04.弟(天使)のために治癒魔法を覚えたい
俺は魔法のお稽古を終えて、父上のいる城へとやってきた。
なぜかというと、新しい家庭教師役を用意してもらうためだ。
……と、その前に、俺は寄るところがあった。
「これはこれは、レオンハルト殿下」
廊下を歩いていると、青髪ポニーテールの騎士が、俺に気づいて頭を下げる。
「こんにちは、レシティア。相変わらずおきれいだね」
「はいこんにちは。殿下は挨拶がしっかりて偉いですなぁ」
女武将、みたいな見た目の、背の高くて、凜とした見た目のレティシア。
彼女は【彼】の護衛騎士である。
「【ラファエル】って起きてる?」
「ええ、ラファエル14王子殿下は、先ほど目を覚ましましたぞ」
俺には1つ下の弟が居る。
名前はラファエル。年齢は4歳。
王子たちにはそれぞれ、屋敷が用意されるのだが……。
ラファエルは特殊な事情があって、父上のもとに置かざるを得ないのだ。
「レティシア、俺はラファエルに挨拶したいんだ」
「それは、ラファエル様もお喜びになるでしょうな!」
快活に笑うレティシア。
俺はココとミリアを引き連れて、レティシアの後に続く。
やがて、弟の部屋の前にやってくる。
「ラファエル殿下! レティシアです! レオンハルト殿下がお見舞いにきてくださりましたぞ!」
『こほこほ……どうぞぉ……』
レティシアが扉を開けてくれる。
大きな部屋には、ベッドが一つあった。
窓際のベッドに横たわっているのは、おかっぱ頭の、柔和な顔つきの少年だ。
「にいさんっ! 来てくれたんだねっ!」
弟のラファエルが、俺を見て笑顔を浮かべる。
「おっす! 元気にしてたか?」
俺はラファエルの側までやってくる。
レティシアの補助で、ゆっくりと、弟が体を起こす。
まるで少女のように細い体つき、儚げな顔つき。
将来はきっと美人になるだろう……いや、女じゃないけどさ。
「お土産買ってきたぜ。ほら、本だ」
「わぁ! ありがとう、にいさんっ」
ミリアが弟に本を渡す。
ラファエルは凄い純粋な笑みを浮かべて、俺に言う。
「いつもありがとう……ごめんね」
「あん? どうした急に」
「……いつもぼくは、にいさんに色々もらってばっかりで、申し訳ないよ」
まだ4歳で、この気遣いだぜ?
将来は有望になるに違いない。
だが……。
「……ぼくも、自由に外を動き回れたらなぁ」
ラファエルは生まれつき体が弱い。
自力で立つことも、歩くこともままならない。
生まれてから今日まで、ずっと、ベッドの上で過ごしてきている。
……それが、不憫であった。
「心配すんな」
俺は弟の、おかっぱ頭をなでる。
「兄ちゃんが魔法で直してやるよ。知ってるだろ、俺の魔法が、すげえって!」
「うんっ! ねえにいさん、魔法見せてっ!」
「あいよー! 今日は……これだ!」
俺は手を広げる。
両手には火、水、風、土、光、闇の、6つの球体が浮かび上がる。
「わぁ……! すごいや! にいさん、全属性のまほうつかえるんだよねっ! しかも同時に使うなんて、すごいすごい!」
え、それってなんか凄いことなの?
【解。魔法使いには得意属性が存在します。しかし、たいていの魔法使いは、1属性しか使えません。2属性で英雄。3属性使える魔法使いは存在しません】
ハー……なるほどねえ。
「いいなぁ~……魔法……ぼくも……ごほっ、ごほっ!」
弟が咳き込みする。
ふぅーむ……あ、そうだ。
回答者さん、鑑定魔法、俺覚えたじゃん。弟の病気を鑑定してくれる?
【是。鑑定魔法(上級)を使用します。……成功です。弟ラファエル様の病状を鑑定しました】
回答者は、世界のルールについて、質問すれば教えてくれる。
だが個人的なもの、たとえば、ラファエルが今何を考えてるのか、みたいなものは、回答できない。
というか、精度がどうしても落ちる。
そこで鑑定魔法を組み合わせることで、より精密な回答を得ることが出来ると言う次第だ。
【ラファエルの病状は、心臓と肺に先天性の疾患です】
おお、わかりやすいな。
【是。マスターの浅い知識でもわかりやすく言いました】
回答者さん、配慮ありがたいけど言葉を選んで欲しいっす……。
でも、そっか。
これは……難病だな。
心臓と肺の先天性疾患。
どちらも、家庭教師から習った程度の治癒魔法では直すことができない。
この世界の治癒魔法って、どんな感じ?
効果と普及率について。
【治癒魔法。代謝を促進し、細胞を活性化させる魔法。低級の治癒魔法かすり傷、少しの切り傷を直す程度の治癒力。現代においてはこの低級の治癒ですら、使い手がいない状況にあります】
俺が一度目にこの世界に来たときは、もっと治癒魔法を使えるヤツがいたと思うんだけど……。
【解。マスターが剣聖として転生したのは、今から1000年前のこと】
せ、1000年……って。
じゃあ、二度目のこの人生は、剣聖時代から、かなり先の世界ってこと?
【是。1000年の間に、この世界の強さや魔法の常識が変化しているのです】
なるほどな……衰えている訳か、魔法の腕が。
……治癒魔法で、なんとかならんかね。
弟がずっとこのままなのは、見てて辛い。
【解。現代の人種で、先天性の疾患を治すほどの治癒が使えるものは存在しません】
お、人種は、ってことは……使える種族もいる?
【是。魔法力の高い種族……エルフや魔族などのなかには、使えるものがいます】
近くで魔法力の高い種族っている?
【解。
魔王……?
魔王って、この世に存在するのか?
【是。ただし、1000年前と少々事情が異なります。詳細は?】
いや、それはいい。
ようは、奈落の森ってところに魔王がいて、そいつなら、弟を直す治癒魔法を知ってるってことだな?
【是】
なら……話は早いな!
「弟よ。兄ちゃん、ちょーっとお出かけしたいんだ。だから……」
「わかったよ。兄さん。こっそり抜けだしたいんだね。いいよ、隣で寝てるってことにしておく」
4歳にしてこの物わかりの良さ。
やはり将来は有望だな!
「こほっこほっ……でも、兄さん、どこいくの?」
俺は窓枠に足をかけて、弟を振り返る。
「ちょっくら、魔王の元へ」
「えっ!? ま、魔王!?」
俺は窓から飛び降りる。
たかさはビルの5階くらい。
だが俺は剣聖の身のこなしを使える。
空中で何回転かして、壁を蹴ったりして、ふわりと着地。
「【身体強化】【身体強化】【脚力強化】【脚力強化】……」
なあ、回答者さん。
魔王の居る奈落の森って、ここからどんくらい?
【解。馬車で10日の距離】
上等、道案内よろしく!
俺は体を縮めて、どんっ! と地面を蹴る。
びゅぅうううううううううううううううううううん!
まるで……というか疾風そのものとなって、俺は駆け出す。
俺が使っているのは、身体強化の魔法……だけじゃない。
魔法の使えない俺が、人の身で、魔王と互角に戦うために、俺独自に開発した技術だ。
ややあって。
「奈落の森とーちゃくっ!」
馬車で10日の距離を、俺はものの数時間で到着した。
「よーし、じゃあ回答者さん、道案内ヨロシク」
【問。マスターはどこへ何しに行くのです?】
お、回答者さんが質問してきた。
珍しいこともあったもんだ。
「ちょいと、魔王退治をしに……ね」
いやまあ、穏便に魔法を教えてくれるならそれに越したことはないけどね。
こうして俺は、可愛い弟の病気を治す、治癒魔法を教えてもらうため、魔王の元へ向かうのだった。
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