秘密のオークションの正体は?
カンカンカン!
テントの中にガベル(木槌)を打ち鳴らす音が鳴り響いた。
オークショナーが会場の騒めきを制する声が響き、秘密めいたオークションは幕を開けた。
最初に登場したのは色も変色し、呑むには到底不向きと思われる古いワインだった。
それは恭しく紅いシルクの布に寝かされて登場した。
「では最初の出品はこちらです。1774年のフランスの黄ワイン、ヴァン・ジョーヌ。これはルイ16世の時代のもので東部ジェラ県のアルボアのワインセラーで代々保管されて来たものです。
購入出来るワインとしては最古と言われるものでーーー」
「なにぃ?あの黄ワインは現存するものが三本。全てこの前競売にかけられている筈だ。…本物なのか?」
オークショナーの口上に疑問を感じだノーランマークは眉を顰めた。
「流石だな、ノーランマーク。そのアンテナまで三日月に骨抜きにされた訳じゃなかったね。
そう、あの口上だけだとそう思うだろう?まあ、続きを聞いてみろ」
隣のアスコットがノーランマークの耳元で囁いた。
ノーランマークは再びオークショナーの声に耳を傾けた。
「そう、ここまではここに集っている方々ならご存知の話でしょう。
ですが、これが特別と言う理由はその時発見されたワインは三本とありましたが、実は四本目が存在しているのです。
ワインセラーのオーナーが四本目、つまり最後となるこのボトルを保管されていたのです。
今回は密かにそれを入手致しました。
ここにワインセラーのオーナー様から本物であると言う証明書と鑑定書を取り寄せてございます。じっくりご覧ください」
そういうと、会場のモニターにそれらの鑑定書が映し出され、証明書にはオーナーのサインも入れられていた。
「あのワイン、ちょっとした行き違いでね。四本目は存在していないことになっていたんだけどね。
まあ、要するに、ここにはそういう訳ありの商品が出品されてくるんだよ。もっとヤバイ物も持ち込まれてくるのさ」
「なるほどな、抜け目のない商売だ」
ヤバイの双子が思いついたのかアスコットが仕掛けたのか。いずれにしても裏街道を良く知ったものの発案だ。
その後も次々と面白い物が出店されて行く。
殺害された某有名人が最後に手にしていたと言う、べったりと血液の指紋がついた、まだ中身の残された酒瓶。
誰もが名前を知っているような聖職者がアソコに入れていたと言われる大粒真珠などと言う下劣な珍品もあったりと、眺めているだけでも面白いオークションだった。
それを法外な値段で次々と競り落として行く金持ち達がノーランマークには信じられなかった。
確かにこれは儲かるのだろう。
だが、これだけで観光資源の乏しいヤバイの国庫がここまで潤うものだろうか。
「なあアスコット、本当は他にも何かあるんじゃ、」
そう言いながら隣のアスコットに話しかけたが、そこにいたはずのアスコットの姿は消えていた。
ここで大人しくオークションが終わるまで見届けるよりも、このオークションの裏舞台が知りたくなったノーランマークは、こっそりと席を立った。
天幕の裏へと行くカーテンの前には黒服にサングラスの男達が見張るように立っている。
だが良く考えてみれば自分だって黒いスーツだ。サングラスさえかけて仕舞えば何とかなるかもしれない。
イチカバチかノーランマークは内ポケットからサングラスを取り出して掛けみた。
髪を後ろで一つに縛り、目の前に並んで立っていた二人の黒服の前に堂々とした振る舞いで飛び出した。
「おい、アスコットさんが外でお呼びだ。何か問題が起きたらしい」
最初は躊躇の表情をしていた男達を更に急かすように追い立てた。
「早く行かないとどやされるぞ!」
そう言うと、男達はそそくさとその場を立ち去って行った。
運がいいのか、ここの警備が甘いのか、してやったりとノーランマークは舌を出して笑っていた。
薄暗い天幕の裏側では、数人の男達が出品物の用意をしていた。
「これはどうする?」
「ああ、これには触るなとアスコットさんに言われてる。そのままにしておけ」
隅に置かれていた装飾を凝らした木箱を持ち上げようとしていた男は咎められ、そそくさと元の場所へと戻した。
「ああ…コレはこの後のブラックタイムの商品か…。何が入ってるんだ?」
「知らない方が身のためだって言われたものを知ろうなんて俺には勇気がねえ。とにかくそれには触るな」
ノーランマークは荷物の陰から耳をそば立てて聞いていた。
なんだ?ブラックタイム?
何を売ろうとしてるんだ?
あの中身はいったいなんだ…。
「ブラックタイムはね、このシークレットオークションの中でも最も上客数名の中で行われるオークションの事」
暗がりの中、耳元でアスコットに突然囁かれてノーランマークは身構えた。
「知りたい?ねえ、ノーランマーク。知りたいなら俺にキスしなよ」
背後を取られたのはノーランマークにしては迂闊だった。
「止めろ…、お前とはもう…そんな仲じゃない!」
「そんなに三日月くんに操をたてたいの?」
「そんなんじゃ…、ねぇ!」
アスコットの両手がノーランマークの背後から胸元へと這い上り、熱い吐息が首筋に降り掛かる。
「俺とセックスしてくれたら、ブラックタイムの秘密、教えてもいい。キスしてジーザス」
ジーザスとはノーランマークの本名だ。ジーザス・ノーランマーク。
奇しくもキリストの名前と同じだ。
だから遥か昔にノーランマークは自分の本当の名前を捨てた。こんな自分がジーザスなんて笑える。
「ここ、勃ってるんじゃない?手にビンビン感じる」
ノーランマークは身を捩ってアスコットを牽制していた。当然、股間にも触れらてなどいなかった。
「嘘をつくな!触ってもいないくせに!離せっ!虫唾が走るんだよっ!」
ノーランマークは背後のアスコットの腹にきつい肘鉄を一発くらわせ、胸元の手を捻り上げた。
その拍子に積み荷が下に崩れ落ち、作業をしていた男達に気付かれた。
「誰だ!」
こちらに来ようとしていた男達にアスコットが声を上げた。
「俺だ!何でもない。ちょっと蹴躓いただけだ!」
「アスコットさん?」
「そうだ」
「何か手伝いましょうか」
「いらん。お前達の作業に戻れ!」
そう言われると男達は直ぐに元いた場所に戻って行ったが、その荷物の影では形成逆転、後ろ手をノーランマークに捻り上げられたアスコットが段ボールの壁に押し付けられていた。
「お前、ヤバイの本当の秘密、握ってんだろう。どう言うカラクリがあるんだ。教えろ!ただしセックスは無しだ」
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