見たことないモンスターだ。
未知の魔法を使うだろうからな!
あ、ついでに
鍛冶師の孫ウェンディに道案内してもらって、奥へと向かうのだった。
「ここが最奥部か……おお、あちこちに魔銀がある」
青みがかった美しい鉱石が、壁や床、天井から映えている。
……そして、魔銀に囲まれて、1匹の竜が座っていた。
『なんだ? 人間の子供……?』
「よぉ。俺はレオン。ちょっとお前の魔法見せてくれよ」
「ちょっ!? 殿下!? 相手は恐ろしい竜ですよ!?」
ウェンディが慌ててそう言う。
「え、そう?」
確かに見上げるくらいの大きさのドラゴンではあるが……特段怖い感じはしないな。
一度目のときは、このくらいの竜をバシバシ倒してたし、
「魔銀竜ってことは表皮も魔銀なのかな? どんな魔法使うんだろ~。楽しみ!」
『突然きて、無礼なガキだな……貴様』
魔銀竜が立ち上がると、俺にらみつける。
「ひぅ……」
くたぁ……とウェンディがその場でへたり込む。
メイドのミリアがそれを受け止める。
「ウェンディのこと、しっかり守ってろよ」
「承知しました……ですが、危ないと判断したら、何を放り出してもあなた様をお守りしますからね」
「はいはい。だいじょーぶ。んじゃよろしく」
俺はウェンディをミリアに任せ、魔銀竜のもとへと近づく。
『気に食わんな……この絶対者たる竜を前に、一切おびえを感じさせぬ、その態度』
じろりとにらみつけるが、別にまったく怖くないね。
『矮小なる人間よ。我が領地に土足で踏み入って、ただですむとは思うまいな? 我はガキだろうと、容赦はせぬぞ。やつらのようにな……』
魔銀竜が見やる先には、白骨死体が落ちていた。
「お前を討伐に来た冒険者達の骨ってか?」
『そうだ。人間とはかくも愚かとはな! 我の強さを知りながら、毎度毎度ここへエサとなりに来るのだからなぁ!』
ゲラゲラと笑う魔銀竜。
『小僧……貴様も我のエサに来たのかぁ?』
にぃ……と邪悪に笑う魔銀竜に、俺は言う。
「話長いよ」
ビキッ! と魔銀竜の表情がこわばる。
「俺の用事は、あんたの魔法を見せてもらうこと。あとはまぁ、ついでに魔銀ももらってかえろうかなーって」
『……この我の領土に踏み入り、食料を簒奪しようというのか。盗っ人猛々しいな貴様ぁ!』
「いや盗人っていうなら、おまえもだろう? この鉱山、もともとドワーフ国が運営してるもんだし。勝手に取るなよ」
俺と魔銀竜が会話してる様子を、離れたところで、ウェンディたちが見ている。
「す、すごい……殿下。あの恐ろしい竜を前に、平然と会話なさってるなんて……」
まあミリアが居れば大丈夫だろうと思って、俺は魔銀竜に言う。
「御託は良いから、ほら、侵入者を排除するんだろ? 見せてくれよ、なぁ、おまえの魔法をさぁ」
竜って言うとドラゴンブレスが基本だろう。
魔銀竜だとどんなブレスかなーたのしみだなー。
『……ここまで我をコケにしたのは、貴様が初めてだ』
「いやぁ、それほどでも」
『そんなに早死にしたいのであれば、よかろう! お望み通り殺してくれよう!』
魔銀竜が頭を落ち上げ、顎を大きく広げる。
やはりブレス系の魔法だな。
【告。魔銀竜は
『死ねぇえええええええええええい!』
大きく開いた口から、ブレスを放つ。
ただし通常の竜が放つブレスである、熱光線という感じではない。
何千何万という、魔銀の槍が、周囲一帯に向かって照射されているイメージだ。
ズドドドドドドドドッ…………!!!
『ふはは! バカなガキだ。魔銀は魔力を吸収する! たとえ魔法障壁であろうと、魔力を吸って無効化! このブレスを魔法で防ぐのは不可能!』
「へえ……! すげえ魔法だなぁ」
『な、なにぃいいいいいいいいいい!?』
なんかびっくりしてる魔銀竜をよそに、俺は見た魔法を振り返る。
「なるほど、生成魔法の一種なんだな。魔力から魔銀を作り出して射出。魔銀自体に魔力を通す性質があるから、相手の魔法障壁に張り巡らされてる魔力を食らって防御向こう攻撃するのかー。やるねー」
『あ、あ、ああ、あり得ない! 我の攻撃を、一体どうやって!? 障壁は無意味なのだぞ!?』
怯える魔銀竜は、首を振って言う。
『ま、まぐれだ! まぐれで当たらなかっただけだぁ! 死ねぇ! 【魔銀槍破】!』
さっきより大量の魔銀の槍を、竜が放つ。
だが……もうタネは割れてる。
雨あられのごとく降り注ぐ槍を……俺はその場で動かずに、上半身をねじるだけでかわす。
『なんだその動きはぁあああああああ!?』
障壁が通じないって事前にわかってたからな。
回避がベストだろう。
『竜のブレスを避けられる人間など、存在するわけがない!』
「え、ここにいるけど?」
『くそっ! 化け物めえ……!』
ちなみに背後を振り返ると、ミリアが双剣を手に持っていた。
射程外とはいえ、飛んできた槍を全部打ち落としていたらしい。
あの子も大概だよな。
「今のがおまえの固有魔法か? ありがとうな、魔力で魔銀作り放題になったよ」
俺は魔銀竜に近づく。
『ひ、ひぃいいい……! ち、近づくなぁあああああああ!』
どどどぅ……! と魔銀竜が魔銀を照射する。
だが俺はもう軌道を全て見切っている。
かつての俺は、魔力が一切ない代わりに、超人的な身体能力を有していた。
転生したこの体は、さすがに剣聖の頃と同じではない。魔力があるからだろう。
だが……この目は、剣聖のときと同じ眼をしている。
すなわち、超人の目。剣の達人には、あらゆる攻撃も、すべてスローモーションに見える。
そこに回答者さんのアシストが加わることで、俺は6歳の体で、かつての剣聖のような【見切り】が行えるのだ。
あっという間に、俺は魔銀竜の懐へと潜り込む。
『は、はんっ……! 回避が凄いだけだろう! 我の
「それはどうかな」
俺はトンっ……と魔銀竜の体に触れる。
「すぅー……はぁー……フンッ!」
俺は手のひらに、身体の中の魔力を一気に集中して、放つ。
魔力撃、という技術だ。
ばごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!
『そ、んな……ばか……な……』
魔銀竜の土手っ腹に、巨大な穴が開いている。
『あり……えない。魔法を無効化する……魔銀の鱗だぞ……? いったい、どんな魔法を使ったのだ……?』
「え、魔法じゃなくて、魔力だよ。純粋な魔力の塊を流し込んだだけ」
『それだけで……こんな破壊力が生まれるのか?』
「そうだよ。魔力は結構色々できるんだぜ。体を強化したり、こうして外に出して飛ばすこともな」
『だとしても、我を倒せた理由がわからん……』
倒れ臥す魔銀竜を見下ろしながら、俺は言う。
「魔銀は別に完全に魔力を無効化してるわけじゃない。キャパシティをオーバーした量の魔力を流せば、処理できなくなって、結果余剰魔力でダメージが通った……ってわけ」
ようするに、魔銀は完全無欠に、魔力を無効化できるわけじゃない。
無効化できる量が決まってるので、それを上回る魔力を流してダメージを入れた、ってこと。
『我が体表の魔銀を全て吹き飛ばすなんて……なんという……規格外の魔力量……』
「まあ小さい頃から魔力を増やすトレーニングしてたからな」
『そう……か……化け物……め……』
がくんっ、と魔銀竜が息絶える。
良い魔法を教えてもらった。
さらに魔銀を生成できるようになったしな。
「ありがとう! 魔銀竜! さ、帰ろーっと」
俺はきびすを返して、後ろで見ていたミリアたちの元へ行く。
ふたりとも無事のようだ。
ミリアがいたんだから、まあ大丈夫だとは思ってたし、俺には治癒魔法もあったからな。
「…………」
「討伐、おめでとうございます。さすがレオン様です」
ミリアが俺に拍手しながら言う。
一方で、ウェンディが唖然とした表情で、俺を見ていた。
「ん? どうした?」
「いえ……なんというか、すごすぎて……何も言えなくて……」
「そんな凄かったか、魔銀竜? まあ確かに魔銀を生成する竜ってすげえよな」
すると、ウェンディは、怒った調子で言う。
「いや! すごいのは、あなたですから! 殿下ぁ!」
え、俺?
「別に凄くないだろ、こんなの。普通だろ」
「いや凄いことですから! 魔銀竜はSランクパーティでも敵わない相手! それをワンパンとか、オカシイですからぁ!」
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