第一章 世界最強の5歳児

02.五歳、剣のお稽古




 俺はレオンハルト=フォン=ゲータ=ニィガ。


 この国の第13王子として生を受けてから、5年の歳月が経過した。


「レオンぼっちゃまー! お着替えのお時間ですよー!」


 朝。

 部屋の扉がノックされると、栗色の髪の毛の、可愛らしいメイドが入ってくる。


「ココ、おはよう」


 彼女はココ。15歳。

 俺のそば付きメイドの一人だ。


「ぼっちゃま、今日も一人で起きられて、偉いです! さすがぼっちゃまです!」


「ありがとう」


 俺、中身は社会人だけど、外から見れば5歳児だからな。


 一人で起きられただけでも褒められることなだろう。


 ココに着替えさせてもらったあと……。


「レオン坊ちゃま、今日のお稽古なんですけどー」


「魔法!」


「えー……また魔法のお稽古ですか~」


「ああ!」


 俺はすっかり魔法の魅力に取り憑かれていた。


 生まれてから今日まで、回答者さんのお力を借りて、魔法のこと、この世界のこと、色々勉強……というかおさらいした。


 まず、この世界は、剣と魔法の世界。


 文明は中世ヨーロッパ的。

 貴族あり、亜人あり、奴隷もありな世界。

 魔法。

 それはこの世界の生物なら、誰もが使える……というわけではない。


 魔力。

 身体の中にある魔法を使うためのエネルギー源。


 これをみんなもっているが、魔法を使うための【才能】……【魔法適正】は、選ばれしものにしか発現しない。


 だから、俺は一度目の転生の際、【魔法適正】がなかったから、魔法が使えなかったのだ。


 そして、二度目の人生の、魔法適性は……。


 なんと脅威のSSSランク!


 どうやら適性はランク付けされており、最低はF、最高位はS……なんだけど。


 SSSって。

 どうやら二度転生して手に入れた、《全能者》の恩恵らしい。


 ようするに……だ。


「ねえココ! 新しい魔法の先生、はやくこないのかっ?」


 俺はココに着替えを手伝ってもらいながら会話する。


「えー、もう魔法の先生、いないですよ~。坊ちゃますーぐ魔法覚えちゃうんですから」


 魔法適正SSSの俺は、一度見ただけで、大抵の魔法を理解できる。


 まあもっとも、理解できることと、制御できることは別だ。


 神の雷を、俺は生まれた瞬間に使えた。


 だが制御できず、あわや城をぶっ壊すところだった(魔力が少なかったこともあって大惨事にはならなかったけど)。


「俺はもっと魔法のこと知って、色んな魔法を、自在に操れるようになりたいんだよ」


「うーん……でも、もう国中の有名な魔法使いさん、全員に着てもらいましたが……どの方も自信を失って、やめてったじゃないですかー」


 ココの言うとおり。

 俺は5歳の今日まで、たくさんの家庭教師に魔法を教えてもらった。


 この立場、ワガママ言い放題なのだ。


 何せ、何かしたいというだけで、その日のうちに欲しいものが手に入る。


 13王子。継承権は当然のごとく俺にはない。


 権力争いからは縁遠く、しかし欲しいもの、みたいものがすぐにもらえる立場。


 正直……美味しい立場といえる。


「魔法! 魔法の先生! 父上に言って新しい家庭教師よんできてもらってよ!」


「うえー……こまったなぁ~……」


 と、そのときだ。


「……レオン様。失礼します」


「うげっ! み、ミリア……」


 入ってきたのは、銀髪の、美しいメイドだ。


 長い銀の髪の毛をアップにまとめている。

 胸は豊かで、腰には2本の剣が履いてある。


 彼女はミリア。


 俺のそば付きメイド2にして……。


 剣術の、教師である。


「あ、ミリア様~。へるぷみー」


 ココがミリアのほうへとかけていく。


 ……俺は透明化の魔法を使って、こっそり逃げようとする。


「レオンぼっちゃまが、また魔法の先生を所望してるんですけど~」


「……もう、だめよココ。レオン様をあまりあまやかせすぎては」


 やれやれ、とミリアがため息をつく。


 俺はそろーりと逃げようとするのだが……


 ザンッ……!


「……どこへ行かれるのですか、レオン様?」


 俺の目の前に、剣が突き刺さる。


「ミリア様! なにしてるんですか、何もない壁に剣なんてなげて……?」


 ココが不思議がる一方で、ミリアが俺の目をバッチリ見て、近づいてくる。


「な、なんでバレるの……?」


「……【剣鬼】を、なめないでくださいませ」


 ミリアは剣鬼という称号をもつ、剣の達人なのだ。


 美しいメイドであり、剣の使い手のお姉さん。


 それがミリア。ちなみにココより年上に見えるが、これでも14歳らしい。


 大人びすぎてる……。


「……さぁレオン様。今朝は剣のお稽古ですよ」


 透明状態の俺を、ミリアは引きずっていく。


「いや、あの……剣は十分なんですけど……」


 剣より魔法。

 剣術はすでに、一度目の人生にて極めたのだからなぁ……。


「……剣のお稽古が終わったら、魔法の先生を用意してもらうよう、お父上に進言いたしますから」


「よしやろう、剣の稽古だな!」


    ★


 俺がやってきたのは、屋敷の裏庭。

 

 後ろを見ると、そりゃあ、まあ馬鹿でかい屋敷がある。


 これ、王の屋敷だと思うじゃん?


 違うんだよ、俺だけの、専用の屋敷なんだよ……。


 東京ドームと同じくらいの大きさの、ドデカい建物が、俺のためだけに作られたんだぜ?


 どんだけ金持ちなんだようち……。


「……それではレオン様。稽古を開始します」


 しゃりんっ、とミリアが剣を1本ぬいて、構える。


 刃のついた剣だ。


 子供相手に使う獲物じゃあない。


「ミリア。約束だぞ。これおわったら魔法な」


 俺は子供用の剣を手にして構える。


 と言っても、子供の体で、大人を相手にできるわけがない。


 しかも相手は剣鬼。

 最強の剣の使い手だ。


 ならば、この状態でどう戦うのか。


 答えは、魔法!


「【腕力強化】。【脚力強化】。【動体視力強化】……」


 5歳になるまで、俺はたくさんの魔法の先生から、魔法を見せてもらった。


 回答者さんのお力もあって、初級~中級魔法程度なら、自在に使える。


 強化魔法も、お手の物。


「……参ります」


 ミリアが風のように走り抜けて、俺に接近してくる。


 死角となっている一からの刺突。


 だが甘い、甘いよミリア君。


 俺は元剣聖。

 つまり、剣のプロだ。


 体が全盛期ではないにしても、俺には、たくさんの相手と戦った経験がある。


 体の重心の取り方、筋肉の収縮の仕方、それらから、次の動作を……予測できる。


 ガキンッ!


「……お見事」


 ミリアの刺突を、俺は剣の腹で受け止める。


「ふぉおお! 坊ちゃますっごーい!」


 ココがぴょんぴょん跳ねながら褒める。


「……これならどうです?」


 ミリアは迅雷のごとくスピードで、連撃を放ってくる。


 だが同じだ。

 俺には動作が見えている。


 さらに体は魔法で強化している。


 キンキンキンキンキン……!


「どひゃー! ぼっちゃま、あんな早い攻撃を、次から次へとさばいてくなんて! すごい! さっすがぼっちゃまー! すてきー!」


 その後もミリアの剣をすべてさばいていく。


 ミリアは俺が攻撃を受け流すたび……。


 クールな彼女の顔が、どんどんと笑顔になっていく。


「……素晴らしいです。レオン様」


 ミリアが俺から離れる。


 そして、2本目の剣を抜いた。


「……少々、本気でいかせてもらいます」


 ごおぉ……! と彼女の体から、魔力が立ち上る。


「うひいい! なんか突風がぁあ! ミリア様! ぼっちゃまが死んじゃう! やめてー!」


「……レオン様が、この程度で死ぬわけがないでしょう?」


 魔力を双剣に込めてていく。


 魔力は身体だけでなく、武器の威力をも強化することが出来るのだ。


「こいよ、ミリア。さっさと魔法の勉強したいんだ」


「……いきます!」


 ミリアが魔力を込めた双剣の一撃を、放ってくる。


「……【双破斬】!」


 斬撃が地面をまるで、颶風のようにえぐりながら、俺めがけて飛んでくる。

 

 これはミリアの持つ攻撃スキルの1つ。


 避けることは容易い。


 だが……。


 俺は剣を構えて、振り下ろす。


 剣聖の剣術。

 それは、あらゆるものを斬ってしまう、最強の剣。


 俺に襲いかかってきたミリアの、強烈な一撃を、真正面から斬る。


 ズバァアアアアアアアアン!


 一瞬の静寂。


 周囲は台風の通ったあとのように、荒れ狂っている。


 そして、尻餅をつくミリアとココ。


 立っているのは、俺だけ。


「……あっぱれでございます、レオン様♡


 クールな彼女が、大輪の花のような笑顔を浮かべる。


「……たった5歳で、剣鬼を倒す実力を持つなんて……すごいです」


 とはいってもね、こいつ……本気じゃなかったんだよな。


【解。ミリアはまだ全力を出しておりません】


 回答者さんもそう言ってるので、まだ奥の手を残してるのだろう。


「ぼっちゃますっごい! 魔法もすごいのに、剣まですごいなんてー!」


 ココがすごいすごい! と俺を褒めまくる。


 これが、俺の日常だ。

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