14.入国で一悶着



 俺は魔道具作成に必要な、人材と資材確保のため、ドワーフの国へと向かうことにした。


 まあ宮廷魔道具師となった以上、そこのせい任も果たしてかないとな。


 決して新しい魔道具を作りたくて仕方ないから、受け取ったわけじゃないよ?


【否。マスターの本心は地球の便利グッズを魔法でたくさん作りたい、という知的好奇心から行動に移っていると推察されます】


 ちょ、回答者さんぶっちゃけすぎ!


 まあ、そうなんですけどね。


 そんなこんなあって、魔王ウルティアに載せてもらい、ドワーフの国【カイ・パゴス】へと到着した。


 雷獣ウルティアが、凄まじい速さで空を駆け抜けた結果、1日も掛からずに到着してしまった。

 

 やるなぁ、ウルティア。


 魔王の背中には俺、ミリア、そして……。


「なんでドロシーいるの?」


 妖精の少女ドロシーが、口をへの時に曲げて言う。


『魔王様の護衛に決まってるでしょ?』


「こんなちっこいのに?」


『むきー! なめやがってー!』


 そうこうしてると、カイ・パゴスの首都【カイ】の近くまでやってきた。


「雪まみれだなぁ」


 まだ冬には遠いはずだけど、これ、年中なの?


【解。カイ・パゴスは氷の精霊が住まう影響で、1年を通して氷雪に包まれた大地となっています】


 おお、カイ、だけに、解ってか。


【ぶぶっ……!】


 回答者さん!?

 も、もしかしてこんなしょうもないダジャレに……反応してるの?


【否】


 いやでもぶふって……。


【否】


 ……布団が吹っ飛んだ。


【ぶふぅう……!】


 どうやら回答者さんは、ギャグが好きみたいだ。良いことを聞いた。


『レオンよ。少々面倒なことになったぞ』


「え? どうしたの?」


『眼下を見て見ろ』


 俺たちがいるのは、カイの街の近く。

 その上空に、魔王が滞空してる。


 足下にはたくさんの衛兵とか、冒険者とかが集まっていた。


「やっべ……目立ってるな」


『しかも殺気立ってるじゃない! 逃げましょう、魔王様! こいつらを置いて!』


 ふぅ、とウルティアがため息をつく。


『すまんなダーリン。わらわの高貴なオーラが隠しきれておらぬばかりに』


 高貴なオーラってか、こんな馬鹿でかい獅子が空を駆けたら、そりゃビビるわな。


 一方、地上では大パニックになっていた。


「て、敵だ! 空に敵がぁ!」

「なんだあの雷の化け物! 見たことがないぞ!」


「衛兵、冒険者、すべて集めろ! 総力戦だ!」


 ……うーん、思ったより大事になってしまった。


「レオン様。ここでお待ちください」


 ミリアが双剣の柄に手をかけて、体を縮める。


「待てミリア、どこへいくんだ?」


「全員この双剣で切り伏せてきます」


「いやいやいやいや」


 血の気多すぎでしょ……。


「レオン様を化け物扱いして……万死に値する」


 びきびき、とミリアの額に血管が浮かぶ。


「別に俺のこと言ってるんじゃないと思うがな。ウルティア、地上に降りてくれ」


『む? よいのか?』


「話し合いで解決するのが一番だ。荒事はごめんだよ」


『承知した。さすがレオンだ。真の強者は無駄な争いごとを好まないのだな』


 うんうん、とウルティアが深くうなずく。

 まあ真の強者うんぬんは知らんがな。


 雷獣は地上へ着陸、俺たちはその背からぴょんっ、と飛び降りる。


「子供だ!」

「あんな子供が……雷の獣を操ってただと!?」


 集まっている衛兵とか冒険者とかの、警戒レベルが上がっている気がする。


「あー、俺はレオン。レオンハルト=フォン=ゲータ=ニィガだ」


 ざわざわ……。


「レオンハルト?」

「たしか海向こうの大陸にある、王子だったな」


 一国の王子となると、他国でも通じる様子だった。


「この国の王様に会わせてくれ。たぶん、俺が来るの、伝わってると思うから」


 あらかじめ親父には、どこへ出かけるのかは伝えてある。


 親父経由で、このドワーフ国王との謁見を取り付けていたのだ。


 衛兵の中から、リーダーらしき人物が現れる。


「おお、衛兵もドワーフだ」


 アニメや漫画でよく見る、チビで、ずんぐりむっくりな、筋肉むきむき髭ぼーぼーのおっさんがいた。


「わしは衛兵長だ。たしかにレオン殿下が来ることは伝わっている……だが」


 じろり、と衛兵長が俺に、疑念の目を向けてくる。


「殿下が来るという知らせは、ふくろう便を使って今朝方届いたばかり。ここからゲータ・ニィガまで船で何日もかかるはずだが?」


 え、なに?

 なんで敵意向けて来てるの?


【解。ふくろう便のほうが早く到着するはずなのに、それと同じくらいの時期に到着するのはおかしい、と疑ってるのです】

 

 なるほど、俺が雷獣に乗ってくること、向こうには言ってなかったもんな。


 スパイか何かかと勘違いしてるのだろう。


「王子の名を騙る小僧よ。悪いが少し、話を聞かせてもらおうか?」


 ちゃきっ、とミリアが剣を抜こうとする。

 俺は手で制すると、彼女は無言で手を後ろに組んだ。


 荒事なんて問題外だ。ここは外国で、俺は王子、立場ってもんがある。


 さて……どうすっかな……


 と、そのときだった。


「ちょいと通しておくれよ!」


 女の声が、どこからかした。


 人の黒山をぬって出てきた人物に……俺は見覚えがあった。


「お、あんたはいつぞや、森の中にいた……」


「やぁ、坊や! 元気だったかい?」


 約1年前、魔王の元へ行く途中、奈落の森でケガしていた冒険者パーティ。


 そのリーダーさんが、なんと、偶然にもこの場に居合わせていたのだ。


「グレイス殿、お知り合いですかな?」


 衛兵長がリーダーの女冒険者に言う。

 グレイスって名前なのか。


「ああ。去年彼に命を助けてもらった」

「なんと……!」


「この、【黄昏の竜】のリーダー・グレイスが、彼の身の潔白は保証しよう。彼は、いいやつだ」


 にっ、とグレイスさんが男らしく笑う。


「し、しかし何かあったら……」


 若い衛兵が疑いの目を俺に向けてくる。


「そのときはこのアタシが腹を切ろう」


 お、男前~。


「助かったよ、グレイスさん」


「さんはいいよ。悪かったね坊や。命を助けてくれたお礼、遅くなって」


「ああいや別に…………あ」


「あ? どうした?」


 やっべ……大剣。

 そうだよ、俺、この人に大剣借りてたじゃん。


 ど、どうしよう……魔王との戦いで大剣はボロボロになっちまって、処分しちゃったんだよなぁ。


 まあ、正直に言うしかないか。


「なあグレイス。借りてた剣なんだけど……折れちゃった」


 きょとん、とグレイスが目を点にする。


 だが大声で笑う。


「なるほど! それはすごいな坊や!」


 ばしばし、とグレイスが俺の背中を叩く。


 え、なに?

 なんで怒ってないの?


「あれはな、竜骨を基礎として作られた剣なんだ」


「りゅうこつ?」


「ああ。つまり竜の骨だ。凄まじく頑丈な素材で、折れるはずないのだが……ふふ、さすがだな坊や。君の膂力に耐えきれなかったのだろう。そんな小さな体で、すごいな」


 笑ってくれるグレイス。

 どうやら怒ってないのは本当らしかった。


「後で弁償するよ」


「かまわないよ。剣は消耗してなんぼだし。命を助けてもらった恩もある」


 とはいえ、今回のゴタゴタを治めてもらった件もあるし……。


 よし決めた。

 俺、グレイスに、剣を作ってあげるぞ。


 最高のヤツを!


 かくして、俺は一悶着あったけれど、ドワーフの国に入れたのだった。

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