03.宮廷魔導師団長を凌駕する五歳児



 剣術の稽古で、メイド2号、ミリアを倒した俺。


 彼女はご褒美に、新しい魔法の先生を用意してくれた!


 俺の屋敷にて。


「はじめまして、レオンハルト様。わたくしは王国の宮廷魔導師団長を務めております、マルクスです」


 俺の前にはしわしわのじいちゃんがいる。

 すごいひとなの、回答者さん?


【是。マルクス・マギルス。ゲータ・ニィガ王国最強の魔法使い。魔法適性はB】


 いや最強の魔法使いが魔法適正Bっておかしくない?


【否。現代の魔法適正において、確認されてる最も高い適性を持つのはマルクスのBランク】


 でも俺はSSSランクだぞ? おかしくない?


【否。おかしいのはマスター】


 回答者さん。最初は無機質な死ツテ無音声だったんだけど、この5年間で結構打ち解けてきたような気がする。


 ですよね?


【否】


 まあいいや。


「はじめましてマルクスさん! 俺はレオンハルトです! 今日はよろしくお願いします!」


「はい、よろしくお願いします。さて……ではレオン様。まずはどの程度の実力があるのか、教えていただきましょう」


 俺とマルクス、そしてココとミリアは、馬車に乗って、近くの森へとやってきた。


「この辺ってー、魔物が出るっていう森ですよね? わわわっ、危ないですよー!」


 メイド1号のココが、怯えた表情で言う。

 一方でミリアが訳知り顔でうなずく。


「……問題ないわココ。だってここには世界最高の魔法使いがいるんですもの」


「ふぉふぉふぉ、光栄ですなぁ~」


 マルクスさんがまんざらでもない感じで言う。


 けれどミリアは虫けらでもみるかのように、冷たい目を向ける。


 あれ、どういうことなのかな?


【解。ミリアの言うところの世界最高の魔法使いとは、マスターのことを指す】


 え、俺?

 いやいや、世界最高なわけないじゃん。

 だってこちとらまだ魔法を扱うようになって、5年しか経ってないんだぞ?


 それに……神の雷を放った、あの魔王と比べたら、まだまだだ。ですよね?


【否。はぁ……】


 回答者さんため息をついてらっしゃる……!


 どゆこと。


「到着しましたぞ。さ、殿下、参りましょう」


 俺たちは馬車を降りて森の中を歩く。


「レオン殿下。あちらをご覧くださいませ」


 マルクスが指さす先には、1匹のモンスターがいた。


「スライムですよぉ! 坊ちゃまぁ!」


 ココが涙を浮かべて、俺のことをギュッと抱きしめる。


 彼女は結構胸があるので、俺は完全にその巨乳の中に埋もれている。


 がたがた、ぶるぶる……とココが震える。


「おいおい、スライムごときに怯えすぎだろ、ココ」


「坊ちゃまは外に出たことないから知らないでしょうけどっ、一般人からしたら、スライムだって恐ろしい存在なんですよ!?」


 あれ、そうなの?

 ゲームじゃザコ扱いだったし……。


 それになにより、俺が一度目に転生した世界では、スライムなんてザコ中のザコだったぞ?


 まあいいや。


「レオン殿下。まずお手並みを拝見いたします。火球ファイアーボールは使えますかな?」


「ああ。下級の火属性魔法だろ?」


 魔法には下、中、上、そして極大……と威力と規模にあわせて、ランク分けされている。


 火球ファイアーボールは、下級魔法のなかでも、初歩の初歩って言われてるな。

「では殿下」

「坊ちゃまがんばれー!」


 ココ達が見守るなか、俺は右手を前に出す。


「【火球ファイアーボール】」


 俺が魔法の名前を唱える。


「おやおや殿下……詠唱をお忘れですかな?」


 そのときだ。


 俺の目の前に、3メートルほどの巨大な火の玉が出現する。


「ふぁ……!?」


 マルクスは、愕然とした表情になる。


 俺はそのまま魔法を発動。


 巨大な火の玉が高速で飛んでいき、スライムにぶつかる。


 どがぁああああああああああああん!


 激しい爆発とともに、スライムが蒸発。


 森の地面、そして周囲の木々も根こそぎ灰になった。


 あ、ちなみにちゃんとマルクスたちには防御魔法を使って、ケガしないようにしておいたぞ。


「これでいいか、マルクス?」

 

 ぽかーん……とマルクスが口を大きく開く。


「す、す、すごすぎですよ、ぼっちゃまー!」


 ココが大声を張り上げて、俺のことを抱きしめる。


「今のでっかい火の玉、凄すぎますー!」


「……さすがです。レオン様。モンスターに会うのも初めてだというのに、堂々とした戦いっぷり。このミリア、感服いたしました」


 ミリアはパチパチと手をたたく。


 ハッ……! とマルクスが正気に戻ると、叫ぶ。


「で、殿下!? 今のは一体、どういうことなのですか!?」


 魔道士団長が俺の元へ近づいて、凄い剣幕で詰め寄ってくる。


「え、どうした?」


「い、今殿下は、あり得ないことをなさったのですよ! 御自覚になられてないのですか!?」


「うん、さっぱり」


 はぁ……とマルクスがため息をつく。


「いいですか、殿下。まず魔法ですが、詠唱をしませんでしたよね?」


「ああ。それが?」


「魔法の発動には、長い詠唱が必須となります。ランクが高くなればなるほど……。下級魔法ですらも、高ランクの魔法使いが使おうとすると、最低でも5分は詠唱がかかります」


「おお、そうなのか!」


「いやそうなのかって……」


 マルクスは首をかしげる。


「殿下は今までたくさんの家庭教師をやとっていたと伺っています。彼らは何も言ってこなかったのですか?」


「ああ。俺が魔法を一発撃つと、たいていなんか無言になってやめちゃうんだよな。なんでだろう?」


【解。草】


 いや草って。回答者さん!?

 ふざけてます!?


【是】


 良い性格してますねあんた!


「なるほど……魔法使いはみなプライドが高いですからな。自分よりも年下の殿下が、超高度な詠唱破棄による魔法を使ったら、自信が折れたのでしょう。お見事です」


 マルクスが感心したようにうなずいて言う。


「おまえは自信折れないのな」


「なに、このマルクス、元は落ちこぼれでしたからな。挫折はなれっこなのですよ」


 マルクスが目を輝かせて言う。


「いやそれにしても、お見事です。詠唱破棄をするなんて!」


「そんな凄いことなの?」


「もちろん! この世界で詠唱を破棄できるのは、殿下だけでございます。わたくしでも使えません」


 詠唱は破棄して当然って思ってたけど……。これってもしかして、俺の持つスキルの影響?


【是。マスターの持つ《全能者》は、一度実物を見た魔法を、詠唱を抜きして再現可能にすることができます】


 なるほど……スキルの影響だったのか。


 というか、それならそうと言ってくれよ。


【解。聞かれてなかったので】


 ……回答者さん。俺の答えに100%答えてくれる。


 だが、俺が質問しない限り、絶対に答えてくれないという落とし穴があるのだ。


 マルクスは続ける。


「それに下級魔法であの威力! 殿下の魔力量は、相当高いと見ました!」


「魔力量が高いって、どうしてわかるんですかー?」


 ココが首をかしげて尋ねた。

 ミリアが答える。


「……魔法の威力の高低は、込められた魔力の量で決まると言われておりますからね」


「あ、なるほどー! つまり坊ちゃまは魔力がすんげえってことか!」


 ココに対して、マルクスがうなずいて返す。


「ええ。それも、とんでもないレベルの魔力量でしょう。どれ、調べます……【鑑定】」


 ぶんっ、とマルクスの目に魔法陣が展開する!


 おお! 新しい魔法!

 鑑定魔法だ!


【告。全能者のスキルが発動します。鑑定魔法(上級)を習得しました】


 きたー! 鑑定魔法!

 定番中の定番なのに、使える人まったく居なかったから、手に入らなかったんだよね!


 なんでだろ?


【解。鑑定魔法は希少な魔法。この世界で使えるの人間は、現在、マルクスのみ】


 はあーそういうことなんだ。


 あれ、でも俺も使えますけど?


【解。笑】


 回答になってねえよ!


「な、な、なんということだぁあああああああ!」


 どさっ、とマルクスが尻餅をつく。


「え、なになに、どーしたのおじーちゃん?」


 ココが気安い感じで尋ねる。


「れ、レオン殿下の魔力量を……鑑定したところ……と、と、とんでもない……これは、ぜ、前代未聞の魔力量だ!」


 宮廷魔道士団長が尻餅をつくってことは、結構な魔力量なのかな?


「ど、どうしてこんな魔力量をお持ちなのですか!?」


「え、赤ん坊の時から魔力を増やしたからだけど?」


「魔力を増やすぅうううううう!?」


 え、何驚いているんだろう……?


 魔力を全て使うと、魔力量が増える。

 こんなの常識だろ、異世界ものの小説だと。


 俺は赤ん坊のときからずっと、風や三潴方を空うちして、ひたすら魔力量を増やしたのだ。


「魔力を増やす方法などこの世には存在しませぬ!」


「え、うっそー。魔力を使えば使うほど増えるよ? なぁ?」


 回答者さんが答える。


【是。しかし12歳までに限定されます】


 え、大人になると魔力量ってふえなくなるの、使っても?


【是。この世界の誰もこの理論は知りません】


 なるほど……そうだったのか……。


「殿下……いや、レオンハルト様!」


 マルクスは俺の前で……土下座する。


「どうかこのわたくしめを、あなた様のお弟子にしてくださいいいいいい!」


「うぇええええええ!? 最強の宮廷魔導師さんが、土下座してるぅううう!?」


 ココがびっくり仰天している一方で、ミリアは訳知り顔でうなずく。


「……ほら、私の言ったとおりになった。やはりレオン様は、世界最高の魔法使いです。さすがです」


 けど……ううーん、俺は別に弟子が欲しいわけじゃないんだよなぁ。


 結局鑑定魔法しか、ゲットできなかったし……。


 どこかで、良い師匠、いないものかなぁ。

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