06.城を守る結界と守護者もワンパン


 俺は弟の病気を治す治癒魔法を、魔王から教わろうとしている。


 魔王の住むという奈落の森。

 その最奥部にて。


「回答者さん、まだ魔王の領域に到着しないの?」


 もう結構森の中をさまよい歩いているんだが。


【解。到着いたしました】


「え? でも……周りにそれっぽいもの、ないけど?」


 俺がいるのは、鬱蒼うっそうと茂る森の中。


【解。高度な隠蔽魔法で、居城が隠されております】


 隠蔽魔法! 透明化なんかよりも凄い魔法なんだろうなぁ! くぅ! 習いたいぜ!


 俺の持つスキル全能者。

 これは、魔法を一度見ただけで理解するというもの。


 だがこれには制約があって、使用者が魔法を使ってるところを、目視する必要があるんだ。


「あとで魔王に教わろう! さて……いくか」


 俺は進もうとするんだが……。


「あり? 壁みたいなものに、邪魔されて前に進めないんだけど?」


【解。隠蔽魔法とは、ただ姿を見えなくさせるのではありません。相手が結界術の一種で、侵入しようとすると、それを防ぐのです】


 おお、結構使える魔法じゃん! ますます習いたいね。


「ようするに結界が張ってあって、俺の侵入を防いでるってことか」


【是】


「なら簡単じゃん」


 俺は、さっきの冒険者のリーダーから借り受けた、大剣を構える。


 ついさっきから今まで、ずりずりと引きずってたんだよね。


 邪魔だなぁ、こう、定番の収納魔法とか、習いたいね!


【問。マスター、何をなさるおつもりですか?】


 なんか回答者さん、この5年で結構ふつうにしゃべるようになったよね。


 最初はシステムアナウンスだったのになぁ……まあいいや。


「結界を切断する」


 俺は大剣を、下段に構える。


「【身体強化】【武器強化】……そんでもって、【斬撃強化】」


 剣聖の剣術。

 それはあらゆるものを切断する、最強の剣。


 だが、この世界の体で、それを再現するのは、現状できない。


 俺が子供で、しかも、俺の膂力パワーに、剣がおいつかないからだ。


 だから魔法でアシストし、再現する。


 ……ま、それでも全盛期の力は、完全に出せないんだけどね。


「よっしゃいくぜえ……。せい……!」


 俺は体を回転させながら、斜め下から切り上げる。


「【断空剣】!」


 下段からの回転斬りを放つ。


 ずばばばぁああああああああん!


 嵐が巻き起こって、結界とぶつかりある。


 まるでミキサーをかけられたように、結界がズタズタに切り裂かれる。


 断空剣は、固い殻を持つ相手や、結界に対して有効だ。


 結界が破壊されると……。


「おお! 美しい城だなぁ!」


 俺の前に広がっているのは、巨大な湖。


 そして湖の上に、漆黒の西洋ファンタジーっぽいお城が佇立している。


「あれが魔王の城?」


【…………】


「回答者さん?」


【是。……はぁ】


 え、なに、はぁ……って?


【解。マスターの規格外っぷりに呆れただけです】


 驚いたんじゃなくて呆れたってどういうことだろうか……?


「ま、いいや! いこうぜ魔王の城に……」


 俺が湖に踏み出そうとすると、そのときだ。


【告。魔王城より、強大な魔力の反応あり。おそらく魔族と推定されます】


 俺は後ろに飛ぶ。


 ざぶぅううううううううううううん!


 湖の水が、突如として噴出。


 水の柱が俺を攻撃しようとしていたようだ。


「ほぅ……我が一撃を避けるか。勘の良いガキだな」


 水の柱の上に、異形の存在が立っていた。

 一言で言うなら、忍者っぽいカエルだ。


 ただし、人間サイズのでかいカエルである。


「我が名は【アクア・ケロケロ】! 魔王様の守護者がひとり!」


「ケロケロって……可愛いな名前」


「ふんっ! 生意気なガキだな!」


 ケロケロは水の上にたち、ぎろり……と俺をにらみつける。


 目をこらすと、敵の体からは、凄まじいまでの魔力量が立ち上っている。


 あれ、この世界の人間で言うと、強さはどんくらい?


【解。世界最強の魔法使い、マルクス10人分の魔力量を所有してます】


 なるほど、今の人間じゃあ、歯が立たないってことか。


 けれど……俺はわくわくしていた。


 守護者がこれだけ強いのだ、今の魔王は、それを凌駕するほどってことだよな!


 つまり凄い魔法を使えるってわけで……くぅ! 楽しみだぜ!


「小僧……なぜ笑う?」


「いや、あんたの主と会うのが楽しみでな」


「ハッ! ほざけ。子供とはいえ、我が主の領域を侵すものを、生かしては返さぬぞ!」


 ごごご……とケロケロの体から魔力がサラに立ち上る。


 けれど俺は……笑う。


「みしてくれよ、俺に、魔族の魔法ってやつをさ!」


「【水分身】!」


 ケロケロの体が……5つに増える。


【告。水分身を習得しました】


「死ねぇえええええええええい!」


 5つの分身が俺に向かって襲いかかってくる。


 手に持った水のクナイで、俺に斬りつける。


 がきぃん!


「「「「なっ……!? バカな!」」」」


 折れたクナイを手に、ケロケロたちが目を剥く。


「クナイが折れただと!? ありえん! なにをした!」


「え? ただ武器を破壊しただけだぞ。あれ、もしかして俺の剣……見えなかったの?」


 やつらが攻撃する瞬間、俺はそこにあわせて剣を振るったのだ。


「し、信じられぬ……あんな巨大な大剣を、我の目で見えないほどの速度でふるだと!?」


「なあなあ、もっと珍しい魔法……見せてくれよ?」


 俺がにこりと笑いかける。

 そうそう、強敵との戦いは望むところだ。


 あ、別にバトルに興味があるわけじゃないぞ。


 だって強いヤツなら、強い魔法をもってる……未知の魔法を、もってるじゃないか!


「ば、化けものめ! ならば!」


 たんっ……とケロケロたちが飛び上がる。

 水分身と中で解除された。


 水の柱の上に、ケロケロが立つ。


「我が奥義……受けてみよ! はぁあああああああああ!」


 湖の水が、一点に圧縮されていく。


 それは1匹の水の竜へと変わる。


「これぞ我が奥義……水龍大津波タイダル・ウェーブ!」


 馬鹿でかい湖の水を、竜の口から、発射させる。


 大津波を発生させる。


 森の木々を完全に洗い流す勢いの、津波だ。


「はは! すげえ! そうだよ、そういう魔法、欲しかったんだよ!」


【告。水龍大津波タイダル・ウェーブを習得しました】


「ありがとな! 水分身!」


 俺はさっき習得したばかりの魔法を再現する。


 おお、魔族が使うからか、魔力量を結構もってかれる。


 だが……俺の今の魔力量なら、へっちゃらだ!


「ば、バカな!? 水分身をコピーしただ!? 我が一族に伝わる【血統魔法】が、なぜ他人に習得できるのだ!?」


【解。血統魔法とは、魔族固有の魔法。その一族でのみ使える魔法のことであり、他の魔族では習得も再現も不可能。しかしマスターは全能者のスキルで、たとえ血統魔法さえも習得・再現可能】


 さぁ……! あとは魔王に会うだけだ。


「レオンハルト=フォン=ゲータ=ニィガ……推して参る!」


 俺は5人に分裂し、それぞれ【裂破斬】を放つ。


 ズバババババァアアアアアアアアアン!


 押し寄せる大津波は、俺の放った一撃(×5)によって、完全に消し飛んだ。


「うっし、終わり」


 枯れた湖の底で、ケロケロが呆然としている。


「あ、ありえん……なんだ、なんなのだ……おまえは?」


「俺? 俺はレオンハルト。ただの人間だ」


「お、おまえのような人間がいるものか!? そ、そうか! おまえが勇者だな! 魔王様を倒しに来たという!」


 完全に怯えちまったようで、ケロケロが体を震わせながら言う。


「いや、違いますけど?」


「うそつけ! 勇者でないただの人間の……しかもこんなガキが! 魔王様を守護する【特級魔族】たる我を凌駕するわけなかろうが!」


 なんか色々言ってるけど……よくわからん。


「いいからさ、魔王に取り次いでくんない?」


「ふざけるな! 魔王様に貴様のような危険人物を会わせられるわけなかろうが!」


 と、そのときだった。


『ケロケロ。通してやれ』


 俺の脳に直接、【女の声】が響いた。


 回答者さんのものとは違う。


「魔王様!」


 ケロケロがそう言う。


 なるほど……この声の主が、魔王ってわけか。女なのか。


『面白い子供だ。興味がある。わらわのもとへ連れてくるのだ』


「し、しかし……!」


『その子に害意はない。だろう?』


「ああ。ちょっとばかし、魔法を教えてくれれば、何もしないであげるよ」


 俺がそう言うと、しばしの沈黙があった。


『あっはっはっは! いやぁ……面白い、面白いぞ! ますます貴様と会いたくなった』


 魔王の城から、光の橋が延びる。


 おお、良かった。

 湖が涸れて、渡れなかったんだよね。


『我が元へ来ることを許可しよう、人間の子供よ』


 かくして、俺は魔王との謁見が可能となったのだった。

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