10.兄王子たちからも溺愛されてる



 冬も近づいてきた日、弟のラファエルが俺の屋敷に遊びに来た。


「あ、そうだにいさん」


「ん? どうしたー?」


 工房にて、俺の作ったこたつに、俺、弟、レティシア、ココが入ってる。


「今日はね、ぼくだけじゃないんだよ!」

「え? それって……」


「うむ! 来たぞ、レオンー!」


 ばんっ! と工房の扉が開く。


 黒く長い髪の毛をした、大男がいた。


 身長は180くらい。

 がっしりとした体格。


 ボディビルダーってわけじゃにけど、服の上からもわかるくらい、筋肉マッチョマンだ。


「あれ、アルフォンス兄さん?」


「おう! そうだ、おまえのお兄ちゃん、アルフォンスが、遊びに来たぞ、レオンー!」


 にかっ、とアルフォンスが俺のもとへかけよってくると、抱き上げる。


「大きくなったなー!」

「ぐえええええ」


 アルフォンスは笑顔で、俺をぎゅーっとハグする。


 万力のごとき膂力パワー


「ちょ、たんまたんま、兄さんたんま。離して」


「いやだぞ! 久しぶりのレオンだ! もっと抱っこさせてくれ!」


 ぎゅーっ、とアルフォンスがサラに力を入れてくる。


 ぐ、ぐるじー……。


「アルにいさま、やめてくださいっ。レオンにいさまが苦しそうです」


「なにー!?」


 ラファエルが言うと、アルフォンスが顔面蒼白になる。


「どうしたレオン!? 病気か!? ケガか!? 待ってろ! お兄ちゃんが今、病院につれてくぞ!」


「いやあんたのせいで死にかけてるんだけど!?」


「おお、それはすまなかったな!」


 ぱっ、とアルフォンスが俺を解放してくれる。


 ラファエルは一目散に近づいて、心配そうに言う。


「にいさま、だいじょうぶ?」

「ああ、平気……ごほっ。アルフォンス兄さんも、元気そうで何よりだよ」


「うむ! えらいなレオンは! まだ6歳なのに、気遣いができるなんて! 偉いぞ! 偉い!」


 大きな手で、がしがし、とアルフォンスが俺の頭をなでる。


 さて……。


「「「…………」」」


 残りの面子は、跪いて、頭を垂れている。

 さもありなん。


 ここにいおわす大男、実は俺たちの長兄。

 つまりアルフォンスは……次期国王なのだ。


 つまりちょーえらい人ってわけで、騎士レティシア使用人ココは、うやうやしく頭を下げてるってわけ。


「アル兄さん、どうしてここにきたんだ?」


「うむ! 大好きな弟に会うのに、理由などいるだろうか! いや、いらない! ということで、だっこさせろー!」


 と、そのときだった。


「やめとけバカ兄」


 ぺんっ、とアルフォンスの頭を、後ろからやってきた男が叩く。


「おお、【デネブ】! 来るのが遅かったな! 同じ馬車だったのに!」


「いやバカ兄が足早すぎるだけだから」


 ため息をつくその男は……。


 でっぷりと太っている。


 明るい髪の毛をおかっぱ頭にして、腹はどこぞの安西先生かってくらい出てる。


 ふてぶてしい顔つきのぽっちゃり系……。


「デネブ兄さんじゃん。ちっすー」

「……チッ。相変わらず失礼なガキだな、レオンはよぉ」


 憎々らしそうに、デネブがにらみつける。

 こちらも俺の兄貴。


 第三王子デネブだ。


 ラファエルがニコニコしながら言う。


「アルにいさまも、デネブにいさまも、ぼくがレオンにいさまのお屋敷にいくって知ったら、ついてきてくれたんだよ!」


「ちょうど予定があいてたからな! 大好きなレオンの顔を見に行こうと!」


 にかーっと笑う第一王子《アルフォンス

》。


「ふん。べつにボクはおまえなんて興味ないがね」


 ふんっ、とそっぽを向く第三王子デネブ


「デネブにいさま、なんで途中で買ってきたケーキを、レオンにいさまに渡さないのですか?」


「あ、こら! ラファエル貴様っ、言うなって!」


 デネブが後ろ手に何かを持っているのは気づいてた。


 なるほどお土産だったのか。


「サンキュー、デネブ兄さん」


「ふ、ふん! 勘違いするなよ! 別にこれはお前に買ってきたんじゃあない! そう……ラファエルのために買ってきたんだ!」


「ははっ! 照れ屋だなぁデネブは!」

「黙れよバカ兄!」


    ★


 ややあって、俺たち兄弟は、こたつを囲って、ケーキを食べている。


「おお! このこたつとやら……癖になるなぁ! 暖かい!」


「ねー、ぼくもすっごい気に入りました!」


 にこにこ、とアルフォンスとラファエルが、笑顔で俺に言う。


「こんな凄い者を作るなんて! やはりレオンはさすがだな!」


「はいっ! にいさまはすごいですー!」


 一方でデネブは、真剣な表情で、俺に近づく。


「おいレオン」

「なに、デネブ兄さん?」


「おまえ、これどうするつもりだ?」


 とんとん、とこたつテーブルを指で叩く。


「どうって?」

「作ったあとにどうするんだって言ってるんだよ」


「別にどうもしないけど」

「はぁ!?」


 急に大きな声を出すデネブ兄さん。


「なんでそうなるんだよ!?」


「え、何怒ってるの?」


「ばっか! これ……金になるだろうが!」


 急にそんなことを言ってくるデネブ兄さん。


「金に?」「金になるのか?」「お金になるんですか?」


「ああもう! よく聞け貴様ら!」


 デネブ兄さんは柳眉を逆立てる。


 デブってるけど顔つきはさすが王族、パーツだけ見ればイケメンなんだよな。


 痩せればモテるだろうに。


「このこたつってやつ。それに……壁についてるその箱も、今までの暖房器具の歴史を覆す」


 デネブ兄さんはエアコンの存在にも気づいてたようだ。


「歴史を覆す? どういうことだ、デネブ!」


 アルフォンスが聞くと、デネブが説明する。


「いいか? 今のボクたちの暖を取る方法はごく限られているな?」


「そうなのか!」

「バカ王子め……」


 ラファエルは少し考えて言う。


「暖炉か湯たんぽか、火の魔法が使える人に頼むか、ですね」


「そのとおり。どこぞのノーキンアホ王子とは違うな」


 よしよし、とデネブがラファエルの頭をなでる。


 弟はえへへと笑う。


「ノーキンアホ王子とは誰だ!」

「貴様だアルフォンス」


「なんと! そうか!」


 にかっ、と笑うアルフォンス。

 はぁ……とデネブがため息をついたあとに言う。


「魔道具の最も良い点は、使用者の燃料も魔力も要らないところだ」


 魔法が付与されている魔道具は、作成者が魔力を込めるため、使用者は魔力を必要としないのだ。


「暖炉にしろ火の魔法にしろ、ただじゃない。だが……このこたつもエアコンも、違う。何の資源も必要とせず、暖を取れる。ハッキリ言って……歴史的発明品だ」


 戦慄の表情を浮かべて、デネブがこたつとエアコンを見やる。


「そんなすごいものだったのか! すごいぞレオンー!」


 アルフォンスは笑顔になると、立ち上がって、俺の隣へとやってくる。


 ぎゅーっとハグする。

 くるしい……。


「やっぱりレオンにいさまは最高です! ぼく、尊敬してます!」


 きらきらとした目をラファエルが向ける。

「チッ。なんでこんなガキに、魔道具作成の才能があるんだよ……はあ、くそっ。羨ましい……」


 デネブが憎々しげにつぶやく。


「よければやり方教えるけど?」


「はぁ!?」


 驚愕の表情を浮かべるデネブ。


「や、やり方を教えるだと!?」

「ああ。結構簡単にできるぜ?」


「バカやろう!」


 デネブ兄さんが顔を真っ赤にして叫ぶ。


「む! デネブ! バカとはなんだ! 相手は弟だぞ!」


「ちっげーよバカ王子! 愚弟があんまりにも、もったいないこと言ってるから怒ったんだよ!」


「「「もったいない?」」」


 アルフォンス、ラファエル、俺が首をかしげる。


 がしがし……とデネブは髪の毛をかいたあとに言う。


「レオン、魔道具の特許を取れ。今すぐに」


「え、特許ってなに?」


「それも知らんのか! ったく、ほんと規格外だな貴様は!」


 はぁ……とデネブがため息をつく。


「レオン。貴様、ボクらと一緒に王都に来い」


「え、めんど……」


「バカッ! このままだと【三魔工房】の誰かが、必ずマネして、先に特許をとるぞ!」


「三魔工房って?」


「魔法道具を作成できるのが、世界で3人しかいないってのは、知ってるな?」


 デネブの言葉に、俺はうなずいてみせる。

 この世界では付与魔法の使い手が3人しかいないらしい。


「その3人は、それぞれギルドをもってるんだ。魔道具ギルド。世界でたったの3つのギルドをまとめて【三魔工房】って呼称されてる」


「なるほど……俺以外の魔道具ギルドが、俺の作った魔道具をマネして、権利を主張するってことか」


「そういうことだ。なんだ、頭は回るようじゃないか。そこの図体だけデカいバカ王子よりマシだな」


「む! 誰のことだ!」


 アルフォンスを見て、デネブがため息をつく。


「とにかく早急に、王都にある、ギルド協会本部へ行くぞ。三魔工房どもがパクるまえにこたつとエアコンの特許を取るんだ」


「わかった。ついてくよ」


 デネブがうなずくと、立ち上がる。


「帰るぞアルフォンス。ラファエルも」


「「えー……」」


 露骨に、嫌そうな顔になるアルフォンスとラファエル。


「おれはまだ来たばかりだぞ! もっとレオンと一緒にいたい!」


「ぼくもです! レオンにいさまとせっかくレオンにいさまと遊びに来たのにー!」


 ふたりがぎゅーっ、と俺のことを抱きしめる。


「どんだけそこの弟のこと好きなんだよ貴様ら……」


 はぁ、とデネブがため息をつく。


「レオンは王城に帰ってくるんだから、そこで好きなだけイチャつけばいいだろ」


「「なるほど!」」


 かくして、俺は兄王子たちとともに、王都へ行くことになったのだった。

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