15.王との謁見、魔道具作りバトル



 魔道具作成の人材・資材確保のため、ドワーフたちの国【カイ・パゴス】へとやってきた。


 入国に一悶着あったけれど、知り合いの冒険者に助けてもらった。


 俺はミリアを連れて、まずは入国の挨拶をしに、ドワーフ王のもとを尋ねる。


 うちの城と違って、山肌を削って作られたお城のようだ。


 床天井は天然の岩石でできていた。


 謁見の間に通される。


 玉座に腰掛けた、ガタイの良い、鎧を着込んだ大男がいた。


「よく来たな。貴様がノアの息子か?」


 ノアとは俺の親父の名前。

 つまりゲータ・ニィガの現国王だ。


「はじめまして、レオンハルト=フォン=ゲータ=ニィガと申します。以後、お見知りおきを」


 俺は国王の前で、うやうやしく頭を垂れる。


 ほら、初対面だし、いちおう王子だしね俺。


「ほぅ……6歳にして、なんと礼儀の良い子供だ。感心したぞ」


 まあ、中身おっさんなんですけどね。


「余はカイ・パゴスの国王、【ドワンゴス】である」


 ドワンゴス王は俺に名乗りを上げる。


 余って、言ったぞ余って。

 王様っぽいな。


「ドワンゴス王。本日はお願いがあって参りました」


「話は聞いている。職人が欲しいのだったな」


「ええ。ドワーフの皆さまは手先が器用とうかがっております。私の作る魔道具は、精密な細工が必要となりますので、ぜひともお力添えいただけないかと」


 値踏みするように、ドワンゴスが俺を見てくる。


 なんだ、俺、何か変なことを言っただろうか。


「ほぅ。この落ち着きよう、6歳とはとても思えんな。さすがだ」


「は、ははー……ありがたき幸せ」


 ドワンゴスはうなずいて言う。


「余は貴様に協力にはいささかも異論はない」


 と、そのときだった。


「お待ちくだされ、ドワンゴス王!」


 ばんっ、と扉が開くと、白衣を着た、細身の男が入ってきた。


 神経質そうな顔つきのおっさんだ。


 ちらっ、と俺を一瞥すると、「ふんっ! ……調子乗るなよガキが」と俺にしか聞こえない声音で言う。


 うわー、嫌われてるー。


「……殺す」


 主人公の悪口言われたのが気にくわなかったのか、ミリアが剣を抜きそうになった。


「待てミリア。暴れるなって」

「……失礼しました」


 ミリアは腕っ節は強く、普段はクールだが、俺のことになると途端に周りが見えなくなるな。


「【イヤミィ】。客の前だ、控えろ」


 イヤミィ? 誰こいつ?


【解。カイ・パゴスの宮廷魔道具師です。付与魔法は使えませんが、既存の魔道具を組み合わせ、新たな魔道具を作ることに定評があります。この国随一の魔道具作成の腕を持ちます】


 なるほど、魔道具をゼロから作らなくても、そうやって新しいものを生み出すのか……!


 勉強になるなぁ……!


「王よ! こんなガキに頼らずとも! この国にはわたくしめがいるではありませぬか!」


 なんでキレてるの、このおっさん?


【解。イヤミィは付与魔法を使えるマスターが妬ましいのです。また自分の地位が脅かされると思ってるのです】


 おお、回答者さん、相手の心の中まで見抜けるとは。


 鑑定魔法が加わったことで、さらにチートになったなぁ。


「わたくしめではご不満ですか!?」


「イヤミィよ、落ち着くがよい」


「これが落ち着いていられましょうか! おいガキ!」


 びしっ、とイヤミィが俺に指を突き立てる。


「わたくしは貴様を認めん、断じて認めないぞ! この国の宮廷魔道具師として、貴様に決闘を申し込む!」


「決闘ってなんだよ?」


「どちらが優れた魔道具を作れるかで、勝負だ!」


 元気のおっさんだなぁ。


 さてどーするかな。

 別に勝負はどうでも……いや待てよ?


 ほかの魔道具を知るチャンスだし、このおっさんの魔道具を組み合わせるってアイディア、いいなって思っていたところだ。


 本物を見せてもらえるなら是非もない。


「いいだろう、その勝負、乗った!」


    ★


 勝負のお題は、【武器】。


 どちらがより強い武器を作れるかの勝負らしい。


 別紙へ移動して、作業をした。


 1時間も与えられたが、正直一瞬で出来たので、あとはぼーっとしていた。


 ほどなくして、俺とイヤミィは、王の下へと戻ってきた。


「勝負は各々が作りし魔道具の武器を用いて、これを壊すのだ」


 部下のドワーフたちが数人がかりで、大きな石の塊を持ってくる。


「これは神威鉄オリハルコンの塊だ」


 神威鉄オリハルコン


【解。この世界において最も硬いとされる鉱物。物理攻撃では決して傷付かない金属として有名】


 へえ! そんなものが発見されたのか。


 一度目はなかったのにな。

 なんでだろう?


【解。マスターが一度目のここを訪れた世界では、まだ採掘技術が未熟であり、神威鉄オリハルコンを切り出す技術がなかったのです】

 

 なるほど……未来の世界だからこそ、できるようになったことがあるんだなぁ。


 ドワンゴスは俺たちを見て言う。


「この神威鉄オリハルコンの塊に、ひびの1つでもいれたほうの勝利とする」


「え? ひびだけでいいの?」


 俺の言葉に、イヤミィが「これだからガキは!」とため息交じりに言う。


「いいか貴様、神威鉄オリハルコンとは物理では決してダメージが通らぬ最高硬度を持つ物質だぞ? いわば絶対防御を誇る。ひびを入れるだけでも大したことなのだ」


「絶対防御ねえ……」


「そうだ! 決して砕けぬ鉱石!」


 ふぅん……ちょうどいいな。

 ここでそれが取れるなら、グレイスに渡す剣には、これがいいだろう。


「ではまずわたくしめが! これです!」


「ほぅ……戦槌か」


「いかにも!」


 イヤミィの手に持っているのは、小ぶりなハンマーだ。


 持ち手の方が長く大きい。

 ハンマー部分はそこまででもない。


 回答者さん、解析を。


【告。イヤミィ作成の戦槌は、ハンマー部分に《衝撃インパクト》の魔法付与がなされた鉄塊が使われてます。さらに柄には《身体強化》の魔道具が使われてます】


 なるほど、戦槌の各々のパーツに魔道具を組み合わせて、1個のハンマーにしてるのか。


「こちらの戦槌は、か弱き女でも恐ろしいパワーを発揮するという優れもの!」


「へー! すげえなぁ! ちょっと触らせてくれよ!」


 俺はハンマー部分に触れる。


【告。《衝撃インパクト》を習得しました】


 あれ、魔法を見たわけでもないのに、全能者のスキルが発動してない?


 というか魔道具から魔法って普通、習得できるの?


【解。魔道具をマスターが触れることで、感覚を通して回答者が解析行い、魔法をコピーできるのです。通常は付与された魔法の習得は、たとえ全能者を持っていたとしても不可能】


 つまり……?


【解。わたしすげえ】


 ついに自慢しだしたぞ!

 いやまあ、凄い人ですけど回答者さん……。


「結果に公平を期すため、余が選んだものに武器を使わせる。よいな?」


 武器の性能のテストなんだから、当然の処置といえた。


 俺ならたとえお箸の一本でも大木を切り倒せるしな。


「ではまずイヤミィの戦槌から」

 

 ドワンゴスがうなずくと、騎士の一人が、イヤミィから武器を受け取る。


 騎士は戦槌を振りかぶって、思い切り振り下ろす。


 ごぃいん! と鈍い音と供に……。


 ピシッ……!


 いや、ピシッて。全然じゃん……


「「「うぉおおおお! す、すげえええええええ!」」」


 ちょっ!? 

 こんな小さなひびが入っただけで、ギャラリー大げさじゃない!?


【解。神威鉄オリハルコンは物理ダメージは決して通らず、またひびすら入らない代物なのです。イヤミィの武器はひびを入れた。凄いことだと思っているようです】


 実際凄いの?


【是。付与魔法を使わず、神威鉄オリハルコにひびを入れる魔道具を作ることは現状不可能】


 え、じゃあかなりすごいじゃん、イヤミィ!


 魔道具組み合わせてここまでのものができるなんて、すげえなぁ。


「さぁて~? 次は貴様の番だがぁ?」


「ん。あいよ。ミリア、渡してやれ」


 俺はミリアに持たせてた【武器】を、みんなの前に見せる。


「なっ!? なんだそれは……!? ふざけてるのか!」


 イヤミィが声を荒らげる。


 ミリアが持っている武器は……。


「ただの、果物ナイフではないか!」


 魔道具を作れと言われても、手持ちに特に道具がなかった。


 しかも武器なんてこっち来てほとんど作ってない(作るのはだいたい日本の便利グッズ)。


 だからまあ、適当に、食堂にあった果物ナイフを借りて、適当に【風刃(ウィンド・エッジ)】の魔法を付与した。


「はんっ! 勝負を投げたかガキぃ! こーんなちっこいナイフで、一体何が出来るっていうのだね~?」


「……ふん。レオン様の偉業を刮目して待つが良い」


 ミリアはさっきの騎士に果物ナイフを渡す。


 騎士は困惑しているようだ。

 さっきの立派な戦槌と比べて、貧弱だからな俺のは。


 ドワンゴスが無言でうなずく。


 騎士は果物ナイフを、神威鉄オリハルコンの塊に振り下ろす。


 ズッバァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


「ほんげぇええええええええええええええええええええええ!」


 発生した風の刃が、塊を完全に消し飛ばす。


 それだけに留まらない。


 刃は塊を置いていた地面も、壁も、天井も、ずっぱりと切断していた。


 どさ……とイヤミィがその場で腰を抜かす。


「あ、あわ、あわわわわわ!」


 イヤミィだけでなく、その場に居た騎士たちもまた、俺のナイフを見て驚愕している。


 冷静さを保っているのは俺とミリア、そしてドワンゴスのみ。


「天晴れなり、レオンハルト」


 ドワンゴスは俺に、惜しみのない拍手を送る。


「たった1時間で、神威鉄オリハルコンどころか、堅牢と名高い城の壁床天井を切断してみせるとは! いったい、どういうふうに作ったのだ?」


「え、お城にあった果物ナイフに魔法を付与して適当に作っただけだよ? 2秒で出来た」


 ドワンゴスは、今度は顎を大きく開いていた。

 イヤミィは「うそだぁ……うそだぁ~……」と顔中から涙と鼻水をたらしている。


「レオン様なら、これくらいできて当然です」


 ミリアだけが冷静で、しかもなんか得意げに胸を張っていた。


「で、勝負はどっちの勝ちなん?」


 我に返ったドワンゴスが、俺を見て言う。


「この勝負、レオンハルトの勝利!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る