16.ミスリルの採掘へ



 ドワーフ国王であるドワンゴスとの謁見(と多少のバトル)を終えた俺。


 翌日、ドワンゴスの紹介で、何人かの職人ドワーフを連れてっていいことになった。


「気前がいいなぁ、ドワーフ王は」


 俺はカイの街をミリアと供に歩いていた。


「……おそらくレオン様と友好関係を結んでおきたいのでしょう。さすがです」


 ふふん、とミリアが胸を張る。


 俺に恩を売っておいて、魔道具ギルド立ち上げの時に、融通して欲しいってことだろうな。


 わかりやすくていい。


「なあミリア。ドワンゴスの言っていた、この国随一の鍛冶師の家って、まだつかないのか?」


 王城を出発してかなり時間が経つ。


「……どうやら街の外に住んでいるようです」


「ほぅ、偏屈じいさんのアロマ漂うな」


 街を出てしばらく歩く。

 雪のかぶった木々を抜けていくと、1件の山小屋を発見した。


 かーん……かーん……かーん……かーん……


「いかにも鍛冶屋って感じだな。いくか」


 俺はミリアを連れて小屋の中に入る。


「こんちはー」

「いらっしゃい!」

 

 出迎えてくれたのは、背の高い、快活そうな少女だった。


「あたしは【ウェンディ】! よろしく!」


 17歳くらいかな。

 長い金髪をポニーテールにして、ツナギを着ている。


「俺はレオン。こっちはミリア。ドワンゴス王の紹介で、国一番の鍛冶師に会いに来た」


「おじいちゃんのことね!」


 ぱぁ……とウェンディは表情を明るくすると、部屋の奥へと向かって叫ぶ。


「おじーちゃーん! おきゃくさーん!」


 かーん……かーん……かーん……かーん……


「レオン様が来ているのに、作業の手を止めないなんて。無礼なかたですね」


「あはは……おじいちゃんちょっと気難しいから」


 頑固な鍛冶師ドワーフか。

 かなり期待できそうだ。


 俺はウェンディとともに、店の奥へ向かう。


 凄まじい熱気が部屋の中に充満している。

 の前に座るのは、隻眼のドワーフだった。


「【タタラ】おじいちゃん! 客ぅ!」


「あー!? 邪魔すんじゃねえウェンディ! おりゃぁ今仕事中だぁ……!」


 かんかんかんかん!


「でもぉ! ドワンゴス王からの紹介できてるんだけどぉ!?」


「知らん! 待たせておけ! おりゃあ完成するまでてこでもうごかんぞぉ!」


 かんかんかんかんかん!


 どうやらタタラって鍛冶師のおっさんは、なかなかの頑固者みたいだ。


「すみません! おじいちゃんこーゆーひとでして……」


 もうしわけなさそうに、ウェンディが頭を下げる。


「いやいいよ。待たせてもらうな」


 俺はウェンディに連れられ、リビングへと移動。


 どうやらこの小屋が家と仕事場と兼ねているらしい。


「タタラじいさんは何作ってるんだ?」


「イヤミィさんからの依頼で、魔銀ミスリルのロングソードを作ってるんです」


 魔銀ミスリル


【解。魔法の伝達率が最も高い鉱石。ただし繊細な石であり、加工が最も難しいと言われています。魔道具作成に最も適してる】


 ほぉ! 鉱石っていろいろあるんだなぁ。

 魔銀……魔銀かぁ……。


「なんか欲しくなってきたな」


 より高品質の魔道具作れるっぽいし、待ってるのも性に合わない。


「なぁウェンディ。魔銀って譲ってもらえないか?」


「うーん……それはちょっと。イヤミィ様からの依頼で使う分しか」


「売ってるとこ知らない?」


「知ってますけど、今は魔銀が高騰してて、たくさんは買えないですよ?」


「ん? なんで高いんだよ」


 ウェンディが説明したところによると……。


 どうやら魔銀の採掘所が、モンスターに占拠されてしまっているそうだ。


「モンスターに占拠?」


「はい。魔銀竜ミスリル・ドラゴンというモンスターが、鉱山を巣にしてしまったんです。そのせいでおいそれと近づけなくって」


 ほほう、魔銀竜。

 聞いたことのないモンスター!


 ということは、聞いたことのない魔法を使うかも!


「ウェンディ、鉱山に案内って出来る?」


「え? そ、それは……まあ……。仕事柄あちこちの鉱山はいきますし……」


 よしよし、善は急げだ。


「んじゃいこっか」


「い、いく……とは?」


「え、魔銀竜のいる鉱山」


「ええええええええええええ!?」


 ウェンディが大声で驚く。


「な、何言ってるんですか!? 魔銀竜ですよ!? 有名なSランク冒険者パーティですら、苦戦してるって聞きます!」


「ふーん。そっか。じゃあ案内よろしく!」


「ええ!? 聞いてましたぁ!?」


「うん。聞いてた。でもまあ大丈夫でしょ。俺がいるし、ミリアもいるし」


 こくん、とミリアがうなずく。


 別に一人で行っても問題ないけど、ウルサいからね、うちのメイドさん。


「お、お強いんですか……?」

「おうよ」


 ウェンディは何度か躊躇した後、小さくうなずく。


「わかりました。御案内します」


    ★


 俺たちがやってきたのは、ウェンディ達のいる小屋から、さほど離れてない森の中。


 鉱山道の入り口の前に、俺たちは立っている。


「んじゃいきますか」


 俺が前へと進んでいこうとすると……。


「いやいや! ちょっと待ってくださいレオン殿下!」


 ウェンディが俺の肩を掴んで止める。


「メイドさんが先頭じゃないんですか!?」


「え、うん。ミリアはあくまで保険だから」


「え、ええぇええええ!?」


 さっきからメッチャ驚くな、この子。

 可愛い。


「ミリア。ウェンディを守れよ」

「承知しました。ウェンディ様もついでにお守りいたします」


「いやメインそっちだから。自分の身は自分で守れるから」


「……承知しました」


 すっごい不服そう……。


 俺はウェンディとともに、魔銀の鉱山へと入る。


 中は普通の鉱山って感じ。

 地面向きだし。トロッコのレールも引かれている。


「ギシャァアアアアアア!」


 なんか、クマみたいなモンスターが現れた。


「私が行きます」」


 ザンッ……! とミリアが一瞬で、クマを粉々に変える。


「ええええええええええええええ!?」


 ウェンディがまたも驚く。


「ちょっ!? ちょっとなんですか今のぉ!」


「え、ミリアが双剣でクマを切り刻んだだけだぞ?」


「クマって! あれは【死熊デスベア】ですよ!」


死熊デスベア?」


 こくこく、とウェンディがうなずく。


「Sランクモンスターです! それをあんな一瞬で倒しちゃうなんて……すごい……」


 だがミリアはクールな表情のまま、首を振る。


「私など、レオン様と比べたらまだまだです」


「え? ミリアさんよりレオン殿下の方が凄いって……いやいや! まさかでしょ……ねえ?」


 と、そのときだ。


 どどどっ、と地鳴りを起こしながら、何かが大軍で、押し寄せてくる。


「モンスターパレードかな?」


【是。死熊の大軍が押し寄せてきます。その数は100】


「どうやら死熊100匹くるみたいだな」


「うぇええええええええええええ!?」


 またも、驚くウェンディさん。

 なんかちょっと可愛い。


「どうして100匹ってわかるんですか!? どうしてそんな大量にモンスターが沸いてるのに平然としてるんですかどうしてどうしてええ!」


「まあまあ落ち着きなって」


【解。回答者スキルと鑑定スキルの組み合わせにより、伝わってくる足音から敵の数を計測しただけです。マスターが怯えてないのは元剣聖で、この程度のモンスターの数、かつては普通に相手していたからです】


 どうやら回答者さん、使用者の記憶を呼んだらしい。


 けれど回答者さんや、別に俺が質問してないんだが?


【解。……】


 あ、もしかして最近出番がないから拗ねてるとか?


【解。……回答を拒否します】


 やっぱり気にしてるらしい。

 もうちょっと出番を増やしてあげよう。


「私が行って片を付けてきましょうか?」


「いや、こんなザコ相手に時間を取りたくない。俺がやるよ」


 俺は右手を前に出す。

 回答者さん、捕捉ヨロシク。


【是。敵の位置と姿を捕捉しました。いつでも可能です】


「【風重圧エア・プレッシャー】!」


 中級の風魔法だ。


 風の塊を頭上に出現させ、押しつぶす魔法。


 ぐしゃしゃしゃしゃしゃしゃしゃ……!


 一瞬で死熊たちの群れが、投げつけられたトマトのようにぺしゃんこになった。


「ぇえええええええええええ!?」


 血の海みたいになっている現場を見て、ウェンディが叫ぶ。


「あ、ごめんな。ちょっとショッキングな映像になっちゃったな」


 急にこんなぐろいの見せつけられたらそりゃ驚くか?


「いやそっちじゃなくて、あなたに驚いてるんですよッ!」


「え、俺なにかしたか?」


「死熊ですよ!? Sランクのモンスター! それが100匹で、しかも一瞬で殺すなんて!」


「なんか変か?」


「変も変ですよ! 異常ですよ! 桁外れですよぉ!」


 一方でミリアは、うんうん、とうなずく。

「さすがレオン様。獣ごときには後れを取りません。見事な魔法の腕です」


 爆風で吹っ飛ばすとか、剣で倒すのもできるけど、こんなとこであんま派手なやつはできないからな。


「いや見事ってレベルじゃないですよぉー……」


 ぺたん、とウェンディがしゃがみ込む。


「殿下は……何者なんですか?」


「え、ただの人間だけど?」


「普通の人間なわけないですよぉお!」

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