05.死の森さえも余裕で突破する五歳児



 俺、レオンハルト。


 重い病をかかえている弟のために、高ランクの治癒魔法を習得したい。


 そこで、魔法の腕に長ける、魔王に会いに行くことにしたのだった。


「ほぉー、ここが奈落のアビス・ウッドか~」


 王都から走って数時間の場所に、深い森があった。


 この森の中に魔王がいるらしい。


「回答者さん、魔王へに会うためには、どうすればいいの?」


【解。奈落の森の奥に存在する、魔王の領域っまで到達する必要があります】


「案内できる?」


【是。マスターの鑑定魔法(上級)と回答者のスキルを組み合わせれば、魔王の居場所まで案内可能です】


「よっしゃ、じゃあよろしく」


 ぶぶん……と俺の視界がブレる。


 地面に矢印が出現した。


 これなんだ?


【解。マスターが道に迷わないよう、正解のルートを示したガイドカーソルです】


 なるほど、この矢印の先に、魔王がいるってことか!


 ありがとう、回答者さん! よっ、役に立つ女!


【是】


 いや、肯定するんかい。

 まあいいけどね。


 俺は回答者に、正しい道順を教えてもらいながら、進んでいく。


「ギシャー!」


「お、ゴブリンじゃん」


 俺の前に、緑色の肌をした、ゲームじゃ定番のモンスターが出現した。


「けど、なーんか妙にでっかいような……ま、いっか!」


 俺は訓練用の剣を手に取って、軽く振る。


 ズバンッ……!


「ぎ……!」


 ゴブリンは、俺の斬撃を受けて一刀両断される。


「さすがゴブリン、見事なザコモンスターっぷり」


 こんな感じで、俺は出てくるザコを、剣聖の剣術を使って蹴散らしていく。


「なんだこの森、ザコしかいないじゃんか」


 ほどなくして……。


「ん? なんか人の気配しない?」


【解。数メートル先に、冒険者の一団を発見。モンスターに襲われております】


 こんなザコに手こずってるってことは、きっと初心者冒険者なんだろうなぁ。


【否】


 ん? 今なんか回答者さん言った……?


【是】


 まあいいや。


【怒】


 俺は助けてあげることにした。

 見逃すのも寝覚めが悪いしな。


 俺は回答者に道案内してもらい、冒険者たちのもとへへ向かう。


「グロロロロロオォオ!!」


 大きな赤いクマに、冒険者達が襲われていた。


「くそっ!」


 リーダーらしき女が、大盾をもって、クマの一撃を防ごうとする。


 がきぃいん!


「ぐわぁああああああ!」


 リーダーは軽々とはじかれて、空中へと吹っ飛んでいく。


「「「リーダー!」」」


 そのまま地面に激突しそうになったところを……。


「よっと」

「なっ!?」


 俺は空中で、リーダーの女をキャッチする。


 赤い髪の、綺麗なお姉さんだ。

 ちょっとウェーブ掛かっており、褐色の肌が、ワイルドな印象を与える。


「と、飛んでる!? 飛行魔法!?」


「え、いいや。風の魔法を応用しただけだぞ」


 初級の風魔法くらいなら、制御が出来る。

 俺は自分とリーダーの女の体を、風の魔法で優しく包みこむことで、落下速度を遅くしてるだけだ。


「こ、子供!? なんで君みたいな子供が、こんな【死の森】に!?」


 シノモリ? あだ名か何かか?


 俺はふわりと着地。


「大丈夫、あんたら?」


「あ、いや……って、後ろ!? 君! あぶない!」


 リーダーの女が立ち上がろうとする。


 だが体にダメージが入ってるのか、動けないで居た。


「ちょっと失礼。剣を借りるぜ」


 模擬剣だけじゃ、このデカ物は倒せそうにないからな。


 俺はリーダーの女がもっていた長めの剣を手に取る。


「【武器強化】【身体強化】……」



 そして闘気オーラで身体強化。


 俺は剣聖の剣術……上段からの、一撃を加える。


「【裂破斬】」


 ズッバァアアアアアアアアアン!


 赤いクマを真っ二つ……というか、存在まるごと消滅させる。


 裂破斬。剣聖の技の基本の一つ。


 上段からの垂直振り下ろし、というシンプル、だがそれゆえに、力を込めやすい剣技だ。


「う、うそだろ……」


 リーダーの女は、呆然と俺を見てつぶやく。


「あ、ありえない……」


★Side 黄昏たそがれの竜リーダー【グレイス】★


 あたしはグレイス。


 Sランク冒険者パーティ、【黄昏の竜】のリーダーにして、聖騎士の職業を持つ女だ。


 Sランク冒険者。

 それは最高峰であるという称号。


 あたしたち【黄昏の竜】は、死地として名高い【奈落のアビス・ウッド】へとやってきていた。


 この森は……ヤバい。

 とんでもなくヤバい。


 入ってすぐにわかった、この森の……異常さを。


 まず、通常の人間では、方向感覚が狂わされる。


 何の準備もなく入れば、1分もしないうちに迷子になることは必須。


 そして森に食い殺される。


 それは比喩ではない、本当なのだ。


 この森は……ダンジョンと同じ。

 つまり、生きてる。


 中に入ってきた愚かな人間をとらえて、養分にする。


 仲間の、Sランクの斥候レンジャーがいたから、迷わずに来れた。


 だがあたしの仲間も、そうとう、苦労していた。


 神経をすり減らし、ぜえぜえ……と息を切らすほど、ここのダンジョンを進むことは難しい。


 それだけじゃない。


 出てくるモンスターの強さも、異常だ。


 Sランクモンスターがうじゃうじゃと……というか、出てくるモンスターが全てSランクなのだ。


 Sランクモンスター。

 それは、英雄と呼ばれる存在ですら、ソロで倒すのに苦労する、恐るべき存在。


 あたしらSランクパーティも、仲間と協力して。


 なおかつ、各々が最高のパフォーマンスを発揮して。


 長い戦闘の末に……、やっと倒せる。

 それがSランクモンスター。


 度重なる戦闘で疲弊したあたしたちは……Sランクモンスター【赤熊ブラッディ・ベア】とそうぐう。


 あたしたちのパーティは壊滅寸前までに追い詰められた……なのだが。


 そこで、信じられないことがおきた。


 吹っ飛ばされたあたしを……子供が、助けたのだ!


 まだ5歳にもいってないような子供がだ!?


 しかも、あたしの大剣を軽々と片手で持ち上げて、赤熊を一撃で倒したのだ!


 ……あり得ないことの連続で、あたしは気を失った。


 ほどなくして、あたしは目を覚ます。


「グレイスさん!」「リーダー!」「グレイス様、よかった!」


 仲間達の安堵する顔が、すぐ目の前にあった。


 あたしは先ほどの戦闘でのダメージで、気を失ったらしい。


「は、はは……そうだよ。子供が、赤熊を一撃で倒したり、高度な風の魔法を使えたりするわけないか……なあ?」


 だが……。


「い、いいえグレイスさん。さっきの出来事は、事実です」


「んなっ!? バカなことあるかよ! だってSランクモンスターだぞ!?」


 と、そこであたしは気づいた……。


「け、ケガが治ってるぅうううううう!?」


 赤熊との戦闘で、あたしは大けがを追っていたはずだった。


 利き腕と逆の腕は、折れていたはず。

 体中に切り傷があって、大量に出血していた。


 ……だが腕は治り、傷も鬱ぎ、さらに肌に血色が戻ってる。


「し、信じられない……だれが、これを治した?」


 仲間の回復術士をみやるが、彼女は首を振る。


「お、おまえじゃないっていうなら、いったいだれが?」


「さっきの、赤熊を倒した子が、グレイスさんを治療しました」


「ば、ば、バカなこと言うな! ありえないだろぉお!」


 そう、ありえない。

 あれだけ強い剣術を使う少年が、奇跡のような、高度な治癒魔法をも使えるわけがない!


 通常、高ランク冒険者は、どちらかのタイプに分かれる。


 ざっくりと、前衛(剣士や戦士、前に戦うタイプ)と、後衛(魔法使い、回復術士など、後ろで支援や戦闘を行うタイプ)。


 道を究めていくうちに、わかるのだ。


 人間は、かならず前衛と後衛、どちらかのタイプにわかれると。


 それは、どんな英雄にだってできないことだ。


 だって後衛になるためには、魔法適性が必要となる。


 この世界でそもそも魔法に対する適性を持つ絶対数が少ない。


 そして、治癒魔法。

 これは選ばれし魔法使いのなかでも、特に、使えるものが少ないはず!


「い、いったい……さっきの少年は、なにものなのだ……?」


 と、そこで……気づく。


「あれ? あたしの大剣は?」


「さっきの子が、【この剣、借りてきます。ちゃんと返しますから】って言って、もってっちゃいました。代わりにこれを」


 魔法使いが、あたしにお札を渡す。


「これは……護符かい?」


「ええ。魔物よけの魔法が付与されてるそうです……」


「……国宝級アイテムじゃないか!」


 魔法が付与されたアイテムを、魔道具という。


 これはとてもとても、希少なものだ。


 なぜなら、魔法を付与する技術、【付与魔法】が、この世界での使い手がたった3人しかいないからだ。


 作り手が3人しかいない、だからどんな魔道具も、とても価値が高いのだ。

  

「……まじで、なにもんだよ……あいつ」


 あたしは、ただ戦慄するしかなかった。


 高ランク冒険者パーティすら苦戦する奈落の森に、単身で乗りこんできた、あの不思議な少年の底知れぬ実力に……。


「気になる、なにもんだ……まあ、でも……いずれ会えるか。あたしの剣を、返しに」


 そのときに色々と聞いてみよう。


 こうして、あたしたちパーティは、彼の作ってくれた魔物よけの護符のおかげで、無事に生還することが出来たのだった。


 彼に会ったら、まずは……お礼をしなきゃだな。

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