第二章 やりたい放題の6歳児
09.日本の便利グッズを作る6歳児
魔王ウルティアの件があってから、数ヶ月後。
俺は6歳となった。
「ぼっちゃまー、レオンぼっちゃまー。どこですかー?」
工房で作業をしていると、外から、そば付きメイド1号のココの声がした。
「いるぞー」
工房の部屋が開くと、栗色の髪の、可愛らしいメイドが顔を覗かせる。
「まーた工房に籠もって作業ですか~?」
呆れたように、ココがため息をつく。
「このところずーっと、暇さえあれば工房に籠もって。ミリア様に怒られちゃいますよ~」
「ちゃんと剣の稽古もしてるんだから、怒られるいわれはない」
「まーそうですけど~……」
はぁーあ、とココがため息をつくが、それ以上は言ってこなかった。
「しっかしいつ見ても、すんごいですねここ」
「へへ、だろう?」
薬品庫、素材、機材、器具。
宮廷魔道士団長のマルクスのツテで手に入れたものが飾ってある。
ちなみに工房自体は親父に頼んだらその日のうちに屋敷を改造してくれた。
びば、王族。
「お部屋に籠もってないで、お外で体を動かしましょー?」
「あとでラファエルが俺のんとこ遊びに来るから、そのとき相手してやるよ……っと、完成したぜ!」
念願だったものがついに完成した!
「なんです、この箱ー?」
異世界人のココには、見慣れない代物がそこにある。
長方形の箱に、空気の出入り口。
そうこれは……。
「エアコンだ」
「えあ、こん?」
はて? とココが首をかしげる。
「魔道具の一種だよ」
魔道具。この世界において、魔法が付与されたアイテムのこと。
付与魔法は、この世界で数人しか使い手がいないらしい。
だから魔法が付与されたアイテムは、とても希少価値が高い。
ちなみにダンジョンに潜ると、
だがごく希に見つかるものであるので、市場では高値で売られている。
「魔道具なんて、国王陛下に買ってもらったんですか?」
「いや、買ってない。俺が作った」
「ふぁ……!?」
俺とエアコンとを、ココが見比べる。
だが、すぐに、なるほど……とうなずいた。
「ははーん、ぼっちゃま、あたしをからかってるんですね! 騙されませんよ~。だって魔道具って世界で確か3人くらいしか作れないんですよー。いくらあたしが田舎者の小娘だからって、それくらいわかりますぜ~?」
めっちゃどや顔のココが可愛い。
まあ彼女が今言ったのはあくまで一般論だ。
「じゃあココ。これをもって」
俺はリモコンを彼女に手渡す。
頭に?マークを浮かべながら、ココが首をかしげている。
「真ん中の大きなボタンがあるでしょ? ぽちっと推してみな」
「はいはい、おしますよー……っと」
ぴっ。
ごぉおおおおおおお…………!
「んなっ!? は、箱から風が!? しかも……ええ!? なにこれぇ!」
風をココがあびて、驚愕の表情を浮かべる。
「ちょー暖かいんですけどぉおおおお!?」
今は、秋も深まり、そろそろ冬になろうという時期。
この中世ヨーロッパ風の世界において、暖を取るには、主に暖炉が使われている。
だが一部分しか温かくならないし、薪が必要だ。
「このエアコンは風、火、氷の3つの属性を付与して作られた魔道具だ」
「ま、魔法の付与!? ぼ、ぼっちゃまがやったんですか!?」
「ああ。ウルティアに付与魔法を教えてもらってな」
魔王ウルティアと俺は、協力関係を結んだ。
俺は魔王の領域を脅かさない。
彼女は俺に魔法の技術と知識を教えてもらえる、という取り決めだ。
俺は自由に魔王の城と書庫を出入りできるようになった。
彼女から教えてもらった、付与魔法。
これは読んで字のごとく、物体に魔法を付与できるという優れものだ。
だが、魔法を付与できるだけで、エアコンが作れるわけではない。
威力は強すぎても弱すぎてもだめだし、そもそも電子制御していたものを魔法でやるとなると、色々と工夫が必要だ。
数ヶ月試行錯誤の末に、俺はエアコンを完成させた次第。
「す、すごすぎますよ、ぼっちゃまー!」
ココは笑顔で、俺のことを抱っこして言う。
「付与魔法は世界で3人しか使えない! そんななかでぼっちゃまが、4人目になったんですから! すごいすごいー!」
ひゃー! とココが喜んでくれる。
この子は俺がどんなことをしても、凄いと褒めてくれる。
あまり詮索をしてこず、純粋に受け取ってくれるのが、いいよね。楽だ。
「この暖かい箱があればっ、暖炉のない部屋でもぽっかぽかですなー!」
「そうそう、暖炉ってどうしても、設置場所が限られてるしさ」
「たしかにー! じゃあじゃあ坊ちゃま、これ、たっくさん作っちゃってくださいよー!」
「おうよ。任せとけ」
と、そのときだ。
「にいさーん! 遊びに来たよっ」
「やぁやぁ、レオンハルト殿下! 参りましたぞ!」
弟のラファエルと、従者の騎士レティシアが、揃って俺の元へ遊びに来た。
心臓の病を魔法で治したあと……。
弟はすっかり元気を取り戻した。
この数ヶ月、体をたくさん動かして、少しずつ体力を付けてるそうだ。
「わぁ! にいさん、こことっても温かいねっ!」
ラファエルはもこもこのコートに、頭にはニット帽子。
だが防寒対策をしていても、顔がしもやけで真っ赤だった。
「寒かったろー? いいもんがあるぜ。ちょっとまってな」
「ぼっちゃま、また魔道具ですかー?」
俺はにやっと笑って、手を前に出す。
カッ、と俺の前で魔法陣が展開。
そこから……机のような物が出てくる。
「これは……」
「「「えええええええええ!?」」」
いやまだ何も説明してないのに……。
何驚いてるんだ?
「で、殿下!? 今のは、なんでありますか!?」
騎士レティシアが、俺の肩を掴んで言う。
「え、だからこれは、俺が作った……」
「違いますよぼっちゃま! 今の! この机みたいなの、どっからだしたんですかー!?」
ココが目を剥いて叫ぶ。
ああ、そっちね。
「収納魔法だよ」
「「「収納魔法!?」」」
「そう、異空間に物体を保存しておく魔法」
魔王ウルティアから教わったのは、なにも付与魔法だけじゃない。
彼女は、魔王の血族。
古今東西、あらゆる魔法を知っていた。
彼女が全てを使えるわけではない。
だがかなり有能な魔法の数々を、教えてもらったのである。
「にいさんすごいよっ! 収納魔法って、遥か昔に失われた魔法……【古代魔法】のひとつだよ!」
「古代魔法ですとぉ!? す、す、すごすぎますぞ! マルクス様はもちろん、魔法力に優れたエルフですら使えないと聞きますぞ!」
ラファエルとレティシアが揃って驚愕の表情を浮かべる。
え、そうだったの、回答者さん?
【是】
そんなこと一度たりとも言ってくれなかったじゃん……。なんでだよ?
【解。聞かれなかったので】
……回答者のスキル。
これには致命的な欠陥がある。
この世のあらゆることを教えてくれるが、あくまでも、
つまり、俺が特に疑問を持たないと、回答が用意されないのである。
「便利魔法だって以上に、思ってなかったからか……」
あれ、じゃあ収納魔法以外の魔法も、結構凄いの……?
【是。凄いどころではありません。この現代において、伝説、神話とされている魔法の数々を、マスターはウルティアから習得されております】
まじかいな……。
「え、えっとだな……とりあえずこの机の説明をすると……これは、こたつだ!」
「「「こたつ?」」」
はてな、と弟たちが首をかしげる。
「我が弟よ。一番に使う権利を君に与えよう。ここに足をいれたまえ」
「はいっ!」
弟はとても素直だ。
異世界人から見て、こんな得体の知れない物に触れろ、といえば拒否反応を起こすだろう。
だが俺が頼んだら、弟はすぐにやってくれた。
ほんと、素直で良い子だ。
「弟よ。そのスイッチ……突起部分だ。上に押し上げてごらん」
「こうですか、にいさま?」
こたつのスイッチを、弟がパチッと上げる。
すると……。
「うひゃあっ!」
「ラファエル殿下! どうなさったのでございますか!?」
従者のレティシアがあわてて、弟にかけよる。
「レティシア……これ……」
「まさか常人には扱えぬおそろしい魔道具!?」
「すっごい、あったかいよ!」
弟が目をきらつかせながら言う。
「ほえ……? あ、あたたかい、ですと……?」
「うんっ! ほら、レティシアも入ってみて」
疑いながらも、しかし主である弟の言葉を信じるようだ。
腰の剣をぬいて、足を中に入れる。
「おおっ! こ、こ、これは凄い! なんということでありますか! このなかが、まるで春の陽気のようにあたたかでございます!」
ラファエルもレティシアも、夢見心地の表情。
そして……
「ぼっちゃまぁ~……」
「ココ、いつの間に……」
この子、体をこたつのなかに、すっぽりとインしてる。
日本ではよく見られたスタイルを、誰に言われるでもなく、見つけ出したか……。
「これ、しゅごしゅぎましゅ~……」
「溶けてる、溶けてるぞココ」
「じんわり温かくなって……まるで天国ですよぉ~……」
ふへー、と心地よさそうにココが言う。
エアコンの暖房をつけると、さらに部屋の中が快適になった。
「さすがですっ、にいさまっ!」
ラファエルが顔で言う。
しもやけはなくなっているようだった。
「こんなすごい魔法道具をお作りになるなて! すごい!」
「わたくしも仕事上、魔道具を見かけることはたたありまするが、ここまで見事な魔道具は人生で初めてたでありますよ! さすがレオン殿下!」
まあ、何はともあれ、みんなに好評で良かった。
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