08.弟の治療と奇跡の魔法
魔王ウルティアとの謁見を終えた俺は、王都へと帰ってきた。
「おーい、ココー!」
俺は【眼下】にて、庭の手入れをしているメイドに手を振る。
「ぼっちゃまー……って、ええええええええええ!?」
メイドが俺を【見上げる】。
「な、なななっ、なんですかぼっちゃま! その空飛ぶライオンはぁあああああああああああああ!?」
俺は雷獣姿のウルティアにまたがっている。
『ウルティア様の背中に乗るなんて、なんて不敬なガキなのかしら!』
ようせいドロシーが、腹を立てながら言う。
『ドロシー。よいではないか。レオンハルトはわらわの夫となる男。女の上に乗るのも仕事』
そうなのか?
【解。比喩表現だと思われます。世継ぎを作るという意味合いでしょう】
ああ、なるほど、夜の営みのことね?
【解。チッ……】
回答者さんが舌打ちしちゃった!
え、なんで怒ってるの?
【解。知りません】
回答になってないんですがそれは……。
「ウルティア、下に降りて」
『心得た』
雷の獅子が、庭にふわりと着地する。
彼女が空をかけてくれたおかげで、帰りはものの数分で、屋敷まで帰って来れた。
「ありがとな、ウルティア」
『かまわんよ』
と、そのときである。
「レオン様ッ!」
「おお、ミリア。ただい……」
「レオン様から離れろ、化け物め!」
ミリアが鬼気迫る表情で、俺の背後に居る雷の獅子をにらみつける。
『レオンハルトよ。なんだ、この娘は?』
「ミリア。俺のメイド。そっちで腰抜かしてるのはココ」
『ほう……従者がいるのか。レオンハルトよ、もしかしておぬし、なかなか高貴な身分なのか?』
「ああ、王子やってる」
『おお、なんとそうであったか。どうりで高貴なオーラをしてると思った。さすがだな』
俺たちが会話している様子を見て、ココが仰天する。
「あ、あばばば、あんな凄いモンスターと、普通に会話してる……ぼっちゃんすごい……」
「感心してる場合ですか! レオン様、どいてくださいまし」
しゃらん、とミリアが腰の双剣を抜く。
ごっ……! と彼女の体から魔力が吹き荒れる。
長い銀髪が中を泳ぐほどの、出力と魔力量だ。
『ほぅ……なんだおぬし、【同族】か』
「同族? ミリアが?」
双剣を構え、そして……一瞬で消える。
ミリアはウルティアの首を、一瞬で狩ろうとする。
だがウルティアは人間の姿へと変化。
体のサイズが変わった影響で、攻撃を回避する。
「随分と好戦的ではないか。いちおうおぬしにとってわらわは主となるのだが?」
ウルティアが余裕の表情でミリアに語りかける。
一方でミリアは怒りをあらわにして、声を荒らげる。
「我が主はレオンハルト様以外にほかにない!」
さらなる魔力が彼女の体から湧き上がる。
建物を、地面を揺るがすほどの波動を前に……ココは気を失っていた。
『ちょっとレオン! なんなのよ、あのメイド! 化け物級の魔力量じゃないの!』
「え、普通のメイドだろ?」
『あれが普通なわけないいでしょ!?』
一瞬の静寂。
くいくい、と魔王が手を曲げる。
「来い、遊んでやろう」
「排除します!」
ふたりが互いに、体を縮めて、力をためる。
そして……。
がきぃいいいいいいいいいいいいん!
「なっ!? レオン様!?」
「ほう……受け止めるか、この一撃を」
俺はミリアとウルティアの間に割って入っている。
右手にミリアの剣、左手にウルティアの拳を、それぞれ受け止める。
「レオン様どいて! そいつ殺せません!」
「落ち着けって。ウルティアは俺の協力者だ。なあ?」
魔王はため息をついて首を振る。
「レオンハルト。それは違う。おぬしはわらわの婿で、わらわはおぬしの嫁だ♡」
「な、な、なんですって!?」
ミリアが驚愕の表情を浮かべる。
先ほどまで滾っていた敵意は消えて、唖然とした表情を浮かべている。
あんだけ怒ってたのに……そんなにショックなことか?
「ミリア。落ち着け。こいつの冗談だ」
「おや、レオンハルト。冗談ではないぞ。わらわはおぬしの子を産む予定だ」
むんっ、と魔王が得意げに胸を張る。
「…………殺すか」
「『待て待て待て待て』」
俺と妖精のドロシーが、ミリアを止める。
『あんた魔王様を殺すつもりなら、消し炭にするわよ!』
「……なに、なんか、ピリッとする……?」
ミリアが虚空を見据えて、首を振る。
「ミリア、見えないのか?」
「……何をおっしゃってるのです?」
そういえば妖精は、高い魔法適性がないと見れないって言ってたな。
ウルティアは目を丸くする。
「なんだおまえ、同族のくせに、魔力適性が低いのか? ああ、そうか、混じり物か……」
「混じり物?」
「……それ以上口を滑らしたら、その口に剣をツッコんで殺す」
ミリアがまた殺気をみなぎらせるが、ウルティアはどこと吹く風。
「まあ落ち着け。わらわは別にレオンハルトを傷つける気はない」
「ふざけるな! 誰がそんなことを信じるか!」
ミリアが声を荒らげる。
「落ち着けってミリア。ウルティアは傷つける気はないってさ」
「……レオン様が、そうおっしゃるなら」
ミリアは双剣を腰に戻す。
「おお、こんな恐ろしい剣士を完全に御せるとは、見事だなレオンハルトは」
「なんだそりゃ」
「しかしレオンハルト……長いな。呼び方は……そうだ、婿殿と呼ぼう。そうしよう」
くつくつ、と愉快そうに笑って、魔王が言う。
びきっ、とミリアの額に血管が浮かぶ。
「……やはり殺すか」
「はいはいそこまで。ミリア。ちょっと俺、ラファエルのとこ行ってくるから」
「弟様のところへ? 何をしに?」
「ちょいと、病気を治しに」
★
俺、ウルティア、ドロシー、そしてなぜかココとミリアも。
一緒に我が弟ラファエルの待つ、王城へと向かう。
「い、雷の獣だー!?」
「なんだあれはー!?」
魔王の背中に乗って、俺たちは王城の庭へと降りる。
騎士達が完全に怯えきっていた。
「やや! これはレオンハルト殿下!」
「おお、レティシア。ちょうどよかった」
弟の従者にして騎士のレティシアが、小走りにこちらへかけてくる。
「そちらの見事な獣は?」
「俺の友達」
「ははー! このような凄まじい従魔をお連れになられるとは! さすがレオン殿下でございますなー!」
従魔?
【解。この世界における使い魔、サーバントのようなもの】
俺はレティシアに連れられ、ラファエルの元へ行く。
「にいさんっ!」
「おお、ラファエル。我が弟よ、待たせたな」
ベッドの上には、おかっぱ頭の、柔和な顔つきの少年が横たわっている。
ベッドに仰向けになって、動けないでいる。
「げほっ! ごほっ! 来てくれたんだ……うれしい」
えへへ、とラファエルが笑う。
だが額には脂汗が浮かび、青白い、血色の悪い顔色をしていた。
ぜえはあ……と荒い呼吸を繰り返している。
レティシアは、こっそりと耳打ちをする。
「……ラファエル様は、先日より高熱を出してうなされておりました」
熱で辛いだろうに、兄を出迎えてくれるとは。
まったく、出来た弟だぜ。
「今日は、どうしたの?」
「兄ちゃんがお前を治しにやってきたよ」
俺はラファエルの隣へと移動。
「ウルティア。治癒魔法を」
「うむ、任されよ」
ウルティアは弟の前に立つ。
ラファエルは、不安げに俺に目線を向ける。
魔王とは初対面だ。
こんな得体の知らないやつに、魔法をかけられるのは、不安なのだろう。
それでも、不安を口にしない。
せっかく連れてきた俺に悪いと思ってるのだろう。
「では……参る」
魔王の周囲に、魔法陣が展開。
【告。
「わが世界最高の治癒魔法をもって、おぬしの弟を直してしんぜよう……」
と、そのときだった。
バチッ……!
「きゃっ!」
「ウルティア!? 大丈夫か?」
魔王が魔法を発動させようとした途端、彼女の手が弾かれた。
床に展開した魔法陣が消える。
「これは……もしや」
ウルティアが信じられない、といった表情で、弟を見やる。
「なるほど……さすが婿殿だ。おぬしの弟もまた、とんでもない人物のようだぞ」
「え、ラファエルが、なんか普通と違うのか?」
「ああ。どうやらラファエルは…………それはまた今度でいいだろう。重要なのは、わらわでは治せぬということだ」
「そ、そんな……!」
レティシアが青い顔をして叫ぶ。
「ラファエル殿下は、治らないのでございますか!?」
「まあ落ち着け。わらわでは治せぬというだけだ。なあ、婿殿?」
俺に笑顔を向けてくる、ウルティア。
「使えるのだろう?」
「ああ」
……全能者のことは、ウルティアは知らないはず。
だというのに、なぜ?
「まあまあ。さぁ婿殿。弟を治してやれ」
ぽんっ、とウルティアが俺の肩を叩く。
俺は弟に手を向ける。
「にいさん……」
一度魔法が失敗して、不安が最大になったのだろう。
俺は笑って言う。
「大丈夫だ。兄ちゃんに任せろ」
ラファエルは泣きそうになるも、こくん、とうなずく。
「信じるよ」
「よし……【
周囲に魔法陣が展開し、そこから、巨大な女が出現する。
「どしぇええええええええ! でっかいひと! だれぇ!?」
『大天使を召喚したですって!? こんなガキが……! す、すごすぎる……』
ココ、そしてドロシーが驚愕する。
一方で、大天使は、ふっ……と弟にと息を吹きかける。
桃色の風が弟の体を優しく包み込み……そして……。
「か、からだが……軽い。にいさんっ!」
脂汗は惹いて、血色が元に戻っていた。
俺がうなずくと、弟はベッドから降りる。
「体に力が! 見て! 兄さん! レティシア!」
ぴょんっ、とラファエルが飛び跳ねる。
「殿下ぁあああああああ!」
レティシアは号泣しながら、ラファエルの体抱きしめる。
「治ったのでございますね!」
「うんっ! 兄さんのおかげだよっ!」
涙を流しながら、レティシアがひざまずく。
「ラファエル殿下を直してくださり、ありがとうございます、レオン殿下!」
「兄さんっ! ありがとー!」
ふたりの笑顔を見て、俺はうなずく。
「おうっ、良かったな!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【★あとがき】
読者の皆様へ、大切なお願いがあります。
少しでも、
「面白そう!」
「続きが気になる!」
「次回も楽しみにしてるよ!」
と思っていただけましたら、
フォローと星を、
入れていただけますと嬉しいです!
広告の下↓から入れられます!
モチベーションが上がって最高の応援となります!
なにとぞ、よろしくお願いします!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます